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2019年6月17日 (月)

「社外取締役、知らぬが仏」では済まない時代へ

先週金曜日(6月14日)の日経朝刊2面「社外取締役、知らぬが仏?-相次ぐ不祥事、第三者目線働かず」を興味深く読みました。会社役員の法的責任が認められるためには、「やろうと思えばやれたのに、やらなかった」こと(善管注意義務違反)が要件とされますが、社内の不祥事について社外取締役に情報が届かず「社内の不正に気づかなかった(気づかなかった以上、とめようと思ってもとめられない)」と釈明すれば責任(善管注意義務違反)は認められない、これでは社外取締役など「お飾り」にすぎないのでは?といったテーマの記事です。

法的責任が認められる理屈は記事のとおりですが、記事中でコメントされている国広正弁護士がおっしゃるように「何もしないほうが(社外取締役にとって)安全」と思われてしまうのは、とうてい健全とはいえません。ということで、最近は社外役員も監査役も「知らぬが仏」では済まない時代になったと考えています。まずひとつめは大原町農協最高裁判決(平成20年)です。記事中で中村直人弁護士が「日本の裁判例では、役員が悪い情報を知り得た場合、責任を認める傾向が強い」とコメントされていますが、上記最高裁判決は監事(株式会社でいえば監査役)さんが理事長の不正を見逃したことについて、「かりに(理事長の不正を)知らなかったとしても、監事としての一般的な注意を尽くしていれば知り得たのだから責任あり」としています。つまり「知らぬが仏」と言いながら、耳をふさいでいる社外取締役さんは法的責任が認められる傾向が強まっていると考えられます。

さらに、悪い情報でもきちんと社外取締役に届く体制が整っていないのであれば、日常からこれを指摘しなければ「内部統制構築に関する勧告義務違反」を問われる可能性も高まっています。これは非業務執行役員の内部統制整備・運用への勧告義務違反を認めたセイクレスト事件判決、不正を知らなかったにも関わらず、常勤監査役の仕事ぶりを注視していなかった社外監査役の責任(金商法上の責任根拠たる相当な注意を怠ったことへの責任)を認めたエフオーアイ事件判決からの予想です。社外取締役さんに悪い情報が届かなかったのは、情報共有体制の運用に不備があったためで、その不備について日ごろから社外取締役さんは気づかなかったのか、不備を見つけたら勧告すべきなのに、なにも勧告しなかったのか、という点が、今後は裁判上の争点になると考えます。このように考えれば、不正防止に積極的に尽力している社外取締役さんほど法的責任は減免されやすく、また不正発生に無頓着だった方ほど責任が認められやすくなるため「健全な状況」に近づくものと思います。

ただ、過去に何度か監査役や会計監査人の「監査見逃し責任追及訴訟」の代理人をやらせていただいた経験からしますと、「知らぬが仏」とは最初から悪い情報とわかっている場合に言えることであって、情報が入ってくるときに「悪い情報」なのか「良い情報」なのかはわからない、というのが現実です。マスコミで大きく報じられて「ああ、あれは悪い情報だったのだ」と感慨深く思い返すのが関係当事者のホンネかと。結局のところ、同じ情報を受領しても「これって問題では?」と気づく人もいれば気づかない人もおられます。つまり「知らぬが仏」という姿勢で臨む社外取締役さんがいるとすれば、それは会社を良くする方向の情報(会社の業績を向上させるための戦略に関する重要な情報)にも目をつぶる姿勢ということで、かなりマズイ。

上記は「法的責任の視点から」という説明になりましたが、そもそも「何かあったら社外取締役の〇〇さんに相談しよう」と経営陣が思うか思わないかがもっとも重要です。要は日常から「攻め」も「守り」も関係なく、社外取締役が「会社ファースト」で経営陣とコミュニケーションをとっているかどうかが大切であり、その信頼関係の形成こそが「形式から実質へ」と深化が期待されている企業統治改革の目的のひとつであります。

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コメント

善管注意義務違反、内部統制構築義務違反という言葉は知っていますが、誰に、どうやって指摘すれば良いのかは私にはわからず。。。結局どうしているのかというと、
「善管注意義務、内部統制構築義務のある社長に直接、調査や善処を求める通報」をし、「社外取締役に社長への進言」を要請しています。
数年前に社外監査役の方に「社長、社外取締役に「親展」文書として通報すること」をご教示され、各社受付に伺うなどして通報文書提出しています。
事業者の役員だけでなく、監督官庁を含む政府、行政にも最初から実名で通報し、不正発覚後にも不利益を受けていますが、「悪い情報」を社外取締役に伝えようとすると「社長、社外取締役に通報しないという【念書】」まで書かされそうになりました。

政府、行政、経団連にも通報経緯の文書、メールを提出して情報共有していますが、「悪ければ悪い情報」ほど繰り返し通報しないと伝わらない、通報妨害にも負けずに頑張らないと放置されてしまう。。。というのが実感です。
今月、定期株主総会で交代される社外取締役の方もいるので新しい社外取締役にも「これまでの通報、不正発覚、行政措置、通報者への報復」を通報していきますが、善管注意義務、内部統制構築義務に期待しても良いと考える私こそ「知らぬが仏」なのでしょうか?


投稿: 試行錯誤者 | 2019年6月18日 (火) 14時50分

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