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2019年7月 3日 (水)

西武信金に行政処分-これからの反社排除の在り方について

少し前になりますが、今年5月24日、金融庁(関東財務局)が西武信用金庫さんに対して業務改善命令を発出しましたね。改善命令の根拠理由としては、

反社会的勢力等との取引排除に向けた管理態勢が不十分である(一部の営業店幹部は、監事から反社会的勢力等との関係が疑われるとの情報提供を受けていた者について、十分な確認を怠り、同者関連の融資を実行している)、内部統制が機能していない(強い発言力を有する理事長に対して十分な牽制機能が発揮されておらず、反社会的勢力等との取引に懸念を抱いた監事及び監事会から理事長に対し、複数回にわたって書面で調査を要請したにもかかわらず、理事長は当該要請を拒否し、組織的な検証を怠っているなど、内部統制が機能していない)。

というものです。監査役(監事)から何度も指摘を受けていたにもかかわらず、不十分な調査の結果「監事の情報提供には対応しない」と理事長が決めたそうですが、これは一般の企業にとって他人事ではありません。多くの企業において「不祥事はあってはいけない」という気持ちが経営陣に強いと、どうしても社内調査にバイアスが発生してしまい、ごくごく狭い範囲で(つまり責任逃れを目的とした)調査で済まそうとして、そこで不正の疑惑が出てこなければ「調査をしたけどもわからなかった」という幕引きで一件落着にしてしまいます。西武信金さんのケースはその典型例と言えそうです。

この業務改善命令を受けて、6月28日に西武信金さんは改善報告書を提出しています。内容を拝見しましたが、どうも反社排除の取り組みとして「入口排除」が中心のようにお見受けしました。もちろん「入口排除」が重要であることはわかるのですが、昨今ますます「反社」かどうか見極めが困難になっていることや、従業員に対して副業や兼業を許容する企業が増えている現状からみて、入口で100%排除することは難しい、という前提で反社排除を検討すべきではないでしょうか。

つまり、どんなに「入口排除」をしてみたところで、反社会的勢力と取引をしてしまうことはある、だから今後は①反社との取引の疑惑が生じたときに、どのような社内調査を行うのか、②そして反社の疑いが濃厚となったときに、これにどう対応するのか、といった、リスクが顕在化した場合の具体的な危機対応の在り方を明示すべきです。もちろん、このような指針を明示することは、取締役(理事)や監査役(監事)の法的責任が問われやすくなるでしょうから、経営陣にとっては好ましいものではありませんが、そうでもしないと西武信金さんのような事例は「働き方改革」が企業社会に浸透する中でますます増えるものと思います。

企業の反社排除への取り組みの本気度を測るためには、このように「反社との取引は当社でも起こりうる。しかし起きたとき(起きたと疑われるとき)に当社はこのような断固とした対応をとる!」といった反社排除のスタンスが参考になると考えます。
 

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コメント

儀礼的なお詫びリリース類を事務的にウェブ掲載等をするだけでなく、行政指導された事が、いかにに恥ずかしく、その企業の活動拠点の周囲/地域の人達に迷惑をかけているかと言う事を晒す様な「見える化」も必要かと思っています。

《企業の反社排除への取り組みの本気度を測るためには…》

例えば…一定期間(半年とか)の範囲で、
・自社ウェブサイトは、カラー写真等を全てモノクロに変更する。
・地下鉄やバスでの自社のステッカー広告や駅構内の広告等も全てモノクロに変更する。
・地元のサッカーチームに協賛していたら、選手のユニフォームの自社ロゴに、ガムテープで目張りをする。
・スタジアム/球場内の看板広告も全てモノクロに変更する
等の、老人や子供達も目にする周知の場面で反省の意思を、敢えて表し、同時に法曹界側は法令として創設し(義務)、遵守させる。
(違反事業者は罰金徴収)


《「…当社はこのような断固とした対応をとる!」といった反社排除のスタンス》

・決意の強さとして、改善報告書等のリリースでは理事長以下経営者達の顔写真添付を義務づける。
・運転手付きの自動車で出社していた(と思われる)理事長は、反省の意味も含め、
 一定期間、自転車又は公共交通機関での出社を義務づける。
 (運転手の給与は理事長のポケットマネーで保証させる)

(企業に限らず、財団や、大学も然り・・・と、サッカー天皇杯/2回戦が始まるタイミングでふと浮かびました。)
(サッカー選手のユニフォームにプリントされている協賛各社に、何故か騒動を起こしている企業のロゴが多いと感じるのは私だけでしょうか?)
こんな事を思うようになったのは、先日夢の中に出て来た、かつて吉本興業でご意見番的な漫才をしていた「人生幸郎」師匠の「ぼやき」を回顧したからです。(関西以外の人には、師匠の存在は解らないかも?)(牛乳びん→今は見かけなくなりましたが…の底の様なレンズの眼鏡をかけて、「責任者、出てこい!!」と展開する話芸でした)
師匠が健在なら、今の世の中をどの様に斬っていた事でしょう。当時は「ぼやき漫才」と称されていましたが、今のご時世なら「ガバナンス漫才」とか?…。

山口先生のエントリーに対するコメントとして相応しくない記述と、ご指摘される事も覚悟しますが、旧態依然の仕組み/規則/法令のままでは、不正の温床は縮小/根絶どころか、増幅に歯止めがかからないのでは?と危惧しているゆえのコメントと、ご理解頂ければ幸いです・・・。

投稿: にこらうす | 2019年7月 3日 (水) 05時41分

山口先生 おはようございます。社会と組織内に、どう本気度を示していけるのかは、そのツールとしてはヘルプラインの品質向上がどうしても必要だなと確信いたしました。最近の山口先生のブログを拝読させていただきますと本当にそのように思います。このトピックは、楽しみにしておりました。こちらの金庫では、たとえこの融資稟議の起案者以外の同僚の方が、それを通しちゃヤバイでしょとヘルプライン(1号通報)に上げても無視されていたのでしょうね。ありがとうございました。

投稿: サンダース | 2019年7月 3日 (水) 06時30分

「調査をしたけれどもわからなかった」「そもそも不正がない」のあと、「不正が判明」、行政が調査、そして初動ミスを隠蔽するため通報者を脅迫する。
経営陣やコンプライアンス部門が責任を逃れるために【公益通報者】に不利益を与える典型例、実例、具体例を極めて身近で知っています。
監督省庁からも、あちこちの関連行政への相談を促され、相談を繰り返しています。

山口先生、G20では大阪、厳重警備の影響で大変だったと思います。
しかしながら、外務省成果文書「G20 効果的な公益通報者保護のためのハイレベル原則」は議長国日本で内閣総理大臣が世界に発信したものと捉え、大変うれしいです。
トランプ大統領はじめ各国首脳にも、原則を基盤とする広範な通報者保護、実効的な保護、報復に対する措置を望みます。
辞書を引きながら、英文のニュアンス(ホイッスルブロワーなど。。。)も噛みしめます。
「ほとけ作ったら魂を入れてほしい」、各国でどう表現するのでしょうか?

投稿: 試行錯誤者 | 2019年7月 3日 (水) 08時02分

小島祥一著「なぜ日本の政治経済は混迷するのか」岩波書店、によると、日本の経済と政治の問題はすべて四幕劇で語れる、といいます。

第一幕は全く問題はないと対策を拒み、第二幕では問題の存在は認めるものの矮小化する。第三幕では問題を先送りし、ついに第四幕でどうしようもなくなり降参するという流れです。

西武信金の事件もほぼこの流れです。私の知る範囲での企業不正も概ねこの通り。早期に内部調査委員会や第三者委員会を設置し、第二幕までに実情を正確に把握して適切な対策を講じる必要があることを痛感します。

そのために、どういう体制、業務システム、等々が必要なのか、いつも山口先生のブログを参考にして考えています。

投稿: しがない内部監査員 | 2019年7月 5日 (金) 17時04分

みなさま、コメントや有益な情報、ありがとうございます。実はメールでも有益なご意見などいただいておりますので、このエントリーにつきましては、皆様方のコメント等を踏まえて、続編を書きたいと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2019年7月 5日 (金) 17時23分

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