日産CEO辞任事例は「ガバナンスが機能した」といえるのだろうか?
先週金曜日のエントリーでご紹介したグレッグ・ケリー氏のインタビュー記事(文藝春秋7月号)が、現在文春オンラインで全文閲覧可能になっています(ご興味のある方はぜひご覧ください)。先週金曜日の時点では「社内処分で済むのだろうか」と問題を提起しておりましたが、ご承知のとおり9日の取締役会で日産CEOの方は辞任を決意されたそうです(ただし取締役としては残るそうです)。
10日以降の世間の評価では「日産のガバナンスが機能した」とされています。もちろん、私も先週金曜日のエントリーでは「監査委員会が機能したのではないか」と評しましたが、その後の一連の報道をみておりまして、本当にガバナンスが機能した事例と言えるのかどうか、若干疑問が生じてきました。おそらくお気づきの方もおられるとは思いますが、記事の詳細部分があまり話題に上らないので、あえてひとこと書かせていただきます。
というのも、9月6日のブルームバーグ記事によりますと、一連の社内調査を主導した方は、コンプライアンス担当の女性理事の方で、この9月10日に退社予定だそうです。社内調査では、副社長や司法取引に関与した幹部も不正に報酬を得ていたことも、併せて報告されたそうです。日経の記事にも女性幹部の方が社内調査を主導したとありました(どのような理由で退社されるのかは不明です)。そして、9日の取締役会では、(社内調査の報告が終わり、CEOが退席した後)社内のCOOの方が「即刻辞任しないと日産はもたないと思う」と口火を切ったかのように報じられています。しかし、朝日新聞の9月11日朝刊の記事では、当該COOの方が口火を切る前に、日産の女性社外取締役が最初に「即刻退任」を提案し、これに外国人取締役らが賛意を表明した、その後COOが・・・と経緯が示されています。
つまり女性理事の社内調査が報告され(ひょっとすると「職を賭して」?)、女性社外取締役や外国人社外取締役が動かなければ(少なくとも)9日のCEO辞任劇はなかったと思われます。つまり、7名の社外取締役が「CEO即時退任」に動いたようなイメージではなく、あくまでも動いたのは女性理事や女性・外国人社外取締役であり、いわばダイバーシティが機能した、といったほうが正確ではないでしょうか。もちろん「ダイバーシティ」もガバナンスの重要論点のひとつではありますが、「社外取締役が機能した」=ガバナンスが機能した、と評されるのも少しおかしいように思います。
このたびのCEOの事実上の解任については、ガバナンスが機能した事例として他社にも参考になれば、と思いましたが、結局のところ女性や外国人の社外取締役がおられて、コンプライアンス担当理事も外国人女性、また即時退任に賛意を表明したのも親会社からきている取締役構成の中で、しかも支配会社が存在する中で、たまたまCEO退任がまとまった事例と評価できます。
このような事情からみますと、今回の辞任劇は日産の置かれた状況、役員構成などが揃ったからこそ可能だったわけで、私自身は「他山の石」にできるような事例ではないように感じました。むしろ機関投資家の方々から、今後はますます「ボードには女性や外国人の社外取締役を1名以上選任せよ」「いや、ボードだけでは足りない、女性幹部職員を早急に育成せよ」といった声が高まることになるのではないかと。
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コメント
大英帝国(旧い例えで恐縮)では、モータースポーツでワールドチャンピオンに輝いた人物には「サー」の称号が与えられていますが、海外はおろか、国内でチャンピオン級の結果を残していない「レーサー」という肩書きの某女性が、本件の例の委員会に名を連ねているのが不思議です。
確かに、女性の地位向上における役員選出や経営層に参画をする事は大切だし賛同したいものの、一般紙等ではその某女性の功績が見えにくいと思うのは私だけでしょうか?
僭越ながら、頭数だけ揃えれば良い・・・それだけで上場企業が成立し、その数値がその国のGDPの一部を形成していてそれで世の中/世界が安泰なら、誰も苦労はしない・・・と感じている昨今です・・・。
投稿: にこらうす | 2019年9月12日 (木) 08時02分
「10日以降の世間の評価では『日産のガバナンスが機能した』とされています。もちろん、私も先週金曜日のエントリーでは『監査委員会が機能したのではないか』と評しましたが」とお書きですが、私の感覚とネットの書き込み等を見た感じでは、日産に好意的な意見は少なかったと感じております。
今回の件でもう一度文藝春秋のインタビュー記事を見直しましたが、ケリー氏の話しは整合性が取れていて信用できると再認識しました。特にSARの行使日を不正に変更して西川氏が4700万円の報酬を上積みした件は、住宅購入に関わる費用を日産が一旦肩代わりするように要請し、無理だと分かるとSARの行使日を変えて多額の報酬を得て、住宅を購入した流れとも合致しています。
記事ではケリー氏は人事担当と話しており、行使日の変更は秘書室が担当していたとも言っています。
ところが今回の西川氏の退任劇では、西川氏は不正には関与していないと認定しています。そして不正はケリー氏を責任者とした秘書室がやったことだと決めつけていますが、具体的にどんな調査をして、誰がどんな動機で不正したかは全く不明です。西川氏が知らなかったとはとても思えないのですが、疑念を払拭するような事実も語られていません。
併せてゴーン氏の不正額は350億円だと発表し、4700万円は些少な不正と言うような誘導をしようとの意図が感じられますが、4700万円の不正は十分多額であり、ガバナンスの観点で言えば、自主的に退任してもらえば済む問題ではないと思います。加えてゴーン氏の不正額の内容も具体的ではなく、本人も不正は認めていないこと、既に司直に委ねられていることを考えれば、西川氏本人も受け取ったことを認めているSARの不正を解明して、必要に応じて処分することが企業に透明性を高めるために重要だと思いますが、今回も臭いものに蓋をするような対応だと感じました。
ただ海外のコンプライアンス担当の女性理事が掘り起こしたことは良かったと感じますし、ダイバーシティが機能したとの観点は良く分かりました。残念ながらその理事は近く退任するようですが、退任後に何か具体的な情報が出ないか期待しています。
投稿: Pora | 2019年9月12日 (木) 10時55分