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2020年2月14日 (金)

浸透するか?-ガバナンス改革3.0と上場子会社が目指す「アスクルモデル」

本日も日本監査役協会の研修にて、ヤフー・アスクル事案を取り上げて、監査役・監査(等)委員の有事対応をお話しておりましたところ、事務所に戻っておもしろい記事を見つけました(ヤフー・アスクル騒動、ここへきて「火中の栗を拾った人」たちの事情)。

昨年の支配会社(現Zホールディングス)との紛争の後、社外取締役が一人もいなくなってしまったアスクルが、3月に臨時株主総会を開催して、新たな社外取締役を選任する、とのニュースは(ちょこっとだけ)知っていました。しかし、上記のような事情があったことは全く存じ上げませんでした。アスクルのリリース「暫定)指名・報酬委員会「報告書」等および独立社外取締役候補者による「抱負文」に関するお知らせ 」は、なかなか斬新で興味深いところです。

とりわけ社外取締役候補者4名の「抱負文」が開示されている点が斬新です。その中のおひとり、元経営者(楽天の創業者のおひとり)でいらっしゃるGさんの以下の宣言が注目です。支配会社であるZホールディングスも、この宣言を理解されて、候補者として承認をされたのでしょうね。

1) 通常の意思決定において・・・可能な限り親子のベクトルを合わせるよう取り組むべきです。それにより、シナジー効果を得られるので、上場子会社単体の部分最適が親会社グループの全体最適に繋がるよう、自身の知見を提供していきます。

2) 親子の利害が異なる場合・・・上場子会社単体の部分最適を親会社グループの全体最適よりも優先させます。少数株主がいる以上、親会社への貢献は上場子会社の価値向上を通じて提供することを原則とすべきです。

企業統治改革3.0の時代は、個々の企業への敵対的買収やMBOを通じて、マーケットバリューをいかにして上げるか…という視点から、企業間におけるヒト、モノ、カネの流動性(市場の効率性)を高めることに関心が寄せられます(メガバンクの資金がファンド・事業会社を通じて投入され、大手証券会社がなりふり構わず買付代理人を務める時代です)。

そうなりますと(受け皿として)永続的にせよ、一時的にせよ、親子上場や支配・従属会社関係が増えざるを得ないわけで、「少数株主保護のための市場環境の整備」は待ったなしの状況です。アスクルでは10名のうち4名が独立社外取締役となるわけで、アスクルの株主としては「平時」と「有事」の使い分けができる社外取締役に期待が集まるものと思います(といっても、やはり利益相反状況が顕在化したときの支配会社の態度、従属会社の取締役の態度にこそ真価が現れる、と思いますが・・・)。

親会社、子会社双方の事情を十分に斟酌して、グループ全体としての企業価値向上を目指すバランス感覚と、どうしても利益相反が顕在化してしまう場合の身の処し方を共に兼ね備えている方にこそ、多くの上場子会社(上場従属会社)の社外役員に就任していただきたいと願います。そういった意味で、この「アスクルモデル」が、他の上場会社に広く浸透していくかどうか・・・、今後注目しておきたいところです。

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コメント

暫定ながら、「指名・報酬委員会「報告書」等および独立社外取締役候補者による「抱負文」に関するお知らせ 」
中の別紙5/「抱負文 高 巌 」…に驚きつつ、山口先生の本エントリーを拝読しました。

私的回顧で恐縮ですが、氏が澤大学国際経済学部教授時代の「誠実さを貫く経営」という著書を、日経の書評欄で知って購入以来、インテグリティ=高先生と、脳裏にインプットされた当時を思い出しています。
(Amazonで、「単行本 ¥24,408より」と表示されているのにもビックリですが)

その後、様々な要職を経ての、今回の就任/抱負文に触れますと、山口先生の本エントリー内容に、個人的に更に記述価値=拝読して良かったと、思っています。感謝です。

昨夜(2月13日)夜に、北海道沖でマグニチュード7の広範囲地震が東日本で発生しましたが、
活発化する地殻変動に注視するよりも、今は新型肺炎報道が「激震」状態の様です。
(和歌山の医師も感染、東京都内のタクシー運転手も感染、千葉の20代も感染、そして、とうとう重篤患者が亡くなられた…。)
地上と地下でそんな「非常事態」的なのに、メガバンクや大手証券会社は「非情」的な「オカネ転がし」に熱中して行くのですね…健康あっての企業存続(ヒト・モノ・カネの流動性)/お金なのに。

(子は、親を選べない?)

昨夜(2月13日)の報道では、国会の質疑応答騒動も活発に流れましたが、
国会議員と国民を、親子関係に例えるとしたら、首相(父)の言葉に、野党の女史(母)がまるで夫婦喧嘩をしているかの如く映りました。(同胞的視点とも言えるかも)(祖国をはじめ、隣国他国の外国人含め、多くの人を不安に陥らせている最中に)

(厚労省大臣が朝令暮改を繰り返す日々?)

権限こそあれ、会見用の作文類は、おそらく部下/関係省庁の情報をまとめたもので、
それらを作成する職員達は、たまったものではないかと。
各省庁内部や医療関係者から「いいかげんにしろ!」という怒りの声が聞こえて来る様です。

(不祥事の多かった相撲の用語を引用するのは本意ではありませんが)

山口先生のおっしゃる「親会社、子会社双方の事情を十分に斟酌して、グループ全体としての企業価値向上を目指す・・・」が広く浸透してこそ、真のインテグリティ効果ある経済社会と思いますが、それが十分機能する、安定した「土俵」が維持されてこそ、市場の効率性も高められるのではないでしょうか。

一例とは言え、1,000万人首都TOKYOでタクシー運転手が感染発覚した件が持つ背景。
奈良のバス運転手のレベルではない、怒濤の不安の朝を迎えたビジネス社会かと。
かつてのコメントの繰り返しで恐縮ですが、今一度、検疫法等の法改正を願っています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年2月14日 (金) 08時36分

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