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2020年1月27日 (月)

第三者委員会報告書公表後わずか2年で不正開始?(NOSの架空循環取引事例)

1月24日の日経ニュースによりますと、東芝子会社の東芝ITサービス(川崎市)を巡る架空取引で、東証1部上場のシステム開発会社、ネットワンシステムズが主導的な役割を担っていたことがわかった、と報じられています。しかも架空取引は遅くとも2015年に始まり、総額で400億円を超えていた、とのこと。

当ブログの常連の皆様ならご記憶あるかもしれません。そうです。ネットワンシステムズ社といえば、2013年の会計不正(幹部社員が他社と共謀して起こした横領)事件で7億9000万円ほどの損害を発生させてしまいました。当時の第三者委員会報告書がとても秀逸で「経理財務部門・内部監査部門必読!NOS第三者委員会報告書」なるエントリーで事件をご紹介しましたね(しかし昔はずいぶんとエントリーが長かったなぁ)。

たしかネットワンシステムズ社は、この2013年報告書の事例を教訓として、その後、某監査法人系のアドバイザーのもとで「二度と不正会計に手を染めてはいけない!不正を根絶できる体制を築かねばならない」ということで、社を挙げて内部統制システムの向上に取り組んでおられたように(風のうわさで?)お聞きしておりました。

しかしながら、前回の不正と同様、今回も(不正の種類は異なるものの)国税の調査で指摘を受けて発覚した、とのこと。これでは全く自浄能力がないことを示してしまったようで、たいへん残念であります(これが「内部通報を端緒とする社内調査で発覚した」ということだと「なるほど、前と違って自浄作用が機能したのだな」と評価できるのですが・・・)

全社挙げて不正防止に取り組む姿勢は真摯なものであったに違いありません。ただ、それでも第三者委員会報告書が公表されたわずか2年後から架空循環取引が始まっていたとなりますと、やはり「会計不正は蜜の味」なのでしょうね。以前、アイ・エックス・アイ社の架空循環取引事件に関わった経験からすると、架空循環取引は本当に発見が困難です。「怪しい」と思える取引を「怪しい」と口に出して調査できる環境がなければ内部監査も機能しないのではないでしょうか。

「間違っていたらどうしよう・・・」と思うと、誰でも「怪しい!」と人前で口に出すことに臆病になります(私もそうです)。しかし架空循環取引かどうか、調査をする中での教訓は「人は嘘をつくのは簡単だが、過去に嘘をついたことを憶えているのはむずかしい」ということです。ていねいに調査をすれば、関与者はどこかでボロを出します。また嘘の上塗りには協力者が必要ですが、そこでも協力が得られず取引に破たんを来すことも多いようです。

昨日(1月25日)、日経新聞朝刊15面に「不適切会計最多に 昨年3割増の70件に」との見出しで、上場会社で開示された会計不正事件が極めて増加していることが報じられていました。発覚まで5年ほど要する事例が多い状況からしますと、まだまだ現在進行形の発見されていない会計不正事件はたくさんあるわけでして、これからも監査法人への内部告発や国税の告発によって表に出てくることが推測されます。機関投資家の皆様が、企業のリスク情報に関心を抱くのも当然ですね。

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コメント

「…まだまだ現在進行形の発見されていない会計不正事件はたくさんあるわけでして…」と山口先生が記された文面の箇所に目が止まりました。
国税局の懐にも、告発準備段階の案件も多数存在していると想像します。(担当人員と活動予算にも限りがある故、いきなり全てを告発…という訳にもいかないでしょうし。)不適切会計問題を大量公開する事による、株価の下落等は、最終的に企業/国家のイメージダウンだけでは済まない危険性を含む…?

(対応されているのは、氷山の一角に過ぎない…?)

「 VIRUS 」というサブタイトルのついた作品/DVDを再見チェックすると、原作者の先見性ある危機管理提唱に気付かされています。
東西冷戦時の核ミサイルに替わる、ウィルスを遺伝子操作しての生物細菌兵器が、研究所から盗まれ、逃走中の事故で保管容器が破損/漏れ出て、春の雪解けと共に脊椎動物を死に至らす猛威をふるう…。
紅蘇省の農村の家畜から、全世界に拡散された病原菌は「(何故か)イタリアかぜ」と称され、違法に開発した某大国の軍の管理職は、内部告発しようとした医師を精神病扱いして軟禁してしまい、(大統領への報告がされず)ワクチン対策が手遅れとなり、人類は、(超低温地域では菌は休止するので)南極基地の隊員800名しか生存出来なくなる…。
(いま拡散の一途である新型肺炎と、病状レベルこそ違うものの、酷似している状況推移に、私の憶測は「間違っていてほしい」と思って記しています)(「怪しい」と人前で口に出すのを臆病になる心境含め)
けれど、日毎に患者/死者が世界各地で増え、中国政府が移動禁止命令とか、各国政府主導のチャーター機で感染地域脱出との報道が続くと、人口1,000万人の都市で、民族大移動を直前に控えた時期の、隣国の発症は、一体何を意味するのでしょう?

(上海のディズニーランドも閉鎖(?)とか)

上記作品では、南極隊員の一人に、現千葉県知事の森田健作氏が出演されていますが、仮に国内の同等娯楽施設も閉園に及ぶ様になったとしたら、氏はどんな気持ちになるでしょう。
上場/非上場や規模の大小に関わらず、机上の数値の不適切会計という行為は言語道断ですが、世の中の経済活動が正常に機能してこその、企業の健全な数値。企業のリスク情報開示と税収にも影響する課題への対策…新型肺炎がビジネスに及ぼす悪影響は、一体どこまで続くのでしょうか/(多くのビジネスには直接関係しないけれど)検疫法等の改正が急務だと思うのは私だけでしょうか・・・。

「理性のある人間だけが、権力(担当責任)を握るとは限らぬ…」

という、出演俳優のセリフが、脳裏に残っています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年1月27日 (月) 10時43分

記事拝読しました。2007年(IXI循環取引事件)、2013年(十六銀行詐取事件)と大きな不祥事を経験しながらも、なぜまた大規模な不正が繰り返すのか?過去事案では、不正実行者の【私利私欲】が主因と結論づけてきたが、全ての事案で、数年間という長きにわたり不正処理が継続されており、驚くべき金額に膨れ上がったのちに発覚している。

2007年、当時のカリスマ的社長側近格の部長による【循環取引】
2013年、金融業界むけ営業スペシャリストと言われた本部長による【詐取、業務上横領】
2019年、【第三者委員会の報告待ち】

3つの不幸には共通点がある。一つは、国税の指摘によって発覚している点。現場のコンプライアンス意識の欠如、徹底不足とともに、ガバナンスの機能不全が強く疑われる。実態はどうなっているのであろうか。

案件の受注承認は、現場の部長(営業職)と副部長(技術職)がワンセットとなり営業的かつ技術的なリスクを確認査定のうえ採算性を担保し、本部長または副本部長に上申し、経営陣が最終承認を行う。大型案件において、担当者は部長承認を得られれば、その後の承認主体は実質的に部長に移り、本部長や経営陣との折衝主体となっている。超大型案件においても、第三者をオブザーブする審査会は行われていない、もしくは機能不全に等しい。おそらく、幹部会、経営会議において部長以上による口頭報告と質疑応答に終始しており、直接の利害関係から独立させた人間による客観的審査はほぼ機能していないと思われる。確認事項が増え、煩雑になりがちな第三者による審査プロセスは、社外折衝や業務処理のスピード感には負担、不利であり、多くの営業は回避しうるなら回避したいと考えてもおかしくない。また副部長は技術職、SEが務めており、営業職が担う部長を補佐し、技術的リスクを助言、サポートする役割であるのだが、日常の多くにおいて不足しがちなSEの確保、委託先の管理監督業務といった目先のやりくりに終始することが多く、技術的観点からの案件精査すら十分に実施されていない案件も散見され、案件背景や情報共有の機会を逸し、場合によってはマジックワード【営業責任において】という表現をもって、技術的に精査不足な案件が受注されている可能性もある。今回の不祥事では副部長に代表されるSEにおいて何年もの間、本当に違和感がなかったのか、疑問は残る。また、受発注を管理する業務部や監督する監査室にも疑念を払拭しきれない。10年、20年という長き期間、当該業務を経験したレベルになると、業界で発生しうる不正、通し取引、循環取引等を、独特の嗅覚をもって感じ取るケースも少なくない。不正実行者の社内ネゴが驚くほど卓越していたのか、あるいは疑念を口にできない雰囲気があったのだろうか。

もう一点の共通点。3件ともに経営陣の信頼が厚く、業績や評価がともに高かった人間や部署で起きていることだ。2013年の不正実行者はその典型と言える。在職中、気に入らないことがあると「社長にチクるぞ。社長の自宅にお邪魔したことあるのはオレくらいだ。」と稚拙で恫喝まがいの言動、行動を頻発させていた。傍若無人がなかば常習化し、上席である経営陣でさえ手を焼いていたと思われる。社内の多くが
”社長のお気に入りに手を噛まれたくない、関わりたくない”と感じていた可能性もある。今回においても、担当者は長く深く公共案件に携わり、かたや部長、本部長は地方支店から本社に抜擢されたり、一部の経営陣同様に主要取引先からの移籍であり
”将来の役員候補であろう”
と周囲が斟酌していた可能性はあり、当人達も平常以上に実績確保が至上あるいは意欲的であった可能性は否定出来ない。むろん不正にどこまでの認識や関与があったのかは甚だ不明であり、調査委員会の報告を待つしかない。当然、彼らの主張もいずれ公開されるべきである。だが、これほどの不正を見逃してきたこと、承認し続けることで不正を拡大させた事実だけは免れようなく、人望や人脈、といった軽い言葉での同情や容認には至らない。公器である一部上場企業に強く要請されるコンプライアンスは、幹部社員に論を待たないはずだ。

2013年の事案をふまえ、監査法人系コンサルによる業務プロセスの棚卸を受けた。その印象はまさに棚卸であり、SI用語での丸投げ、アウトソーシングの雰囲気が強く、現場担当者にいかなる改善をフィードバックできたのであろうか。現場から見ると、受注金額に応じて承認のレベルを底上した程度でお茶を濁していなかったか。今回、明らかに機能せずという結果を招いた。本社管理部門の取り組みも、啓蒙周知活動をどの程度継続させ、工夫しつつ取り組んできたのか。仮に全てを現場の暴走に問うのであれば、管理部門は定性的、定量的に達成度を測定し自ら課したチェックポイントを全社で共有してきたはずで、そのエビデンスを速やかに公表すべきである。なにより、危機感をもってガバナンスの強化と定着を達成すべく、経営陣の関与とリードが圧倒的に不足していた誹りは免れない。同時に、取締役を指導監督すべき取締役会や社外取締役の責も免れるべくもなく、そもそも十分に機能しているかすら疑念をもたれかねない。日常的に使われる権限移譲という言葉は、責任を分散し希薄化する都合のよい道具ではないし、任命責任という言葉も多用されるが、それが最終的にどこにあるのか、多くの社員にとって自明である。

強権な経営者とその任命を得た管理職の忖度、マネージメント次元が上がるほど違和感を率直におかしいと言えない雰囲気、数字ありきや人物の好き嫌いが顕著な風土、誠実さ公平さに欠ける言動や恣意的な処遇等、何かがどこかで恒常的に起きていたのではないか、という意見もある。根拠なく不当であると断ずるのであれば、第三者に託しプライバシーに十分配慮したうえで、適切な形で全社員の意見を求めてみてはどうだろう。その結果を実直に公表すれば、ステークホルダーにとって将来への期待に変わりうる第一歩になるかもしれない。この期におよんで、責任感と誠実さはまだ残っていると信じたい。

10年、20年の長きにわたり、ロゴ、CIは変えてきたが、社会に要請される風土改革はおざなりではないか、改革への行動は徹底されていたのか、と指摘されれば返す言葉が見つからない。ステータス高く、アクセスの良い本社への移転やテレワークの積極導入で、働きやすくなった変化は享受してきたが、反面、何度もあった風土改革のチャンスは生かせず、わずか一週間で企業価値の半分を損なうという、稀にみる厳しい代償を払う事態を招いた。株主のみならずステークホルダーたる全社員にも、説明を求める強い動機と権利がある。従来より繰り返す、不正実行者の資質や人格の瑕疵に留めおかず、公器として全ての社員と経営陣に役割と責任が明確に規定されている以上、全てのステークホルダが信任しうる改革案の公表が求められ、涙や血を流しうる覚悟をもって真摯愚直に遂行し風土改革に臨まなければ、レゾンデートル、社員のコミットすら取り戻せない。

最後に、襟を正す意味で厳しい表現も一部含めた。いかなる個人の誹謗中傷も意図しません。当局や株主が判断すべきは委ねるしかありません。ここでは一つの光景、一つの内省を超えるものではなく、事実と相違する部分が含まれる可能性があります。その点をふまえ、読まれる方の判断と責任に委ねます。人間、法人に共通して言えることだが、言動ではなく汗をかいた行動のみに注視し、今後を見守りたい。

投稿: リンカイマン | 2020年1月31日 (金) 12時36分

リンカイマンさん、どうもありがとうございます。アイ・エックス・アイの件は、(立場上)私自身も本文で触れることはしませんでしたので、補足いただき、感謝いたします。また、私が知らない社内のご事情もご紹介いただき、本件を考える参考となります。ぜひ、多くの方に閲覧していただければと思います。

投稿: toshi | 2020年2月 1日 (土) 02時00分

「コンプライアンス意識の欠如」「ガバナンス機能不全」が改まって「コンプライアンス意識満開」「ガバナンス機能全開」になることは永遠にないでしょう。
「リンカイ」マンさんも心の底では満開、全開を理想とされていると思いますが、実際に「血涙、振り絞る」のは経営再建する経営者ではなく、不利益受けた「公益通報者」です。冷や「汗」かきっぱなしです。。。
氷山の一角が顔を出すたび、壊れたオルゴールにように鳴り響く「コンプライアンス」「ガバナンス」ゼロの言い訳メロディー。
トップに物言えない風土の永劫、永久性。
特に長年の組織的不正を通報した際の不利益は、筆舌に尽くしがたいものです。
上司に潰され、経営トップに通報し、一生懸命調査に協力し不正が発覚すると、通報者を待っているのは「この世の地獄」です。
通報が発覚後、「不正を発覚させられた大多数からの恨み」が、不正を是正させた通報者に向きます。経営トップからの保護もなく、とても怖い思いをしました。
監督官庁の調査にも、血と汗と涙(鼻水も)を振り絞って協力しています。
絶望!感に包まれながら、政府、行政、経団連会長、経済同友会代表幹事との情報共有・連携・試行錯誤に努めてまいります。
政府、行政、経済界には「公益通報者」の話を、しっかり聴いてもらいたいです。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年2月 2日 (日) 09時32分

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