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2020年2月12日 (水)

会社は誰のものか-経済事件から考えるコーポレートガバナンス

ネット通販の「送料無料プラン」に関する公正取引委員会VS楽天のバトルが熱くなってきました。両者の「優越的地位の濫用に関する哲学」論争は、企業コンプライアンスを考えるうえでたいへん興味深いですね。

昨年、楽天は「楽天トラベル」運営上の問題については、確約手続をもって公取の考え方に賛同していましたので、決して独禁法コンプライアンスに後ろ向き、というわけではないようです。ただ今回は、バトルを繰り広げるなかで、公取委とWIN・WINの関係を築きながら(まともに勝負できる相手ではない)GAFAに対抗していく考え(方針)ではないかと推測いたします。

願わくば、「楽天ユニオン」側にも、また楽天側にも、公取委で何年か審査官を務めた経験のある弁護士さんが代理人に就任すれば、さらに面白いと思います。このブログが15年来、ずっと唱えてきた「闘うコンプライアンス」(儲けるためのコンプライアンス)の典型例であり、最近の金融庁の課徴金処分のように「行政側が勝ったり負けたり」するなかで、健全なリスクテイクを後押しする法ルールが(ビジネスの世界で)形成されることに期待します。

414wfekqotl_sx342_bo1204203200_ さて(ここから本題ですが)、当ブログを御覧の皆様に、かなり関心が高いテーマを扱った本が出版されましたので、ご紹介いたします。2月12日に発売ということですが、著者より献本いただき、さっそく通読いたしました。

会社は誰のものか-経済事件から考えるコーポレート・ガバナンス(加藤裕則著 彩流社 1,700円税別)

朝日新聞経済部の記者として、長年、日本企業のガバナンス、監査制度、経済事犯を研究・報道してこられた加藤さんの新刊です(単著は初めてではないでしょうか?)

本書で取り上げられている経済事件はオリンパス、東芝、日産(ちゃんと逃亡の事実も記載あり)、関電、スバル(品質偽装)、その他ですが、それぞれの事件で登場する人物は、加藤記者が興味を抱いた人たちなので、事件を通じて浮かび上がる論点がとても新鮮です。語られる情報は(記者さんなので当然といえば当然ですが)一次情報であり、また意見もはっきり述べられているので(賛同するか、異論が出るかはわかりませんが)、あらためてガバナンスや内部統制について考える契機となりました。ちなみに「終わらぬオリンパス事件」とありますが、そういえば「別のオリンパス疑惑」について、株主の権利弁護団が動き出したようですね。。。

なかでも日産ゴーン氏の事件については、「加藤さんらしさ」が前面に出ていておもしろい。実はゴーン氏の業績連動報酬部分が「0円」と記載されていることに違和感を覚えて、事件の数年前に日産に問い合わせをしていた方がおられたそうです。そのあたりから、(取材を通じて)日産の役員報酬の「ナゾ」について語られることになり「いま、ゴーン氏がいたら、個人別報酬額の上限枠と連動報酬制度との関係についてぜひ質問したい」と、私も思いました。

経済事件との関連やガバナンス最前線の話題として、日本公認会計士協会や日本監査役協会の活動状況なども出てきます。私は関西在住なので、そうそうおもしろそうな東京のシンポには出席できないのですが、この本では、その時代のキーマンの方がシンポでどんな発言をしていたか・・・といったことにも焦点が当てられていて「なるほど」と何度も頷きました(後半部分に少しだけ私も登場しますが・・、ちなみに帯に出ている「会社における民主主義と立憲主義」というフレーズは、あるキーマンの方の発言でして、私も「なるほどウマいなぁ」と強く頷きました)。会計士協会も監査役協会も、「自分の首を絞める」ことを覚悟のうえで(?)、ぜひ会員の方々に一読をお勧めしていただきたい!

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コメント

(楽天球団でも、名将采配を振るわれた、野村克也氏の訃報に、黙祷の気持ちを含め)

物事:特に勝負事に、勝った/負けたはつきものですので、お互いが、持てる知恵と工夫で、
勝利を勝ち取る合戦を繰り広げる事…それ自体に異論はございません。
ただ、その合戦に、予想以上に振り回されて、損失や浪費の渦に巻き込まれるとなると、話は別です。
個人的に「三方よし」を推進する者としての末席からのコメントです。

(送料無料プランは、社会的費用は「ゼロ」なのか?)

楽天社に限らず、ライバル:Amazon社はじめ、三木谷氏が目指す目標=送料無料プランは、一定の購入額など、
条件を満たしての恩恵として、購入者が「得をする」様な形のシステムです。
しかし、その送料無料の購入品は、一体誰が届けるのでしょう?
少なくとも、楽天社のスタッフが歩いて届ける訳ではないでしょう。
箱詰めされた商品は、例えば、ヤマト社の宅急便など、化石燃料使用のトラックで物流センターでの分類を経て配送〜
オフィス街ではリヤカー使用もありますが、不在=再配達のリスクを負いつつ、エンドユーザーの手元に届きます。
当然人件費、燃料費等も含まれ、SDGsの促進に逆行する様な、広義の社会的費用を誰が負担するのか?という視点も、
持続可能な社会形成の急務が第2ステージに入ったかの如くの人間社会で、問われ出したと考えます。

(アメリカの郵政公社の惨状を知る者として)

(注:名称が間違っていたら申し訳ありませんが)日本の郵便事業に相当する、アメリカにおける郵政公社の、取扱う品物の大半が
Amazon社からの委託商品で、その公社との契約が、賃金にあまり反映していない(?)配達職員を過剰に圧迫しているとのこと。
「もう勘弁してくれよ!」との窮状らしく、配達職員は、嬉しい悲鳴の限度をはるかに超えている、物量の多さだそうです。
そうなると、誤配はおろか、密かに不配達という、どこかの国の郵便局員の体たらくと同様のリスクが、購入者と、商品会社、
そして委託会社の信用失墜リスクに至ります。「三方よし」の、真逆です。
そんな配達職員が、果たして、Amazonサイトで気持ちよく、一人の個人として商品を購入する気になるでしょうか…。

(大阪メトロではございませんが…。)

某鉄道会社では、「鮮魚列車」と称して、魚介類を鉄道で「ウエロク」まで定期運行して数十年経ちます。
国土交通省が推奨する一つ…「モーダルシフト」「貨客混走」の先進例です。
又、朝日新聞はじめ、新聞類も、地方の販売店に届けるまでの中継方法として、乗客の少ない時間帯に、客車使用で夕刊等が運搬流通しています。この新聞類も、購読料金の中に送料が含まれているので、各家庭/オフィスに届く際、
その都度「新聞配達料」などの名目で、徴収:支払をしている場面を見ることはないでしょう。
(各戸、各社への新聞配達ビジネスモデルこそ、送料無料プランの先進例では?)
(大阪メトロでも、貨客混走をされているのでしたら、知識不足で申し訳ありません)

(ー間接的社会費用は、誰が負担するかー)

EV乗用車市販で業界の雄となったゴーン氏のゴタゴタ騒動:真相は未だ闇の中ですが、
イーロン・マスク氏率いる会社の時価総額が突出して来た様に、国内のクルマ業界は、(「誰のものか」議論を含め)
新型肺炎リスクも併せ、どこかのどなたかの描いた様には進んでいない様相かと察します。
故に、山口先生の本エントリーでの、公正取引委員会VS楽天に、更なる鳥瞰的視野議論をと、願っています。

(You cannot see the wood for the trees.?)

Jリーグ/ヴィッセル神戸に昨年、スペインのスーパースターが加入、その歓迎イベントをスタジアムで拝見すると、贔屓の組織の勝利を願い、
相手の敗北を「どうだ!」とねじ伏せるのは当然かと思います。
けれどそれは、後腐れの無い、スポーツ競技の一戦一戦の中だけで済ませて欲しいと思うのは、私だけでしょうか。
(プロ野球:甲子園球場における、7回裏=ラッキーセブンの風船飛ばしでの応援行為も、エアロゾル感染の疑いで自粛?)
(それぞれの組織における、末端支援者、従業員のモチベーションを下げてまで、意地を張るのが得策かどうか?)
対峙する当時者両者のお立場は理解しますが、仮に、対峙行為に起因する「異臭」を周囲にまき散らす様な、大人気ない事だけは、
避けて頂きたいと、(双方から支持尊敬されるMF的な存在の登場と併せ)願っています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年2月12日 (水) 09時11分

楽天の送料無料の強行の件は、昨年のコンビニFCオーナーの反乱と同じように、狭義のコンプライアンスというよりは、過日、山口先生がブログで紹介された

「コンダクト・リスク」

の好例だと思いました。たぶん、楽天サイドが法的にはシロとなっても、悪評が立ったことで今後のビジネスに悪影響が出るかな、、、と。こう書くと「レピュテーション・リスク」と書けばいいように思いますが、商品であるとか提供しているサービスではなくて、「会社の振る舞い」そのものが問われているので、まさしくコンダクト・リスクだなぁ、と感じています。

ブログの本題ではなく枕の部分への反応でスイマセン。

投稿: しがない内部監査員 | 2020年2月12日 (水) 12時18分

書店にあったので購入しました。
「渋沢栄一とコーポレート・ガバナンス」の章をまず拝読し、「論語と算盤」「「良心」から企業統治を考える」も読みたくなりました。
「良心」は大切だと思いますし、「信じたい」と思います。
「三方よし」や関経連、経団連の方の考えも記されていて、新一万円札の渋沢翁も興味を持たれるのではないかと思いました。
以前、東京駅八重洲側の書店で加藤様御登壇のイベントを拝聴しましたが、山口先生も東京出張に合わせて着席されていました。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年2月12日 (水) 19時18分

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