今こそ「フィデュシャリー【信認】の時代」-信認義務の活用に向けて
2016年5月に、こちらのエントリー「監査役もフィデューシャリー・デューティーの時代」にて、樋口範雄氏(東大名誉教授、現武蔵野大教授)の名著「フィデュシャリー『信認』の時代」をご紹介しておりましたところ、このたび内閣府「公益財団法人トラスト未来フォーラム」の役員の方から「絶版となった樋口先生のご著書が、当HPより無料でダウンロードできるようになりました」とのご連絡をいただきました(どうもありがとうございます!トラスト未来フォーラムのHPはこちらです)。以下、同HPの紹介文(引用)ですが、
情報通信ネットワークの浸透、情報格差の拡大、グローバル化と高齢化の進展等を背景に、取引当事者間の関係がより複雑・デリケートなものとなっている中、取引先目線・立場での思考・実践を核とする「フィデュシャリー」に係る考え方は益々重要なものとなっています。樋口範雄教授は、「フィデュシャリー」の概念を広く日本に紹介された第一人者であり、1999年出版の本書では、信託を代表とする「フィデュシャリー」の意義と広がり等について分かり易く解説されています。「フィデュシャリーの時代」がいよいよ本番を迎えつつあるとも言える今、本書のご一読をお勧めします。
たとえば、このたびの会社法改正では「社債管理補助者」という制度が新設されますが、その権利・義務の内容を「信認義務の法理」を参考にして現行の「社債管理者」制度と比較しますと理解が進みます。また、日本ではGAFAに代表されるプラットフォーマー規制に向けて行政(公正取引委員会)が動いていますが、米国では「情報フィデューシャリー」として、プラットフォーマーに信認関係における受認者の責任を認める学説が有力に唱えられています(無体財産規制と同様、いわゆる民民規制によって行政目的の実現を目指す)。信認関係の法理をデータ保護の世界にも適用することでプラットフォーマー規制の実効性を上げるという考え方は、今後国際的な規制の標準化に役立つのではないかと思います。そして、日本の監査役さんの職責を論じるうえでも、とりわけコンダクト・リスクへの対応が求められる昨今、ますます「信認義務」の発想が必要になってきていると確信します。
有斐閣さんと樋口先生のご協力のもと、信認義務や信託法理論をわかりやすく解説している本書が無料で読める!というのはなんとも素晴らしい。もちろん(出版時以降)信託法などは改正されておりますが、信託法理や「信認義務」を理解するには必読の一冊です。司法の世界にもAIが活用されるようになれば、日本でも判例の集積が企業実務に及ぼす影響が高まります。「監査役等に期待される行動とは何か・・・」個別具体的な事案に沿って信認義務の内容を検討することは、デジタル時代の監査役等の行動規範を形成するには有用な理論だと考えます。
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コメント
山口先生の今回のエントリー/プレイバックとして、2016年5月の「監査役もフィデュシャリー…」の再読と併せて拝読しました。ご紹介ありがとうございます。
「大機小機」ファンの末席の一人ですが、当時のエントリー再読で感じたのは、「「法的責任を超えた誠実義務」」という一節です。
フィデュシャリーの詳細は先生にお任せするとして、日頃私たち大人は学生/子供たちに「誠実な人間でありなさい」と躾ているくせに、自分自身に不利な事がふりかかると…どこまで誠実でいられるのでしょうか?と。
数年前に拝読した、高巌氏の著書の中でも「合法(的)だが誠実でない…」という企業の姿勢に問題提起をされていらっしゃったかと記憶しています。
週末に知人が某回転寿司チェーンで夕食をした際、これまで毎回定番注文して来た一品の盛付け量が減少、人手不足?多忙?を理由のずさんな握り/盛付けにうんざりしたそうです。消費税率の8%→10%変更の裏側で、(官民問わず)姑息な業務言動が意図的に展開をしているとしたら、(飲食業界に限らず)カスタマーに対して不誠実連発のしっぺ返しが、やがて大きなうねりとなって業績下降及び上層部失脚という形でのしかかってきているのは、昨今の、「止まらない不祥事」が鮮明に表していると思います。
(内心は相手の立場に立って誠実に対応したいのに)上司が、それをさせてくれない」職場が多発しているのが現世ならば…明日週明け月曜日:どこかの鉄道/沿線で、「また人身事故で列車遅延…」が発生しない事を、願っております・・・。
投稿: にこらうす | 2019年11月10日 (日) 19時52分