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2019年11月11日 (月)

社内調査報告書の秘匿はむずかしい(その2)-積水ハウス提出証拠閲覧制限申立て却下・大阪地裁決定

10月15日の当ブログエントリー社内調査報告書の秘匿はむずかしい-積水ハウス文書提出命令・大阪高裁決定にて、積水ハウス取締役らに対する株主代表訴訟の補助参加人である会社に「社内調査委員会報告書を提出せよ」との高裁決定が出されたことを報じました。しかし、この事件には続編がありまして、その詳細を紹介する記事「積水ハウス地面師事件-【調査報告書】封印の限界」が週刊東洋経済の最新号(2019年11月16日号)に掲載されています。

積水ハウスさんは、この社内調査報告書の中身について「なにがなんでも開示したくない!」ということで、証拠として提出した後も、民事訴訟法92条に基づく(第三者による)閲覧制限の申立をされていたそうです。しかしこの11月1日、大阪地裁は積水ハウスさんの申立を却下、閲覧制限を正当化する理由は認められないと判断したようです。民訴訟92条による提出証拠の閲覧制限が認められる理由としては、開示によって当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じるおそれある場合、不正競争防止法上の「営業秘密」に関する記載がある場合ですが、本証拠開示については否定されています。ちなみに、民事訴訟における訴訟記録については原則公開です(民訴訟92条1項)。

この地面師事件のエントリーの際には毎度申し上げておりますとおり、私は積水ハウスさんの事件遭遇を揶揄するつもりは一切なく、今回の件は他社の有事対応、全社的内部統制の在り方でも参考になるものと思い、ご紹介する次第です。民事訴訟法上の秘密保護の手続きは、大別して①口頭弁論等の手続にかかる秘密保護措置(訴訟記録の閲覧等の制限)と、②文書提出命令等にかかる秘密措置保護とに分かれ、民訴法92条はこの①に関するものです。

結論からみますと(まだ即時抗告によって大阪高裁が逆の結論になる可能性はありますが)、積水ハウスの社内調査報告書については①および②とも裁判所から否定されましたので、ますます「(企業不祥事発生時における)社内調査報告書の秘匿・非開示はむずかしい」と考えたほうがよさそうですね。いや、社内調査報告書だけでなく、適時開示を予定していないような不祥事に関する第三者委員会報告書なども、後日紛争になったときには文書提出命令の対象とされる可能性があると思われます(ぜひ、このあたりは今後法律家の方々の意見などもお聴きしたいところです)。

地面師詐欺事件に詳しい布施明正弁護士(たしか判例時報や経済誌などで紹介されている他の有名な地面師事件の代理人をされている方ですね)が、上記週刊東洋記事で述べておられるように「本件は上場企業で起きた大型事件であり、その真相を記した調査報告書は社会全体の財産」という見方が裁判所の意見に近いものと思います(まだ決定全文は読めておりませんが、おそらく即時抗告審の決定も含めて、また判例雑誌等に紹介されるものと思います)。

いずれにしましても、企業としては「不祥事公表の要否」に関する判断の前に、少なくとも社内調査を行い、その調査結果の報告を受けるわけですから、当該報告書が後日第三者に開示される可能性が高いことを認識しておくべきかもしれません(「べきかもしれません」と書きましたのは、私なりには非公開の調査報告書を作成する工夫の余地はあるのではないか・・・とも考えられそうだからです。ただし、その工夫は新たなコンプライアンス・リスクを顕在化させる可能性もあり、このあたりは思案中です)。

しかし積水さんは文書提出命令事件の主張といい、この閲覧制限申立ての主張といい「関係者のプライバシー保護の必要性」を強調しておられますね。ということは、当該調査報告書の記述の中に、事件の全容を解明する内容だけでなく、なにか「きな臭い」組織内部の紛争に関連する事実なども含まれているのでしょうか?このあたりがナゾでありますが、個人的にはそのあたりを詮索することは控えたいと思います。

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コメント

山口先生の本エントリーでご紹介の文面中「本件は上場企業で起きた大型事件であり、その真相を記した調査報告書は社会全体の財産」という布施明正弁護士のコメントに賛成です。積水ハウス社の関係者としてこの事件に携わった「月給取り」の立場の方達は、出世コースから外れ、減給若しくは役員報酬返上等のペナルティを縮小若しくは消滅させる事が目的の「閲覧制限の申立」としたら、人格的に悲しい事…と感じています。
しかし、本事件で当時者の人達が死刑になる訳ではなく、仮に、「精錬潔白なのに、左遷を含めペナルティに巻き込まれた」としたら、人生これで終り…では無いし、積水ハウス社の「これからはさらに誠実に」に期待したいと思います。
私が報道関係者で、部下にコメントを得る様に指示を出す立場としたら、「出口治明」氏のコメントを取りに行かせます。氏は地方出身ながら関西屈指の大学を卒業/日本生命でエリートコースを邁進中に左遷されますが、「ライフネット生命」を起業し、今は九州の大学の学長になられています。
「きな臭い」組織内部の紛争の有無は計り知れませんが、「誠実さ」からかけ離れた低レベルの組織内部の紛争が日常茶判事的に行われているから、企業の不祥事が後を立たないという一面も存在すると思うのは私だけでしょうか?…。
(僭越ですが)積水ハウス社に大きな汚点が刻まれたのは事実でしょうが、多くが誠実な社員さん達の集合体で在るならば、在り続けるならば、「新生積水ハウス」がSDGs/ESGの模範となる可能性はあるかと、思い願っています・・・。

投稿: にこらうす | 2019年11月11日 (月) 05時57分

経営陣への通報者ながら「調査結果の開示」を拒否されただけでなく、監督省(私が通報、調査協力して、当該企業を処分した)への調査結果情報公開請求を妨害されそうになり。。。
あげく、日本では「当然の如く」不利益を受けたので、政府、関係行政に通報して精神的な支援を受けたのち、監督省に調査結果開示されたら。。。
私からの経営陣への通報経緯が「ごっそり」隠されていて「びっくり」しました(私の実名が伏せられていたというレベルではありません)。
この件も含めて開示内容とともに、政府、行政、経団連や通報した経営陣に善処を要請していますが、遅々として進みません。

せめて「経営陣への通報者」には社内調査結果を開示すべき、また不利益を与えないべき(本当はこっちが当然なのですが、実態は逆です)だと考え、「公益通報者保護法改正」も視野に入れて安倍晋三内閣総理大臣に要請しています。
「視野に入れて」という考え方が、弱いのかもしれません。

投稿: 試行錯誤者 | 2019年11月11日 (月) 20時48分

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