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2019年7月22日 (月)

監査等委員会設置会社も「形式から実質へ」と向かうべきではないか

7月20日、21日の日経朝刊の記事、社説では、7月18日に東京で開催されたICGN(国際コーポレートガバナンス・ネットワーク)年次総会の様子が紹介され、大手投資グループから「日本の企業統治改革は、形式から実質を重視する段階になった」との意見が述べられたそうです。重点課題としては、①有価証券報告書の株主総会前公表、②最高経営責任者の個別報酬開示、③株式持合いの削減方針と期間の明示、ということだそうで、日本企業として「はい、そうですか」とすぐに対応することが困難なものが並んでいますね。

「形式から実質へ」というフレーズも、かつての「バブル崩壊」なるフレーズと同様、よくわからない概念です。たとえば、ガバナンスの整備が「形式」であり、運用が「実質」なのか、それとも目に見えるものが「形式」であり、見えないものが「実質」なのか、コードにおいて遵守しやすいものが「形式」で、遵守がむずかしい事項を実施することが「実質」なのか、語る人によって込めている意味が異なるようです。いずれにしても、何がどう変われば「形式から実質へ」といった流れが実現した、といえるのでしょうか。

ところで、上場会社において、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した会社がついに1000社を超えたそうです(三井住友信託銀行調べ、7月13日の日経WEBより)。3739社(6月末時点での上場会社数)のうちの1000社ですから、全体の27%が監査等委員会設置会社になりました。「こんなもの、使い勝手が悪いから増えませんよ」と予想した私は完全に「敗軍の将」ですが(笑)、もうそろそろ、監査等委員会設置会社も、本来の趣旨でガバナンスが運用されているのかどうか、精査してもよいころではないでしょうか。いわゆる「形式から実質へ」と向かっているのかどうか、という課題です。

まず、使い勝手が良いのであれば、監査等委員会設置会社から指名委員会等設置会社に移行する会社が出てくるはずですが、これまで1社も移行した気配はありません。また、日本監査役協会の取締役監査等委員の皆様へのアンケートの結果によると、定時株主総会にて「取締役の指名および報酬に関する意見陳述権」を行使した会社さんはそれなりに増えていますが、「執行部の決めたことに異存ありません」なる意見陳述のみで、執行部もしくは任意の指名・報酬諮問委員会と異なる意見を陳述した監査等委員会は一切ありません。

監査等委員は、他の取締役とは別議案で株主が選任するわけですが、一人一人の監査等委員が適任かどうか(誠実に職務を遂行しているか)は、個々の監査等委員の情報が開示されなければ(再任の適否について)株主には判断できません。監査役は独任制であり、一人一人が個別に監査報告を提出するのですが、監査等委員会の場合は組織監査なので、たとえ意見陳述は選定監査等委員が行うものであったとしても、せめて意見形成過程くらいは明示されなければならないはずです。しかし、そのような明示がなされた会社も皆無です。ということで、負け犬の遠吠えのように聞こえるかもしれませんが、やはり監査等委員会設置会社は(社外取締役の複数選任という形式を整えるための機関形態であり)実質的には機能していないのではないか(機能しているとしてもごく一部の会社だけではないか)・・・といった疑念が残ります。

「いやいや、とんでもない!権限委譲を進めて経営判断の迅速化が実現しているし、経営に緊張感が出ている」といった反論もあるでしょうし、本当に機能させるようにご努力されておられる会社もあると思うのですが、それならば何か監査等委員会が活動している状況を株主総会参考書類で開示できるようにしたほうが良いと思います。会社法施行規則74条4項3号では、(公開会社の)社外取締役を再任するにあたり、現任時に(重要な)不祥事が発生した場合には、その不祥事が発生した事実、当該不祥事を予防するために、その候補者(現任社外取締役)が行った対応事実、当該不祥事発生後にその候補者が行った対応事実を明示しなければならない、とされています。会社が当該不祥事を公表していない場合にはどうするんだろうか?(虚偽記載という法令違反をあえてするのだろうか)と悩むこともありそうですが、これは社外取締役がどのように活躍していたのか、再任にあたって株主に有益な情報を提供するための開示規制です。

これと同じように、監査等委員会の意見によって経営執行部の指名・報酬に関する判断が変更された場合にはその旨を(なければ記載不要)記載する、意見形成の過程で別の意見を有していた監査等委員がいる場合にはその旨を記載することで、当該監査等委員会の活動状況を開示すべきです。金商法上の「関連当事者取引」に該当する程度の利益相反取引にあたり、監査等委員会が事前承認手続を行ったような事例も、監査等委員会に期待される中立・公正な職務の遂行なので、開示してもよいのでは。このような開示があってこそ、株主総会での「取締役の選任、報酬について異存ありません」なる意見陳述が意味を持つと思います。

有価証券報告書の記載事項として、2020年3月決算から監査等委員会の活動状況の開示が必要になりますが、そこで記載するのでも良いと思います(ただし総会前の有報開示が前提ですが)。そうでもしないと、なんの意見表明もしない監査等委員をどうやって株主が再任できるのか疑問です。ちなみに指名委員会等設置会社の監査委員会委員は取締役会が選定・解職しますので、監査等委員会とは全く状況が異なります。

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コメント

先生のブログはいつも拝見させて頂いていますが、投稿は初めてです。CG-コードの変な定義はさておいて、ガバナンスとは「株主が、自ら選んだ取締役および監査役で構成する取締役会・監査役会を通じて経営者を監視・監督する仕組み」と定義されます。そのような定義の前提で、ガバナンスの仕組みは、大きく分けて独国型(二層式)、英米型(一層式)および日本型(並列式)の三種類があります。独国型の場合は、監査役会が監督機関(モニタリング・ボード)であり、取締役会は執行機関(マネジメント・ボード)です。英米型の取締役会は、監督機関(モニタリング・ボード)です。一方、わが国の取締役会の大半は、業務執行取締役が過半数のマネジメント・ボードです。業務執行取締役は、業務執行の観点では、代表取締役(社長)の指揮命令下に入るので、業務執行取締役が代表取締役を監督することは困難です。このため、わが国では取締役とは別に株主総会で選任された任期4年で社外監査役が半数以上の監査役会が監督機関の役割を果たします。取締役会が監督機関(モニタリング・ボード)としての役割を果たすには、理論的には、取締役の過半数が社外取締役である必要があると考えられます。
ところが、監査等委員会設置会社の取締役会は、指名委員会等設置会社へ移行するための過渡的な機関設計と位置付けられたため、独立社外取締役が過半数となっていません。取締役会がマネジメント・ボードのままで、監査役会をなくしたため、ガバナンスの強化どころか劣化に繋がっています。
元々、監査等委員会導入時には、①社外取締役2名の条件を満たすとともに、常勤監査役が要らなくなるのでコストパーフォーマンスが良い、②監査等委員は任期2年なので経営者として役員人事がやりやすい、③監査等委員は、自ら監査する必要がなく社内の内部統制システムを利用して監査を行うので、自ら監査を行う独任制の監査役に比べて業務負担も責任も軽くなる、というようなメリットが推進側の弁護士先生等により宣伝されていました。
監査等委員会設置会社が、1,000社を超える勢いで増え、しかも指名委員会等設置会社への移行が1社もないのは、このような経営者側・監査役側双方のメリットが大きく影響しているものと思われます。ガバナンスとは、経営者を監視・監督する仕組みなので、経営者にとっては、ガバナンスが強化されないのが望ましいと考えるのが人情でしょう。
監査等委員会設置会社については、導入後一定期間内に指名委員会等設置会社への移行を義務付け、出来ない場合には、監査役会設置会社に戻すとすべきです。

投稿: プロを目指す監査役 | 2019年7月22日 (月) 14時46分

 まあ、形式ばかり整えても、ガバナンスを気にする投資家にはお見通しですから、結局監査等委員会設置会社に帰るのは形式的コンプライが目的、という推測が結構当たりそうです。
 総じてガバナンスのスコアが低い会社が移っているのかなあと、ブルームバーグのESGのスコアを見たいなあ。

投稿: Kazu | 2019年7月25日 (木) 19時54分

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