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2019年11月18日 (月)

コクヨのぺんてるへの敵対的買収は「TOB」というのだろうか?

コクヨ社がぺんてる社の株式をTOB(株式公開買付)によって取得する意向であることが報じられています。しかし、私の感覚では「TOB」というのは金商法上の公開買付制度を指すもので、ぺんてる社のような非上場会社の株式取得の際には使うのは適切なのでしょうかね?もちろん非上場会社でも有価証券報告書提出会社の場合には金商法上の公開買付規制が適用されますが、ぺんてる社は有価証券報告書提出会社ではありません。したがってぺんてるは公開買付規制に応じる義務はありませんし、委任状勧誘規則の適用もありません。

私は単純に「コクヨがぺんてるから株主名簿を見せてもらえないから、しかたなく公開の場で株式の売却の勧誘をしている」という意味に捉えているのですが、いかがでしょうか(まちがっておりましたら訂正いたします)。ぺんてるはだれが何株持っているのか知っていますから、株主ひとりひとりに勧誘・説得できますし、議決権拘束契約等によって多数派工作を自由に図ることができますから、コクヨにはハンデが生じます。なので株主名簿の閲覧の可否(会社法125条)こそ、大きな問題ではないかと思います。

コクヨ側は平成24年のアコーディアゴルフ事件の裁判例(東京地裁平成24年12月21日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否は会社法違反」と主張すると思うのですが、一方のぺんてる側はフタバ産業事件の裁判例(名古屋地裁岡崎支部平成22年3月29日決定)あたりを根拠に「名簿閲覧拒否には正当な理由あり」と主張するのでしょうね。ぺんてる社のリリースなどを読みますと、「権利濫用」あたりも根拠にしているようにも思われます。いずれにしても、株式譲渡制限を付けた純粋な非上場会社でも、ファンド(大株主)が出現し、さらに多数の第三者株主が存在するようになりますと、このような買収の脅威にさらされるということです。平時からのリスク管理として特定株式に対する「属人的な定め」を定款変更によって盛り込んでおくことも検討しなければならないように思います。

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コメント

コクヨ社が、ぺんてる社に対してTOB・・・。
コクヨ社の多くの製品は愛用しているし、ぺんてるの筆記具も愛用。
しかし今回の「コクヨのヨコク」は、文房具類を扱う販売店各社(東急ハンズやホームセンターや100均ショップ、そしてネット通販etc…を通して我々エンドユーザーの「心地よいオフィス文化」で共存して来た良き流れを、ガラガラと音を立てて崩して行くのか?と思ったりしています。
(世知辛い世の中に…)(何もそこまで…)というイメージを持つのは、文具業界に無縁の素人の浅はかさなのでしょうか?
例えばビジネス/資金の規模で「何でもアリ」として、TOYOTA社が、ブリジストン社を買収してトヨタ自動車の全てにブリジストンタイアを装着=ダンロップやYOKOHAMA、ピレリやミシュランタイヤ装着を排除して、他社の製品を使う自由を奪うかの如くの窮屈さを、疑似比較してしまいました。恐縮です。
勝手な想像ですが、はたしてこのTOBが、コクヨ社の本心からなのか?(本当はTOBしたくないけど…?)それとも裏で別の何か圧力がかけられての行為?(事実は小説よりも奇なり?)と詮索します。
コクヨの便せんで、ぺんてるの筆記具を使って、お世話になった方等への自筆の手紙等を書く時ぐらい、世知辛い/大人げない(失礼)様な事を脳裏に残して、ペンを進めたくはないと思うのは、私だけでしょうか・・・。
TOBという行為が合法的な世の中だからこそ、その行為が与える、人間社会への心理的影響/配慮を察して下さる経営者の会社の製品を、気持ち良く使わせて頂きたい:ただそれだけなのです・・・。
けれど、ぺんてる社の、本件に対するコクヨ社への回答リリースの文面は、「世知辛い」結果をもたらす可能性を含んでいる様です・・・。

投稿: にこらうす | 2019年11月18日 (月) 12時40分

山口先生ご指摘の通りと考えます。

ぺんてるは、PI投資事業有限責任組合がその保有株をコクヨ株式会社へ譲渡することについて、9月24日のぺんてる取締役会で承認して、その株式譲渡がなされている。

株式譲渡制限を付けた純粋な非上場会社の株式公開買い付けなんて、変な話です。株式譲渡制限を付けた会社が、TOBの対象となるなら、ファンドに何時買収されるやら分からないことになりかねない。株式譲渡制限のある会社でも、その株式を株主及び会社と交渉して取得できるのは当然である。しかし、本件のような会社は容認できないと述べているにも拘わらず、実施するのは、腑に落ちないところです。

もっとも、ぺんてるの現株主のなかに3500円ならコクヨへの譲渡に賛成する株主がおられる。コクヨの現保有株37.5%とコクヨへの譲渡株主とをあわせると50%以上になるなら。例え、このコクヨへの株式譲渡が取締役会で否決されても、それ以後の株主総会では過半数をコクヨが実質支配する可能性もある。コクヨとしては、譲渡株主から委任状を取り付ければ良いと思う。

投稿: ある経営コンサルタント | 2019年11月18日 (月) 17時20分

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