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2019年8月30日 (金)

アサヒ衛陶における第三者割当増資(行使価額修正条項付き新株予約権発行)について第三者委員会委員長を務めました。

本日午後4時に開示されましたとおり、アサヒ衛陶社(コード5341)の第三者割当増資につきまして、東証・企業行動規範に基づく第三者委員会の委員長を務めました。

報告書の概要は、開示書類の15頁以降にかなり詳しく記載されております。財務アドバイザーのご担当者の方から(個々の契約条件下における行使価額修正条項付きの)新株予約権の評価方法について、計算方法(モンテカルロシミュレーション)を含め詳細に説明いただき、「相当性」に関するチェックもかなり委員間で議論をいたしました。法務アドバイザーの法律事務所を含め、関係者の皆様には委員会活動に多大なご協力をいただき、厚く御礼申し上げます。

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2019年8月28日 (水)

ココカラファインの「前面に出る第三者委員会」と株主への説明責任

(8月28日午後1時15分更新)

ドラッグストア大手のココカラファインとの統合を巡り、スギホールディングスとマツモトキヨシホールディングスで提案合戦が繰り広げられました。ご承知のとおり、ココカラさんはマツキヨさんとの統合を決めて、8月16日には統合協議開始の覚書締結に至るわけですが、6月12日のエントリー「ココカラ正念場!?なぜ特別委員会?」で述べたように、重要な経営判断になぜ第三者委員会を設置しなければならなかったのか、このように決着がついてもよく理解できません。8月15日の日経ビジネス(WEB)記事「マツキヨと統合協議のココカラ、なぜ特別委員会で決めたのか?」でも、M&Aに詳しい一橋大学の田村教授は「このような状況で特別委員会を設置など、聞いたことがない」と述べておられます。

今朝(8月27日)の日経朝刊2面に「始動!ドラッグ大再編!起点はマツキヨ・スギ破談」なる特集記事が掲載されており、上記ココカラ第三者委員会は「前に出る委員会」、つまりマツキヨ、スギHDの社長と面談し、直接交渉を行う委員会であること、8月14日の経営判断が下るまで、両社首脳は水面下で経営陣と面談することもできなかったことが報じられています(ココカラさんの8月14日リリースでは、取締役会も第三者委員会と並行して両社提案を検討していた、とのことですが、これは第三者委員会から得た資料を取締役会でも検討していた、という意味でしょうか?)。

たとえばココカラがすでに両社いずれかと業務提携をしているとか、社外取締役の派遣を受けている、といった事情があれば、取締役会としての中立性や公正性に疑問が生じうるわけですから、株主利益に配慮して「独立社外取締役を含む第三者委員会を設置して交渉を委託する」ことも十分考えられます。しかし、前のエントリーでも書きましたが、今回はまさにドラッグ業界での経験豊富なプロの経営者の方々が、両社首脳とのギリギリの交渉を経て決定してこそ株主も経営陣の選択に納得するのではないでしょうか。M&A成否のために、統合先の提案を審議し、シナジーを検討することも大切ですが、統合に向けた自社の姿勢から、「(統合を成功に導く)ココカラの組織力」を示すことも大切だと思います(こういった有事の場面で、社長が交渉の先頭に立ち、なぜマツキヨを選んだのか、批判や異論もある中でわかりやすく株主に説明する姿勢こそ組織力だと思うのですが・・・)

なぜマツキヨHDさんを選んだのか、といった説明も、上記ココカラさんのリリースではよくわかりませんでした。ここからは(?ややこしくてすみません)私の単なる憶測でのストーリーにすぎませんが、①そもそもココカラファインはセイジョー、セガミ薬局を中心に6~8社のドラッグストアが統合して生まれた会社なので、他社との統合には拒絶反応がなく、統合後の経営については自信がある、②調剤(スギさんの強み)とPB(マツキヨさんの強み)とを比較した場合、自社の強みを生かすためにはPBを取り入れることで店舗の付加価値を上げる戦略が有利、③スギHDとマツキヨHDの過去の買収戦略を比較した場合に、スギさんよりもマツキヨさんのほうが買収先の独立性を尊重する傾向があり、その買収戦略がココカラ社の社風にも合致している、といったところではないかと。このような推測が正しいのか間違っているのかはわかりませんが、第三者委員会の結論を聴き、取締役会で十分な審議を経て、こんな説明をしてもらえれば一般株主も納得できるのではないかと思いました。

ココカラさんの上記リリースでは、第三者委員会の結論と取締役会の判断に矛盾はありませんでした、と書かれていますが、もし矛盾があったらどうなっていたのでしょうか?記者会見においてココカラの社長さんは「第三者委員会?いやいや、単に意見を聴いただけです」と述べておられましたが、そうであれば「前面に出る第三者委員会」は不要だったのではないでしょうか(取締役会には中立公正な財務アドバイザーがいらっしゃったそうですが、それで十分では?)。6月28日に公表された経産省「公正なM&Aの在り方に関する指針」では、「前面に出る特別委員会」の存在が少数株主保護(公正価値の判断)につながる(特別に中立・公正性は求めない)とされていますので、そのような趣旨で特別委員会を設置されたのかもしれませんが、もしそうだとすれば取締役会も特別委員会の意見を尊重するはずであり「意見を聴いただけ」ということにはならないと思います。

上記日経ビジネス記事では、関係者の話として「どっちにも不義理ができなかったので、身動きがとれなかった」と書かれていますが、そのような活用方法は、第三者委員会制度の在り方を根源から否定することになりますので絶対にあってはならない話です。第三者委員会は不祥事についても、また公正なM&Aにおいても、会社を取り巻くステイクホルダーへの説明責任を果たすために活用されるものですが、「不義理できないので」「身動きできないので」活用するということになりますと、「最初から結論ありき」といった推測がはたらき、中立公正性への(第三者委員会という制度自体の)信頼が揺らぐことになることを危惧します。

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2019年8月26日 (月)

FM東京不正会計事件-組織ぐるみの不正対策は公益通報者保護法強化しかない現実

遅ればせながら、8月21日にFM東京のHPに公表されました第三者委員会調査報告書を読みました。前経営者をはじめ、多くの社員が関与している不正とのこと。業績の悪いグループ会社の連結外し、という古典的な手法であり、委員会も「本件問題行為は会社法違反、会計基準違反」としています。報告書では、前経営者の在任期間が長く、社内の人事権も一手に握っていたことから、「誰も経営者に異論を唱えることができなかった」といったガバナンス上の課題が述べられています。なお、報告書を読み、個人的に印象に残ったのは以下の2点です。

こういった第三者委員会の報告書を読んでいて、いつも思うところですが、日本企業の社外役員(社外取締役、社外監査役)のリーガルリスクへのツッコミは希薄だなぁと感じます(いえ、自分への戒めも込めて、ということです)。ホントに社外役員に対して日本は優しい国です。このような不正が発生しても、「社外取締役は何をしていたのか」「法的責任は問われないのか」と世間から批判されることもないのですね。非上場とはいえ、株主や取引債権者はおられるわけですから、社外役員の役割について、もう少し話題になっても良いのではないかと思いますが。。。

まさに「知らぬが仏」ということですが、100億もの投資事業を担当していたグループ会社について、どうして社外取締役の方々は業績に関する情報収集をしていなかったのでしょうか。5名の社外取締役の方々は株主会社から派遣されていたので、あまり関心がなかったのかもしれませんが(FM東京さんは会社法上の大会社なので)内部統制の基本方針を決議しているはずであり、財務に関する情報収集体制も構築されているはずです。意図的に前経営者が社外役員に情報を遮断していたとしても、なぜ社外役員が重要子会社の情報を収集できなかったのか、とても疑問を感じます。

もう一点が、今回の組織的不正は、会計監査人への内部告発によって発覚した、ということです(正確には社内の内部通報窓口と会計監査人に同時に情報提供があったようです)。会社の規模からみて、内部監査部門が不正を発見することは容易ではなく、また取締役会の監督機能や監査役監査にも期待ができないとなりますと、やはり内部通報や内部告発が唯一の不正早期発見に向けた効果的手法だったと言わざるを得ません。

本件もやはり公益通報者保護法の改正に向けた立法事実を提供する事例だと考えます。近時の田中亘東大教授の論文(旬刊商事法務2195号13頁以下「公益通報者保護制度の意義と課題」)では、画期的な近時の研究発表も紹介されております(内部告発を内部通報と同様に保護したほうが、内部通報制度自体の有効性を高めることになる、とのこと)。近いうちに、公益通報者報奨制度や(告発者への不利益制裁に対する)刑事罰適用といった論点も、改正対象として検討課題に上る日がくるかもしれません。

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2019年8月21日 (水)

グループ・ガバナンスに関連する重要判例(ベネッセ損害賠償東京高裁判決が全文開示されました!)

今年6月、こちらの「ベネッセ情報流出事件ー親会社に初の賠償命令」と題するエントリーで、6月27日に出された東京高裁判決のニュースをご紹介しておりました。そしてようやく(?)最高裁HPにこの東京高裁判決の全文が開示されましたので、さっそく全文に目を通しました。ベネッセが保有していた顧客情報の管理ミスについて、客観的関連性ありとして、子会社とともに親会社であるベネッセコーポレーション(事業会社)の共同不法行為責任を認めていますね(民法719条 なお、ベネッセグループの完全親会社は持株会社であるベネッセホールディングスです)。

子会社の従業員もしくは子会社の委託先従業員の不適切行為について、親会社の管理監督責任を論じるにあたり、このベネッセの損害賠償東京高裁判決は、昨年のイビデン・セクハラ内部通報最高裁判決に続いて重要な判決になるものと思います(たしか控訴人、被控訴人ともに上告受理申立てをされているので、まだ最高裁でどのような判断が下されるのかはわかりませんが・・・)。

会社法の世界では、グループガバナンスに関する実務指針が公表されて「グループガバナンス」への関心が高まり、またアスクルとヤフーにおける子会社支配権に関連する紛議を通じて「子会社のガバナンス」と「親会社による事業ポートフォリオ管理」の狭間における企業集団内部統制が議論されている中で、このベネッセ情報流出事件の高裁判決は、ぜひとも著名な研究者の方に解説をお願いしたいところです(私のようなごく普通の弁護士ではちょっと大所高所からみた判決の意義を述べることは無理そうですー笑)。

ただ、当判決を読んだ「企業コンプライアンスに関心を持つ実務家」として一言申し上げるとすれば、①グループ親会社の経営トップは情報セキュリティについては重大なリスクとして検討しなければならず、②せめて取締役もしくは執行役員の中に、情報セキュリティに詳しい最高責任者をひとり選任する必要があり、③不幸にして情報流出事故が発生した場合には、自浄作用を発揮することが損害額にも影響を及ぼすことを認識しなければならない(自浄作用を発揮しなければ、役員の株主代表訴訟のリスクが格段に高まる)、ということです。ぜひ多くの方にお読みいただきたい判決文です。

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2019年8月20日 (火)

株主総会の機能が変われば「ネット出席株主」も増えるかもしれない

8月17日の日経朝刊に「株主総会、ネットで『出席』-経産省など、指針作成へ」と題する記事が掲載されていました。見出しだけ読んで「バーチャル株主総会」が開催できるような仕組みが作られるのか・・・と思いきや、さすがにそこまでは(会社法を改正しないと)無理ですよね。ということで、経産省は現実に開催される株主総会に、株主がネットを通して出席したり、質問権を行使することができるような仕組みを「指針」として提言するそうです。早ければ2020年6月の総会シーズンからの実用化もあるかも、と報じています。

現実には議決権の書面行使やネット行使によって、総会の前日までにはほぼ総会議案の賛否が決まっておりますし、当日出席される大株主の方も「委任状行使」によって会社議案に一括賛成するケースがほとんどなので「株主総会の開催にはどれほどの意味があるのだろうか」と疑問を抱く方々も多いと思います。それでも「想定問答集」作りや会場設営、議事進行に至るまで、ご担当者の方々の並々ならぬご尽力のおかげで「つつがなく」総会が執り行われておりますので、株主総会の姿は総会屋が闊歩する時代から、あまり変遷することもなく今日に至っています。

株主総会の機能として、会社の重要な意思決定機能が重要であることは間違いありません。会社法制度の理屈では、株主総会は会社の重要な意思決定機関であり、原則として(事前行使分も含めた出席株主の)議決権の過半数をもって議案の賛否がはかられます。要は会社側、株主側提案の議案に過半数の賛同が得られたかどうかが重要です。この大原則からみれば、個人株主が株主総会にネットで参加することもあまり意味がないように思います。

しかし、ガバナンス・コードは、たとえば会社側議案が賛成多数で可決されたとしても、相当数の反対票が入った場合には、当該会社(もしくは取締役会)はその反対票が増えた原因を分析し、今後どう対応すべきか決定すべきである、と要望しています(そしてほぼ100%の上場会社が、このコードを実施しています)。そして「相当数」というのは、英国のガバナンス・コードに倣って、日本でも20%以上の反対票が投じられた場合を想定しているようです。つまり、企業統治改革が進む時代における株主総会の機能として、会社の重要な意思決定機能のほかに、株主意思の定量的評価機能も無視できない時代になってきた、といえます。

また、スチュワードシップ・コードの遵守を宣言する機関投資家が増え、議決権行使結果と理由の開示が施行されるようになったため、先日のリクシルの株主総会における支配権争いのように、総会当日の朝になって大口の機関投資家が議決権を行使し、その賛否によって決着がつくような事例も出てきました。最後まで会社側、株主側の情報提供を慎重に検討したうえで(実質株主にも説明がつくような形で)議決権行使に及ぶ姿勢にも留意すべき株主総会の運営が必要かもしれません。

このように、ガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードなどのソフトローが会社法実務に浸透するなかで、株主総会の果たすべき機能も変遷するわけでして、そうなりますと現実の株主総会には出席できないけれども、ネット上で質問をしたり議決権を行使する株主の存在も無視できないのではないかと。「過半数」というハードルは高すぎるかもしれませんが、持ち合い株式の解消が進む中、「20%」というハードルならネット議決権行使もそれなりの影響力を及ぼしうる、と考えることもできそうです。

株主提案権の数も増えていますし、議決権行使助言会社の推奨指針も会社側に厳格化する傾向にありますので、「この議案は20%以上の反対票が出るかも」といったことへの株主の関心も高まるかもしれません。ただ、ネット参加する株主の質問票を「記入フォーム」で書かせるとなれば、会社側が都合の良い内容の質問だけをピックアップするようなことも予想されますし、5G環境が整備されるとしても、通信の断絶によって双方向性が確保されない事態も想定されることから、ネット参加による株主総会の手続的公正を図る仕組みが必要になりそうですね。

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2019年8月19日 (月)

日本のマスコミも取り上げない「マルコポロスの乱」-残暑お見舞い申し上げます!

猛暑が続く中、皆様いかがお過ごしでしょうか。ひさしぶりのブログ更新です。ブログ更新をお休みしていた間にも、いろいろとブログネタは多かったですね。また、いろいろなネタをフォローしてまいります。

この10日ほどの間で私的にはGE(米ゼネラル・エレクトリック)の財務諸表に問題があるとして、マルコポロス氏が疑義を表明して一時GEの株価が10%以上下落した、というニュースにもっとも興味を抱きました(たとえばブルームバーグのニュースはこちらです)。マルコポロス氏(マーコポロスと表記したほうが良いかも)は、私と同じCFE(公認不正検査士)の資格保有者ですが、6兆円もの金融被害が発生した「マドフ事件」のバーナード・マドフ氏を告発した人として有名です。

マドフ事件のときも、マルコポロス氏はSECをはじめ、多くの有識者から「マドフが詐欺?治療が困難な小児がんの撲滅のために多額の私財を投じているマドフを告発って、おいおい、気は確かかな?(笑)」と嘲笑を買い、結局、最初の告発からマドフ逮捕まで9年の年月を要しました(その間、彼は「家族の身の安全に気を配りながら」5回ほど新たな証拠を持参してSECに告発を続けています)。金融関係者の中にはマドフの不正に気付いた人たちが増えていったのですが、「不正が表ざたになるまで儲けてやれ」ということで、マルコポロス氏に協力する支援者はごくわずかだったそうです。リーマンショックを契機として、彼の基金から資金を回収する金融機関が増えたことで、不正が表面化しました。「当社は50億ドルも損をしたんだ!金返せ」と訴えていた金融機関が、実はマドフのねずみ講の胴元に近かったので、損をしていないどころか損害額の倍以上の収益を上げていた・・という話はあまりにも有名です。

マドフ事件は米国を震撼させた大型金融詐欺事件ですが、日本にとっては「不都合な真実」を含んでいるとされ、マスコミも取り上げたくない事件として、その全容は明らかにされていないようです(何年か前に、私が理事を務めていたACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)がマルコポロス氏にインタビューを試みましたが、残念ながら多忙ということで拒否されましたね)。おそらくGEの件も、日本では正確に報道されることなく、何年か経過した後に事態が動くのかもしれません。なぜなら(拙著「不正リスク管理・有事対応(有斐閣)」の第1章で述べた通り)企業不祥事というものは会社が起こすものではなく社会が作り出すものだからです。告発は、その「きっかけ」にすぎません。

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2019年8月 9日 (金)

みなさま、よい「お盆休み」をお過ごしください(暑中お見舞い申し上げます)

いつも当ブログを御覧いただき、ありがとうございます。明日8月10日~18日まで、当ブログの更新はお休みいたします。当職は近々開示されます某社ファイナンス案件の職務のため、今年もお盆休みはなさそうですが、なんとか元気にやっております!皆様もご自愛くださいませ。

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社外取締役の義務付け法案(会社法改正)-取締役会決議の有効性への影響

8月8日の日経朝刊4面に「臨時国会召集-10月軸に 社外取締役義務付け法案など提出へ」との見出しで、秋の臨時国会に提出される予定の会社法改正案に関する解説記事が掲載されていました。今回の会社法改正案の目玉は(私個人としてはD&O保険の法制化、会社補償制度だと思いますが)「社外取締役の法制化」とのことで、会社法上の公開会社には社外取締役の選任が義務付けられます。有識者の間でも賛否ありますが、企業統治改革が進む中で法制化されることは間違いないでしょうね。

ただ、取締役会の構成員として「かならず一人以上の社外取締役を置かなければならない」と規定されますと、社外取締役不在の状態で取締役会で決議ができるのだろうか(決議は有効なのだろうか)・・・という極めて素朴な疑問が湧きます。そもそも社外監査役の場合には、そういったケースに備えて「補欠監査役」を選任したり、一時監査役を裁判所に選任してもらうことになりますので、もちろん「補欠社外取締役」を総会で決めておくこともできます。ただ、そうなりますと「社外取締役候補者を2名以上見つけなければならない」といったやっかいな問題も出てきますね。

先日のヤフー、アスクルの事例でも、社外取締役3名の再任が否決されて、社外取締役が一人もいない状況になってしまいましたので「アスクルで有効に取締役会決議ができるの?」(もちろん会社法改正後という仮定ですが)という「大問題」は普通に想定されるところです。社外取締役が(会社側と衝突して)途中辞任した場合などは、取締役会が開けるようになるまで「権利義務取締役」(会346条1項)として「辞めたのに賠償責任を追及されるおそれがあるので」役員会にだけは出席しなければならない、といった社外取締役側の大きな負担も想定されます。

法務省の会社法制部会では、社外取締役の義務付け規定の「補足説明」として、社外取締役がいない状態で行われた取締役会の決議も有効と解釈できる、社外取締役がいない状態について過料の適用はないと解釈することもできる、と示していました(会社法制部会第18回資料、要綱案の仮案2参照)。義務付け規定を無視して社外取締役を選任しない状態を放置している場合には(取締役会決議は)無効だが、たまたま不在になってしまったときに、選任の努力をしているのであれば取締役会決議は有効、という意味かと思われます。

また、法務省はどうもこの規定は「効力規定」ではなく「取締規定」の性質と考えておられたのではないかとも推測されます(取締規定であれば決議の有効性に影響ありませんが、ただそうなると過料の制裁は不可欠でしょう。現に、法務省担当者の発言記録を読みますと「過料の規定は入れざるを得ない」とされていました-第17回部会議事録参照)。

しかし、なにゆえ「社外取締役に欠員が生じた状態での取締役会決議が有効と解釈できる」のか、その根拠が不明です。また義務付け規定にもかかわらず、社外取締役を選任しない状態で過料も課されないのか、その根拠も不明です(効力規定だから?)。会社法制部会での学者の方々の意見も「社外取締役がいない状態での取締役会決議は無効」とされる方が複数いらっしゃいます。

これは私の意見ですが、取締役会決議の効力要件として「定足数」という概念がありますが(会369条1項)、この定足数というのは社内も社外も区別していません。したがって「社外取締役」なる概念は、そもそも効力要件とは結び付かない取締役の一属性であり、「置かなければならない」ことと決議の効力とは(定足数のような規定がないかぎりは)関連性がない、といった根拠が必要ではないでしょうか(かなり苦しいかな。。。)

解釈にゆだねるとしても、取締役の定足数(3人以上)に満たない人数での取締役会決議は無効とする最高裁判決もありますし(昭和41年8月26日)、会社法831条の総会決議の裁量棄却の規定についても、現在の社外取締役の役割からすると(瑕疵は重要とはいえない、として)軽々には援用できないと思います。そもそも補欠監査役制度が存在すること自体、社外役員の欠員が重大な瑕疵と会社法ではみなされる可能性がありそうですね。

私個人としては、社外取締役を法制度として義務付けること自体に問題があると思いますが、法制化されてしまうのであれば、社外取締役欠缺時の取締役会決議を有効とする結論が妥当ではないかと思います。ただ、(裁判で争われるにしても)その結論に導く法的な根拠が必要です。日本を代表する著名な法律学者の方々が「原則は無効」と発言されているわけですから「なぜ有効になるのか」「どのようなケースで有効となるのか」もう少し知恵を絞らなければ経済界での萎縮効果(やっぱり社外取締役を二人以上選任せんとあかんのかなぁ?)を一掃することは困難ではないかと。

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2019年8月 8日 (木)

ゼネコン談合-子会社不正防止だけでは独禁法違反はなくならない

読売朝刊トップ記事では「公取、ゼネコン4社長『指導』談合カルテル-子会社不正巡り」と報じています。同記事によると、公正取引委員会の委員長が、大手ゼネコン4社の社長に対して、グループとして談合の再発防止策を講じるよう異例の申し入れを行ったそうです。また、朝日ニュースでは、このような異例の申し入れは①海外では、子会社が独禁法違反行為をすれば親会社も責任を問われるケースがあること、②6月に成立した改正独禁法では、完全子会社が過去に違反で処分を受けている場合には、親会社の新たな違反行為について課徴金が割り増しになることから行われたのでは、と指摘されています。

グループで談合を防止することは大切だと思いますが、それで談合がなくなるかといえば、それはないと思います。取引先や下請企業を使って、ますます巧妙に談合を行うケースが増えるだけかと(取引先や下請企業も、談合に関与することで継続的に仕事を請け負うことができるはずですから、徹底防止するインセンティブが機能しないと思います)。たとえば東証「企業不祥事予防のプリンシプル」では、原則6において「サプライチェーンのコンプライアンスの徹底」が求められていますが、まさに中心になる企業がサプライチェーンを含めて自主的な規制を行わないと談合はなくならない。

コンプライアンス経営の徹底が求められると、サプライチェーンの川上の企業が川下の企業に「汚い仕事」を押し付けるケースが増えてきます。前にも述べましたが、味の素の社長さんが「働き方改革」を自社で実行するために、抜本的な生産性向上への取組の開始とともに取引先やグループ企業に自ら出向いて協力を要請したことが日経の連載記事で紹介されていました。談合についても、ゼネコンの社長さん自ら関係会社に出向いて「なにかあれば司法取引を活用せよ」と提言する等、サプライチェーンで根絶を要請しなければゼネコン談合防止の本気度は伝わらないのではないでしょうか。

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2019年8月 7日 (水)

リクナビ事例、かんぽ生命事例-グレーゾーンでこそ活きる不正リスクマネジメント

各メディアが報じるように、リクナビ運営会社の個人データ販売が当初の「休止」から「廃止」に追い込まれたそうです。しかし、そもそも販売を企画する時点で「これって個人情報保護法とか職業安定法上の問題はないの?」と経営陣が気が付かなかったのでしょうか?(うーん、ナゾです)8月2日の日経ニュースによると、運営会社は「個人のプライバシー保護を最優先に設計したが、社会の認識が大きく変化した」と述べておられますね。つまり運営会社の経営陣は(企画段階では)灰色ではなくシロと判断されていたのかもしれません。

しかし、8月3日の朝日新聞ニュースでは、個人情報保護委員会事務局の方が「今回は灰色」と述べておられるので「社会の常識が変わった」かどうかが問題というよりも、法令の解釈として「灰色」とみるべきかと。ここにきて8000人分については「個人の同意を得ずにデータを売った」ことが明らかになっていますので、「灰色」は限りなく「クロ」に近いイメージとなり、廃止を決めたと思われます。ちなみに運営会社との間でデータのやりとりをしていたサービス利用会社についても、これって灰色?クロ?」といった疑問の声は上がらなかったのかどうか。こちらも関心があります。

いっぽうかんぽ生命の事例も、8月5日の西日本新聞の報じるところでは、昨年6月の幹部会議で大量の不正情報が共有されていたそうです。西日本新聞が入手した内部資料で私が関心を持ったのは、報告された事故件数は、いずれも顧客からの苦情や客観的な契約事故の発生によって判明したものであり、かんぽ生命が自らの調査で判明した数字ではない、という点です。1年9カ月の間に1000件以上の「苦情に基づく全額返還事例」が生じているのに、なぜ社内調査で全容を明らかにしようとしなかったのか(一部、サンプル調査については今年1月に行われたようですが)。たしかにこれも(経営陣も重大な不正を認識していたことに関する)「灰色」を放置したことで限りなく「クロ」に近い印象を受けています。

かんぽ生命の件ですが、NHKの特集番組が組まれたことや、幹部会議で大量の事故件数が報告された時点で同社にはイエローカードが出ていたと思います。もしここで徹底した社内調査を行っていたとすれば、たとえ調査結果に全容が明らかにならなくても「当時は重大な不正とは認識していなかった」という証言が「認識の違い」として受け止められ「灰色」をシロ(経営陣に重大性への認識がなかったという意味でのシロ)に近づけることができたのではないでしょうか。ビジネスの上で「グレーゾーン」に突っ込んでビジネスを展開しなければならないケースもあると思いますが、その場合には、不正リスクが顕在化することを想定したシナリオが求められます。かんぽ生命としては、そのような不正リスクの顕在化を全く想定していなかったのかもしれません。

リクナビの運営会社も、本件データ販売を「灰色」と認識しながらビジネスに走っていたとすれば、当然用心深くなりますし、そもそも「プライバシーに細心の注意を払っていた」とすれば「8000件も形式的な同意すらとっていなかった」などといった明らかな違法行為には及んでいないと思います。経営陣に法務機能が備わっていなかったのか、それとも経営陣と法務部門との距離が遠かったのか、いずれかわかりませんが、ともかく「灰色」であることの認識がなかったことの理由について、まったく理解できないところです。もし本件について調査委員会が立ち上がるのであれば、このあたりのコンプライアンス対応がどのようなものであったのか、ぜひとも解説いただきたいところです。

灰色をシロにする(灰色のままではゴーサインを出さない)のがコンプライアンス、というのではビジネスが前に進まないため、ますます経営陣と法務部門との距離が遠くなってしまう。もし、そういったことであるならば、灰色を灰色と認めて、そのままゴーサインを出して、その代わりに最悪の事態だけは回避する手法を考える、というのも不正リスク管理の現実的な知恵ではないでしょうか。ただし、どんな手法を使うにせよ「顧客の立場で」「顧客目線で」考えなければ、「単に会社の儲けとコンプライアンスを秤にかけた」と思われてしまうことに注意が必要です。

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2019年8月 5日 (月)

親子上場問題-親会社が「悪者」にならないために果たすべき説明責任

先週金曜日に開催されたアスクルの株主総会で、親会社(IFRSルール上)であるヤフーの意向により、社長さんと3名の独立社外取締役さんの再任が否決されました。この親子の紛議を契機として、経済同友会、日本取締役協会、日本コーポレートガバナンス・ネットワーク等の団体から「親会社による議決権行使、とりわけ上場子会社の社外取締役の指名に関する議決権行使について、日本の企業統治の在り方に重大な影響を及ぼす懸念」が表明されています。

6月末に公表された経産省「グループガバナンス実務指針」においても、親会社が取締役を(子会社に)派遣しようとしたところ、上場子会社側の社外取締役が強硬に反対した事例について「実質的に、社外取締役が上場子会社の企業価値や一般株主の利益を確保するにあたり非常に機能している」とコメントされているので(実務指針6.3.2「上場子会社における独立社外取締役の役割」参照)、親会社が子会社の独立社外取締役の選解任に関与すること自体が「悪いこと」のような印象を世間的に持たれてしまったようです。

私も過去に上場子会社の独立社外取締役を務めた経験がありますが、親会社からは「子会社の少数株主の利益を優先的に考える原理主義者」として対立関係者の扱いを受け、一方子会社の一般株主からは「どうせ親会社にシッポをふる(親会社の役員に忖度する)世渡り上手な外部役員」とみなされ、「ああ、これが上場子会社の社外取締役の『悲しい性(さが)』なのか」と痛感いたしました。したがって、会社のために善管注意義務、忠実義務を尽くすというのはどういった行動をとることなのか・・・自身として公正な立場で判断する能力と気概を持つ必要があると思います。

ところで親子上場問題が世間で勃発しますと、なんとなく子会社に正義があり、親会社に「後ろめたい不正義」があるかのようなイメージを持たれますし、過去の裁判例をみても「とんでもない少数株主イジメ」のような事例もあります。ただ、適正価格での完全子会社化に注力したり、グループ全体のレピュテーションリスクに配慮して、他の子会社よりも有利な対応を検討するケースもあります。親会社がバックにいるからこそ、子会社に何かあったら支援してくれるだろう、との安心感がありますし、親会社のネームバリューで子会社の取引も円滑に進むだろう、といった期待感をもつ一般株主の方もおられます。現に、上記グループガバナンス実務指針は、親会社によるグループ全体最適のためのポートフォリオ管理を要請しているので、子会社のパフォーマンスが悪くなれば、子会社のガバナンスに関与することも検討しなければなりません。

ただ、ここからは私の個人的見解ですが、親子上場には構造的な利益相反関係を排除する要請があり、逆に親会社における子会社株式という財産の管理(ポートフォリオ管理)の要請もあるので、これらはトレードオフの関係にあります。そしてそのトレードオフを(円満なうちに)解消する道は、上場子会社の完全子会社化に踏み切るか、上場子会社の独立性は尊重したままで、独立社外取締役の活用を図るか、のふたつしかないと考えます。

また、親会社には(会社法上)企業集団内部統制の整備・運用の責任があります(ちなみにヤフーはアスクルとの関係で、会社法上の親子関係にはないと思われます)。子会社が上場している場合には子会社の少数株主の利益を保護することも子会社取締役の適正な職務執行のひとつです。「子会社取締役の職務執行の適正を確保する体制」を支援しなければならないので、少数株主保護を職務とする子会社の社外取締役の選解任には、親会社の取締役会での格段の配慮(十分な審議)が必要となります。上記経産省のグループガバナンス実務指針では、

親会社は、グループ全体としての企業価値向上や資本効率性の観点から、上場子会社として維持することが最適なものであるか、定期的に点検するとともに、その合理的理由(グループの事業ポートフォリオ戦略と整合的であり、利益がコストを上回っていること)や上場子会社のガバナンス体制の実効性確保(そのための取締役の選解任権限の適切な行使)について、取締役会で審議し、投資家に対して情報開示を通じて説明責任を果たすべきである(6.2.1「グループの事業ポートフォリオ戦略の視点」参照)

とされています。まさに、今回のヤフーの議決権行使の問題で考えるなれば、独立社外取締役のパフォーマンスについてはヤフーの取締役会で(従前から)議論されていたのか、独立社外取締役の各人と面談等によって上場子会社の取締役たる適正に関する審査を行ったのか、ヤフーの取締役会では(3名の方々が)子会社の独立社外取締役として、どのような理由で「ふさわしくない」との判断に至ったのか、といったところをヤフーの投資家、株主向けに説明する必要があるのではないでしょうか。

 

 

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2019年8月 2日 (金)

かんぽ生命不適切契約問題-単純な企業統治の問題ではない

7月31日のNHKクローズアップ現代+「検証1年 郵便局・保険の不適切販売」を視聴しました。私はあまり経緯を知らなかったのですが、NHKは2018年4月にこの問題を特集番組として放送しており、昨年12月にも300件ほどの内部者情報をもとに続編番組を放映していたのですね。NHKが特集番組を放映するとなれば、通常の民間企業であれば、たとえ取締役会に情報が上がってこなくても「こりゃたいへんだぞ。うちでもきちんと調べないと」ということで社内調査委員会が設置され、さらには第三者委員会が設置されるはずです。

しかし、どうしてそうならなかったのでしょうか。番組をみておりますと、日本郵政、日本郵便(郵便局会社)そしてかんぽ生命の「もちつもたれつ」の関係がかなり大きいことが(番組に匿名で出演していた元かんぽ生命幹部の方の証言で)理解できました。自社固有の不正であれば自浄能力を発揮することができても、その過程で他社も巻き込むとなると不正公表に消極的になってしまうケースはよくあります。

(以下は、私の個人的な見解としてお読みください)ところで、マスコミでは「日本郵政グループとしてのガバナンスの問題」が大きいとされていますが、ではどんな問題かというと、そんなに(トップが辞めて済むような)単純な問題ではないと思います。要はグループ本社という会社とは別に、ローカル実働会社という会社が別にあって、グループ本社の指示系統とは別の指示系統がある、という意味でのガバナンスの機能不全です。

顧客と向き合う現場社員の方々は、グループ本社のトップが何を言っても関心は薄いのであり、ローカル実働会社のトップもしくはもっと小さな(普段顔を突き合わせている)20名から30名の小集団のトップが何を言うのか、ということに大きな関心が向きます。ひとつの会社のなかに事実上はふたつの会社が存在するわけですから経営トップに現場の不都合な情報が届かないのは至極当然のことであり、このあたりは日本郵政グループのトップの方々は百も承知だと推測します。

したがって、このたび日本郵政グループは「ノルマを廃止する」と宣言しましたが、それで不正の温床がなくなるわけではありません。いくらグループ本社のノルマがなくなってもローカル実働会社の事実上のノルマは残るわけです。誰だってお金だけがインセンティブで働いているわけではなく、人に喜んでもらって働き甲斐を感じるはずです。日本企業の「小集団」の集団意識が強いところでは、どうしても承認欲求が「上司に喜んでもらう」「同僚に迷惑をかけない」「部下をサポートする」というところに向きます。

会社がどうなろうと「小集団の安定」こそ第一ですから、不正をやっても「みんなで隠す」ことに躊躇しません。もちろん「お客様のために働く」という意識はあります。しかし「お客様のために」という言葉は会社の利益と顧客の利益を秤にかけているときに出てくる「会社ファースト」を示す言葉です。「お客様の視点で」「お客様の立場にたって」という言葉が出てこなければ「お客様に喜んでもらう」仕事にはつながりません。これは私の過去の失敗経験から学んだことです。そこに疑問を抱いた社員が内部情報の外部提供に動いたのではないかと。

グループ会社どうしの「もちつもたれつ」の関係、そして「全国津々浦々まで存在する実働部隊の『小集団』による営業活動」という、日本郵政グループ固有の事情を背景に、今後どのように社会的弱者への被害拡大を防ぐことができるのか・・・、まずは指揮を誰がとるのか(指揮がとれなければ監督官庁が登場することになります)、という視点からみていきたいと思います。

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