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2019年7月29日 (月)

ヤフー・アスクル紛争-社外取締役の再任反対で再燃するか「子会社の少数株主保護」

ヤフーとアスクルのLOHACO事業を巡る一連の紛争において、ヤフーがアスクルの社外取締役再任議案に反対票を投じていることが話題になっています。社外監査役も含めたアスクルの「独立役員会」が取締役会に提出した答申書が公開されたり、また独立役員会のアドバイザーである法律専門家が記者会見に応じる、ということも、たいへん珍しく、ヤフー社の対応も含めて、企業の有事対応に関心を持つ法律家としてもたいへん興味深いところです。なお、7月28日には、アスクル独立役員会が同社の企業統治を蹂躙するヤフー社の議決権行使への声明を発表しています。

アスクルがヤフーとの資本業務提携契約に基づいて株式売渡請求権を行使するかどうか、アスクル社内では審議が行われるそうですが、同契約に準物権的効力があるかどうかは微妙なので、ヤフーによる議決権行使を仮処分で止めたり、現取締役らの仮の地位を定める仮処分が認められる可能性は乏しいかもしれません(もちろん、こういった判断は独立役員会が関知するところではなく、経営執行部が検討すべきことですから、あくまでも仮定のお話です)。

ただ、少数株主保護が重要な職責とされている子会社(正確には被支配会社)の独立社外取締役について、「業績不振の原因を招いた社長を選任した責任がある」ということで親会社(支配会社)が再任を拒絶する、ということが普通に認められてしまうと、さすがにグループガバナンスの在り方として問題が残ることは間違いありません。

平成26年の会社法改正の中間試案では、「子会社少数株主の保護」として、「親会社等の責任」を認める条文を創設することが明記されていました。ザックリとしたご紹介ですが、親子会社間の利益相反取引は、定型的に子会社に不利益を及ぼすおそれがあると考えられるため、そのような利益相反取引によって子会社が不利益を受けた場合には、子会社の少数株主は親会社に対して責任追及の訴えを起こすことができる、といった内容です。当時は「大株主の信認義務を認める画期的な法制度」として大いに議論されましたが、最終的には親会社の効率経営を阻害するおそれがあるとの意見が強いために廃案になり、利益相反取引に関する開示規制でお茶を濁した形になりました。

2019年6月末に公表された経産省グループガバナンス実務指針では、「攻めのガバナンス」として親会社による適切な事業ポートフォリオの管理が要請されており、親会社による子会社経営への積極的関与が推奨されているようにも思えますが、その分、急増した「独立社外取締役」による少数株主の保護が強く要請されることになりました。したがって、親会社による積極的な子会社経営への関与(親会社による健全なリスクテイク)は、子会社の社外取締役制度の活用によって健全性が担保されているとみることができます。おそらく、社外取締役の急増は、平成26年会社法改正が審議されていた時期(平成23年頃)には想定されていなかったはずで、上記経産省実務指針は、この(急増した)社外取締役の活用を通じて大株主と子会社少数株主の利益衡量のバランスを図ったものと思います。

ヤフーとアスクルの一連の事件経過をみるかぎり、親会社が子会社の独立社外取締役の構成に力で関与するとなりますと、上記経産省実務指針が標ぼうするところのバランスを崩すことになるのではないかと。望ましい「ソフトローによる事前規制」が奏功しない事態となれば、最後の切り札である「ハードローによる事後規制」が前面に出ざるを得ないこととなり、平成26年会社法改正時の子会社少数株主保護を法制化するきっかけとなるかもしれませんね。

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コメント

今年4月19日の日経コラム「親子上場問題の本質(大機小機)」はこう結語していました。

『親子上場の本質とは、株主総会という最高意思決定の場において、一般投資家が影響力を発揮できないことにある。社外取締役の人数を含めた取締役会の構成ではなく、親子上場そのものを許すかどうかが問われている。』

小生もこの主張に同感です。

東証の新区分では、上場子会社群は少なくとも1部からは除外、あるいは上場子会社群だけのカテゴリーを作って投資家に明示する、といった措置が必要だと思います。

投稿: しがない内部監査員 | 2019年7月29日 (月) 12時20分

冨山和彦さんは、「これ、親子上場において少数株主保護の観点から親会社との利益相反回避のため色々な規律付けを行い、かつそれを独立社外取締役に委ねた経産省のCGSガイドラインの趣旨に反します。加えてこれで独立社外取締役がゼロになると、金融庁のコーポレートガバナンスコードはもちろん、会社法にもふれる可能性がある。これで何のおとがめもないなら、こうした企業統治規範は崩壊です。」と頑張っておられます。
 金融庁の井上さんには、CGコード改訂で頑張って欲しい(会社法改正への追加は無理そうだから・・・)

投稿: KAZU | 2019年7月29日 (月) 13時58分

大株主によるグループ全体の効率経営と被支配会社の少数株主保護のバランスを東証規則によって調和させる、という手法については私も賛成です。
もちろん、親子関係を解消することが理屈としては正しいのかもしれませんが、現実論としては取引所は株主の地位を喪失させる方向での制度改革にはなかなか前向きにはならないですね。

投稿: toshi | 2019年7月29日 (月) 15時35分

ヤフーはひどいことをする・・・という雰囲気の記事が多いような気がしています。しかし、アスクルの社長の独善的な経営はいろいろあるという風聞もあり、そういう経営を放置していた社外取締役は、ガバナンスが効いていなかったともいえます。親会社として君臨しても統治は任せていたが、我慢に耐えかねて、ガバナンスを効かせたのが再任反対の議決権行使だとも言えるように思います。これなら、少数株主への利益にも通じる経営の浄化の話だと思います。忖度する社外取締役より孫託するということでしょうか(ヤフーの親会社は孫さんの会社です)。果たして真実は、いずこにあるのやら。

投稿: ひろ | 2019年7月31日 (水) 14時18分

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