企業不祥事対応に関する良書2選(新刊書のご紹介です)
私自身、不正調査関連の委員長職務を3つほど掛け持ちしている関係で、なかなか本のご紹介ができませんが、ほぼ同じタイミングで企業不祥事防止関連のおススメ良書が2冊出版され、私の本業にも参考にさせていただいておりますのでご紹介いたします。
(図解)不祥事の予防・発見・対応がわかる本 竹内朗(編)プロアクト法律事務所著(中央経済社 2,500円税別)
ACFE(日本公認不正検査士協会)理事であり、企業の危機管理・有事対応の分野では著名な竹内朗弁護士の法律事務所が書かれた本です。タイトルのとおり、ふんだんに図表を活用していて、読みやすく、徹底的に実務目線の解説書です。後でご紹介する本にも登場しますが、最近「コンダクト・リスク」なる言葉が浸透しているのですね(恥ずかしながら、私は存じ上げませんでした)。
企業不祥事対応の最新事情(防止や早期発見における最新事情)も紹介されていますので法務や監査、内部監査等の実務部隊の方々にとても参考になる一冊です。第三者委員会実務も詳しく書かれていますが、私は不正発覚時の初動対応などが最も参考になるように思いました。
また、「三線ディフェンス」の解説なども図表を交えて盛り込まれていて、ぜひ不正防止や早期発見のトレンドとしてご理解いただきたいところですが、本書は「ESGや開示規制と不祥事対応の関係」や危機管理広報など、機関投資家を意識した項目も目につきます。不祥事対応といいますと、先に述べたように法務や内部監査、総務といった部門がスキルを学ぶべき、といった観念があるかもしれません。しかし当ブログでも何度かお話したとおり、最近は機関投資家も企業不祥事に強い関心を抱いていますので、ぜひともIRや広報担当者、財務・経理担当者の皆様にもお薦めしたい一冊です。(まったく関係ない話ですが、プロアクト法律事務所も所属弁護士が増えたのですね。いやいや、商売繁盛でなによりでございます)。
しかしながら、どんなに実務部隊のスキルが向上したとしても、法務や監査、内部監査等の重要性を経営者が認識し、それなりの予算をつけなければ不正予防はおろか不正の早期発見も困難です。つまり、経営者自身に不正予防や早期発見の重要性を認識してもらう必要があります。次に紹介する本は、ぜひ「経営者に読んでいただきたい」一冊です。
とうことで、こちらもよく存じ上げている方の、ひさしぶりの新刊書でございます。さきほどご紹介した「不祥事の予防・・」もアマゾン1位ですが、こちらもアマゾン1位(つまり、私がとくにブログでご紹介せずとも二冊とも売れている、ということですが)です。
企業不祥事を防ぐ 国廣正 著 (日本経済新聞出版社1,700円 税別)
言わずと知れた危機管理部門の第一人者、さきほどご紹介した竹内朗弁護士のお師匠さん(出身事務所の代表者)でもある国廣さんの新刊書です。実は単著ではひさしぶりですが、今年商事法務から出版された「コンプライアンス・内部統制ハンドブックⅡ」の共著者でもあり、この「ハンドブックⅡ」は隠れた名著だと思います(けっして従来から出版されていた「ハンドブック」の改訂版ではなく、斬新な視点から「ハンドブック」をさらに展開しているところが秀逸です)。
ぜひ経営者の方々にこの国廣本を読んでいただき、コンプライアンス経営への認識を改めていただきたい。私が最も共感しているのは、帯にも記載されていますが、コンプライアンスを前向きに捉えるための「ストーリー」が必要ということです。おそらく国廣さんが関与した事件だと思いますが、うまく初動対応できた会社が匿名で紹介されていて、このストーリーによって役職員の気持ちが変わる(当然、不祥事対応という形で行動も変わる)実例が3つほど掲載されています。これは私もふだんの仕事に参考にさせていただきたいと思いました。しかし「これでもか」というほど、国廣さんがご自身で関与した事例の分析が紹介されているので、解説の説得力がありますね。(やや上から目線で恐縮ですが)かなり国廣さんが頑張って書かれた一冊です。
上記竹内弁護士(プロアクト法律事務所さん)の本でも登場しますが、国広さんの本書でも「新時代のリスク管理を考えるにあたって」ということでコンダクト・リスクなる言葉が登場します。私も意味(リスクの内容)はよくわかっているつもりですが、なるほど最近はこのような言葉が使われているのですね。
私も単著本はちょうど2年前に出版して以来書いておりませんが、こういった企業不祥事関連の本を拝読すると「また書きたい」と意欲が湧いてきますね(このお忙しい方々が出版されているので「忙しい」は理由にならない。「時間は作るもの」ですよね)。
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コメント
山口先生、本エントリーでの良書ご紹介を、ありがとうございます。
ただ…
Amazonのビジネスモデルって、環境に優しいのでしょうか?と、モビリティ面のESG視点で考えています。
郵便局時代、どれだけ遠くても…離島や山間へき地にハガキ一枚届けるのに化石燃料を使って採算割れしていても赤字面と環境汚染は問題視されませんでした。
その後宅配便時代になり、人里離れた別荘地にもフランスのワイン1本が届く様になりました。そこにAmazonという「黒船」到来です。化石燃料を使っての物流が、未だエンドユーザーに届くまで使われている国内事情、(購入側は、金額によって送料無料なれど)多くの商品は、業務車両によってコスト負担して軽油燃料車両等で配達されてます。
都市部の一部では、人力車による宅配機能も若干ありますが、多くの注文(ビジネス)をこなす為に業務車両も含む交通渋滞で、昭和時代よりクリーンになった二輪/四輪のエンジンなれど、「チリも積もれば…」の如く。貨客混走や駅構内の宅配ロッカー、コンビニでの商品受取等は、まだまだ社会実験のレベルです。
山口先生のエントリーに水をさすつもりは毛頭ございません。
しかし、環状線でサラリーマンが堂々と発行部数数百万といわれる少年誌を読み、スマートホンとは名ばかりのツールで電気を使ってゲーム三昧の老若男女を見渡すと、ESGの「E」に本気で取り組む気があるのか疑問視するのは私だけでしょうか…。
罰則規定のない水防法で、防災計画が不十分な国土でビジネス及び消費生活をする事で、マイクロプラスチック問題レベルの比とは到底かけ離れた海洋への、個体液体化学物質廃棄物流出が多発し、甘い国土リスクマネジメントが露出し(災害被災者にはお気の毒ですが)コンビニで少女タレントが余興的に3Rを啓発するメッセージ等に、SDGs/ESGへの本気度が見え辛い・・・今の日本かなと感じています。
オランダを軸にする航空会社が発するコマーシャルで、飛行機使用の在り方を変えようとする動きが物議を醸し出している様に、(石器時代に戻る事は流石に不便ですが)既成概念に縛られている環境問題等の収束解決の糸口/固定概念を打破するのは、やはり法曹界の法令、条例づくりにかかっていると思う者の一人です・・・。沈没こそしないまでも、経済機能が崩壊するまでに間に合うかどうか・・・スウェーデンの少女の言動を、実権を持つ大人がどう捉えるか?注目しています・・・。
投稿: にこらうす | 2019年10月25日 (金) 05時43分
コンダクトリスクについては、10/21発売のビジネスロー・ジャーナル12月号「コンダクト・リスク管理と企業カルチャー改革」に詳述されております。(86頁の各社行動規範の記載内容表を見ると、不祥事を起こした企業の内容がかなり薄い傾向が顕著です。)
投稿: unknown1 | 2019年10月25日 (金) 12時23分