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2019年8月26日 (月)

FM東京不正会計事件-組織ぐるみの不正対策は公益通報者保護法強化しかない現実

遅ればせながら、8月21日にFM東京のHPに公表されました第三者委員会調査報告書を読みました。前経営者をはじめ、多くの社員が関与している不正とのこと。業績の悪いグループ会社の連結外し、という古典的な手法であり、委員会も「本件問題行為は会社法違反、会計基準違反」としています。報告書では、前経営者の在任期間が長く、社内の人事権も一手に握っていたことから、「誰も経営者に異論を唱えることができなかった」といったガバナンス上の課題が述べられています。なお、報告書を読み、個人的に印象に残ったのは以下の2点です。

こういった第三者委員会の報告書を読んでいて、いつも思うところですが、日本企業の社外役員(社外取締役、社外監査役)のリーガルリスクへのツッコミは希薄だなぁと感じます(いえ、自分への戒めも込めて、ということです)。ホントに社外役員に対して日本は優しい国です。このような不正が発生しても、「社外取締役は何をしていたのか」「法的責任は問われないのか」と世間から批判されることもないのですね。非上場とはいえ、株主や取引債権者はおられるわけですから、社外役員の役割について、もう少し話題になっても良いのではないかと思いますが。。。

まさに「知らぬが仏」ということですが、100億もの投資事業を担当していたグループ会社について、どうして社外取締役の方々は業績に関する情報収集をしていなかったのでしょうか。5名の社外取締役の方々は株主会社から派遣されていたので、あまり関心がなかったのかもしれませんが(FM東京さんは会社法上の大会社なので)内部統制の基本方針を決議しているはずであり、財務に関する情報収集体制も構築されているはずです。意図的に前経営者が社外役員に情報を遮断していたとしても、なぜ社外役員が重要子会社の情報を収集できなかったのか、とても疑問を感じます。

もう一点が、今回の組織的不正は、会計監査人への内部告発によって発覚した、ということです(正確には社内の内部通報窓口と会計監査人に同時に情報提供があったようです)。会社の規模からみて、内部監査部門が不正を発見することは容易ではなく、また取締役会の監督機能や監査役監査にも期待ができないとなりますと、やはり内部通報や内部告発が唯一の不正早期発見に向けた効果的手法だったと言わざるを得ません。

本件もやはり公益通報者保護法の改正に向けた立法事実を提供する事例だと考えます。近時の田中亘東大教授の論文(旬刊商事法務2195号13頁以下「公益通報者保護制度の意義と課題」)では、画期的な近時の研究発表も紹介されております(内部告発を内部通報と同様に保護したほうが、内部通報制度自体の有効性を高めることになる、とのこと)。近いうちに、公益通報者報奨制度や(告発者への不利益制裁に対する)刑事罰適用といった論点も、改正対象として検討課題に上る日がくるかもしれません。

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コメント

私は首都圏在住者ではありませんので、「山下達郎のサンデーソングブック(というタイトルだったと思う)」を長年、ご当地ラジオ局経由で楽しみにしていました。音楽を聴くと言う事は一種その魅力ある芸術作品に傾倒し感情移入をして、人間としての感性を豊かにしてくれると思うのですが、続発する芸能関係企業の不正にガッカリさせられています。又、番組に携わって間接的に報酬を得ているミュージシャン達は今、どんな心境でしょう?
(まさか山下達郎氏が内部告発をしたとは考えにくいけれど)
不正内容こそ異なるものの「西の吉本」「東のFM東京」化が増長すると、来年の五輪はじめインバウンド面でも外国からソッポを向けれない意味でも、法曹界としても罰則強化などを早急に整備するのが喫緊の課題かと感じています・・・。

投稿: にこらうす | 2019年8月26日 (月) 07時50分

山口先生も田中教授も「正論」そのものですが、組織ぐるみで通報者が脅迫された場合、なすすべありません。
当初は不正を否定し調査しないところから始まって、不正が発覚するやいなや「通報を受けていたことを隠蔽する」ため、脅迫行為が激化します。
政府、行政に通報しても(実態を理解され、共感を得ても)現実解は見当たらず、良識ある社外取締役、社外監査役への通報(もちろん当該社長にも)継続を促されています。
時間の経過とともに、もどかしさは募るばかりです。
「良識」というものは目に見えず、通報に対する「行動」「反応」で推し量るしかありません。
「絶対的大多数の組織」に対抗できるのは、さらに強い権力としか思えません。
第三者委員会を設置する企業は、まだ良いほうだと思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年8月26日 (月) 09時50分

公益通報者保護法は、「司法の罠」だと思います。それほど罪深いものであります。何故ならば、現実の社会と法社会は通報者にシェルターを与えていないからです。・・・でも、やっぱりもう一度生まれ変わる事が出来たならば同じ場面に出くわせば公益通報をすると答える人はいます。・・・それでも、辛い。経済的にも苦しくなると本当にやってよかったのかと思います。 私も自問自答しています。 御参考になるかわかりませんが、少し古いシンポジウムのご案内です。 http://www.zenso.or.jp/information/ministry/4107.html 地道ですが、支え合い、応援されている方々もいらっしゃいます。
試行錯誤様へ ご心配しております。あまりストレスが強いとテストステロンのホルモンが著しく減少してしまいます。もいいやめんど臭いとなる前に、精神面のケアーには充分にご注意下さい。

投稿: Candy Candy | 2019年8月28日 (水) 01時31分

本日28日、スペースタンポポさんの勉強会で光前弁護士による「公益通報司法取引・自己認証制度 通報者保護はどこへ!公益通報者保護制度改正とその問題点」が開催されます。皆様に有益と思われる情報でしたのでお知らせ致します。ただし、参加費800円のようです失礼いたしました。

投稿: CANDY CANDY | 2019年8月28日 (水) 08時05分

Candy様、お気遣いありがとうございます。
涙、流るままです。
昨年の参議院議員会館でのシンポジウムには参加しました。
私の大企業経営陣への通報経緯を「公益通報者保護法改正」立法事実とするよう政府、行政に働きかけています。
明日30日の内閣府消費者委員会では伊藤消費者庁長官の挨拶も予定され、傍聴いたします。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年8月29日 (木) 18時34分

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