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2020年2月17日 (月)

会計不正事件の王道「架空循環取引」は増えることはあっても、減ることはない

2月14日、東芝は連結子会社の東芝ITサービスなど複数のIT(情報技術)企業が関与した架空取引についての調査結果を公表しました。これに先立ち、2月13日に、従業員が同取引を主導したとされるネットワンシステムズが、特別調査委員会の中間報告書を公表しましたので、こちらの報告書を一読いたしました。

まず、取引に関与していたいずれの会社においても、国税によって取引の疑義を指摘されるまで、架空循環取引が行われていたこと(取引に関与していたこと)は知らなかった(わからなかった)と発表しています。さらに、会計不正事件を起こさないために、徹底的に内部統制システムを見直しておられたネットワンシステムズでさえ、5年以上にわたる架空循環取引を発見できなかったのですから、多くの上場会社において架空循環取引を許容する環境が構造的に存在しているのであり、今現在でも、多くの会社で架空循環取引が繰り返されていることは間違いないでしょう。

これは私の経験からですが、日本企業において、架空循環取引は今後増えることはあっても、減ることはないと思います。商品・サービスの現実的な移転を伴わないが、経済的合理性はあるとされている商流(商慣行上の介入取引)はいくらでもあります(カネボウ事件の「備蓄取引」、IXI事件の「紹介取引」、福岡魚市場事件の「ダム取引」等)。今回のネットワンシステムズの事例でも経済的な合理性のある取引(商流取引)と架空取引との境界線はあいまいです。

平成25年の「監査における不正リスク対応基準」の開発の際、会計監査人による取引先へのヒアリングの可能性が議論されましたが(結局、「取引先監査人との連携」が審議されたところ、多くの問題があるとして「継続審議」とされましたが)、取引先担当者も協力、関与することが架空循環取引の特色となりますと、もはや一企業の社内調査で発見することは困難です。

そして、私が「架空循環取引はなくならない」と考える最大の理由は「営業社員への会社の評価方法」です。架空循環取引を主導する営業社員は、いずれの事件でもチームリーダーだったり、各グループ会社、各部門、各支店の売上に多大な貢献を残してきた人が多いのです。では、なぜ彼らは結果を残し、会社から評価をされてきたのか・・・。

私事ではありますが、近日、架空循環取引が発生する根本原因の解明と、これを前提とした再発防止策・早期発見策について、某会計専門誌に論稿を掲載する予定です。詳しくはそこで述べますが、上場会社が「架空循環取引」の防止、もしくは早期発見を本気で検討するのであれば、日本企業が直視したくない「不都合な真実」に真剣に向き合う必要があると考えます。そうでなければ、いつまでたっても第三者委員会報告書に出てくるような「上司のプレッシャー」だとか「内部監視機能の不全」だとか「売上至上主義の体質」といったお決まりの発生原因への対策でお茶を濁すだけで終わってしまうように感じます。

 

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コメント

「堪忍袋の緒がキレた」までは行かないまでも、何かに「この憤りの心境」をぶつけたくなる…僭越ながら、第三者委員会というメンバーに就任すればするほど…という視点で、
山口先生の本エントリーに頷かれる方々の本音(?)も聞こえて来そうです。

(国会で某女史が「鯛は頭(リーダー)から腐る」と発言する心境と同じ?)

戦国時代や世界大戦時代等の「上司の命令」ほどではないにせよ、
「業務命令」的に指示されれば、部下は従わざるを得ないのが、企業、組織体の宿命かと。
営業数値→利益必上主義→財務諸表の優等生数値→役員・従業員の給与・報酬に反映という構図。
(そこに(在ってはならぬ)見て見ぬふりをしての、お飾り(?)内部監査を経て市場に拡散されて行く…)
けれど、架空循環取引の積算数値が「GDP」に変移しているのであれば、
それらを基にレポートを作るアナリスト、その資料を基に続けられる投資家判断は
中長期的に「都合の良くない真実」をも拡散するだけかも知れません。
そして、税法等、法律に従い納税する=国や自治体は、その数値で成り立つ、議員と公務員給与の源泉という構図も加わる…。
《はたしてこのままで、良いのだろうか?》と葛藤する人も増加の一途と推測します。
故に、SDGs/ESGの出番…となってきたのではないでしょうか。
スウェーデンの一人の少女に出来て、多くのオトナが出来ない筈は無いのですが…。

(時すでに遅し…と思いたくないけれど)
(山口先生のご準備されている「再発防止策・早期発見策」=特効薬と期待しつつ)

St・ヴァレンタインデーが名目上の季節限定基幹ビジネス/拡大の一途ですが、
今年はそんな侑長な事を報道する余裕はメディアには無く…。
前日:2月13日付の日本環境感染学会が発行した「新型肺炎への対応ガイド」の4ページ目には
「有効性が証明された治療法はありません」
「新型コロナウィルスのワクチンは存在しません」
等という記載に触れつつの、
架空循環取引も同様:まだまだ増える事はあっても、減る事は無い…
「不都合な真実」が拡散し終息が見えない、TOKYO五輪・パラ五輪を前の、2月某です・・・。

投稿: にこらうす | 2020年2月17日 (月) 09時24分

営業部門に限らず、牽制役たる事務管理担当者の人事考課に、その部門長が大きな権限を持っている限りは、牽制役に思いっきりブレーキを踏ませるのは不可能、かと存じます。

それが判っているから、かつての松下電器や住友電工は、「事業部内の事務管理部門は、本社管理部門の配下として扱い、人事評価も本社管理部門が行う」という人事制度にしたのだと思います。

というわけで、私は、「営業社員への会社の評価方法」のみならず、「営業部門・製造部門などの現業部門での管理畑社員を、誰が評価するのか」がキーだと考えています。この考え方は、勤務先でも監査役から管理担当役員(副社長格)までそれなりに支持されているんですが、経営トップが現業部門出身なので実現には至らず‥‥

会社としてステークホルダーからの「業績のプレッシャー」が無くならない以上、「上司のプレッシャー」が無くなるわけもないので、そのプレシャーを所与のものとして機能する制度設計をせなアカン、と思うのですよねぇ。

投稿: しがない内部監査員 | 2020年2月17日 (月) 13時29分

山口先生の意見は、いつも正論で、本当は国民全体がわかっていることです。
それでいて、あきらめている、あきらめざるえない状態です。
「架空取引」に限らず、全ての企業不正が「不都合な真実」(長年の組織的不正ももちろん含む)を見ないで、不正を通報したものに「不利益を与える」ことで発生していると考えます。
すき好んで、不利益を被りたい人はいません。
先週の、たかさんのコメントに全面的に賛成で、「政府、行政」が不正企業の経営陣にしっかりとメスを入れることが大事です。
一通報者がコンプライアンス部門に不正通報したら「内部監査で見つかっていないのでメスを入れにくい」と言われ、不正発覚後は不利益受けるという恐ろしさです。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年2月17日 (月) 13時36分

ありがとうございます。
しがない内部監査員さんのコメントで思い出しましたが・・・
昨年11月8日にリリースされたシーイーシー株式会社の第三者委員会報告書では、経理部門のことを「営業サポート部門」と名称変更したことを強く批判していました。でも、実質的に、経理をそのような位置づけと捉えている会社は多いのではないでしょうか。私もこの報告書の提言に同感でして、まずは経理部の名称を変更することから再発防止策が始まるものと思いました。

投稿: toshi | 2020年2月17日 (月) 15時18分

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