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2019年10月 5日 (土)

関西電力金品受領事件-第三者委員会は二つに分けるべきでは?

関西電力の経営陣が高浜町元助役から金品を受領していた問題は、かなり深刻な様相を呈してきました。10月5日午前の毎日新聞ニュースでは、関電の監査役会が昨年秋ごろに社内調査報告(平成30年9月11日付け調査委員会報告書)を受けていたにもかかわらず、取締役会に報告していなかったことが明らかになった、と報じられています。 10月4日の日経夕刊の1面でも同様の記事が掲載されていました。私は9月30日のエントリーで「もし監査役会に取締役が報告をしていたら監査役会としては動くはずですから、そもそも報告していなかったのでは?」と予測しました。しかし、実際には取締役さんは報告をしていたのであり、監査役会として動かなかったということなので、見事に期待は裏切られてしまいました。

上記毎日新聞のニュースでは、ひとりの監査役さんが「取締役会に報告をしなかった理由」を述べています。その理由とは、①社外の弁護士が入ったうえで違法ではないと判断しているから、②森山氏が金品の受取りを強要し、返還は困難であったから、とのこと(ちなみに、日経の記事によると「社外監査役も含めた7名全員で監査役会で社内調査報告書の内容を共有し、取締役会には報告しない」と判断したそうです)。社内調査のトップが元大阪地検検事正、そして社外監査役には元検察トップがいらっしゃる(当時)ということで、著名な法律のプロが「違法性はない」と判断した以上、常任監査役を含めその他の監査役の人たちが「違法性がない」と判断したこともやむをえないと思います。

しかし、会社法382条(監査役の取締役会への報告義務)は、

監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。

と定めておりまして、「違法性がない」というだけで監査役の報告義務が免除されるわけではありません。地域の取りまとめ役である高浜町元助役から金品を受領していれば、たとえ取締役収賄罪(会社法967条)が(過去に)発生している可能性が低い場合でも、今後、発生する「おそれ」は十分に認められますし、またそもそも高額な金品を経営陣が受領していること自体が「著しく不当な事実がある」と判断できます。ましてや、森山氏が恫喝などによって金品の受領を強要していたこと(金品の返還を拒んでいたこと)を監査役として知ったわけですから、「今後、この問題が取締役贈収賄罪に発展するおそれ」があると判断し、取締役会での判断次第では事前差止め(会社法381条1項)の請求を行うことも検討しなければなりません。

報道では「監査役会で決めた」とありますが、そもそも監査役は独任制です。このような判断は、7人の監査役の間で意見が分かれても不思議はないわけで、監査役会で議論することは自由ですが、ひとりひとりが報告義務の有無を判断しなければなりません。そして、たとえひとりでも「報告すべき」との意見であれば単独ででも報告しなければなりません。

なお、「公表しない」ということも監査役会で判断した、と報じられていますが、「公表の要否」の判断は、ただちに取締役の善管注意義務違反には結びつきませんので(いわゆる「コンプライアンス経営」の問題)、本日は取り上げません。監査役会の判断を検討するにあたり、蛇の目ミシン最高裁判決やダスキン大阪高裁判決など、重要な裁判例も参考になると思いますが、こちらも本日は省きます。

ということで、ここ数日の関電の監査役会に関する報道をみるかぎり、今後の関電における自浄能力の発揮を監査役会に期待することはむずかしいかもしれません。関電問題の喫緊の課題は第三者委員会の設置だと思いますが、私はオリンパス事件、東芝事件と同様に、第三者委員会を二つに分けで、事実関係を明らかにする第三者委員会と経営陣の責任を明らかにする責任判定委員会を別の有識者に委嘱するのが妥当ではないかと思います。経済産業省からの要請は「年内には事実関係を明らかにせよ」とのことですが、過去にさかのぼり、しかも原子力部門以外での件外調査まで行うとなりますと、相当な規模の調査が必要です。これを年内に終わらせるとなりますと、事実関係をまず念入りに調査する第三者委員会を設置し、その後、当該委員会報告書を参考に、関係者の責任判定に必要な事実を別途調査する、ということが必要だと考えます。

調査の目的は、原発運営の安全性を確保して地域の皆様を守ること、そして効率的な経営を維持し、電力料金を支払っている方々の利益を守ることに尽きます。そのためには、ここまで問題が大きくなった以上は、念入りな第三者委員会調査が求められるものと考えます。

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コメント

こんにちは。初めて投稿します。
関電の監査役さんが登壇した監査役協会の全国会議に参加してきました。B日程でしたが、「不祥事防止のために監査役等が果たす役割」を一生懸命お話されていていて参考になりました。ただ、タイミングが悪かったので、他の方がどのように感じておられたか、わかりません。監査役協会としても、要職におつきになっておられる方なので、忖度してしまうかもしれませんが、スルガ銀行のときのように、ぜひきちんと今回の件についてコメントを出す必要があると思います。山口先生も、奥歯にモノがはさまったような言い方ではなく、毅然として監査役(会)のあるべき論を発信してください。

投稿: audit warker | 2019年10月 5日 (土) 16時48分

関電事件は法律論、会計理論いずれにおいても専門的見地から議論を闘わせる必要のない「単純な事実」に過ぎず、昼のTV時代劇そのものの、悪奉行と越前屋のやりとり・であるにも拘わらずその余波の人脈拡がりと、当事者が授受した金品の中身に世俗的関心をそそられて、ガバナンスやコンプライエンスの「あり方」にまで気持ちが届きません。庶民生活者が苦慮しながら支払い続けなければならない電気代が、越前屋の手土産に化けている事実に何故か腹立ちを覚えないのです。しかも、これは「違法行為」ではなく、単なる「道義上の問題」だと皆が認めているような風潮・流れも感じます。こんな分かり易い事実においてすら、企業ガバナンス規律や法令・法規の範囲外としてその責任を問うことができない社会ならば、遠山の金さんや必殺仕置人の登場を空想するしか有りませんね。

投稿: 一老 | 2019年10月 5日 (土) 17時35分

 社外監査役のお一人も、昨年の折衷型調査委員会の委員長さんも、「検察」という内部統制やガバナンスとは無縁の世界でやってこられた方々。おまけに黒を白、白を黒にしてしまう検察パワーを背景に、トップまで登りつめた経歴ですから、こうなるのは当然かと存じます。あの郵便不正事件の顛末を考えると、悪い冗談にしか思えません。

 これから組成される第三者「事実調査」委員会の報告書が、格付け委員会の"F"評価にならないよう、願うばかりです。

投稿: コンプライ堂 | 2019年10月 6日 (日) 09時58分

山口先生 おはようございます。ビジネスでの法務のお話も視界不良です。また、小学校の教室でいじめていた先生方達のお話も、複数の教員の穴が空いた教室(授業)では、児童達にどのようにして同僚の先生は児童達に顛末を説明するのでしょうか。5月20日に発信されたyahooニュースにある、神奈川県の県立高校で起きた校内「たばこ部屋」を内部通報した女性のその後ーー公務員の世界で見た“組織の掟”を見ても、(独特の世界で動いている)強烈に「個性の強い」職場の方々の行動を見ているとどれも奇異に満ちています。そろそろ、先端科学ならぬ・・・公益通報者保護法の真っ当な改正に突き進むことによって、新たな「先端法務」に作り上げないとどんどん人口減少の国家は劣化していってしまうと強く感じます。

投稿: サンダース | 2019年10月 8日 (火) 06時45分

犯罪者を罰するのではなく、犯罪を未然に防ぐ「抑止力」として「刑法がある」と考えたいです。
公益通報差保護法も「通報者に不利益を与えたものを罰する」のではなく、「公益を毀損する不正に対する抑止力」として考えたほうが良い。。。のが理想です。
内閣府消費者委員会「公益通報者保護専門調査会」の考え方も、経団連の「企業の自浄能力を「応援する」法律であってほしい」との考え方も、事業者が通報に真摯に対応すれば有効であると思います。
表向き「コンプライアンス」を標榜しながら、実態は「通報者に不利益を与えるのが当たり前」、仕方ないとする日本の諦め感覚を変えるのは容易くありません。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年10月 8日 (火) 20時18分

私も協会の全国会議に参加しました。関電の常勤監査役が登壇されたパネルディスカッションにも出席しましたが、率直に言って、参加者は何となく白けた雰囲気だったのではないでしょうか。なにしろ関電事件の真っ最中で、監査役会の対応が疑問視される中、テーマが「企業不祥事防止に向けた監査役等の対応」ですから、ブラックジョークでのようでしたね。冒頭、八嶋氏が今回の件で謝罪されてしましたが、ご本人も忸怩たる気持ちで辛かったのではないでしょうか?もしかしたら登壇の辞退を申し出られていたのかも知れません。 更に、協会の対応も疑問に思いました。冒頭に関電事件については質問をしないようにと予め釘がさされ、通常なら事前に用意された質問用紙をもとに質疑応答時間があるのに、今回は参加者から関電事件関連の質問が出る事を懸念(?)した為か、用紙の回収をせず、質疑応答を全くしないという異様な会議でした。

投稿: 彷徨える監査役 | 2019年10月 9日 (水) 09時10分

皆様、コメントありがとうございます。なかなかお返事は返せませんが、毎回きちんと拝読させていただいております。監査役協会の件は、いろんなところでご意見を賜っております。少し時間が経過したところで、私なりの意見を述べたいと思います。

投稿: toshi | 2019年10月 9日 (水) 10時31分

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