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2019年9月30日 (月)

関西電力裏金受領事件-やっぱり「お天道様は見ている」

(10月2日 本文の一部を訂正しております)

先週金曜日あたりから大きく報じられております「関西電力の経営トップら20名への裏金受領事件」ですが、29日の朝日新聞系ネットニュースによりますと「本件は告発文書が今年3月頃から出回っており、その告発文書をAERAが独占入手した」とのこと。私は、本件ニュースの初報以降、今回の一連の事件がどこでどうやって報道されるに至ったのか、とても関心がありました。上記記事によりますと、社内から「告発文書」の存在(及び文書自体)が記者に情報提供されているわけですから、告発者(社内とはかぎりませんが)が拡散させたのか、それともこういった「告発文書」の存在を知った社員の方がマスコミに情報提供した、というところが真実ではないでしょうか。

そのあたりの経緯も時間の経過とともに明らかになると思いますが、私はこれまでの報道から、いくつか関電のガバナンスについての意見を述べたいと思います。まずは29日の読売朝刊1面で報じられているように「経営トップらが原子力発電関連の業務において不適切な金品を受領していたこと、そして国税庁の指摘を契機に社内調査委員会を設置したこと、調査の結果を受けて社内処分を行ったこと」が取締役会に報告されていなかった、という事実です(一部の取締役の方の証言もあるようです)。経営者も関与する問題について、外部の弁護士3名を含む6人の調査委員会を設置するにあたり、いくら巨大な組織とはいえ、取締役会で報告もしくは承認がなされないということは通常あり得ません。経営トップの不正行為を調査する社内調査委員会を設置するにあたり、取締役会で審議・検討しない、というのはあまりにも不自然です。

次に、経営トップの金員受領は、(違法かどうかは別として)それが明るみに出るとなると関電の信用を大きく毀損する問題ですから、当事者を含め、本件を知った取締役は会社法357条により「会社に著しい損害を発生させるおそれのある事項」として監査役会への報告義務が生じます(会社法コンメンタール8商事法務 92頁)。監査役会に報告が上がっていたのかどうかは不明ですが、監査役会としては(報告があれば)当然問題にするはずなので、おそらく報告をされていなかったと推測します。たしか関電の社外監査役さんには刑事事件のプロでいらっしゃる方(元高検検事長)がおられたと思いますが、社内調査委員会の設置を検討するよりもまず刑事法のプロでいらっしゃる社外監査役さんに相談するのが筋ではないかと。

さらに、社長さんの記者会見では「違法性はないので公表する必要はないと判断した」と述べておられますが、どのような法律を対象として「違法性」を検討されたのでしょうか。普通に考えますと、会社役員の職務に関連しての金品受領について、会社法967条の「取締役等の贈収賄罪」を対象とした違法性判断ではないかと思われます(新聞等でコメントされている有識者の方々も、会社法967条違反事件を前提として、要件が公務員収賄罪よりも厳格なため、立件はむずかしいと述べておられます)。

ところで、私は刑事事件の専門ではないので確信はありませんが、電力会社の役職員の方の収賄には「経済関係罰則の整備に関する法律」が適用されるのではないでしょうか(たとえば古い判例ではありますが、電力会社の従業員に贈賄した人に対して同法が適用された事例があるようです)。そうなりますと、不正調査の範囲は取締役だけでなく、原子力部門に関わる従業員も対象となり、また「不正な請託」は要件ではないので違法性判断も変わってくるように思います(最新の六法全書にも掲載されている法令なので生きている法律だとは思いますが・・・すいません、間違っておりましたら訂正いたします)。ちなみに関電トップの人たちに金品を供与したとされる元高浜町助役だった方は、資金をねん出した建設会社の顧問だったそうで、当建設会社はこの5年で売上を6倍も伸ばしているそうです。

(追記 10月2日 経済関係罰則の整備に関する法律は現在も存在するのですが、「別表」から電気事業を営む者が削除されておりますので、現在は関西電力のような「一般電気事業者」には適用されないものと解されるようです。よって訂正させていただきます)

なお、他社であれば、違法性の有無で公表の要否を判断してもよいかもしれませんが、関西電力は「たとえ違法性がなくても、その疑いがあれば公表すべき」と考えます。なぜなら原子力部門を持つ特殊な事業者だからです。少しでも「情報開示に後ろ向きである」といった企業の姿勢を国民に見せてはいけない。むしろ「そんなことまで開示するの?」といった姿勢が必要です。

以前、JR西日本で福知山線事故付近におけるATS故障が発生し、これを同社が開示しなかったことで批判を浴びました。2010年10月の当ブログエントリー(JR西日本・脱線現場でのATS作動に関する公表の要否)でも書きましたが、他社ではこの程度の故障まで開示する必要はなくても、重大事故を発生させたがゆえに開示しなければならない・・というのが世間の感覚だったと記憶しています。今回の一連の公表姿勢は、今後の同社の原子力発電所の事業戦略に大きな影を落とす可能性も出てきます。したがって、このたびの金品受領の件については、徹底した調査とその調査結果の開示が求められますし、これを自主的に行うことが重要だと思います(なお、最新のニュースによりますと、関電は社内調査報告書の多くの部分を自主的に開示する予定とのこと。ぜひそうしていただきたい)。

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2019年9月25日 (水)

日産のガバナンスに対する機関投資家の評価は如何に?-深まる社内調査への疑惑

9月24日の日経イブニングスクープでは「物言う株主、日本に攻勢 統治・還元に改善圧力」と題する特集記事が掲載されました。「人財とネットワーク」が企業のもっとも重要な投資対象と言われ、グラスルイス社がガバナンス・データ分析会社と業務提携する中で、日本企業のガバナンスはもはや「無形資産」として評価されるようになったといえます(9月16日、17日のNeo Economyに関する日経新聞記事参照)。

いま話題のウィーワーク社のように、米国企業では種類株式によって経営者は保身を図りますが、日本の上場会社ではほとんど認められておりません。日本企業は世界のアクティビストと丸腰で相対しなければならないわけですから、物言う株主が日本に攻勢をかけるのは当然のことでしょう(議決権行使結果の個別開示や政策保有株式の縮減等、攻勢をかけるべき土壌もほぼ整いつつあります)。

そのような中、9月24日のWSJ(ウォールストリートジャーナル)のニュース「ゴーン氏巡る日産の内部調査、社内弁護士が利益相反を懸念」は新事実満載で、驚くべき内容です(WSJ又は毎日新聞の有料会員のみ閲覧できます)。もちろん海外の機関投資家の方々も、すでに上記記事の内容を把握していると思いますが、この記事内容がある程度の信ぴょう性があるとするならば、日産のガバナンスはかなりヤバい状況です。社内調査に関連する利益相反問題を指摘する内部通報が人事部に滞留しており、通報の名宛人である取締役には届かない状況、とのこと(ホンマかいな💦!?)昨日のエントリーで書いた内容と同じであり、経営トップに恥をかかせないために、部下が「汚れ仕事」を引受けて自身の評価を上げる・・・ということでしょうか(あくまでも私の推測ですが・・・)。まさかとは思いますが、このWSJの記事がウソとも思えません。。。

そもそも、日産と長年の付き合いのある法律事務所が(身内の不正に関わる)社内調査を担当する、ということからみて「中立公正な調査」は期待できません。社内調査の時点で、社内の法律顧問から問題提起を受けたにもかかわらず、どうして強行したのでしょうか。また、当該法律顧問の方によれば、(別の)日米ふたつの法律事務所から「利益相反リスクに関する文書」が日産の取締役宛てに送付されているにもかかわらず、これが名宛人の取締役に届いておらず、さらに当法律顧問が名宛人の取締役に「他の取締役と文書を共有せよ」と要請したにもかかわらず、なんら返答がなかった、とあります(ホ、ホンマかいな😵!?)

もちろん、日本人的な感覚では「そんなに騒ぐほどのことではないでしょう。我々だって利益相反のリスクがあることくらいは社内調査の時点でわかっていましたよ。でも、我々も、そして担当法律事務所も、そういったリスクは承知のうえで、慎重に調査をしたのですから、利益相反関係から生じうる弊害が全くないことを確信しています」ということだと思います。したがって、このWSJの記事に追随する日本のマスコミも出てこないかもしれません。ただ、機関投資家も海外の感覚をもった人たちでしょう。欧米の企業にとって利益相反の解消は、日本企業とは比較にならないほど厳しく要求されるはず。そして、日産のガバナンスに対する評価に大きく影響するはずです。

毎度当ブログをお読みいただいている方々はご承知のとおり、私はゴーン氏の逮捕劇勃発のときから「まず明らかにすべきは日産のガバナンス問題ではないか」と言い続けてきました。日産としては米国SECとの証券詐欺禁止法違反に関する和解が成立して「やれやれ」というところだったと思いますが、このWSJへの内部告発記事のインパクトは大きい。日産は、10月末までに次のCEOを選任しなければならないわけですが、もはや社内からの昇格者ではもたないのではないでしょうか。もし日産のガバナンスという「無形資産」に大きな価値があるとするならば、まずはこのWSJの記事(法律顧問の内部告発)について真摯に説明すべきと考えますが、いかがでしょうか。

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2019年9月24日 (火)

東電事故刑事無罪判決-内部統制構築の虚しさを感じました。

9月19日、東京電力の福島原発事故の刑事責任を問う裁判(東京地裁)で、元経営陣3人に対する無罪判決が出されました。いわゆる「指定弁護士」が検察官役となって訴追する強制起訴事件ですね。東電の経営陣が津波襲来を予想して安全対策をとっていれば、福島第一原発事故を防ぐことができ、双葉病院の患者ら44名が(避難活動によって)死亡する事態には至らなかった、というのが業務上過失致死傷被疑事実の要旨です。

被害者、ご遺族の方々にとっては到底納得できない判決だと思いますが、経営者に有罪判決が出たパロマ工業事件、無罪判決が出たJR西日本脱線事故などの判決に至る論理過程をみておりますと、「予見可能性」「結果回避可能性」を立証するにあたり「経営者の刑事責任を問うハードルは高いなぁ」と感じており、今回の強制起訴事件でも同様の印象を持ちます。なお、このように新聞等で大きく報じられた下級審判決は、もうすぐ最高裁のHPで紹介されますので、またぜひ判決全文を読みたいところです。

現時点で、この東京地裁判決を(裁判の経過も含めて)詳しく知ることができるのはNHKニュースWEB「詳報 東電刑事裁判『原発事故の真相は』」ではないかと思います。判決文が公開されていない現時点で、この裁判の内容を把握したい方にはご一読をお勧めいたします。私は、判決を紹介する20日の日経朝刊記事を読み「なぜ、経営陣(東電の取締役)に情報収集義務が認められないのか?政府機関の長期評価で15メートル以上の津波が襲来する可能性があると指摘されており、当該指摘を経営陣が知った時点からは情報収集義務が発生するのではないのか?そのための内部統制構築義務違反が認められるのではないのか?」との疑問を抱いておりました。

そして上記NHKの詳報を読んだところ、たしかに指定弁護士側は、そのような主張を展開していたようです。経営陣に当時の原子力部門の責任者が政府機関による評価結果を伝えていたそうです(メールも残っています)。このあたりの供述調書は、強制起訴事件になって初めて明らかになったので、やはり強制起訴制度には一定の意義がありますね。しかしながら、裁判所は「経営者が直ちに動かねばならないほどの問題として伝わっていたわけではない、長期評価の信用性を学会に問い合わせるために(安全性に関する)判断を保留にしていたことは、安全対策を後回しにしていたというものではない」として(事故の予見可能性を根拠付ける)経営者の情報収集義務はないと評価しています。

同様の情報を責任者から聞き、経営者がすぐに安全対策に乗り出して事故を回避できた電源開発と比較した場合、1200名の従業員の電源開発とは比べ物にならないほど東電の組織は巨大であるため、組織にとっての不都合な事実が経営者に届くことは至難の業だと思います。だからこそ「情報と伝達」に関する内部統制システムをきちんと構築しなければなりません。平成20年当時といえば、東電はおそらく日本一素晴らしい内部統制システムを整備していたはずです。

しかしながら、①経営幹部としては、トップには不都合な情報を伝えたくない、②かといって第三者に伝えると、誰が伝えたかわかってしまって人事評価に響く、③たとえ有事であっても「有事ではない」とトップに伝えて、自部署で解決することがトップからの評価につながる、④(これは前にも書きましたが)仮に有事と伝えても、トップとの議論の中で「有事ではない」と修正させられてしまう、⑤議論することがトップにとって面倒であれば「監査役のお墨付き」「都合の良い外部有識者のお墨付き」で修正させられてしまう、というのが「タテ組織、タテ社会の掟」です。そもそも「情報収集義務」は経営トップが有事であることを認識しうるような情報が伝達された時点で発生するわけですが、このようにトップには(巧妙に)有事とは判断しかねる情報としてのみ伝わるシステムになっているように思います。経営トップの「知らぬが仏」を防ぐための内部統制システムであるにもかかわらず、その内部統制が機能しない知恵がタテ社会の組織では垣間見えます。

勇気ある東電の元経営幹部数名の供述調書および公判における証言の存在が強制起訴事件で明らかになりました。しかし、そこで判明するのは、経営者に責任が及ばないための組織としての知恵(また、そのようにふるまうことで経営者から評価を受ける経営幹部の知恵)であり、やはり経営者の法的な責任(民事も含めて)を追及することの難しさを認識いたしました。

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2019年9月17日 (火)

人の仕事に「おかしい」「やめとけ」と警告することはむずかしい-ゆうちょ銀行不適切販売問題

産経新聞9月14日の朝刊に「不適切投信 『規定指導不足』 高齢者23万5000人調査へ」との見出しで、ゆうちょ銀行と日本郵便の社内調査の結果が報じられています。日本郵政グループでの不適切販売といえば「かんぽ生命問題」が大きく報じられましたが、こちらの高齢者向けの不適切な投資信託の販売問題もかなりマズいです。かんぽ生命の件は第三者委員会による調査が行われましたが、こちらは社内調査で終わるのでしょうか。本件は16日になって朝日新聞ニュースでも取り上げており、社内調査報告書だけでは済まないような気もしてきました。

70歳以上の高齢者に投信を販売する場合、社内ルールでは「勧誘前確認」と「契約前確認」が行われることになっていますが、この「勧誘前確認」は販売担当者とは別の管理者が行うことになっています。しかし、実際には多くのケースで「勧誘前確認」が行われていなかった、とのこと。ゆうちょ銀行の担当者は「ノルマのプレッシャーが原因ではない」としたうえで(勧誘前確認作業という)「社員が手間をかけなくない」と安易に考えており、社員の認識不足が原因だったと説明しています。これに対して前記朝日新聞は、社内関係者の話から「(販売ノルマに起因した)プレッシャーが原因」で確認する側も営業実績ほしさに黙認していたのではないか、と推測しています。

おそらく社内調査の結果から判明すると思いますが、ゆうちょ銀行としては「勧誘前確認」と「契約前確認」によって、担当者による勧誘や契約のどの程度の割合において販売業務が止まったのかを明らかにすれば良いと思います。たしかに一定割合が「勧誘前確認」で止まっているのであれば、ゆうちょ銀行が説明しているとおり「ルールの趣旨を認識していない管理者が存在していた」との理由は真実に近いと思います。

しかし、ほとんど業務が止まっていなかった(勧誘前確認によって問題案件の契約が事前に阻止されてなかった)のであれば、そもそも「勧誘前確認」など形骸化していた、と言わざるを得ません。ただ、認知症が重篤な疾患がなかったかどうかを調査するのが確認作業の趣旨だそうですが、別の担当者が熱心に勧誘をしたいと思っているところで、「ちょっとおかしいから、勧誘は控えるように」と、業務にストップをかけることはむずかしい。「たとえ営業成績が悪くなったとしても、高齢者に迷惑をかける契約はしてはならない」といった組織風土が明確にならないかぎり、契約前にストップをかけることは困難ではないかと。

ということで、本件は不適切な投信販売を事前に防止するための内部統制システムが有効に機能していなかったことが原因ではないかと思います。そして、実際に契約を勧誘する現場担当者は、このシステムによって「勧誘にお墨付きをもらった」として堂々とノルマ達成に向けて営業ができるわけですから、機能していなかったが、現場の不適切勧誘を助長することになるので、かなりマズいシステムだといえそうです。

しかし、実際に多くのケースで勧誘前確認がなされていなかったとなりますと「なぜ日常の内部監査では(勧誘前確認がなされていないことを)見つけることができなかったのか」という重大な問題が残ります。たしか金融機関の内部監査部門というのは、金融庁からの強い要望もあって「日本企業の中で最も優れた内部監査機能」をお持ちのはず。これこそゆうちょ銀行が再発防止のために徹底的に検証しなければならないはずであり、当該調査には利益相反的な要素が含まれている以上、第三者による徹底的な調査が必要になるものと考えます。

 

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2019年9月12日 (木)

日産CEO辞任事例は「ガバナンスが機能した」といえるのだろうか?

先週金曜日のエントリーでご紹介したグレッグ・ケリー氏のインタビュー記事(文藝春秋7月号)が、現在文春オンラインで全文閲覧可能になっています(ご興味のある方はぜひご覧ください)。先週金曜日の時点では「社内処分で済むのだろうか」と問題を提起しておりましたが、ご承知のとおり9日の取締役会で日産CEOの方は辞任を決意されたそうです(ただし取締役としては残るそうです)。

10日以降の世間の評価では「日産のガバナンスが機能した」とされています。もちろん、私も先週金曜日のエントリーでは「監査委員会が機能したのではないか」と評しましたが、その後の一連の報道をみておりまして、本当にガバナンスが機能した事例と言えるのかどうか、若干疑問が生じてきました。おそらくお気づきの方もおられるとは思いますが、記事の詳細部分があまり話題に上らないので、あえてひとこと書かせていただきます。

というのも、9月6日のブルームバーグ記事によりますと、一連の社内調査を主導した方は、コンプライアンス担当の女性理事の方で、この9月10日に退社予定だそうです。社内調査では、副社長や司法取引に関与した幹部も不正に報酬を得ていたことも、併せて報告されたそうです。日経の記事にも女性幹部の方が社内調査を主導したとありました(どのような理由で退社されるのかは不明です)。そして、9日の取締役会では、(社内調査の報告が終わり、CEOが退席した後)社内のCOOの方が「即刻辞任しないと日産はもたないと思う」と口火を切ったかのように報じられています。しかし、朝日新聞の9月11日朝刊の記事では、当該COOの方が口火を切る前に、日産の女性社外取締役が最初に「即刻退任」を提案し、これに外国人取締役らが賛意を表明した、その後COOが・・・と経緯が示されています。

つまり女性理事の社内調査が報告され(ひょっとすると「職を賭して」?)、女性社外取締役や外国人社外取締役が動かなければ(少なくとも)9日のCEO辞任劇はなかったと思われます。つまり、7名の社外取締役が「CEO即時退任」に動いたようなイメージではなく、あくまでも動いたのは女性理事や女性・外国人社外取締役であり、いわばダイバーシティが機能した、といったほうが正確ではないでしょうか。もちろん「ダイバーシティ」もガバナンスの重要論点のひとつではありますが、「社外取締役が機能した」=ガバナンスが機能した、と評されるのも少しおかしいように思います。

このたびのCEOの事実上の解任については、ガバナンスが機能した事例として他社にも参考になれば、と思いましたが、結局のところ女性や外国人の社外取締役がおられて、コンプライアンス担当理事も外国人女性、また即時退任に賛意を表明したのも親会社からきている取締役構成の中で、しかも支配会社が存在する中で、たまたまCEO退任がまとまった事例と評価できます。

このような事情からみますと、今回の辞任劇は日産の置かれた状況、役員構成などが揃ったからこそ可能だったわけで、私自身は「他山の石」にできるような事例ではないように感じました。むしろ機関投資家の方々から、今後はますます「ボードには女性や外国人の社外取締役を1名以上選任せよ」「いや、ボードだけでは足りない、女性幹部職員を早急に育成せよ」といった声が高まることになるのではないかと。

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2019年9月10日 (火)

財務報告に係る内部統制報告制度(J-SOX)の有効活用に関する提言

9月6日、金融庁HPにて「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂(公開草案)」が公表されました。財務諸表監査における監査報告書の記載区分等が改訂されたことに伴い、原則として合わせて記載するものとされている内部統制監査報告書についても改訂する必要がある、ということからの改訂だそうです。

しかし、近年の一連の監査改革は、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させる必要性から進展しているのですから、財務報告に関する内部統制報告制度も(直接「監査」に関わるものとは言えませんが)同様の趣旨から見直しが図られるべき時期に来ていると思います。

近年、会計不正事件が発覚した場合、有価証券報告書が訂正される事件は多いのですが、その際に、内部統制報告についても訂正報告書を提出する会社と提出しない会社(訂正しない会社)が見受けられます。「なぜ内部統制報告書を訂正したのか」「なぜ訂正しないのか」という点が、会社側からの説明がないのでまったく財務諸表利用者からは財務報告の信頼性について理解できません。 

たとえば「なぜ訂正しないのか」・・・重大な会計不正事件が発覚した後、有価証券報告書の訂正には応じているのに、なぜ内部統制の評価は訂正しないのか、まずその理由は説明すべきです。たとえ不正が発覚しても「財務報告内部統制に関する経営者評価は有効である」(内部統制を無視・無効化した不正事件だった、評価対象範囲外で不正が起きた)という理屈はありえますので、そうであればその旨をわかりやすく経営者は示すべきです。訂正報告書は監査対象ではないから(訂正はしない)というだけでは財務諸表利用者からみれば「なんのこっちゃ?」となるのでは?

「なぜ訂正したのか」・・・もともと有効と言いながら、不正発覚を機に訂正したわけですから、なぜ開示すべき重要な不備があったのに、そもそも「不備はない」として有効と評価したのか、監査人も(ダイレクトレポーティングではありませんが)、なぜ内部統制は有効ではなかったのに、有効とした経営者評価にお墨付きを付与(適正意見)したのか、説明が必要です。会計不正が発覚したとしても、うえで述べたように別段、内部統制は有効と評価結果を維持することも理屈としては正しいからです。にもかかわらず「訂正報告書を出す」判断に達したのであれば、「内部統制報告書の虚偽記載」が疑われる事態なのに、ではどうして虚偽記載にならないのか、会社側、会計監査人側が説明するのが本義ではないでしょうか。

そもそも内部統制報告制度には刑事罰や課徴金制度が存在するにもかかわらず、この10年以上全く発動されていません。発動することまで必要ないのであれば、せめて財務諸表利用者に説明責任を果たすことくらいは必要ではないでしょうか。内部統制報告制度の効率性だけでなく、その有効性についても検証すべきと思いますが、いかがでしょうか。

最後に、まったく話は変わりますが、日経9月9日夜に電子版に掲載された「四面楚歌の西川・日産社長 報酬上乗せで」はとても興味深い記事ですね。この報道内容、もっと深堀りされることを期待しております。9時40分頃からの日産記者会見をすべて視聴しましたが、SARの有報開示の問題点や文藝春秋におけるケリー氏の証言(自宅購入費の会社負担を西川氏はケリー氏に迫ったのか)について記者さんからツッコミが欲しかったと思いました。(おや!?上記日経の電子版記事の見出しが10日深夜に削除されてますね。なんぞある!?)

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2019年9月 6日 (金)

日産現社長の報酬上乗せ問題(私的に重要と考える)3つのポイント

昨日深夜に朝日新聞ニュースが第一報を報じた後、各メディアも報じている「日産現社長さんの報酬上乗せ問題」ですが、日経ニュースが「3つのポイント」として、①報酬の内容(株価連動型インセンティブ受領権、いわゆるSAR)、②日産のガバナンス不全、③指導力への高まる不信感ということで問題を整理しています。私としては、まず6月の株主総会で日産は指名委員会等設置会社になり、5名中4名が社外取締役で構成されている監査委員会が主導した社内調査については敬意を表したいと思います。

いままでなら、たとえ文藝春秋2019年7月号にケリー氏の証言が掲載されたとしても、おそらく沈黙(無視?)してやりすごしていたのではないでしょうか。ゴーン前会長に対する社内調査、司法取引の経過、その後の捜査協力という経緯からみて、日産の現幹部に対して「検察は厳しい姿勢で向き合うことはない」と確信し、ともかく不都合な事実については沈黙を保っていればなんとかなりそうな気もします。しかし、文藝春秋の記事に反応して、監査委員会が「空気を読まずに」社内調査で現社長の不適切な報酬上乗せ問題を明らかにした点は、日産のガバナンスの実効性が高まったことを示しているように思いました(今後、調査報告内容の説明義務を果たすか・・・という点にも注目すべきかもしれませんが、そこまで期待するのはむずかしいかもしれませんね)。

ところで上記文藝春秋のグレッグ・ケリー氏のインタビュー記事を全て読み、今朝の現社長さんの弁明を聞き、以下は中立・公平な気持ちでこの「報酬上乗せ問題」のポイントを挙げるとすれば以下の3点ではないかと思います(ちなみに9月5日夜にアップされた文春オンライン記事で文藝春秋7月号のインタビュー記事の一部が紹介されています)。

まず、日産は取締役会を開いて「内規違反」による社内処分を検討するかもしれない、と報じられていますが、ホントにそれで済む話でしょうか。会社法違反、金商法違反として「違法行為」と認定される可能性があるのではないかと。「事務局にまかせていたので、決してSARの権利行使日を自ら移動させたつもりはない」(現社長)とのことですが、現社長が自ら行使日を1週間移動させる動機となる事実が克明に文藝春秋には記載されています(上記文春オンライン記事でも紹介されています)。また、2012年度から2014年度までの日産の有価証券報告書を読みますと、現社長の報酬に含まれる「株価連動型インセンティブ受領権」の公正価額は毎年1400万円~1500万円とされており、これが会計上の見積り金額だとしても、実際に4700万円ほど上積みされた利益額1億5000万円とは大きくかけ離れています。ちょっと冷静に考えてみますと、「(現社長が事務局に指示した、というのは)ケリー氏のデタラメ、虚言にすぎない」と断定することはできないように思います。

もし現社長さんがおっしゃるように「事務局のミスだった。他の取締役にも同じようなことが起きている」のであれば、おそらく「もらえるのに、ミスでもらえなかった」こともミスとして起きているはずで、これを証明してみせれば良いと思います。にもかかわらず、現社長さんや他の取締役さんの報酬額決定過程で発生しているミスが、すべて「もらいすぎ」の事例だとすると、うーーーん、ホントにミス?といったことになるのでは?

つぎに、今回の事例がゴーン氏やケリー氏の刑事裁判に及ぼす影響です。両氏がこれまで起訴事実を完全に否認している以上、日産関係者は公判維持のために今後も検察に全面的に協力する必要があるでしょう。おそらく刑事弁護人は、「司法取引」の脆弱性を突くことに力点を置いた戦略を検討していると思いますが、有罪立証のキメテとなるべき証拠価値判断として、果たして日産関係者の証言の信用性に、裁判官は何らの疑問を持たないでしょうか。会計評論家の細野祐二氏は、ご著書「会計と犯罪」の中で「ゴーン事件で無罪を勝ち取れるかどうかは(証拠が拮抗している場合)国民世論に依拠するところが大きい」と述べておられますが(同書273頁)、私も「証人供述の信用性」を裁判官が検討するにあたり、やはり国民世論の流れは無視できないと思います。そのような意味で、大手メディアがこの「報酬上乗せ問題」をどのように報じるのか、マスコミの動向にも注目したいところです。

そして最後に(これは日経の上記記事の整理とも近いのですが)現社長の求心力の低下がルノーとの関係に与える影響です。いろいろな社内紛争事案に関わった経験からみますと、紛争が顕在化すればするほど、どちらかの勢力が有力な外部勢力と接近して社内の有利な地位を築こうとします(これは人間のサガとして、やむをえないところかと)。これを外部勢力が使わない手はありません。いくら政治的な力学が働いたとしても、これはなかなか止められない。9月4日に開かれた監査委員会の様子がすぐに朝日新聞の記者に伝わるところをみても、現社長の求心力が低下するまでもなく「一枚岩」であることに不安が生じているようにも思われます。「報酬上乗せ問題」が契機となって、このあたりの社内力学にどのような影を落とすのか(それとも前以上に一枚岩になりうるのか)がポイントになると考えます。

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2019年9月 5日 (木)

統計改革と不適切統計問題(西村委員長の基調講演)-ACFEカンファレンス2019

日産前会長の事件に関連して、またまた朝日新聞が「社長案件」に関する第一報を報じましたね。4日の日産監査委員会の審議内容を朝日記者がどうして知っているのでしょうか(ナゾです。。。)

さて、開催まであと1か月となりましたACFE年次カンファレンスの告知でございます。今年は記念すべき第10回目のカンファレンスですが、毎年少しずつ内容が格式の高いものになっているように感じるのは私だけでしょうか。私が登壇していた頃は、もうすこしハチャメチャで「ゆるい」企画が存在したような気もします(笑)。そういえば私が緊急入院で「穴」をあけたこともありました(その節は関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけしました。<(_ _)>)それにしてもずいぶんとレベルが高くなりましたね。

今年は、ACFE本部の会長Bruce Dorris氏による来日講演(その後、藤沼JAPAN会長との対談)、日弁連第三者委員会ガイドライン策定10年を踏まえた国廣弁護士、竹内弁護士、そして八田先生による鼎談(国廣弁護士による講演「第三者委員会の実態と課題」もあります)、企業実務家の皆様による「内部監査は不正の兆候を発見できるか」(シンポ)など、不正調査に関心のある方にはおススメのプログラムに仕上がっています。さらに朝日新聞編集委員の奥山俊宏氏によるランチセッション「組織の風土から見た福島第一原発『失敗の本質』― 事故9年で分かってきたこと」も開催されます。ACFE JAPANは、2019年次カンファレンスのHPを作成しておりますので、詳しくはこちらをご覧ください。

そして個人的に「カンファレンスの質が高まっている」と感じるのが総務省統計委員会委員長の西村淸彦氏をお招きしての「統計改革と不適切統計問題」に関する基調講演です。ご承知のとおり、毎月勤労統計の不正調査を指示して、統計不正問題が発覚するきっかけを作った方です。これは興味深い基調講演であり、スゴい企画だと感心いたします(私はすでに理事を退任しましたので経緯は存じ上げませんが、理事の皆様は、よく西村委員長を招聘できましたね)。ここ数年、カンファレンスは「満員御礼」の盛況ぶりが続いておりますが、今年も満員(申込停止)になることが予想されます。まだ現時点では申込を受け付けていますので、(上記リンク先のHPから)ぜひとも10月4日(金)のカンファレンスにお申込みいただきますようお願いいたします。

 

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2019年9月 4日 (水)

新たなM&A指針-監査役に社外取締役の職務を監査する気概はあるか?

6月28日に経産省から「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表されましたが、その特集論稿「M&Aに関する新たな規律」が掲載されたジュリスト9月号を拝読いたしました。先日、支配株主による従属会社の買収案件の第三者委員会委員を務めたこともあり、新たなM&A指針の草案については通読しておりましたが、指針作成に関わられた先生方のジュリスト論稿を拝読して、2007年に公表されたMBO指針とはかなり内容が異なることに今更ながら驚きました(といいますか、もっと早く気付くべきだったかと・・・)。

本指針は、構造的な利益相反と情報の非対称性の問題が存在するM&A取引に関して、目標となる原則(実務上の対応)を示したものですが、なかでも公正性を担保するための特別委員会の役割が詳細に示されています。特別委員会は、M&A取引における公正価値算定を中立・公正な立場から関与するのではなく、「一般株主の利益代弁者」として前面に出ることが望ましいとされ、前面に出る結果として「取引条件の形成過程において独立当事者間取引と同視しうる状況が確保される」とのこと。なるほど、それゆえに特別委員会のメンバーとしては(外部有識者ではなく、株主に対して法的な責任を負う)社外取締役が望ましい・・・とされています。また、こういった特別委員会委員の活動は、一般株主に詳細に開示されることも要請されています。

次の会社法改正では、社外取締役への業務委託に関する規定も盛り込まれる予定ですが、こういった指針を読むと、社外取締役の職務は結構むずかしくなりそうですね。ということで、以下は私の素朴なコメントであります。

まずなんといっても、タイトルにあるように、監査役(会)は社外取締役が善管注意義務を尽くしているかどうか、今後はしっかりと監視・検証する必要があります。これまであまり「監査役と社外取締役」との関係は議論されてこなかったと思いますが、会社の重要な局面で社外取締役が前面に出ることが想定(期待)されるとなれば、監査役は社外取締役の職務執行の適法性をきちんと判断し、その結果を株主に監査報告によって説明する必要性が高くなるはずです。社外取締役は会社の手続きが適正かどうかをサラっと眺めるだけでは不十分であり、M&Aの必要性と相当性を(株価算定評価書やフェアネス・オピニオンを参照にしながら)一般株主の利益保護のために自主的に判断しなければなりません。監査役は、その判断過程を監視・検証するのですから、監査役の役割も重大です。今後はその気概を監査役(会)がきちんと持たねばならないと思います。

つぎに、特別委員会が一般株主の代弁者として支配株主らと必死で交渉して、その結果として「独立当事者取引と同視しうる状況が確保される」のであれば、特別委員会も独自の法務アドバイザーを確保する必要が出てくるのではないでしょうか。もちろん、こういった有事には構造的な利益相反関係が生じる会社自身にも(中立・公正な)法務アドバイザーが就任するわけですが、社内取締役へのアドバイスと社外取締役へのアドバイスを同一のアドバイザーが行うことで、一般株主からは「自分たちの利益を(特別委員会は)最優先に検討してくれた」と判断してもらえるでしょうか。ちなみに私が当事者(委員長)だったニッセンHDの第三者委員会(支配株主のセブン&アイによる完全子会社化手続き)は、このあたりに十分配慮して第三者委員会独自の法務アドバイザーをニッセンのアドバイザーとは別に選任いたしました。

そして最後に、本指針は「部分買付け」のような場面でも、一定程度参考にされることが期待される点です。支配株主による第三者割当増資の引き受け、支配株主に準じた大株主による買収などにも本指針が適用されることになると思われますし、現金買収と株式買収も同等に扱う、とのことですから、次の会社法改正による「株式交付制度」(自己株による部分買付け)などにも指針が適用されることになろうかと。そうなりますと、上場会社のかなり多くの社外取締役の方々にとって、本指針に示された特別委員会委員の職務を理解しておく必要がありそうです。価格決定申立て事件等の裁判では、従前のMBO指針も参照されていましたので、このM&A指針についても、裁判規範に準じるものとして検討しておきたいと思います。

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2019年9月 2日 (月)

リクナビ問題が明らかにした「法令遵守」と「コンプライアンス」の違い

リクナビ内定辞退予測の問題が浮上してちょうど1カ月が経過しました。この1カ月のリクナビ問題をみておりまして、様々な企業コンプライアンス上の論点が指摘できますが、これからの日本企業の国際競争力を語る上でどうしても指摘しておかねばならないのが、本件問題が「法令遵守」と「コンプライアンス」の違いを浮き彫りにしたことだと思います。

読売新聞8月27日朝刊社会面に「学生に配慮欠けた」と題するリクルートキャリア社の社長会見記事が掲載されていましたが、そこでは「問題の本質は①学生視点の欠如と②ガバナンスの不全」が指摘されていました。私はその記事を読んで「ガバナンスの不全とは組織のどこに問題があったのだろうか?」と疑問を持ちました。そして、同じ日の朝日新聞朝刊「情報軽く扱ったのでは?保護委、リクナビ側を批判」では、同社内部統制担当役員の話として「同意の有無にかかわらず、やるべきではなかったが、研究開発的な商品だったため、学生の視点やリスクについて複数の目でのチェックが不十分なままスタートしてしまった」とあったので、なるほど「複数の目によるチェックが効いていなかった」ことがガバナンス不全との言葉で語られていたのだと理解しました。

ところでこの内部統制担当役員の方の話の中で、一番関心を持ったのが「そもそも同意があったとしてもやるべきではなかった」と述べている点です。この問題が個人情報保護委員会に指摘され、マスコミでも騒がれ始めた頃は「同意を得ていたので問題はない」「一部同意を得ていないことが判明したので、対応を検討したい」ということで、内定辞退予測サービスが「法令違反」にあたるかどうかに企業の関心があったと思います。ちなみに私が当ブログで本件を取り上げた8月7日のエントリーでも、私自身、「法令違反に該当するかどうか、という意味で灰色」と述べていました。

しかしながら、社会の批判が次第に高まるなかで、「そもそも同意があったとしても問題ではないか」との声が上がり、会見での担当役員の方のお話になったのではないでしょうか。9月1日の産経新聞ニュースでも、情報法に詳しい大学の先生も「丁寧に利用目的を書いて同意を得られたからといって内定辞退率予測ということをしてもいいのかという問題だ。就職や結婚など、重要な自己決定の場で、AIなどで情報を分析することが許されるのか」と指摘しておられます。5年ほど前に、JR西日本の協力を得て情報通信研究機構が顔認証システムの試験を実施しようとしたところ、社会的に大きな批判を浴びて弁護士5名による第三者委員会を設置しましたが、その報告書の結論は「個人情報保護法に違反するシステムではない」というものでした。そこでは「法令遵守」に関心が集まりましたが、社会的な納得はそれだけでは得られなかったものと思われます。

第4次産業革命が進み、日本企業がIoTやAIの開発で世界と闘う中、国内法違反を回避するだけでは技術開発で遅れをとってしまう、ということです。企業倫理や国際人権、海外の競争法執行政策など、「法的にグレーだけれど、競争に負けないように突っ込まないといけない」場面において、グレーをシロに変えることができるのか、それともクロと断定されて国際競争上のハンデを背負うことになるのか、これがまさに現時点における企業コンプライアンスを考える視点です。リクナビ問題は独禁法上の「優越的地位の濫用」に該当する、といった解釈まで登場しました。もはや「コンプライアンス」を守りの意識だけでは認識しえない経営環境になってきたことを、リクナビ問題は如実に示しています。

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