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2019年10月18日 (金)

監査役等の職務環境は「見える化」しなければ向上しない

先日(10月11日)、日本監査役協会のHPに「監査役(会)の視点から見たコーポレートガバナンス改革」なる提言書がリリースされましたので、さっそく拝読いたしました。関西支部の監査実務研究会が作成されたもので、「企業統治改革が進む中で、取締役会の在り方ばかりが注目されているが、いまこそ監査役(会)の在り方を考える」という内容です。

そういえば旬刊商事法務の8月5日・15日合併号座談会記事にて、グループガバナンス実務指針を策定したCGS研究会のメンバーの方(某社副社長CFO)が「このままだと日本の監査役制度は消滅してしまうのではないか、とさえ思う」と発言されていました。まさに問題意識はかなりの方々で共有されているところですから、上記監査役協会の提言はタイムリーなものと言えます。

いまこそ監査役(取締役監査等委員も含む)の固有の機能をガバナンスの視点から見直すべき、という点は私も同感です。ただ、会社法を改正したり、行動指針を改めたりしても、監査役の現状はなかなか変わりません。結局のところ、次の監査役候補者は現社長が決めるのであり、これは平成18年以来、監査役等の地位向上を願って、いろいろと検討してきた私の持論です。一歩譲ったとしても、監査役人事に関する社内慣行があり、監査役にふさわしいかどうかは別として、当該役員人事の慣行によって決まることが多いようです。今後監査役制度が変わるとすれば、それは①機関投資家の力を借りることができた場合、もしくは②「働き方改革」の断行により、日本企業に職務給制度の労務慣行が根付く場合だと思います。さすがに②はすぐには無理なので、とりあえず本日は①について述べたいと思います。

ちなみに、私は2013年12月のこちらのエントリーで「監査役の平均任期は開示すべきである」と提言しましたが、なかなか実現には至っておりません。しかし2013年と現在とでは監査役等をとりまく経営環境が変わりました。まず機関投資家が無形資産への関心を高めていることです。とりわけオープンイノベーションやシェアオフィスの時代に、人材とネットワークに対する(投資家の)価値評価が求められています。まさに組織力が測定可能な価値とされる時代です。

つぎにCSRやESG経営への関心が高まっていることです。先日、TCFD第1回サミットが開催されましたが、環境経営には戦略の面とリスク管理の面があり、監査役制度がリスク管理の側面から気候関連財務情報に寄与できることが理解できます。そして最後にスチュワードシップ・コードの影響のもと、中長期における企業価値向上に向けた機関投資家の高い関心です。監査や法務、財務活動の能力の高さは「資本コスト」に跳ね返ることになります。

ということで、私は監査役等の監査環境を向上させるためには機関投資家の力添えがどうしても必要であり、「監査の見える化」しか方法はないと思います(自力で環境を変えることは残念ながら不可能ではないかと・・・)。ではなにを「見える化」すべきか、といいますと、①監査人材をどう育成しているか(これはグループガバナンス実務指針でも提言されているところですね)、②監査役会の実効性評価(すでにこれを実施している企業さんもあります)、③専属スタッフの組織の状況およびスタッフ養成方法(先にご紹介した某社副社長CFOの方は「本当に監査制度が重要なら、なぜ監査役はもっと人数を増やせ、スタッフを増やせと社長に言わないのだろうか?」と疑問を呈しています)、そして④監査役等の平均在任期間(一老さんがコメント欄でおっしゃっていますが、関電の事件も、任期を見ておりますといろいろとわかってくることがありますね)です。

機関投資家の方々と監査役制度について話をしていて感じるのは、監査役等は「守りのガバナンス」で機能するわけではないと(投資家は)考えていることです。攻めも守りも一体であり、そこは社外取締役や取締役会の監督機能に期待しています(よくサッカーやラグビーに例えられます)。彼らが監査役制度に期待しているのは「どんなに守りや攻めが上手でも、競争の参加資格を失ったら終わり。競争の場から退場させられないように見守ってくれるのが監査役ではないか」とのこと。

監査役等は会社法上の機関なので、それが全てではありませんが、私も上記意見に賛同します。最近は国内だけでなく、海外でも競争市場はあるわけで、そこで競争できる資格を失っては攻めも守りもありません。機関投資家は「この会社は競争の参加資格をまちがっても喪失しないだけの監査機能を持ち合わせているか」という点に関心を持っています。すでにそういった監査機能のスコア化を進めている投資家もいらっしゃいます。

私からすると、こういったことに多くの経営者の意識が向いていないうちに、早めに監査制度(監査役制度および内部監査制度)の改革を進める上場企業が現れてきているように感じています。

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コメント

 小生も監査役の人事的脆弱性が監査役制度の最大の問題の一つと考えてきました。現実問題として監査役を指名するのは経営トップであり、その選任基準は監査役に適格かではなく、自分にとって都合がいい人物かどうかの場合が多く、「自分を選んでもらった経営トップにはモノ申せない」。その意味で、経産省CGS研究会報告が「今後の検討課題」として、監査役等の指名・報酬決定プロセスの検討を挙げ、「会社法上4年とされている監査役の任期が実務上必ずしも全うされていない事実を踏まえ、今後、このような実態の原因・背景の分析を行う必要」に言及したことは画期的な意義があると思います。フォローアップ会議でも池尾座長が「コーポレートガバナンス・コードに関しても、見直しのサイクルが始まると思いますので、その際には、守りのほうについても、そろそろ、かなり本格的な議論をすべきだと思います。」と述べている点にも注目しています。
 そうした検討に際し、先生の仰る「機関投資家の力添え」と「監査の見える化」はとても重要なポイントで全面的に賛同します(「自力で環境を変えることは残念ながら不可能」と言い切るのは賛成できませんが)。また、「競争の参加資格をまちがっても喪失しないだけの監査機能」を果たすためにも、コンプライアンス遵守の観点だけでなく、今後国際規範・社会規範の遵守というESG・SDGsの観点からの監査が求められ点にも留意が必要です。いずれにしろ、審議会頼みに陥ることなく、先ずは各社及び各監査役等が足元から少しでもベストプラクティスに近づく努力を積み重ねること、そして日本監査役協会が提起された諸点の取組みに向け積極的なイニシアティブを発揮することが重要だと思います。

投稿: いたさん | 2019年10月19日 (土) 14時03分

GPIF理事長が「本人に宛てられた内部通報を長期間放置して報告しなかった」ことで懲戒処分を受けたという報道があります。
ご本人に関する通報だったようで、監査委員に並行して通報さてていたかどうかは読み取れないのですが、通報当該行為だけでなく「監査委員に自分宛の通報を言わなかった」ことも処分の理由になっています。
監査委員の方が真剣にガバナンスを考え、ベスト、モアベタープロダクツを目指した結果なら喜ばしいことと思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年10月20日 (日) 07時52分

いたさん、ガバナンス実務指針と監査役との関係について、ご意見ありがとうございます。内部監査の意義を含め、監査役制度についても残された課題があると思いました。

試行錯誤者さん、さっそく本件についてはエントリーを書きました。どうもありがとうございます。

投稿: toshi | 2019年10月20日 (日) 23時42分

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