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2019年7月18日 (木)

ユニゾHDに対するHISの部分的公開買付-有事の社外取締役の職務執行を監査する監査役会の役割は重要である

不動産・ホテル事業大手のユニゾHDに対して、旅行大手のHISが、大株主としての部分的公開買付(TOB)を行いましたが、当該TOBは、両社において事前協議がなされていないことが判明しています。昨日(7月16日)、ユニゾHDは「特別委員会設置のお知らせ」のリリースで、当該TOBに対する会社としての意見を、特別委員会の答申を参考にして形成することを表明しました。HISの部分的公開買付は、既に保有しているユニゾ株式と併せて45%の株式取得を上限とするもので、先日の「伊藤忠VSデサント」の敵対的買収成功事例(40%の保有株式で支配権取得)を参考にした戦術ではないかと思料されますね(あくまでも私個人の推測ですが)。

大株主による部分的公開買付の場面では「真に企業価値を向上させるのは現経営陣か、それとも大株主か」という判断について、現経営陣には一定の利益相反が生じる可能性がありますので(←敵対的買収の可能性がある場合)、買収対象会社が中立公正な特別委員会を設置して、その判断に従うことも、現経営陣の合理的な判断かと思います。最近は企業統治改革が進んでいるので、東証1部企業のほぼすべてに複数の社外取締役が存在しますが、なんとユニゾHDには5名の独立社外取締役がいらっしゃるそうで、同社のガバナンス報告書を読みますと、元高裁長官(弁護士)、元警視総監、金融機関や不動産事業会社の経営者など、とても豪華なメンバーです。

6月末に、12年ぶりに改訂された経産省「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、本指針は、本件のような大株主によって実質的な経営権取得を目的とした部分的公開買付のケースにも必要に応じて参照されたい、とあります(同指針4頁)。当該指針では、中立公正な立場で買収の是非を判定するにあたり、社外取締役を有効活用すべき、とありますので、上記ユニゾHDの委員会構成は当該指針にも沿うものと思います。今後は、このように突然の会社の有事に、独立社外取締役が大活躍しなければならない事案が増えるはずです(大株主ヤフーの反対で、社長不再任問題に揺れるアスクルでも、社外取締役で構成される指名・報酬委員会が現経営陣を支持する判断を行いましたが、これも社外取締役にとっては有事ですね)。指針に沿って、社外取締役の方々が「特別報酬」をもらうこともあり得ますね。

ところで、特別委員会は、①TOBの価格の公正性、②HISの提案がユニゾグループの企業価値向上にとって好ましいかどうか、といったあたりを判断するそうですが、本当に中立公正な立場で5名の社外取締役の方々は判断できるのでしょうか?上記アスクルの事例では、指名・報酬委員会の判断など、ヤフーは何ら問題にしていないように思えます)。当該判断が中立公正になされたことは、どういった外観から担保されるのでしょうか?

そもそも社外取締役は、現経営陣のもとで会社から高額な報酬を受領しているわけですから、いくら「報酬は会社からもらっているわけで、経営者からもらっているわけではない!俺は中立公正に判断するに決まってるだろ!」と言われても、構造的な利益相反状況が存在することは自明です。したがって、社外取締役5名が中立公正に上記①および②について判断したことを、なんらかの形で対外的に開示する必要があると考えます。

たとえば、当該特別委員会を補佐する専門家はいたのか(もちろん会社側と同じ専門家では問題です)、判断に必要な情報は誰がどのように収集したのか、当該特別委員会が直接買付企業と交渉したのか、答申書は公開されるのか、といったところに外部からの関心が集まるはずです。もちろん、そのような情報の開示は義務ではありません。しかし、昨今「社外取締役は機能していないのではないか」といった世評が高まる中、「独立性があるなら、普通はこうするよね」といったことをしているのか、していないのか・・・、情報の非対称性を少しでも解消しようとする会社側の姿勢は、おそらく一般投資家からの支持を得るためには必要ではないかと。

そして、もうひとつ、社外取締役の中立・公正な行動を担保するものがあります。ユニゾHDのガバナンス報告書を拝見していて、「この会社には、かなり重厚な監査役会がある」ことに気づきました。常勤監査役2名に、企業法務や企業会計に精通された弁護士、公認会計士の社外監査役3名(合計5名)がいらっしゃいます。このメンバーであれば、有事における監査役会の役割に期待がもてそうです。

社外取締役の方々が、会社の有事にどのように職務を果たすことが「善管注意義務」の履行として必要なのか、これまであまり明らかにされてきませんでした(もちろん、シャルレ事件判決のように、わずかばかりの裁判例はありますが)。12年前に公表された経産省M&A指針などは、価格決定申立裁判でも斟酌されましたが、このたびのM&A指針に沿った行動が社外取締役の行動指針としても参考にされるとなると(とりわけ社外取締役が特別委員会委員を構成する場合)、監査役の方々も慎重な監視・検証が要請されるはずです。この重厚な監査役会を構成する監査役の方々が(独任制なので、おひとりおひとりの判断です)、矢面に立つ社外取締役おひとりおひとりの職務執行をどのように評価するのか、とても興味深いところです。

会社の情報開示の信頼性・適時性の確保のため、今年1月に改正された金融庁・開示府令では、(有報への記載ではありますが)監査役会の活動状況も詳細に開示するよう要請されています(2020年3月決算において適用)。このような会社の有事において、社外取締役がどのような行動によって善管注意義務・忠実義務を尽くしたのか、また、その判断は何を基準としたのか、今後は監査役(監査等委員である取締役)にも説明責任を果たすことが期待されるのではないでしょうか。ちょうどタイミングよく、本日の産経ニュースにて、日本監査役協会の岡田会長が「監査役、経営者と同等の立場で意見を」と述べておられます。ホント、監査役はこういった有事にこそ経営者と同等に重大な役割を果たさねばならないですよね。

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2019年7月16日 (火)

ガバナンス改革の焦点となるか-有価証券報告書の総会前提出

週刊経営財務の7月15日号(3416号)に、野村総研の上級研究員の方の連載論稿「投資家が求める開示(シリーズ)」が掲載されていまして、毎回(といっても年に1回か2回程度ですが)取り上げるテーマがとても興味深く、いつも楽しみにしております。昨年末、ACGA(アジア企業に投資する投資家団体)の国別ガバナンス達成度ランキングが発表されましたが、日本は2年前にはアジアで4位だったにもかかわらず、今回は7位に転落。その原因を探るべく、当該研究員の方も含めてワークショップを開催し、そこにACGA関係者の方もお招きして議論されたそうです。最終的な結論としては、

どんなに良い開示をして、KAMが導入されても、有報が株主総会後に出てくるのでは残念すぎる。それに有報がたとえ総会前に提出されたとしても、ギリギリのタイミングでは分厚い情報も活かされない。むずかしいかもしれないが、これができれば日本の開示は海外と比べても優れたものであるという評価は得られるかもしれない

とのこと。たしかに制度としては有報を総会前に提出することは、総会の時期を遅らせることも含めて「やろうと思えばできる」。しかし、実際には監査時期の問題や、期末日からあまり総会の時期を延ばしたくないといった事情から、企業自身が前向きではなく、また金商法監査と会社法監査の一元化が「縦割り省庁」の慣行などによって議論が進んでいない、といったところが現実ではないでしょうか。

ただ、今年の6月総会の特徴として、株主提案権の行使(可能性)を前提とした「株主との対話」が進みました。また、開示府令の改正によって有価証券報告書の非財務情報(記述情報)の充実や開示情報の信頼性、適時性確保に向けた取り組みが2020年3月期の有報から施行されることになりました。そうなると、企業統治改革を「形式から実質へ」と深化させるための次の施策としては、この対話と非財務情報の開示を結びつけることに目が向けられることになります(これでようやく「担当者に丸投げ」でなく、CEOもしくはCFO自身が開示情報に責任を持つ状況が実現するかも・・・)。ということで、有報の総会前提出がACGAのランキング分析を待つまでもなくガバナンス改革の関心事になるのではないかと。

ところで、最近、上場会社のCEOやCFOの方々、そして機関投資家の方々と意見交換をする中で、日本企業が「株主との対話」に臨む際に大きなギャップ(認識における齟齬)があり、これは「企業統治改革を阻むミゾ」ではないか、という点に思い至りました(まだ仮説であり私案にすぎないので、今後の実務における検証作業が必要ですが・・・)。ただ、海外における不祥事によって、日本企業が海外当局や集団訴訟で追い詰められるときにも同じ感覚を抱いておりまして、企業のレピュテーションを維持するためには乗り越えるべきミゾではないかと。またそのあたりの「分かり合えないミゾ」についてブログでも解説をしたいと思います。

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2019年7月12日 (金)

コーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳの条項は本当に実施されているのか?

先日、ある研究会で、某社の経営企画・IRを担当されている方(Aさん)の発表を拝聴する機会がありました。某社はガバナンス強化にも熱心で、世間的にも極めてクリーンなイメージで知られたメーカーさんです。当社に中途入社で採用されたAさんは、IRを担当される中でガバナンス・コードも熱心に勉強されたそうですが、A氏曰く「そういえば補充原則3-2②のⅳでは外部の会計監査人から不正を発見したり、不備や問題点を指摘された際の会社側の対応体制の確立が求められているが、そんなことを会社で議論したところを一度も見たことがない」とのこと。当該研究会では、もっと実務的に重要な論点に聴講者の質問が集中していましたが、私はどうも、Aさんの当該発言にひっかかっておりました。

某社のガバナンス報告書を確認しましたが、この補充原則はエクスプレインしていないので、間違いなく実施しているはずです(ただ、コードでは実施状況の開示が要請されていないので、どのように体制を確立されているかは外部からはわかりません)。補充原則で示されている「会計監査人が不正を発見して、会社としての対応を求めた場合」というのは、金融商品取引法193条の3に基づく是正要求通知がなされた場合よりももっと広くとらえるべき、というのが立案担当者の説明ですが、某社に限らず、実際に会社がどのような対応体制を確立しているのか、よくわかっていないのが実態ではないでしょうか。会社として対応が求められる「不備や問題点の指摘」というのも、いったいどのような指摘を指すのか、これもよくわからないところです。

「実施している」と公表しながら、実施していなければ東証の規則違反であり制裁の対象となります。もちろん、これを放置しておりますと、取締役の職務執行上の善管注意義務違反となりますから、この点はおそらく監査役、監査委員の皆様も確認はされているはずです。たとえば①「不正を発見して会社としての対応を求めた場合」「不備、問題点の指摘を受けた場合」とは、具体的に会計監査人からどのような指摘があった場合なのか、②これに対して対応が必要かどうか判断する機関はどこなのか(取締役か監査役等か、それとも取締役会か)、③対応が必要と判断した場合、具体的にどのような対応をするのか、といったところは最低限度、平時から確立していなければならないと思います。このあたり、他社ではどのようにされているのでしょうか?また、監査役等の皆様も、対応体制の確立がどの程度まで行われていれば善管注意義務を尽くしている、と判断されているのでしょうか?

最近の会計不正事案において、外部の会計監査人に情報提供があるものの、ずさんな社内調査のためにうやむやとなり、その後監督官庁に内部告発がなされて発覚するケースが散見されます。私の感覚では、高額な費用を伴う第三者委員会調査に至るよりも、件外調査を含めた徹底した社内調査で発見するほうがよほど会社のためになると思います。そのためには、ガバナンス・コード補充原則3-2②の当該条項を、きちんと遵守することが近道です。2021年3月期から、金商法監査にはKAMが導入されますが(2020年3月期から早期適用)、監査役等と会計監査人で(個社固有の)監査上のリスクを真剣に協議する機会が増えるわけですから、このあたりも整理をしておくべきではないかと。また、補充原則3-2②(とりわけⅳについて)きちんと対応体制を確立しておられる上場企業さんがいらっしゃいましたら、どの程度確立されているのかご教示いただければ幸いです。

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2019年7月 9日 (火)

コンプライアンス経営にレグテックを導入する際の留意点を考える

2011年に発生したユッケ集団食中毒事件については、当ブログで過去4回ほど取り上げました。2018年には、食中毒を発生させた会社の社長さんが「当時の衛生基準が十分に周知されていたとはいえない」ということで「重過失なし」とされ、裁判所において民事賠償責任が否定されました(2018年3月の当ブログエントリー参照)。これで事件終結かと思っておりましたが、本日の読売新聞ニュースによりますと、当該社長さんの刑事責任について、検察審査会が「不起訴不当」なる議決を出したそうです。「大腸菌などを除去しなければ食中毒が起きるという認識自体は広く共有されていた」との理由を示されましたので、ふたたび社長さんの注意義務違反の有無について再調査がなされるようですね。いずれにしても、事業に関連した行政規制については、法人代表者に十分な認識さえあれば事故は発生していなかったのですから、ご遺族の方々はやり切れない気持ちだと拝察いたします。

さて、「行政規制への対応」という点ですが、7月8日の日経朝刊(法務面)に「規制対応、ITで効率化、個人情報保護や広告審査-定型作業は任せ、高度業務に集中」と題する特集記事が掲載されています。いわゆる「レグテック(レギュレーション・テクノロジー)」が法務の世界でも活用され始めたことを報じています。私も、昨年から「守りではなく、攻めの法務機能の一環としてのレグテック」を講演の中で取り上げ、他社との競争に勝つための戦略法務への活用をお勧めしております。

今朝の記事にありますとおり、レグテックをコンプライアンス経営に活用するというのは、レグテック活用の一例にすぎませんが、「最重要課題」とされています。コンプライアンス経営が大切・・・と申し上げると、いまだに「現場が内部統制の強化でガチガチになる」「法務の審査が厳しくなって勝機を失う」といったイメージの事業部門の方がおられます。しかしレグテックの活用は、本日の特集記事にもあるように、現場における営業の自由を最大限確保したうえで、警告を発し、水際で不正の芽を摘みとる、という「トライアル&エラー」の思想に基づくものです。つまり経済活動の範囲を狭めることなく、コンプライアンス経営を実現しよう、というもの。

たとえば社内メールやチャットの分析でパワハラのリスクを感知する(逆に言えば前向きな指揮監督を促す)、海外の贈賄やカルテルの規制の最新動向や政権交代による法執行の変化から海外社員を守り、オープンイノベーションや他社との技術協力を促す、国立公園の指定変更情報をいち早く知り、ESG活動を積極的に推進する、といった「他社との競争に勝つための法務戦略」を推進するためのツールです。もちろんAIやブロックチェーンの進化により、今後ますますレグテックの活用分野は広がるそうです(「広がるそうです」と書いたのは、私自身がそれほどAI等に詳しくないため、ここは「伝聞」情報であります)。

ただ、コンプライアンス経営にレグテックを導入するにあたって、注意すべきは「事業推進とコンプライアンスを秤にかけない」ということです。レグテックの運用にはトライアル&エラーの発想(走りながら考える)が必要ですが、あくまでも「水際で不正を防止する」ことが目的です。導入しようとすると、どうしても費用や時間に制限がある、といった社内事情で「この程度のコンプライアンス経営でもやむをえない」との経営判断がとられがちです。しかし、これは企業風土を劣化させ、企業にとって副作用が大きい。秤にかけるべきは「事業推進のメリットと導入コスト、時間」であり、自社が想定するコンプライアンス経営を実現するにあたり、レグテックを用いて事業を推進するための費用と時間をどれだけかけることができるか・・・という経営判断で検討すべきです。おそらくこの点が、法務戦略にレグテックが活用されるためのポイントになるように思います。

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2019年7月 8日 (月)

海外機関投資家はガバナンスを軽視しているわけではない(と思う)

日経新聞では連日、今年の6月総会に関する総括特集記事が掲載されています。会社側提案に(たとえ一つの議案でも)2割以上の反対票が投じられた上場会社が17%に及び、その影響力が増したそうですが、投資家が議決権行使の個別開示を行うようになり、さらに株式持ち合い比率が減少傾向にあり、これがモノ言う株主の影響力を増す原因となっている、と今年の株主総会の特徴を総括的に締めくくっています。また、(日経さんにかぎらず)LIXILや日産、武田薬品等の株主総会等を参考にしながら、機関投資家が対象会社のコーポレートガバナンスにも関心を寄せるようになったと指摘されています。

ただ、7月5日(金)の日経「私見達見」で、シェアードリサーチ社の外国人会長さんが「海外投資家を満足させよ」と述べているところは、至極まっとうなご意見だったのでホッといたしました。機関投資家が知りたいのは事業戦略や成長の源泉など企業のコーポレート・ストーリーであり、何を作っていくらで売るのか、そしてどのようにもうけるのかといったビジネスモデルを丁寧に説明せよ、とのこと。たしかに私自身が見聞きする海外投資家と社長との対話内容も、(今年こそガバナンスについて根掘り葉掘り質問を受けるだろう・・・と構えて臨んでも)会社を取り巻く経営環境と事業リスクへの対処、そして成長戦略ばかりに質問が集中します。

最近の一連の事例について新聞等で報じられているところからすると、ESG投資への流れから、株主との対話においても「リスクマネジメント能力やコーポレートガバナンス」への関心が高くなるようにも思えてきます(実際、先週のエントリーでもお伝えしたように、ガバナンスや企業の不正防止の講演に、たくさんの機関投資家の方がお見えになるのも事実です)。しかし、現実は上記会長さんがおっしゃるとおりであり、IR担当者と経営トップがどれだけ自社の長所・短所をきちんと説明できるか、持続的成長のためのビジネス戦略を、どれだけ具体的に説明できるか、ということが依然として投資家との対話において重要だと思います。

ただ、だからといって、コーポレートガバナンスへの関心については、決して「機関投資家が軽視している」というわけではなく、もし情報開示に問題があれば、今度は厳しいガバナンス上の要求が出される、ということだと理解しています。昨年のカリリオン社の倒産を契機に、いま英国では監査制度の大改革が進んでいますが、もし日本企業にも投資家への情報開示に問題が発生すれば、「今度やったら、役員はタダではすまない」ことを保証するようなガバナンスが求められるかもしれません。海外機関投資家が日本企業に求めるガバナンスは、一度問題が発生すると「性悪説に基づく信頼作り」に傾斜するのではないか、第三者委員会による調査どころでは済まないのではないか、と予想しております。

 

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2019年7月 5日 (金)

企業統治改革が進むがゆえの機関投資家の悩み

本日(7月4日)、某証券会社さんの主催にて、本当にひさしぶりに機関投資家の皆様(53名ほど)向けにお話をさせていただきました(たしか前回は10年以上前に、内部統制報告制度についてお話いたしました)。パッシブ運用が中心の国内運用機関でも、最近はESGチーム、CSRチームを別部隊として設置しているところが多いようで、たくさんの方々にご参加いただき、ありがとうございました。

7月3日の日経「迫真-LIXIL再始動-まさか、日本生命が」でも、支配権争いを繰り広げる企業の株主総会において、議決権を行使する機関投資家の苦しみが浮き彫りになっていました。そういった話題に触れながら、講演終了後の意見交換を通じて国内運用会社の抱える悩みを知ることができ、私自身にも有益な機会でした。

具体的なお話はここでは控えますが、株主提案権や議決権というのは、たしかに「権利」なのですが、ここまで企業統治改革が進み、株主の力が強くなってきますと「権利は責任を伴う」ということが前面に出てきます。その責任分散のために、集団的エンゲージメントや議決権行使助言会社を活用したくなるのかもしれません。「集団的エンゲージメント」というのは、小さな力を大きな力に変えて、企業に対する影響力を高めるための制度と(単純に)考えておりましたが、なるほど機能するようになりますと、参加する運用会社にいろいろな思惑も出てくるようです。

たしかに「種類株式」を活用して経営権を守れるような米国の制度とは異なり、日本企業は丸腰で機関投資家と向き合うわけですから、このまま企業統治改革が日本で進むとなりますと、有能な経営者が「ガバナンス改革」という否定しにくい正論のもとで排斥されないような仕組みを考えないといけないと思います(まぁ、それこそ社外取締役の重要な役割といえそうですが・・・)。また、機関投資家の方々も、そのあたりはすでに自覚しておられる方が多いようで、「株主提案まで進むのか」「対話における要望で(圧力をかけつつ)済ませるのか」開示情報に限界がある中で思い悩むことも増えるものと感じました。

 

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2019年7月 3日 (水)

西武信金に行政処分-これからの反社排除の在り方について

少し前になりますが、今年5月24日、金融庁(関東財務局)が西武信用金庫さんに対して業務改善命令を発出しましたね。改善命令の根拠理由としては、

反社会的勢力等との取引排除に向けた管理態勢が不十分である(一部の営業店幹部は、監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行している)、内部統制が機能していない(強い発言力を有する理事長に対して十分な牽制機能が発揮されておらず、反社会的勢力等との取引に懸念を抱いた監事及び監事会から理事長に対し、複数回にわたって書面で調査を要請したにもかかわらず、理事長は当該要請を拒否し、組織的な検証を怠っているなど、内部統制が機能していない)。

というものです。監査役(監事)から何度も指摘を受けていたにもかかわらず、不十分な調査の結果「監事の情報提供には対応しない」と理事長が決めたそうですが、これは一般の企業にとって他人事ではありません。多くの企業において「不祥事はあってはいけない」という気持ちが経営陣に強いと、どうしても社内調査にバイアスが発生してしまい、ごくごく狭い範囲で(つまり責任逃れを目的とした)調査で済まそうとして、そこで不正の疑惑が出てこなければ「調査をしたけどもわからなかった」という幕引きで一件落着にしてしまいます。西武信金さんのケースはその典型例と言えそうです。

この業務改善命令を受けて、6月28日に西武信金さんは改善報告書を提出しています。内容を拝見しましたが、どうも反社排除の取り組みとして「入口排除」が中心のようにお見受けしました。もちろん「入口排除」が重要であることはわかるのですが、昨今ますます「反社」かどうか見極めが困難になっていることや、従業員に対して副業や兼業を許容する企業が増えている現状からみて、入口で100%排除することは難しい、という前提で反社排除を検討すべきではないでしょうか。

つまり、どんなに「入口排除」をしてみたところで、反社会的勢力と取引をしてしまうことはある、だから今後は①反社との取引の疑惑が生じたときに、どのような社内調査を行うのか、②そして反社の疑いが濃厚となったときに、これにどう対応するのか、といった、リスクが顕在化した場合の具体的な危機対応の在り方を明示すべきです。もちろん、このような指針を明示することは、取締役(理事)や監査役(監事)の法的責任が問われやすくなるでしょうから、経営陣にとっては好ましいものではありませんが、そうでもしないと西武信金さんのような事例は「働き方改革」が企業社会に浸透する中でますます増えるものと思います。

企業の反社排除への取り組みの本気度を測るためには、このように「反社との取引は当社でも起こりうる。しかし起きたとき(起きたと疑われるとき)に当社はこのような断固とした対応をとる!」といった反社排除のスタンスが参考になると考えます。
 

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2019年7月 1日 (月)

SDGs経営への取組みとハラスメント全面禁止の社内ルール化

先日、当ブログでも取り上げました製薬メーカーR社の社長セクハラ裁判ですが、週刊新潮に掲載されている記事などを読みますと、別のセクハラ事案なども報じられるようになり、企業がメディアを押さえ込むことの難しさを感じます。「社長のハラスメント」ネタは、かつて「ゴシップ」といった印象を受けましたが、現在は「公表されることが社会的に意義のある事実」と認識される時代です。何度も当ブログで申し上げているように、昔と違って今の内部通報・内部告発は集団化、代表化(代表者が通報をする)が特徴ですから(他の社員の方々からもメディアに情報が提供されるのでしょうね)、社長を取り巻く役員(執行役員)の方々も、「社長のゴシップをもみ消すことで人事評価を上げる」方向で考えることは控えたほうがよさそうです。

ところで6月21日にILO(国際労働機構)では、職場におけるハラスメント全面禁止条約が採択されましたが(日本も賛成)、日本が来年、これを批准して国内法化する可能性は乏しいのではないか、と言われています。大阪のG20に出席していたILO事務局長も、早期に日本が批准するよう検討を要請していくことを述べておられましたが(たとえばこちらのニュース)、日本の対応は後ろ向きかもしれません。今年、日本でもパワハラ防止体制の整備義務が法制化されたことはご承知のとおりですが、そこでは、企業の社員に対してパワハラを禁止する条項は含まれておりません。経済団体でも「パワハラと指導との線引きはむずかしい」として、法律によるパワハラ禁止条項の設置には消極的だそうです。

しかし、6月28日に経産省から公表された「SDGs経営、ESG投資研究会報告書」などを読みますと、従業員の職場環境の確保は「コストではなく投資」として取り組むべきものとされていますので、今後、日本企業がハラスメント全面禁止を(自主的に)社内ルール化するかどうかは投資判断の対象になるように思います。いろんな企業のESG方針、CSR方針をネットで読みましたが、たしかに「当社ではパワハラを防止するための体制作りに取り組みます」「我々はパワーハラスメントは一切しません」とは書いてありますが、「当社では一切のパワハラを禁止します」と、明確に書いている企業は少ないようです(たとえばイトーキさん、エアーウォーターさん等はCSR方針や就業規則で、当社はパワハラを一切禁止します、と宣言しています)。

上記のとおり、ILOのハラスメント全面禁止条約が採択された以上、今後はESGやSDGsの一環として各社とも前向きにハラスメントの防止に努めると思いますが、果たしてその会社が「社員にハラスメントを一切禁止」しているのか、それとも「ハラスメント防止体制を構築することに努める」としているのかは、「取組む姿勢の本気度」を機関投資家が知るにはわかりやすい判断基準になりそうで、とても興味深いところです。「全面禁止」を社内ルール化した企業は、公正な社内調査の手続きによって「ハラスメント」にあたるかどうか、線引きをしなければならず、処分も公正に行われるはずです。また、その判断次第では社員の士気にも大きく影響するところだと思います(まぁ、だからこそ企業として「パワハラ禁止」規定を設けることに及び腰になってしまうのかもしれませんが・・・)。

先日、日経新聞で取り上げられていた味の素さんの「働き方改革への取組み」を読みましたが、社長さんの活動をみていて、職場環境配慮に関する経営の優先度を上げないと、とてもじゃないができないと思いました。ということで、日本企業でESG経営の機運が高まっている現在、ILOのハラスメント全面禁止条約は、たとえ国内法化されずとも、それなりに日本企業には重く受け止められるものと予想しています。

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