LIXILグループ支配権争奪戦とコーポレートガバナンス改革の限界
自分が当事者の株主総会が続き、新聞もネットニュースも確認する時間的余裕がほとんどなかったので、すっかり世間の総会ネタから取り残されておりました(*´Д`)(自身のほうは平穏無事に終了しました)。LIXILグループ、日産、スルガ銀行等、すでにメディアではタイムリーな記事をまとめた総括記事が掲載されておりますので、以下で述べる感想は、もはやライブ感の乏しいブログネタでございます💦
LIXILグループの株主総会に関する日経ニュースでは、会社側取締役候補者6名、株主側取締役候補者8名、株主側CEO候補者の賛成票53%得票ということで、たいへん僅差で株主側勝利に終わったと報じられています。とりあえず決着がつきましたので、今後は「ワンLIXIL」として、一般株主の方々の期待に応えて、業績をぜひとも回復していただきたいと思います。
さて、株主側勝利の要因としては、機関投資家の多くが株主側の主張に賛同したことが大きいと考えますが、会社側の敗因としては、朝日新聞インタビューで新しい取締役会議長の方が述べているように「会社側候補者2名が議決権助言会社の反対推奨を受けたことが大きかった」と思います。ちなみに否決されたお二人は(たとえばISS意見では)所属している組織がLIXILグループと取引関係にあったことから、独立性がないとして反対推奨を受けておりました(新聞に掲載されているような「関東財務局」とか「ベネッセ」ではなく、それぞれの前職である「日本政策投資銀行」「野村證券」のほうが問題とされています)。
取締役、とりわけ社外取締役の推奨方針として「独立性」を持ち出すことにはいろいろと批判もあるようです。しかし、6月21日の日本証券新聞のISS日本代表の石田氏のインタビュー記事によると、ISSの来年度の助言方針として「政策保有銘柄企業出身の社外取締役、社外監査役には独立性を認めない」ものとして、さらに独立性要件を強めるそうです(ただし、今回のLIXILグループの候補者について、独立性要件だけで賛否を決めているのではなく、その独立性への疑問がどれだけ希薄化しているか・・・といった実質まで検討したうえで判断されているので、決して「独立性」要件のみで形式的に判断されているものではないことを付言しておきます)。
企業統治の世界で「株主が取締役を信頼する(信認する)」というのは、原則としてふたつの方向性があります。ひとつは「裏切ったら厳罰が待っている」ということ。上記石田氏のインタビューでも「ガバナンス優等生に『恐怖の規律』」として、日本には「恐怖」(たとえば株主代表訴訟や金商法21条違反による損害賠償リスク)がほとんど存在しないことが指摘されています。たしかに「私は株主共同利益のために職務を全うする」と口では言いつつも、実は創業家の利益のために働く、ということを防止するための規律には、厳罰が機能しない以上は限界があると思います。
そうしますと、もうひとつの「信頼」である「人格・識見への信用」というところに依拠せざるをえません。しかし、優秀な社外取締役や社外監査役が活躍する企業というのは、「攻めの場面での優秀さ」は全て経営者の功績に包摂されるものであり、また「守りの場面での優秀さ」は有事に至らずに「何事もなかった平時」が維持されるものなので、そもそも社外役員の人格・識見への評価はかなりむずかしい。また、社外役員さんの業務支援の経験からしますと、「A社との相性が良かったのでとことん力を発揮できたが、B社との相性が悪かったので1年で退任勧告を受けた」という経営者OBの方もときどきいらっしゃいます。そこで、「人格・識見への信用」に関する社外取締役への発露としては「独立性」というところに求めざるをえない。ここにも「取締役会の役割」に焦点をあてるコーポレートガバナンス改革には限界がありそうです。
ご承知の方も多いと思いますが、日本の株主総会の権限は米国と比較しても格段に強いものであるため(米国企業における株主総会の法的拘束力はとても弱い)、このたびの企業統治改革は取締役会改革が中心です。しかし、その取締役会改革に株主の力を借りようとするとそこに上記で述べたような限界があります。日経ビジネス2019年6月17日号の特集記事「正しい社長の辞めさせ方」において、神田秀樹先生(東大名誉教授、学習院大学教授)が「(ガバナンス新時代には)多元的なけん制機能を」と題して、経営者を監視するためにはもっと敵対的買収や企業間訴訟を用いるべき(取締役会の監視によるけん制とのバランスを図れ)と提言されています。デサントさん の事例では、敵対的買収の圧力が株主と経営陣との対話(和解?)を進めましたが、このガバナンスの限界を超えるためには、やはり厳罰の在り方を含めた法政策的なルールの活用が必要と感じました。
なお、「社外取締役として優秀な人を探したい」とお考えの企業にとって、いま一番欲しいリストは「LIXILグループの指名委員会からの要請を受けたが、諸事情により辞退した方々の名簿」ではないかと(ヘッドハンティング会社にとっては垂涎モノでしょうね)。
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コメント
山口先生 おはようございます。日曜日に放映されたドラマ「集団左遷」最終回を観て思ったのは、やっぱり罪を犯しつづける者には厳罰は必要だと感じました。極論になるかもしれませんが、その者には全財産没収→最低限の生活を保証するのが妥当だと思うのですが?いかがでしょうか?パワハラ・セクハラでも、もみ消す経営者がいれば、同様にするのが社会正義になるのではないでしょうか?先日、先生がご紹介された法務職の方の解雇などありえないと思うのですが?一体そのほかの役員は何をしているのでしょうか?異議を唱える役員はいなかったのでしょうか?複雑な思いを抱いております。
投稿: サンダース | 2019年6月27日 (木) 06時38分
どちらかという電力畑取締役を押し込み続けることに成功した東芝、民営化前の日本郵政に引き続き「指名委員会設置会社での指名委員会の専横がどこまで行けるか」という点においては面白い実例になった気がしますね。
指名委員会でありながら自ら代表執行役になるという暴挙に出た潮田院政を許そうとした議決権行使会社のガバナンス感覚の薄さと信用の無さ、潮田院政に繋がりかねないトステム出身の副社長の取締役就任を容認した株主陣の甘さも勉強になりましたが
(巷じゃテレビ東京の)
投稿: | 2019年6月27日 (木) 18時03分
2年ほど前、Lixilの内部監査部門に応募し、3次面接までいったことがあります。内部監査部門は合格と言っていたのですが、3次面接で人事の役員が出てきて、Factaでいろいろ調べてあったので、面接でこちらから「御社の広報などを含めてしっかり監査をやりたい」と話したら、不合格になりました。内部監査に人事部門が介入すること自体、ガバナンスとして不合格ですが、人事部門も潮田一派に当時は(というか今も)頭が上がらない状況じゃなかったのでしょうか。
投稿: 元工場労働者 | 2019年6月28日 (金) 05時27分
LIXILの場合、75期有報を見る限りじゃ、前取締役の菊地氏が監査委員長と人事部経験者、執行役専務に広報部経験の人事部長というチョイスだったそうで
代表執行役松本氏と前取締役兼代表執行役山梨氏が富士フィルム系だったりしますし
よく見たら今期の有価証券報告書を株主総会前(6月25日)の6月21日に出してますが、株主の要求じゃなかったら賛成票争奪の印象操作じゃないですかね
投稿: | 2019年6月28日 (金) 15時35分
どうも旧トステム系の人が上司絶対、将軍様マンセー、北朝鮮のような雰囲気で、それが会社の文化にネガティブな影響を与えているらしいです。掲示板等を調べた限りでは。
投稿: 元工場労働者 | 2019年6月30日 (日) 05時17分