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2019年11月28日 (木)

機関投資家も読んでいる(と思う)有価証券報告書の「監査役会の活動状況」の開示

11月26日に日本監査役協会HPにて、「2019 年3 月期有価証券報告書の記載について(監査役会等の活動状況)」 なる調査研究結果が公表されました。2018年のDWG(ディスクロージャー・ワーキング・グループ)報告書の提言を受けて、2020年3月期決算から「監査役会等の活動状況」が有報の記述情報として記載されることになります。そこで、監査役協会では先行適用をしておられる企業の記載内容を検討されたそうです。

個人的にかなり関心の高い分野なので早速拝読しましたが「少しだけガッカリ」😞でした。いえ、監査役協会の研究成果にガッカリしたのではなく(これは立派な成果だと思います)、各社の監査役会の活動状況として開示された中身にガッカリでした。今年6月28日に「KAMに相当する事項の開示」として三菱ケミカルホールディングスが「監査報告書の透明化」の先行適用を試みて、その内容がとても参考になったものですから、なおさら期待しすぎてガッカリしたのかもしれません。

いろいろと各社の開示内容を読みましたが、会社法の解説本で「最低限度、これくらいは監査役(監査役会)の職務として必須です」と書かれた内容がそのままコピペされような記述ばかりであり、「これは機関投資家が読んでも、この会社のリスク管理能力をスコア化することはむずかしい」と思いました。もちろん「金太郎飴」的な開示情報は、なにか問題が生じたときに上げ足を取られないための保証としては役に立つのかもしれません。

しかし、このたびのDWG報告書、開示府令改訂の趣旨は、企業と株主との建設的な対話を実質化させるための情報開示の充実だったはずです。そうであれば、各社が「当社のリスク管理能力はどれほどすばらしいか」ということを監査機能の視点からアピールする機会だと思います。前にも書きましたが、私の講演をお聴きになった運用会社のESGチームの方が「監査役制度の能力を把握できれば資本コストを下げることも検討する」とまでおっしゃっています。したがって、これを「金太郎飴状態」(ボイラープレート化?)にしておくことはもったいない。

私としては「当社のリスク管理に必要な監査役制度を検討したところ、あと3名は監査役が、あと5名は監査役スタッフが必要と考え、現在経営執行部に監査役および監査役スタッフの増員を要請している」くらいは記載していただければと思います。ホントに私個人の感想にすぎませんが(社名を挙げて恐縮ですが)おお、この活動状況の記載は参考になるなあ」と思えたのは、リコー、味の素、三菱FG、そして不祥事が発生したことへの監査役会としての対応をきちんと記載しておられる野村HDくらいではないかと。

先日、「イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子」を読みましたが、「なるほど、イオン監査役アカデミーを創設して、外部講師を招いて監査役を育成するような会社には、こういった監査役制度を大切にする組織風土があるのだなぁ」と感激いたしました(ちなみに、この本にファーストリテイリングの柳井さんが絶賛の帯を書いている理由については触れられておりません-笑)。このたびの経産省「グループガバナンス実務指針」でも、監査役候補者の育成が提案されています。企業統治改革の中で監査役制度も変わりました、と機関投資家にアピールしていただき、監査役制度の深化を図っていただきたいと思います。

 

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2019年11月27日 (水)

会社法の一部改正法律案はなぜ修正されたのだろうか?

(11月27日午前10時55分 更新)

11月5日にこちらのエントリーにて告知いたしました大阪弁護士会・CGネット共催公開シンポジウムもいよいよ今週金曜日に迫ってきました。おかげさまで本日(11月26日)現在、定員をはるかに上回る260名の方々に参加申込をいただき、弁護士会館2階ホールの設営も変更させていただきました。やはり改正会社法の成立により、上場会社に社外取締役が義務化される、という機運が高まってきたことによるものでしょうか。ともかく当日に向けて精一杯準備いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。ということで、本日は改正会社法の話題です。

本日(11月26日)、会社法の一部を改正する法律案(一部修正案)が衆議院本会議で可決され、今国会で改正会社法が成立する可能性が高まってきました。提出時の法律案から一部修正され、株主提案権の改正のうち、議案提出権(会社法304条)は現行法のまま、議題提案権(議案要領通知請求権 305条)の議案の個数制限だけが改正されるということになりました(305条の修正案はとても読みにくいですね)。「目的等による提案の制限」は議案提出権、議案要領通知請求権いずれも改正から外れたことになります。

株主提案権の濫用事由を法文で列挙することにより、会社側の判断のみで権利行使を阻止できるとするのは過度の株主権制限である、一部の濫用事例が認められるだけでは権利制限を一般化する立法事実とは認められない、濫用かどうかは極めて難しい判断であり、問題があれば司法判断や会社法の過料の制裁で対応することで足りるのではないか・・・といったところが修正の理由になっているように思います(こちらの衆議院法務委員会ニュース参照)。

しかし、それを言い出すと会計帳簿の閲覧制限(会433条2項)や株主名簿の閲覧制限(同125条3項)、総会における取締役の説明義務の免除(同314条)といったところはどうなるのでしょうかね?(コメント欄で「とおりすがりの一職人」さんがおっしゃるとおり、議決権行使書面の閲覧制限-会311条5項-についても議論がありそうです)それぞれ重要な株主権の行使場面ですが、抽象的な濫用的要件をもって会社側で権利行使を制限できるという点では同じような気もしますが。。。株主提案権の制限廃止だけが問題になるのであれば(株主総会の運営の適正化を図るための)議長の議事整理権で区別がつきそうですが、総会前の議題提案権の制限についても修正(廃止)が認められましたので上記の各種株主権制限規定の趣旨と区別できるのでしょうか。

会社法制(企業統治関係)部会での法改正の審議でも、「目的等による提案の制限」はそれほど熱心に審議されていなかったように思います(もっぱら議案の個数制限ばかりが議論されていたものと記憶しております)。私の中では「なぜ株主提案権の目的等による制限」のみ修正されたのか、いまだによく理解できておりません。

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2019年11月25日 (月)

東電事故(強制起訴)刑事無罪判決-見送られた津波対策

今年9月24日に、こちらのエントリー「東電事故刑事無罪判決-内部統制構築の虚しさを感じました」において、当時のNHK特集をもとに東京電力の組織的な課題について自説を述べました。私自身は未だ同判決は読めておりませんが、朝日新聞の奥山記者が同判決要旨を読み、東電元幹部の方々への新たな取材を通じて連載記事を書いておられます(「見送られた津波対策」朝日新聞有料記事より)。ちょうど24日に3回目の連載記事がWEB上にアップされましたが、奥山さんらしいツッコミの鋭い記事であり、やはりいろいろと考えさせられます。

前回のエントリーでも書きましたが、企業の内部統制や有事対応に関心を持つ者として、やはり東日本大震災に至るまでの東電と原電(日本原子力発電)との津波対策の差(実行力の差)に注目してしまいます。原電の2011年当時の社長さんは東電出身の方だそうですが、「できるところからやろう」ということで現実の津波対策に組織横断的に取り組んだ原電と、専門家チームが出した答えを経営判断で覆してしまった東電組織の差はどこにあるのでしょうか。

原電の組織は東電の数十分の一の規模なので、現場と経営陣との距離感が近く、現場の声が経営者に届きやすかった、ということが大きな理由かとは思いますが、9月24日のエントリーにコメントを寄せていただいたJFKさんが述べるように「想定しがたい高さの津波対策に数百億を投じるということについて、当時の国民から納得は得られなかったのではないか」ということも重要な指摘かと思います。たとえ津波の専門家から危険性を指摘されていたとしても、「原発は安全であり、天下の東電が安全対策最優先で取り組んでいる以上は事故など起こらない」と認識していた国民の前で「想定外の事態への対処」に高額の資金を投じる合理的説明ができなかった(その結果として、裁判所は経営者に法的責任ありと評価することはできなかった)ということかと。

ただ、奥山記者の記事を読んでいると、原電は「できるところからやろう」「たとえ津波が防波堤を超えたとしても、事故の被害を最小限度に抑えよう」ということで「事故は発生する」ことを念頭に置いた総合的な安全対策をとっていることがわかります。決して「完璧な防波堤を作るためには多額の投資を惜しまない」という発想ではないのです。

一方の東電は「事故は発生しない」「絶対に発生させてはならない」ことを念頭に安全対策を考えているので、津波が防波堤を超えた場合の次善の安全対策ということは念頭になかったのではないでしょうか。つまり東電の場合、原電とは異なり「事故は起きる」ことを前提として安全対策を考えてはいけない、という思想が組織に思考停止を蔓延させたようにも思えます。

もちろん、こうやって重大な事故が発生し、「原発でも重大事故が起きる」という事実を目の当たりにして「社会の常識が変わった」からこそ指摘できる点もあるかもしれません(いわゆる「後だしジャンケン」の発想)。当時の国民世論からみて「東電が『事故は起きる』ことを前提として安全対策をとることなど決して許さない!」との声を無視できなかったこともあったと思います。

しかし、リーマンショックにせよ、原発事故にせよ、「起きないと思っていたことが起きる」のであれば(最近はVUCAの時代と言われます)、どんなに社会的に批判を受けるとしても「起きたときにどうするか」という思想で経営リスクに向き合うことも大切であり、また不可能ではないことを、今回の刑事無罪事件を通じて認識しなければならないように感じます。また、企業のリスクマネジメントの在り方を変えるためには、企業自身だけでなくステイクホルダーの意識も変えていかねばならないのかもしれませんね。

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2019年11月22日 (金)

厚労省「パワハラ指針(案)」には重大な不備がある(ように思う)

コクヨのぺんてるに対する敵対的買収案件がスゴイ様相になってきましたね。プラスがぺんてる支援を表明したので(NHKニュース)もはや「コクヨvsプラス」、つまり「メーカーvs流通」の闘いに興味が移ってきました。さらに日経ビジネス記事(有料版)によると、ぺんてる・プラス陣営に、上場企業のキングジムやニチバンなどが支援に回る、とのこと(株主かどうかはわかりませんが)。まさに「コクヨ包囲網」ですが、この包囲網を作るためにぺんてるがコクヨに株主名簿の開示を拒否していたとなると、そろそろ目的を達成して開示に動くかもしれません(平成24年のアコーディアゴルフ事件決定の先例的意義は大きいような気がします)。以下、本題です。

11月21日の各紙で報じられているとおり、厚労省が「パワハラ指針(案)」を会議資料(第22回労政審議会雇用環境・均等文科会)として公表しましたね。さっそく13頁に及ぶ指針案を読みましたが、企業の内部統制に関心を持つ者、日頃ハラスメントの通報を受理したり、調査をしている者の視点からしますと少し残念な内容です。

というのも登場人物(主体)は事業者、加害労働者、被害労働者で構成されていて、そこに「同じ職場の労働者」が登場しておりません。セクハラやパワハラの相談者は、かつてはほとんどが被害労働者でしたが、同じ職場の同僚からの相談が増えている、という現実が反映されていないようです。ハラスメントはもはや属人的な問題ではなく、「職場環境配慮義務の一環」としての組織的な問題です。ちなみに指針の中で「同じ職場の同僚」を当事者に含めても、(女性活躍推進法3条に基づく)労働施策総合推進法第30条の2および同条の3に規定する「労働者」の定義とは矛盾しません。

私は(窓口対応として)パワハラ通報を受理した後に、社内調査の補助をすることがありますが、ハラスメントの被害者と加害者(と疑われている)側のヒアリングを行った結果、「うーーん、これってどうなんだろ?結局、指導の範囲内じゃないかな。けっして好き嫌いで及んだ行為とは思えないけど・・・」といった印象を持つことがあります。

しかし最近は「被害者」とされる側の同僚からスマホ動画や写真、録音データなどの情報提供をきっかけに、これらの証拠を確認してみますと「ありゃ!これは誰がみてもハラスメントやんか!」と断定できることが増えました。とりわけ動画と録音データは、時間軸も一緒に読み取れるのでハラスメントの認定には有力な証拠となります。※日ごろからの「お悩みメール」も同僚から提供されることがあります。このような有力証拠は、同じ職場の労働者の「相談の秘密」「情報提供による不利益処分の禁止」を、企業が明確にしないとパワハラ指針の実効性は上がらないと思います。

※・・・社内における無断撮影や無断録音は、正当な目的がないかぎりは就業規則違反になるおそれがありますが、企業に法的に義務付けられるハラスメント体制の整備・運用に労働者が協力する場合には「正当な目的」が認められることになると思います

昨年最高裁まで争われたイビデン・グループ内部通報事件も(セクハラ案件ではありますが)同僚からの通報です。最近のスポーツ界におけるパワハラ騒動も第三者による通報が多いように思います。主観的なハラスメントの感覚よりも「一般人からみて客観的にどうか」といった感覚を重視するのであれば、むしろ企業としては職場の第三者からのパワハラ・セクハラ通報を促すような内部統制システムを検討すべきと考えます。そのような意味で、職場の同僚からの通報や証拠提出(情報提供)への配慮に触れていない指針案には、かなり重大な不備があるのではないかと。

今回の労働施策推進法(改正法)が、労働者のパワハラ行為を禁止する規定を置いていないので、指針を報じる記事を読んでいて「あれ?これはちょっと誤解するよな」と思われる問題が他にもありますが、それはまた別の機会に書きます。

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2019年11月20日 (水)

日産ゴーン前会長事件は監査役の追及から始まった-「監査役事件簿」

昨日の朝日新聞ニュース「ゴーン氏追放、西川氏の大誤算 主導した改革は己の身に」(有料会員向け記事です)は読みごたえのある内容でした。日産前会長逮捕から1年が経過しましたが、私は「日産の監査役さんは何をしていたんだろうか」とずっと関心を寄せておりました。そして、上記記事は、ようやく「監査役の活躍」に光をあててくれました。当時の監査役さんは西川社長にも知らせずに粛々とゴーン氏の立件に向けて(司法取引者-内部告発者とともに)動いていたそうです。会社法の原則からすれば、監査役さんは重大な不正の疑いを知ったときには取締役会に報告しなければならないわけですが(会社法382条)、「西川氏に知られてしまってはどうなるかわからない」と監査役は判断し、ごく一部の関係者らと調査を続けていた、とのこと。

9784495209612_1l もちろん、このたびのゴーン氏立件には様々な意見がありますし、私個人としても有罪立証にはいくつかの難問が横たわっていると考えておりますが「モノを言わない監査役を探してこい」と言い続けていたゴーン氏(社内調査委員会報告書より)を監査役が追い詰めたというのは、日本の監査役制度の歴史の1ページに残る事件と言えます。ということで、本日はそのようなモノ言う監査役の事件を集めた最新刊「監査役事件簿」のご紹介です。

監査役事件簿(眞田宗興著 同文館出版 3,200円税別)

出版社の紹介文では「監査役が関係した事件について50の事例を紹介。事例の概要や背景などの分析を通して、企業や監査役自身が様々なリスクから身を守るために、果たすべき義務や注意すべき点を解説する」とあります。著者である眞田宗興氏は大手電機メーカーご出身で、長く監査懇話会の事務局なども務めておられた方で、現在も(たぶん70代後半?)システムインテグレータ社の非常勤監査役でいらっしゃいます。眞田氏は現在も監査懇話会のHPにコツコツとタイトルと同じ「監査役事件簿」と題するコーナーで監査役の活躍が報じられた事件を紹介されています。本書も、この眞田氏のブログ(?)を編集して一冊にまとめたものであり、私も知らなかった事件が多数掲載されております。有事に至った会社の監査役として、どのような行動に出れば自らの法的責任を免れるか、もしくは、追及されずに済むか、眞田氏の意見も交えて解説されています(ときどき私のコメントなども登場いたします)。 

6月28日に策定された経産省「グループガバナンス実務指針」では、監査役の育成や人材養成の必要性が強調されていますが、私は本書を読み、単に監査役のスキルを学ぶだけでなく、社長との「距離感」を学ぶことが必要だと思いました。自分がリスクから距離を置いて、安全な場所から社長にモノを言っても共感は得られない。監査役も「失敗したら責任をとる」覚悟がなければ社長の心に監査役の意見は響かないのではないかと。上記の日産の元監査役の方々も、おそらくリスクを背負って職務を全うしたからこそ会社法の例外的措置をあえて選んだものと思います。これからも、リスクを背負った監査役さんを支援する法律専門職が増えればいいなぁと思いますね。

しかし、日産社内で司法取引を決意した法務担当執行役員は、なぜ相談相手に元監査役を選んだのでしょうか?なぜ元監査役は選ばれたのでしょうか?そこにこそ、監査役に必要な資質が隠されているのではないかと。ようやく「監査はコストではなく、リスク管理能力への投資」と評価される時代となり、監査役(監査等委員)も機関投資家からも注目されるようになりました。2020年3月期からは、監査役の活動状況が有報にも詳細に記載されるようになります。これから監査役に就任される方だけでなく、ぜひとも経営執行部門の皆様にも「監査役にふさわしい人材とはどのような者か」を理解するためにも一読していただきたいと思います。

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2019年11月18日 (月)

コクヨのぺんてるへの敵対的買収は「TOB」というのだろうか?

コクヨ社がぺんてる社の株式をTOB(株式公開買付)によって取得する意向であることが報じられています。しかし、私の感覚では「TOB」というのは金商法上の公開買付制度を指すもので、ぺんてる社のような非上場会社の株式取得の際には使うのは適切なのでしょうかね?もちろん非上場会社でも有価証券報告書提出会社の場合には金商法上の公開買付規制が適用されますが、ぺんてる社は有価証券報告書提出会社ではありません。したがってぺんてるは公開買付規制に応じる義務はありませんし、委任状勧誘規則の適用もありません。

私は単純に「コクヨがぺんてるから株主名簿を見せてもらえないから、しかたなく公開の場で株式の売却の勧誘をしている」という意味に捉えているのですが、いかがでしょうか(まちがっておりましたら訂正いたします)。ぺんてるはだれが何株持っているのか知っていますから、株主ひとりひとりに勧誘・説得できますし、議決権拘束契約等によって多数派工作を自由に図ることができますから、コクヨにはハンデが生じます。なので株主名簿の閲覧の可否(会社法125条)こそ、大きな問題ではないかと思います。

コクヨ側は平成24年のアコーディアゴルフ事件の裁判例(東京地裁平成24年12月21日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否は会社法違反」と主張すると思うのですが、一方のぺんてる側はフタバ産業事件の裁判例(名古屋地裁岡崎支部平成22年3月29日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否には正当な理由あり」と主張するのでしょうね。ぺんてる社のリリースなどを読みますと、「権利濫用」あたりも根拠にしているようにも思われます。いずれにしても、株式譲渡制限を付けた純粋な非上場会社でも、ファンド(大株主)が出現し、さらに多数の第三者株主が存在するようになりますと、このような買収の脅威にさらされるということです。平時からのリスク管理として特定株式に対する「属人的な定め」を定款変更によって盛り込んでおくことも検討しなければならないように思います。

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2019年11月14日 (木)

拙稿のご紹介「親子上場問題を中心とするグループガバナンスの課題」

1281692823_o本日の日経ニュースにて、東芝が2000億円を投じて上場子会社3社を完全子会社化する(TOBによって他の株主から株式を取得する)と報じられています。日立化成等、上場子会社の解消を急ぐ日立製作所と同様、企業統治改革の流れの中で「親子上場の解消」は他の産業部門でも進みそうです。

ということで(?)、本日発売のリスクマネジメント・TODAY117号(2019年11月15日発行)に「親子上場問題を中心とするグループガバナンスの課題」と題する論稿を掲載いただきました。LIXIL・CEO解任事件をめぐるガバナンス強化の課題については樋口晴彦先生(警察大学校)のご論稿に譲るとして、私は経産省「グループガバナンスの実務指針」や「公正なM&A指針」等のソフトローから、親子上場問題(正確には上場子会社問題)のトレンドを解説する、という体裁になっております。

マスコミの論調等では、どうしても上場子会社の少数株主保護に光が当たることが多いように思いますが、コングロマリット・ディスカウントを低減させることへの(親会社、支配会社に対する)機関投資家の圧力は思いのほか強いものがあります。なので、親子上場解消の場面では、親会社の役員にも相当強いプレッシャーがあるわけでして、そのあたり支配会社、被支配会社双方に公平な見方で執筆をしたつもりです。お読みになられる機会がございましたら、ぜひご意見・ご感想などお聞かせいただければ幸いです。

ちなみに(これは上記拙稿の内容とは無関係ですが)上場子会社に不祥事が発生し、グループ全体のレピュテーションリスクが顕在化した場合、親会社の役員に監督義務違反による法的責任が発生する・・・というのは、福岡魚市場株主代表訴訟事件のように、両社の役員を兼任するようなケースでないと認められない、というのが現在の常識的判断だと思います。ただ、最近のガバナンス実務指針や公正なM&A指針に従って、上場子会社の社外取締役が動くことが主流となりますと、たとえばビューティ花壇株主代表訴訟の地裁・高裁判断過程などを前提に考えますと、うーーーん、親会社取締役も安閑としてはいられないのではないかと。

 

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2019年11月13日 (水)

立法事実がなくても会社法は改正できる?(改正法案、いよいよ審議入り)

本業が忙しいので本日は短いエントリーです。日経ニュース等によりますと、ようやく会社法改正法案が衆議院で審議入りした、とのこと。なんとか今国会で成立しそうですね。日経ニュースで法務大臣の答弁が紹介されていますが、立憲民主党の議員の方からの質問(ほとんどの上場会社ですでに社外取締役は存在するが、義務化することの必要性はあるのか?)に対して、大臣は

市場の信頼性を高める観点から、社外取締役の監督が法律で保証されているとのメッセージを発信することは大きな意義がある

と回答した、とのこと。しかし、ほとんどの上場会社に社外取締役が存在する現在、有価証券報告書提出会社に社外取締役を1人以上の選任を義務付けることには「立法事実」はないと思います。これまで、会社法改正にあたっては法改正の必要性を裏付ける立法事実が厳格に求められてきたと思うのですが、「メッセージを発信することに意義がある」ということでも法改正はできるのですね。これからの法改正の必要性判断の前例になるのでしょうか。

しかも法改正によって「社外取締役がいなくなった場合に、果たして取締役会決議は有効に成立するのか」とか「社外取締役を選任しないことによる罰則(過料)は会社に科されるのか」といった「解釈のグレーゾーン」まで招来してしまうわけです。今後、立案担当者の方から解釈指針のようなものが出るかもしれませんが、納得できる内容でしょうか。おまけにヤフーとアスクルの騒動によって社外取締役の存在が不可欠とされる「被支配会社」に誰も社外取締役がいなくなってしまった、これって社外取締役の監督が法律で保証されているといえるの?・・・という「負の立法事実」まで出てきてしまいました。

平成26年会社法改正のとき、上場会社等である監査役会設置会社が、社外取締役を置いていない場合は「置くことが相当でない理由」を株主総会で説明する義務が設けられました。つまり会社法は「企業価値を上げるためには、社外取締役がいないほうがよい上場会社は存在する」ということを認めたわけです。しかも5年以内に社外取締役義務付けの要否を検証することが附帯決議で求められていました。その検証結果が「立法事実」であることは間違いないわけですから、少なくとも「5年経過して検証したところ、やっぱり企業価値向上のためには一人以上の社外取締役がいなければ企業価値は向上しない、ということを理由付けるコレコレの立法事実が認められた」との説明が必要です。

どうも「気持ち悪さ」を感じます。法改正の審議が進むことは喜ばしいのですが、会社法改正があまり「美しくない」と感じるのは私だけでしょうか。

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2019年11月11日 (月)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい(その2)-積水ハウス提出証拠閲覧制限申立て却下・大阪地裁決定

10月15日の当ブログエントリー社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定にて、積水ハウス取締役らに対する株主代表訴訟の補助参加人である会社に「社内調査委員会報告書を提出せよ」との高裁決定が出されたことを報じました。しかし、この事件には続編がありまして、その詳細を紹介する記事「積水ハウス地面師事件-【調査報告書】封印の限界」が週刊東洋経済の最新号(2019年11月16日号)に掲載されています。

積水ハウスさんは、この社内調査報告書の中身について「なにがなんでも開示したくない!」ということで、証拠として提出した後も、民事訴訟法92条に基づく(第三者による)閲覧制限の申立をされていたそうです。しかしこの11月1日、大阪地裁は積水ハウスさんの申立を却下、閲覧制限を正当化する理由は認められないと判断したようです。民訴訟92条による提出証拠の閲覧制限が認められる理由としては、開示によって当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれある場合、不正競争防止法上の「営業秘密」に関する記載がある場合ですが、本証拠開示については否定されています。ちなみに、民事訴訟における訴訟記録については原則公開です(民訴訟92条1項)。

この地面師事件のエントリーの際には毎度申し上げておりますとおり、私は積水ハウスさんの事件遭遇を揶揄するつもりは一切なく、今回の件は他社の有事対応、全社的内部統制の在り方でも参考になるものと思い、ご紹介する次第です。民事訴訟法上の秘密保護の手続きは、大別して①口頭弁論等の手続にかかる秘密保護措置(訴訟記録の閲覧等の制限)と、②文書提出命令等にかかる秘密措置保護とに分かれ、民訴法92条はこの①に関するものです。

結論からみますと(まだ即時抗告によって大阪高裁が逆の結論になる可能性はありますが)、積水ハウスの社内調査報告書については①および②とも裁判所から否定されましたので、ますます「(企業不祥事発生時における)社内調査報告書の秘匿・非開示はむずかしい」と考えたほうがよさそうですね。いや、社内調査報告書だけでなく、適時開示を予定していないような不祥事に関する第三者委員会報告書なども、後日紛争になったときには文書提出命令の対象とされる可能性があると思われます(ぜひ、このあたりは今後法律家の方々の意見などもお聴きしたいところです)。

地面師詐欺事件に詳しい布施明正弁護士(たしか判例時報や経済誌などで紹介されている他の有名な地面師事件の代理人をされている方ですね)が、上記週刊東洋記事で述べておられるように「本件は上場企業で起きた大型事件であり、その真相を記した調査報告書は社会全体の財産」という見方が裁判所の意見に近いものと思います(まだ決定全文は読めておりませんが、おそらく即時抗告審の決定も含めて、また判例雑誌等に紹介されるものと思います)。

いずれにしましても、企業としては「不祥事公表の要否」に関する判断の前に、少なくとも社内調査を行い、その調査結果の報告を受けるわけですから、当該報告書が後日第三者に開示される可能性が高いことを認識しておくべきかもしれません(「べきかもしれません」と書きましたのは、私なりには非公開の調査報告書を作成する工夫の余地はあるのではないか・・・とも考えられそうだからです。ただし、その工夫は新たなコンプライアンス・リスクを顕在化させる可能性もあり、このあたりは思案中です)。

しかし積水さんは文書提出命令事件の主張といい、この閲覧制限申立ての主張といい「関係者のプライバシー保護の必要性」を強調しておられますね。ということは、当該調査報告書の記述の中に、事件の全容を解明する内容だけでなく、なにか「きな臭い」組織内部の紛争に関連する事実なども含まれているのでしょうか?このあたりがナゾでありますが、個人的にはそのあたりを詮索することは控えたいと思います。

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2019年11月 7日 (木)

今こそ「フィデュシャリー【信認】の時代」-信認義務の活用に向けて

2016年5月に、こちらのエントリー「監査役もフィデューシャリー・デューティーの時代」にて、樋口範雄氏(東大名誉教授、現武蔵野大教授)の名著「フィデュシャリー『信認』の時代」をご紹介しておりましたところ、このたび内閣府「公益財団法人トラスト未来フォーラム」の役員の方から「絶版となった樋口先生のご著書が、当HPより無料でダウンロードできるようになりました」とのご連絡をいただきました(どうもありがとうございます!トラスト未来フォーラムのHPはこちらです)。以下、同HPの紹介文(引用)ですが、

情報通信ネットワークの浸透、情報格差の拡大、グローバル化と高齢化の進展等を背景に、取引当事者間の関係がより複雑・デリケートなものとなっている中、取引先目線・立場での思考・実践を核とする「フィデュシャリー」に係る考え方は益々重要なものとなっています。樋口範雄教授は、「フィデュシャリー」の概念を広く日本に紹介された第一人者であり、1999年出版の本書では、信託を代表とする「フィデュシャリー」の意義と広がり等について分かり易く解説されています。「フィデュシャリーの時代」がいよいよ本番を迎えつつあるとも言える今、本書のご一読をお勧めします。

たとえば、このたびの会社法改正では「社債管理補助者」という制度が新設されますが、その権利・義務の内容を「信認義務の法理」を参考にして現行の「社債管理者」制度と比較しますと理解が進みます。また、日本ではGAFAに代表されるプラットフォーマー規制に向けて行政(公正取引委員会)が動いていますが、米国では「情報フィデューシャリー」として、プラットフォーマーに信認関係における受認者の責任を認める学説が有力に唱えられています(無体財産規制と同様、いわゆる民民規制によって行政目的の実現を目指す)。信認関係の法理をデータ保護の世界にも適用することでプラットフォーマー規制の実効性を上げるという考え方は、今後国際的な規制の標準化に役立つのではないかと思います。そして、日本の監査役さんの職責を論じるうえでも、とりわけコンダクト・リスクへの対応が求められる昨今、ますます「信認義務」の発想が必要になってきていると確信します。

有斐閣さんと樋口先生のご協力のもと、信認義務や信託法理論をわかりやすく解説している本書が無料で読める!というのはなんとも素晴らしい。もちろん(出版時以降)信託法などは改正されておりますが、信託法理や「信認義務」を理解するには必読の一冊です。司法の世界にもAIが活用されるようになれば、日本でも判例の集積が企業実務に及ぼす影響が高まります。「監査役等に期待される行動とは何か・・・」個別具体的な事案に沿って信認義務の内容を検討することは、デジタル時代の監査役等の行動規範を形成するには有用な理論だと考えます。

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2019年11月 5日 (火)

公開シンポ「社外役員の急増で取締役会は変わったのか」のお知らせ(告知)

Simpo001  本日は11月末に開催されますシンポの告知でございます。来る11月29日、大阪弁護士会と日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークとの共催によりまして、「社外役員の急増で取締役会は変わったのか?」と題する公開シンポジウムを下記要領にて開催いたします。パネリストは大規模企業や中規模企業で社外取締役、社外監査役を務めておられる企業実務家、法曹の皆様です。ガバナンス・ネットワークの理事長である牛島理事長にも登壇いただきます。開催の趣旨およびパネリストのメンバーは左のチラシをご参照ください(クリックしていただくと大きくなります)。私も司会(モデレータ)を務めさせていただきます。

日時 2019年11月29日(金)午後2時~5時 

場所 大阪弁護士会館2階ホール 定員200名程度

 

10月2日の日経ニュースによりますと、全取締役に占める社外取締役の比率は今年初めて3割を突破したそうで、とりわけ女性役員も1000人を上回ったそうです。秋の臨時国会に提出された会社法改正法案でも、(公開大会社について)社外取締役の義務化が盛り込まれています。さらに、経産省CGS研究会が策定した「グループガバナンス実務指針」では、企業の有事における社外役員の活躍が要請されています。

 

Simpo002 たしかに社外取締役の数も増え、また社外監査役に期待される役割なども明確になってきました。しかし、本当に企業統治改革のもとで期待される役割を果たしているのでしょうか?また、企業側も、世間で期待される社外役員の役割を担ってもらうための努力をしているのでしょうか?このシンポジウムでは、社外役員としての経験豊富な方々に、企業統治改革が進む中で企業が変わったのか、そして自分たちも変わってきたのか、具体的な質疑応答を通じて検証したいと考えております。

取り上げたい論点は、2枚目(下)のチラシに上段部分に記載したとおりです。私自身、機関投資家の皆様と意見交換をする機会が増えましたので、そこで見られる機関投資家の期待と企業の期待のギャップを意識しながら各論点への検証を進めていきたいと考えています。しかし、「この制度は良い、悪い」といった制度論を議論するつもりはなく、「あるがままの制度を受け入れて、どう運用すれば企業価値の向上に役立つのか」を徹底的に考えます。時間は大切です。決して「総花的」な面白みのないシンポにはしたくないので、出席者の方々と一緒に考えながらシンポを進めるべく工夫をしております。

大阪での開催となりますが、これから社外取締役・社外監査役に就任したいと考えておられる方々、すでに就任されている方々、そしてこれから社外役員の採用を検討されている企業の皆様、ぜひ公開シンポへご参加ください。もちろん社内の役員の方、士業や研究者の皆様も大歓迎でございます(参加無料です)。お申し込みは左のチラシ(またはリンク先)記載の弁護士会HPから(もしくはQRコードから)よろしくお願いいたします。

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