業務上横領事件に日本版司法取引3例目-取引を行った社員も解雇されるのは必然か?
すでに報じられているとおり、東京都内のアパレル会社の社長らが業務上横領(会社資金の私的流用)容疑で逮捕されました。逮捕されたのは同社代表取締役(すでに解任)と同社取締役の2名ということで、同社の経理担当社員が(11月に)東京地検と司法取引の合意を行ったそうで、不起訴になることが予想されます。ちなみにこの経理担当社員は(朝日新聞ニュースによると)取締役からの指示で虚偽の帳簿を作らされていた、とのこと。
ところで12月5日の産経新聞ニュースによると、司法取引を行った経理担当社員は強制捜査の後に解雇されたそうです。司法取引は他人の犯罪事実を申告して自己の犯罪事実の免責を受けるという制度なので、会社にとっては不正行為の片棒を担いだ社員には変わりはなく、就業規則違反を根拠に厳しい懲戒処分(懲戒解雇)を行った、というところでしょうか。
しかし、代表取締役から指示を受けて不正に加担する経理担当社員としては、おそらく指示を拒絶しても退職勧告(事実上の解雇)、指示どおりに動いても(今回のように)解雇、さらには内部通報をしない(見てみぬふりは就業規則違反)という不作為についても、そもそも会社の代表者の不正であれば通報しても退職勧告(不正を握りつぶされて退職強要)、という状況だったかもしれません(あくまで推測ですが)。
つまり、経営者から違法行為の実行を依頼された経理担当社員は、どんなに会社に残りたくても残れないというのはどうなんでしょうか。もちろん「そんな会社、自分から辞めたほうがマシ」ということで退職する分には良いとしても、解雇となりますと退職金の支払いにも影響するはずです。
また、「代表者から『不正の手助けをしろ』と強要されて困っている」と相談できる監査役のような方がおられれば(つまり日産事件の司法取引と同じ状況であれば)別ですが、おそらく社長の不正を自ら調査し、社長を糾弾できるガバナンスは同社には期待できなかったものと推測します。
以前、大阪市環境局の職員が、自らも不正に加担していたところ、大阪市に内部通報を行いました。大阪市は懲戒解雇としましたが、当該職員が裁判で処分の取消を争い、「たしかに不正に加担していたが、彼の通報がなければ不正を根絶することはできなかった」という理由で勝訴(解雇処分の取消し)しました。
内部通報と司法取引とは明らかに性質は異なりますが、この経理担当社員の取引によって当該アパレル会社は不正を根絶できたのです(彼が取引をしていなければ、司法捜査の可能性も乏しいため、今後も何倍もの会社資金が失われていたものと推測されます)。ということで、懲戒処分は当然としても、解雇処分以外に方法はなかったのかどうか。個別案件にはそれなりの特殊事情があったのかもしれませんが、一般論としてはやや疑問を感じるところではあります。
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コメント
山口先生 おはようございます。いつも有難うございます。先生のブログで取り上げていただきたいテーマは山ほどあります。最後の段落にあります点は、私のテーマであります。人間は、判断を誤ります。そして、人事の処遇は誤った方向に向かいます(多くは)。温めていたものは、社会正義の実現のために政府の保障事業として、基金を創設する。正しい行いをする者、また、当初は誤ったけど改心して事件解決の貢献度(寄与率)の高いものまでを拡大して救済していくのがよろしいのではないでしょうか?会社に残りたい方には、絶対に冷や飯を食わせない。いじめ抜く文化を根絶すること。まだまだ議論の余地はあるようですが。
投稿: サンダース | 2019年12月12日 (木) 06時28分
少し外れますが、この経理担当社員のケースに限らず、経営者や幹部の方にとっては、黙って指示に従う社員の方が使い勝手がいいようです。自分の頭で考える社員は扱いづらいようです。(その割には、実務上の問題が発生したときは、自分の頭で考えろと言われますが。)そのような経営者の会社では、内部統制を構築していても、黙ってハンコを押せとか、適当に証跡を揃えろというようなこともあるようです。巧妙に不正を仕組まない会社でも、そのような担当社員への圧力は、普通に在るような気がします。不正に敏感な社員にとっては、実害が無かったとしても、メンタルなストレスの日々かと思われます。法の話しでは無くてダークな日常領域のコメントですみません。
投稿: しがない元会社員 | 2019年12月12日 (木) 19時46分
「いじめぬく文化を根絶すること。」でした。失礼いたしました。
投稿: サンダース | 2019年12月12日 (木) 23時05分
最初から不正の片棒を担がなければよかっただけなのではないでしょうか。建前論かもしれませんが……
投稿: とおりすがり | 2019年12月14日 (土) 20時38分
日産のハリ・ナダ専務は解雇されてませんね。
それどころか10月まで法務部門の責任者でしたよね。
泥〇が警察やってるようなものじゃないですか?
司法取引して不起訴でも犯罪者には変わりがないのだから普通は解雇ですよね。
未払いの役員報酬も費用計上して支払わないというインチキしてますからね。
普通はそんな報酬は法的有効性もないから無効、退任後もコンサル契約も競合他社に再就職しない契約金も支払わないでいいですよね。
ゴーンさんが民事裁判仕掛けてきたら、そこで検察が動いても遅くないですよね。
このインチキ事件の裁判が楽しみです。
投稿: unknown1 | 2019年12月16日 (月) 13時43分