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2019年10月29日 (火)

会社法の教材になる(であろう)アドバネクス総会決議不存在確認控訴審判決

10月16日のこちらのエントリーで予告しておりましたアドバネクス株主総会不存在確認等請求事件の控訴審判決ですが、10月18日に東京高裁で出されたようです。東洋経済プラス(有料会員向け)の23日記事「まさかの原告全面敗訴!それでも続く創業家元会長とアドバネクスの対立」、そして27日記事「会社法の専門家が指摘するアドバネクス裁判の問題点-一審でひどい判決を出した民事8部は猛省すべきだ」をさっそく読みました。企業法務に関心の高い法律家が注目する判決ですから、おそらく法律雑誌には近々掲載されると思いますので、また判決全文を読みましたら感想を述べたいと思います。なお、状況から判断しますと、創業家側から上告受理申立てがなされる可能性が高いので、当該高裁判決は確定しないと思われます。

地裁判決の後、学者の方々が論じておられた各論点については、ほぼ全て原告側(創業家側)の言い分が通ったわけですが、判決では2019年のアドバネクス定時株主総会が「不存在」といえるほどの重大な瑕疵(総会招集手続違反の瑕疵)はない(2018年総会の2019年総会への瑕疵の連鎖は否定、2018年の総会が不存在となり、たとえ一審原告らが2019年総会時点まで取締役だったとしても、有効な決議が行われた2019年6月の総会時点で退任の効果が発生するので、一審原告らが退任した現時点において2018年の株主総会の不存在を確認する実益はなくなったので請求棄却、却下)とのことで会社側全面勝訴の結果となりました。なお、株主請求によって開催された2019年9月の臨時総会でも、現取締役らの事実上の追認決議がなされています(この追認決議の有効性を争う裁判も過去には結構たくさんあるようです)。

とりわけ上記東洋経済プラスの27日記事は、田中亘東大教授の詳細な解説が参考になります(ただし、田中教授は控訴審で原告側から意見書を提出しておられます、念のため)。「今後、会社法の教材として利用されるほどの重要な裁判」とのことで「こんな重要な裁判を東京地裁第8民事部は一人の裁判官に書かせているが、合議で検討すべきであった。高裁では私の意見は概ね判決に採用されたが、地裁判決はひどかった、第8民事部は猛省せよ」と述べておられます。たしか資料版商事法務に地裁判決が掲載された際、当該解説にも「単独よりも合議で判断すべきだったのでは」と書かれていましたね。

中小閉鎖会社の内輪もめ裁判ではなく、上場会社の株主総会決議の有効性、さらに瑕疵の連鎖(後の総会決議の有効性への影響)が問題となるわけですから、総会手続の適法性保証の必要性と会社を取り巻く法律関係の画一的処理の必要性をどこで折り合いをつけるべきか・・・このあたりのバランス感覚を学ぶために、会社法の貴重な教材になることは間違いないと思います。今後は多くの研究者のご論文が公表されるはずですし、有斐閣の判例百選(改訂版)などにも登載されるかもしれませんね。また、(まだ確定はしておりませんが)実務にも大きな影響を及ぼす判決だけに、企業側、機関投資家側双方で理解しておくべき裁判です。

最後に個人的な感想にすぎませんが、①構成員に不備のある取締役会が代表取締役を選任することは「ガバナンス・コードによるCEO選任の透明性」が求められ、「取締役会改革」が進むなかで、軽微な瑕疵とは言い切れないのではないか、②(理屈ではなく実益の視点から)責任追及訴訟の提訴権者が拡大されて「適法性保証」を重視する傾向が強まる会社法の改正の風潮からみれば、「訴えの利益」も理屈だけでなく実質的な利益の有無で判断されるべきではないか(過去の最高裁判決の射程範囲はどこまであるのか)③そもそも地裁や高裁の審理期間が長くなることによって、総会決議を争う当事者の側が不利益を被ることを受忍せざるを得ないことは、民事訴訟における当事者の公平を害することにならないのか、といったことも考え併せますと、まだ創業家とアドバネクスとの紛争の決着はついていないようにも思いました。

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コメント

高裁判決を読みましたが、急いで書き上げたらしく、一般論に対するあてはめがきちんとなされていません。田中亘教授が、なぜ、「控訴審でひどい判決を出した東京高裁は猛省すべきだ」といわないのか不思議です。なお、控訴審では、アドバネスクは傍聴者を認めていなかったという事実認定部分が削除された点が注目されます。

投稿: とおりすがり | 2019年11月13日 (水) 14時22分

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