« 親子上場問題-親会社が「悪者」にならないために果たすべき説明責任 | トップページ | ゼネコン談合-子会社不正防止だけでは独禁法違反はなくならない »

2019年8月 7日 (水)

リクナビ事例、かんぽ生命事例-グレーゾーンでこそ活きる不正リスクマネジメント

各メディアが報じるように、リクナビ運営会社の個人データ販売が当初の「休止」から「廃止」に追い込まれたそうです。しかし、そもそも販売を企画する時点で「これって個人情報保護法とか職業安定法上の問題はないの?」と経営陣が気が付かなかったのでしょうか?(うーん、ナゾです)8月2日の日経ニュースによると、運営会社は「個人のプライバシー保護を最優先に設計したが、社会の認識が大きく変化した」と述べておられますね。つまり運営会社の経営陣は(企画段階では)灰色ではなくシロと判断されていたのかもしれません。

しかし、8月3日の朝日新聞ニュースでは、個人情報保護委員会事務局の方が「今回は灰色」と述べておられるので「社会の常識が変わった」かどうかが問題というよりも、法令の解釈として「灰色」とみるべきかと。ここにきて8000人分については「個人の同意を得ずにデータを売った」ことが明らかになっていますので、「灰色」は限りなく「クロ」に近いイメージとなり、廃止を決めたと思われます。ちなみに運営会社との間でデータのやりとりをしていたサービス利用会社についても、これって灰色?クロ?」といった疑問の声は上がらなかったのかどうか。こちらも関心があります。

いっぽうかんぽ生命の事例も、8月5日の西日本新聞の報じるところでは、昨年6月の幹部会議で大量の不正情報が共有されていたそうです。西日本新聞が入手した内部資料で私が関心を持ったのは、報告された事故件数は、いずれも顧客からの苦情や客観的な契約事故の発生によって判明したものであり、かんぽ生命が自らの調査で判明した数字ではない、という点です。1年9カ月の間に1000件以上の「苦情に基づく全額返還事例」が生じているのに、なぜ社内調査で全容を明らかにしようとしなかったのか(一部、サンプル調査については今年1月に行われたようですが)。たしかにこれも(経営陣も重大な不正を認識していたことに関する)「灰色」を放置したことで限りなく「クロ」に近い印象を受けています。

かんぽ生命の件ですが、NHKの特集番組が組まれたことや、幹部会議で大量の事故件数が報告された時点で同社にはイエローカードが出ていたと思います。もしここで徹底した社内調査を行っていたとすれば、たとえ調査結果に全容が明らかにならなくても「当時は重大な不正とは認識していなかった」という証言が「認識の違い」として受け止められ「灰色」をシロ(経営陣に重大性への認識がなかったという意味でのシロ)に近づけることができたのではないでしょうか。ビジネスの上で「グレーゾーン」に突っ込んでビジネスを展開しなければならないケースもあると思いますが、その場合には、不正リスクが顕在化することを想定したシナリオが求められます。かんぽ生命としては、そのような不正リスクの顕在化を全く想定していなかったのかもしれません。

リクナビの運営会社も、本件データ販売を「灰色」と認識しながらビジネスに走っていたとすれば、当然用心深くなりますし、そもそも「プライバシーに細心の注意を払っていた」とすれば「8000件も形式的な同意すらとっていなかった」などといった明らかな違法行為には及んでいないと思います。経営陣に法務機能が備わっていなかったのか、それとも経営陣と法務部門との距離が遠かったのか、いずれかわかりませんが、ともかく「灰色」であることの認識がなかったことの理由について、まったく理解できないところです。もし本件について調査委員会が立ち上がるのであれば、このあたりのコンプライアンス対応がどのようなものであったのか、ぜひとも解説いただきたいところです。

灰色をシロにする(灰色のままではゴーサインを出さない)のがコンプライアンス、というのではビジネスが前に進まないため、ますます経営陣と法務部門との距離が遠くなってしまう。もし、そういったことであるならば、灰色を灰色と認めて、そのままゴーサインを出して、その代わりに最悪の事態だけは回避する手法を考える、というのも不正リスク管理の現実的な知恵ではないでしょうか。ただし、どんな手法を使うにせよ「顧客の立場で」「顧客目線で」考えなければ、「単に会社の儲けとコンプライアンスを秤にかけた」と思われてしまうことに注意が必要です。

|

« 親子上場問題-親会社が「悪者」にならないために果たすべき説明責任 | トップページ | ゼネコン談合-子会社不正防止だけでは独禁法違反はなくならない »

コメント

>どんな手法を使うにせよ「顧客の立場で」「顧客目線で」考えなければ、「単に会社の儲けとコンプライアンスを秤にかけた」と思われてしまうことに注意が必要です。

まったくそのとおりだと思います。
医療機器や運輸機器の品質に係る問題であれば、人命と組織の都合を天秤にかけているようなものだと思われてしまうことでしょう。
組織トップを含む上層部の認識が世間と異なっている時こそ、社外取締役(まともな社外取締役)の目線・諫言が最後の砦になるのではないかと思われます。
まともな社外取締役が不在もしくは活動不能な場合、世間と同じ目線を持つ従業員は、公益通報という最後の手段に踏み切らざるを得なくなるのでしょう。
行政当局又は司法当局、証券取引所へコンタクトすることを決断した時、今の日本は絶望的に従業員が不利な状況です。これを改善しない限り日本ブランドは毀損し続けるでしょう。
このような日本の現状の場合、従業員と経営陣のパワーバランスを是正すれば、社外取締役も機能しやすくなるのではないでしょうか。
例えば、ドイツでは1976 年制定の共同決定法に基づき、従業員 2 千人以上の会社は監査役会を 20 名で構成する必要があり、その内訳を株主代表と従業員代表とで 10 名ずつ、同数とする事が定められているそうで、従業員代表については、当該企業の従業員及び労働組合から選出され、従業員 8 千人超の企業においては間接選挙で、それ以下の企業においては直接選挙で選出されるのが原則だそうです。
日本はイギリスのソフトローを参考にするのもいいのですが、不正チャレンジ精神旺盛な経営者の不正正当化の言葉を色々な第三者委員会報告書で目にすると、規制がマイルドすぎるのではないかと思う今日この頃です。

投稿: たか | 2019年8月 9日 (金) 11時40分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 親子上場問題-親会社が「悪者」にならないために果たすべき説明責任 | トップページ | ゼネコン談合-子会社不正防止だけでは独禁法違反はなくならない »