機関投資家も読んでいる(と思う)有価証券報告書の「監査役会の活動状況」の開示
11月26日に日本監査役協会HPにて、「2019 年3 月期有価証券報告書の記載について(監査役会等の活動状況)」 なる調査研究結果が公表されました。2018年のDWG(ディスクロージャー・ワーキング・グループ)報告書の提言を受けて、2020年3月期決算から「監査役会等の活動状況」が有報の記述情報として記載されることになります。そこで、監査役協会では先行適用をしておられる企業の記載内容を検討されたそうです。
個人的にかなり関心の高い分野なので早速拝読しましたが「少しだけガッカリ」😞でした。いえ、監査役協会の研究成果にガッカリしたのではなく(これは立派な成果だと思います)、各社の監査役会の活動状況として開示された中身にガッカリでした。今年6月28日に「KAMに相当する事項の開示」として三菱ケミカルホールディングスが「監査報告書の透明化」の先行適用を試みて、その内容がとても参考になったものですから、なおさら期待しすぎてガッカリしたのかもしれません。
いろいろと各社の開示内容を読みましたが、会社法の解説本で「最低限度、これくらいは監査役(監査役会)の職務として必須です」と書かれた内容がそのままコピペされような記述ばかりであり、「これは機関投資家が読んでも、この会社のリスク管理能力をスコア化することはむずかしい」と思いました。もちろん「金太郎飴」的な開示情報は、なにか問題が生じたときに上げ足を取られないための保証としては役に立つのかもしれません。
しかし、このたびのDWG報告書、開示府令改訂の趣旨は、企業と株主との建設的な対話を実質化させるための情報開示の充実だったはずです。そうであれば、各社が「当社のリスク管理能力はどれほどすばらしいか」ということを監査機能の視点からアピールする機会だと思います。前にも書きましたが、私の講演をお聴きになった運用会社のESGチームの方が「監査役制度の能力を把握できれば資本コストを下げることも検討する」とまでおっしゃっています。したがって、これを「金太郎飴状態」(ボイラープレート化?)にしておくことはもったいない。
私としては「当社のリスク管理に必要な監査役制度を検討したところ、あと3名は監査役が、あと5名は監査役スタッフが必要と考え、現在経営執行部に監査役および監査役スタッフの増員を要請している」くらいは記載していただければと思います。ホントに私個人の感想にすぎませんが(社名を挙げて恐縮ですが)おお、この活動状況の記載は参考になるなあ」と思えたのは、リコー、味の素、三菱FG、そして不祥事が発生したことへの監査役会としての対応をきちんと記載しておられる野村HDくらいではないかと。
先日、「イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子」を読みましたが、「なるほど、イオン監査役アカデミーを創設して、外部講師を招いて監査役を育成するような会社には、こういった監査役制度を大切にする組織風土があるのだなぁ」と感激いたしました(ちなみに、この本にファーストリテイリングの柳井さんが絶賛の帯を書いている理由については触れられておりません-笑)。このたびの経産省「グループガバナンス実務指針」でも、監査役候補者の育成が提案されています。企業統治改革の中で監査役制度も変わりました、と機関投資家にアピールしていただき、監査役制度の深化を図っていただきたいと思います。