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2019年7月12日 (金)

コーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳの条項は本当に実施されているのか?

先日、ある研究会で、某社の経営企画・IRを担当されている方(Aさん)の発表を拝聴する機会がありました。某社はガバナンス強化にも熱心で、世間的にも極めてクリーンなイメージで知られたメーカーさんです。当社に中途入社で採用されたAさんは、IRを担当される中でガバナンス・コードも熱心に勉強されたそうですが、A氏曰く「そういえば補充原則3-2②のⅳでは外部の会計監査人から不正を発見したり、不備や問題点を指摘された際の会社側の対応体制の確立が求められているが、そんなことを会社で議論したところを一度も見たことがない」とのこと。当該研究会では、もっと実務的に重要な論点に聴講者の質問が集中していましたが、私はどうも、Aさんの当該発言にひっかかっておりました。

某社のガバナンス報告書を確認しましたが、この補充原則はエクスプレインしていないので、間違いなく実施しているはずです(ただ、コードでは実施状況の開示が要請されていないので、どのように体制を確立されているかは外部からはわかりません)。補充原則で示されている「会計監査人が不正を発見して、会社としての対応を求めた場合」というのは、金融商品取引法193条の3に基づく是正要求通知がなされた場合よりももっと広くとらえるべき、というのが立案担当者の説明ですが、某社に限らず、実際に会社がどのような対応体制を確立しているのか、よくわかっていないのが実態ではないでしょうか。会社として対応が求められる「不備や問題点の指摘」というのも、いったいどのような指摘を指すのか、これもよくわからないところです。

「実施している」と公表しながら、実施していなければ東証の規則違反であり制裁の対象となります。もちろん、これを放置しておりますと、取締役の職務執行上の善管注意義務違反となりますから、この点はおそらく監査役、監査委員の皆様も確認はされているはずです。たとえば①「不正を発見して会社としての対応を求めた場合」「不備、問題点の指摘を受けた場合」とは、具体的に会計監査人からどのような指摘があった場合なのか、②これに対して対応が必要かどうか判断する機関はどこなのか(取締役か監査役等か、それとも取締役会か)、③対応が必要と判断した場合、具体的にどのような対応をするのか、といったところは最低限度、平時から確立していなければならないと思います。このあたり、他社ではどのようにされているのでしょうか?また、監査役等の皆様も、対応体制の確立がどの程度まで行われていれば善管注意義務を尽くしている、と判断されているのでしょうか?

最近の会計不正事案において、外部の会計監査人に情報提供があるものの、ずさんな社内調査のためにうやむやとなり、その後監督官庁に内部告発がなされて発覚するケースが散見されます。私の感覚では、高額な費用を伴う第三者委員会調査に至るよりも、件外調査を含めた徹底した社内調査で発見するほうがよほど会社のためになると思います。そのためには、ガバナンス・コード補充原則3-2②の当該条項を、きちんと遵守することが近道です。2021年3月期から、金商法監査にはKAMが導入されますが(2020年3月期から早期適用)、監査役等と会計監査人で(個社固有の)監査上のリスクを真剣に協議する機会が増えるわけですから、このあたりも整理をしておくべきではないかと。また、補充原則3-2②(とりわけⅳについて)きちんと対応体制を確立しておられる上場企業さんがいらっしゃいましたら、どの程度確立されているのかご教示いただければ幸いです。

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コメント

会計監査人による不備、問題点の指摘を受けた場合に担当する部署・機関・内規の明示がなく、ガバナンス報告書や招集通知の中で触れず、「説明」していないのでしたら問題がある可能性があるかと

信頼性の必要で嘘をつくと問題がある資料では、そもそもやってないことか都合の悪いことは書かないのが定石です。

2018年に出された第3者委員会報告書を見ると、監査役が監査方針を策定していない、監査役会議事録が作成されていない(監査役が印鑑を押さない)、そういう状況を会計監査人が放置して問題にしないというものも見られるので補充原則3-2②を実践するのに必要な対応として具体的に何があるのか役職員が知らない会社が多いような気もします

(地方企業や東証二部以下ですと尚更)

投稿: | 2019年7月13日 (土) 15時56分

勤務先の場合は、コーポレートガバナンス報告書に「会計監査人からの申し立てへの対応は、監査役会で行う」と読めるように記載しています(実際の表現は微妙に異なります)。これは、過去からの前例踏襲で「会計士対応は先ず監査役会で揉む」という実態があるからです。

そして監査役会で、案件の内容に応じて、(非役員の社員による)社内調査チーム、(社外監査役等をメンバーに含む)内部調査委員会、第三者委員会、のどれを立ち上げて調査するか決める、となっている、と監査役から聞いたことがあります。

たぶん、第三者委員会を立ち上げることになった場合は、機関決定の場は監査役会から取締役会に移ると思います(まだそういう事態がないので、あくまで想像ですが)。

そういう訳で、「まずは監査役会に一任されているが、具体的な手続きや判断基準は明文化されていない。内規で緩やかに定められているだけ」という状況です。監査役会設置会社の多数は、まだこの程度ではなかろうか、と勝手に思っています。

投稿: しがない内部監査員 | 2019年7月16日 (火) 11時55分

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