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2019年8月 2日 (金)

かんぽ生命不適切契約問題-単純な企業統治の問題ではない

7月31日のNHKクローズアップ現代+「検証1年 郵便局・保険の不適切販売」を視聴しました。私はあまり経緯を知らなかったのですが、NHKは2018年4月にこの問題を特集番組として放送しており、昨年12月にも300件ほどの内部者情報をもとに続編番組を放映していたのですね。NHKが特集番組を放映するとなれば、通常の民間企業であれば、たとえ取締役会に情報が上がってこなくても「こりゃたいへんだぞ。うちでもきちんと調べないと」ということで社内調査委員会が設置され、さらには第三者委員会が設置されるはずです。

しかし、どうしてそうならなかったのでしょうか。番組をみておりますと、日本郵政、日本郵便(郵便局会社)そしてかんぽ生命の「もちつもたれつ」の関係がかなり大きいことが(番組に匿名で出演していた元かんぽ生命幹部の方の証言で)理解できました。自社固有の不正であれば自浄能力を発揮することができても、その過程で他社も巻き込むとなると不正公表に消極的になってしまうケースはよくあります。

(以下は、私の個人的な見解としてお読みください)ところで、マスコミでは「日本郵政グループとしてのガバナンスの問題」が大きいとされていますが、ではどんな問題かというと、そんなに(トップが辞めて済むような)単純な問題ではないと思います。要はグループ本社という会社とは別に、ローカル実働会社という会社が別にあって、グループ本社の指示系統とは別の指示系統がある、という意味でのガバナンスの機能不全です。

顧客と向き合う現場社員の方々は、グループ本社のトップが何を言っても関心は薄いのであり、ローカル実働会社のトップもしくはもっと小さな(普段顔を突き合わせている)20名から30名の小集団のトップが何を言うのか、ということに大きな関心が向きます。ひとつの会社のなかに事実上はふたつの会社が存在するわけですから経営トップに現場の不都合な情報が届かないのは至極当然のことであり、このあたりは日本郵政グループのトップの方々は百も承知だと推測します。

したがって、このたび日本郵政グループは「ノルマを廃止する」と宣言しましたが、それで不正の温床がなくなるわけではありません。いくらグループ本社のノルマがなくなってもローカル実働会社の事実上のノルマは残るわけです。誰だってお金だけがインセンティブで働いているわけではなく、人に喜んでもらって働き甲斐を感じるはずです。日本企業の「小集団」の集団意識が強いところでは、どうしても承認欲求が「上司に喜んでもらう」「同僚に迷惑をかけない」「部下をサポートする」というところに向きます。

会社がどうなろうと「小集団の安定」こそ第一ですから、不正をやっても「みんなで隠す」ことに躊躇しません。もちろん「お客様のために働く」という意識はあります。しかし「お客様のために」という言葉は会社の利益と顧客の利益を秤にかけているときに出てくる「会社ファースト」を示す言葉です。「お客様の視点で」「お客様の立場にたって」という言葉が出てこなければ「お客様に喜んでもらう」仕事にはつながりません。これは私の過去の失敗経験から学んだことです。そこに疑問を抱いた社員が内部情報の外部提供に動いたのではないかと。

グループ会社どうしの「もちつもたれつ」の関係、そして「全国津々浦々まで存在する実働部隊の『小集団』による営業活動」という、日本郵政グループ固有の事情を背景に、今後どのように社会的弱者への被害拡大を防ぐことができるのか・・・、まずは指揮を誰がとるのか(指揮がとれなければ監督官庁が登場することになります)、という視点からみていきたいと思います。

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コメント

山口先生 おはようございます。かつて損保業界にもそれぞれに莫大な件数の不払いがありました。その事件が契機に、経営者が号令をかけ社内を不正に走らせたのであれば経営者個人資産収奪法(私が勝手につけてます)で経営者を罰するようなものが立法化されていれば、少なくてもこのようなこんな方々達(いや失礼)の集団もそもそも出現しなかったのだと思います。
郵政民営化時代の社長から改正郵政民営化法の施行直後にかんぽ生命の経営が刷新され社長交替されました。外部より移植された経営者です。出身母体の企業体からどれだけの人員を引き連れて何を「かんぽ生命」に植え付けたのか、また送り出した企業体の今の経営者は何を思うのかその回想録も必要だと思います。わずか7年前の出来事です。そして、グループ社では、年賀はがきのノルマ販売が苦しくて自殺者まで出てしまっています。ちゃんとした第三者委員会メンバーが召集されないと、また居座る経営者が垂れ流されてしまいそうです。「何%1年減俸などとご発声しても居座りさせない。あなた様はいらないと社会が糾弾するのが当たり前です。」それすらも言えない社会なんて、アリ?と小さな声で呟いてしまいます。そして金融セクター(銀行、生損保、信金信組)全ての経営者には経営者個人資産収奪法(私見をくどく述べてスミマセン)を立法化して厳罰を与えることで、これでオシマイさせないと!本当に金融スキャンダルばかりで恥ずかしい国になり下がってしまいます。金融庁なんていらない。金融事件垂れ流し庁になってしまいます。大蔵省がスキャンダルで解体されて生まれた財務省と金融庁です。いつまでも悲しいです!!

投稿: サンダース | 2019年8月 2日 (金) 04時31分

山口先生、さすがグループ会社の現実、長期間に渡り不正が蔓延する理由の分析に長けていらっしゃいます。
失敗経験。。。と謙遜されていますが、そこからパワーアップされているのが素晴らしいと思います。
私が不正を通報したのは、異動により異動先の長年の不正を新参者が見抜いたためで、直属上司や親会社社長への通報でボロボロになりました。
上司、部下の双方向の承認、信頼欲求が「不正をいかに隠蔽しつつ会社の利益を上げるか」というベクトルで一致・合致してしまう組織的不正に対して、ひとりで通報しても「公益通報者」が潰されてしまうだけです。
不正が発覚し、監督官庁と協力しても通報者の不利益は止まりません。ここは日本国政府になんとかしてもらいたいです。
通報者の名誉を回復しようと、監督官庁だけでなく、政府、関係行政、経団連を巻き込んで「公益通報」しています。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年8月 2日 (金) 06時00分

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