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2020年3月31日 (火)

優秀な営業社員はなぜ実績とコンプライアンスを両立できるのか?-「かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会報告書」より

昨年の代表的な企業不祥事である「かんぽ生命保険契約問題」ですが、昨年12月18日付けの第三者委員会報告書につづき、今年3月26日に追加報告書が公表されました。合計275頁に及ぶ大作でして、なんとか読了いたしました。委員の方々および委員補佐、フォレンジックス調査ご担当者の皆様の成果品として、たいへん興味深く拝読させていただきました。先日の関電金品受領問題の報告書を読んだときにも同じ感想を持ちましたが、「かんぽ問題」として日本郵政グループを一括りにはできず、やはり各組織で微妙にコンプライアンス意識(組織風土)に違いがあり、とてもおもしろい。

当該第三者委員会報告書(とくに追加報告書)において、もっとも関心がありましたのが「2018年4月24日のNHKクローズアップ現代+(プラス)において、あれだけ保険商品の不適切販売に関する事件が大きく取り上げられたにもかかわらず、なぜ日本郵政グループ(とくにかんぽ生命と日本郵便)の経営陣は調査委員会を立ち上げなかったのか・・・」という点です。しかし、この大作には、その答えが出てきませんでした。たしかに「クロ現問題への日本郵政グループとしての対応」については記述があるのですが(追加報告書77頁以降)、各社取締役会がクロ現問題にどう反応したのか…という点には触れられていません。

この点について善解するならば、おそらく日本郵政や日本郵便そしてかんぽ生命の社外取締役さん達も、「あんなおかしな契約をとっているのか。これはいったん募集を停止して調べる必要があるのではないか」と声を上げたのではないかと推測します。しかしながら、2018年1月から、日本郵政グループ挙げて不適切募集をなくすための施策を開始しており、その施策に関する中間報告によって「次第に不適切案件が減っている」という報告を聞いてしまった。したがって、社外役員も「NHKで紹介された事案は極端な事案であり、もう少し様子をみておこう」ということになったのではないかと。

ただ、やはり私には理解できないのです。私も実際に2018年4月のNHKクロ現をアーカイブで視聴しましたが、視聴後の感想としては「これは金融庁が動くだろう。その前に社外役員を委員長に据えた社内調査委員会を立ち上げて、件外調査を含めた徹底調査が必要だろう」と確信しました。それまでも西日本新聞社が執拗に特集を組んで問題を指摘していましたが、このNHKクロ現の影響力は絶大だと感じました。

たとえば賃貸住宅大手であれば、レオパレスの建築瑕疵事件、スルガ銀行の不正融資事件が大きく新聞報道された際、「私が社外取締役を務める会社でも同じことは起きてるのではないのか?」ということで、経営陣と相談をして社内調査委員会を立ち上げ、結果は国交省、金融庁に報告します(どこの会社とは申しませんが)。後で内部告発等で発覚してしまい、「自浄能力のない企業」といった社会的評価を受けることだけは避けたいという思いがあるからです。かんぽ生命や日本郵便でも、同様の意識を経営陣が持ったはずであり、しかし、これを打ち消すだけの「何かの動機」があったと思います。そこのところが、上記報告書を読んでも、やはりすっきりとしませんでした。

ところで、かんぽ生命保険契約問題に関する特別調査委員会報告書を読んで、なるほど、と感心したことがありました。実は不適切販売行為に及んだ営業社員の人たちが多い中で、販売実績も優れており、またコンプライアンス的にも模範となる(つまり募集品質が高いと評価された)人たちがいます。その方々にはある共通点がある、ということで8項目にわたって解説がなされています。実際にその営業担当者の方々の生の声も紹介されています(追加報告書48頁~52頁)。どのような共通点があるか、ということにご興味がございましたら、ぜひ3月26日公表の追加報告書をお読みくださいませ。

どうすれば販売実績と募集品質を両立させることができるのか・・「なるほど、これはぜひ私もお手本にしよう」と思える内容が含まれています。金融機関だけでなく、メーカーさんの営業社員の方にも参考になるかもしれません。とりわけ営業担当者の方々は、ぜひとも51頁の「金融機関の販売思想に違和感を抱いた」とされる有能な営業担当者の意見をぜひお読みいただきたい(この内容は私が架空循環取引を防止できる企業の営業方法そのものと痛感しました)。インセンティブ報酬制度を採用しつつ、「人」で商品を売るのではなく「企業の品質」で商品を売る姿勢がどれだけ社内に浸透するか・・・、ここに販売実績とコンプライアンスの両立の鍵があると考えています。

最近は関西電力金品受領問題の第三者委員会報告書に関心が集まっていますが、こちらのかんぽ生命保険契約問題の二つの報告書も、コンプライアンス経営を考えるうえで立派な「生きた教材」になると思いました。

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2020年3月30日 (月)

関電金品受領問題-責任調査委員会における調査の限界

3月29日の日経朝刊(社会面)に「関電の監査役会 専門委員会を設置-金品受領問題巡り」との見出しで、小さな記事が掲載されていました。関電の金品受領問題で、関電の監査役会が経営陣に対して法的責任の有無を問う委員会を設けるそうです。1か月ほどまでにも共同通信のニュースでも出ていましたが、やはり昨年10月にこちらのエントリーで予想していたとおり、関電現旧役員の法的責任については、先日報告書を提出した第三者委員会とは別個に判断をするようです。

「経営から独立して専門家で作る委員会を創設」とありますので、おそらく独立第三者で構成される責任判定委員会が構成されると思います。ただ、関電の株主からの提訴請求を受けて、関電監査役会が動いた形になっていますので、取締役の職務執行の違法性について判定することは当然ですが、現旧の監査役の方々の職務執行の違法性についてはどうなんでしょうか?監査役会が委嘱する専門調査会ということだと、そもそも監査役の皆様に甘い判断になってしまうのではないか、との懸念が残ります。

もうひとつの問題は、創設される専門調査会には事実認定の権限があるかどうか、という点です。先日まで活動していた第三者委員会が認定していた事実をもとに責任判定を行うのか、それとも第三者委員会の認定した事実とは別に、あらためて責任判定に必要な範囲での事実調査・事実認定ができるのか、ということです。もし新たな事実調査ができるとなりますと、「この委員会にぜひ協力せよ」といった役職員への告知は、監査役会が行うだけではやや迫力不足ではないかと。やはり新社長が「関電が変わるためにも、ぜひ専門調査会に協力せよ」との宣言を強く告知しなければ、新たな事実は見つからないと思います。

上記日経新聞記事だけでは明らかではありませんが、このような問題をきちんと整理しなければ、この専門調査会による責任判定には限界があるように思います。

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2020年3月28日 (土)

会社法務A2Zに「法務担当者の『気づき』とは?」と題する論稿を掲載いただきました。

03241321_5e798ae22a1ea_20200328211601 第一法規「会社法務A2Z」2020年4月号におきまして「法務担当者の『気づき』とは?」と題する拙稿を掲載していただきました。私自身がある会社で実際に経験した事例をもとに、法務部門に期待される様々な気づきについて検討していただく、という内容です。 法務担当者の気づきの構造として、私は「違和感」「想像力」「好奇心」が大切だと思いますが、結局のところ、そういった法務部門の「やる気」を高めるのは組織力学ではないかな・・・と思ったりしております。

新型コロナウイルスの影響によって「外出自粛要請」が出ておりますので、この週末ぜひ書店で購入を!とは申しません。もしご興味がございましたらネットでぽちっと購入して、ご自宅でのお仕事の合間にでもお読みいただければ幸いです。

しかし、最近出版社から原稿依頼のあるテーマがずいぶんと難しくなってきました。一から構成を考えないと書けないものばかりでして、読者の皆様にウケるのかウケないのか、執筆後もわかりません。ぜひとも、法務部門の方々と意識を共有したいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。

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2020年3月27日 (金)

社長が新型コロナウイルスに感染・入院-「有事における定時株主総会の決行」に思う

3月26日は12月決算会社の定時株主総会の2番目のピークでした(1番のピークは27日です)。本日開催された某東証1部上場会社の定時株主総会は、①社長が新型コロナウイルスに感染して入院中のため欠席、②他の取締役・監査役の5名が「濃厚接触者」「感染者に接触した可能性がある」ということで音声のみの参加、③一人の取締役は中国から帰国できず欠席、④最終的には14名の役員中7名がマスク着用のうえ総会に出席という状況で、(いくつか株主からの質問もあったようですが)1時間20分で無事終了に至ったそうです。なお、会社の事前リリースでは、新中期経営計画説明会は(新型コロナウイルスによる事業への影響のため)延期、とのこと。

さて、私は3月9日のこちらのエントリーにおきまして、「3月総会を予定している会社の中には、総会を延期する会社も出てくるのではないか」と予想しておりましたが、予想に反して出てきませんでしたね。たとえ法務省から「延期は基準日をずらすことで可能」といった見解が述べられても「配当による株主利益に配慮すれば、そんなに簡単に基準日を変更できるわけではない」というのが有識者の方々のご意見のようです。まあ「総会集中日をなくすために7月総会会社を増やすべき」という議論はすでに10年以上前から会社法に詳しい方々の間では議論されてきたことなのですが・・・

ということで、3月総会を開催する上場会社では、万全の新型コロナウイルス対策をとったうえで、総会を運営されたようです。その対策としては、①総会の会場への出席よりも議決権行使書面の提出もしくはインターネットによる議決権行使をお勧めする、②体調が悪い場合には出席をご遠慮願う、③質問を制限する、④総会における業績の説明を省略して時間をできるだけ短縮する、といったところが多かったと思います。社会情勢からみて、このような運営もやむをえないとも思えます。

しかし、総会を延期するという選択肢もあるなかで、ガバナンス・コードと総会運営との関係性についても配慮すべきではないかと思うのです。たとえば、昨今の株主総会では株主の意思決定機能(議案を成立させる機能)だけでなく、定量的な経営評価機能(たとえ可決されたとしても、どの程度の反対票が投じられたか、を経営に活かす機能、ガバナンス・コード補充原則1-1①)が重視されている中で、出席株主の質問数を例年よりも少なく制限できるのでしょうか。限られた時間の中で、重要な質問とそうでない質問を整理して、できるだけ株主総会を活発化させよう、との趣旨で株主の質問数を制限した令和元年改正会社法の趣旨にも反するように思えます。

また、総会の時間制限や事前の議決権行使の勧奨が、「株主の権利の重要性を踏まえ、その権利行使を事実上妨げることのないように配慮すべきである」と定めるガバナンス・コード補充原則1-1③に抵触することはないのでしょうか。全体からみればごく少数の一般株主であったとしても、質問権の行使は当然のことながら株主の重要な権利行使です。この権利行使の制限は、基準日株主の配当への期待権と比較して正当化できるものなのでしょうか。

さらに、そもそも基準日株主の利益のために基準日をずらせない、といった会社の対応は、「株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設置を行うべきである」とするガバナンス・コード補充原則1-2③に抵触することはないのでしょうか。株主への配当は、決算期ではなく、あくまでも配当の時点で会社が有する財産の中から支払われるものなので、当該コードをコンプライしているのであれば、このような状況だからこそ上記コードに準拠した行動が求められるように思います(参考 「会社法(第2版)」田中亘著 156頁)。

もとより、コーポレートガバナンス・コードにコンプライするかどうかは経営判断です。しかし、いったんコンプライした以上、これに反する行動は取締役の法令違反(善管注意義務違反)です。「なにがなんでも総会は延期しない!予定どおり開催する!」という上場会社担当者の頑張りは称賛に値するのですが、そこに社長をはじめとする取締役・監査役の法令違反行為のおそれがないのかどうか、そこをどう合理的に説明できるのか、少し思い悩んでいるところです。もし、冒頭にご紹介した某上場会社さんのような事態となった場合、それでも御社は予定どおりに株主総会を開催されますか?それが(総体としての)株主の合理的な意思と合致していますでしょうか?やっぱり株主の皆様は(たとえ総会を延期してでも)元気な社長さんの前向きな話を聴きたいのではないでしょうか・・・とても悩ましい問題です。

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2020年3月25日 (水)

公益通報者保護法改正-対応業務従事者の守秘義務について

昨日にひきつづき、手前みそのような話で恐縮ですが、今朝(3月24日)の朝日新聞の経済面「日本郵便の内部通報者探し-コンプラ担当から情報」なる見出し記事に、(首都圏版のみではありますが)私のコメントが掲載されました。ある局長の不正を申告する内部通報を受理した調査担当責任者(コンプライアンス担当)が、「社内調査を行う場合には、被通報者の上司に先に連絡を入れておくこと」という社内慣行に従って上司に連絡を入れたところ、当該上司(関係者)が通報者探しを行ってしまった、という事例です。

私は社内調査における「関係者への事前連絡の危険性」を述べ、もしそのような慣行があるならば、すぐに廃止すべき、通報者保護がなぜ組織にとって重要なのか考え直す時期だとコメントしました。今国会に公益通報者保護法の改正法案が提出されましたが、そこで第12条として「公益通報対応業務従事者の義務」が規定されています。要は公益通報対応業務従事者は、正当な理由なく通報業務で知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない、ということです。そして、改正法21条により、もし漏らした場合には、当該業務従事者には刑事罰(30万円以下の罰金)が適用されることになりました。

この「公益通報対応業務従事者の守秘義務」および「守秘義務違反への刑事罰適用」は、自民党PTの提言を踏まえて導入された規定です。内部通報や外部通報(内部告発)に対する企業の内部統制の実効性を高めること、および通報者への事業者による不利益取扱いを根絶から防ぐことを目的としています。

会社のコンプライアンス担当者に刑事罰をもって対応する、というのが改正公益通報者保護法の姿勢です。すでに労働安全衛生法では、「健康診断等に関する秘密の保持」として、会社の担当者に社員の健康診断上の秘密を漏えいした場合には刑事罰(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)が科される規定がありますので、法制度としてとくに違和感はありません。よく経済団体の反対を押し切れたものだと思いますが、通報者への事業者からの不利益取扱いを根絶するためには、たとえ調査に困難を要する場面が増えるとしても、通報者を徹底的に守る必要がある、という点が理解されたものと思います。もちろん(現実的には)調査のために関係者へ事前連絡が必要な場面も想定されますが、「正当な理由」となりうるかどうか慎重な判断が求められます。

今後、冒頭の日本郵便のような事例が発生したとなると、コンプライアンス担当者および犯人探しの実行者(おそらく犯人探しの過程で他人に情報を漏えいすることが予想されます)は会社もしくは別の社員から刑事告訴もしくは告発(おそらく地検への告訴・告発)されることになります(今後は公益通報者保護法自体が公益通報の対象事実になりますが、12条に直罰規定が設けられましたので、違法行為に対しては直ちに検察庁案件になります)。したがって、事業規模に関係なく、企業としては、今からでも公益通報者保護のための体制作りを徹底しておくべきと考えます。

ちなみに、公益通報者保護法の改正案が成立した場合、公布日から2年の範囲内で、政令で定める日から施行されます。その前に従業員300名以上の事業者に義務付けられる(違反には行政による制裁あり)公益通報対応のための内部統制のガイドラインが策定される予定です。

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2020年3月24日 (火)

関電金品受領問題-T副社長はなぜ社長・会長から「先生」と呼ばれていたのか?

Img_20200320_113930_320 コメントでにこらうすさんにもご紹介いただきましたが、先週金曜日(3月20日)の読売新聞朝刊「関電金品受領問題-論点スペシャル」にて、当職のインタビュー記事が掲載されました。連休中にもかかわらず、多くの方にお読みいただき、様々なご意見も頂戴したことに御礼申し上げます。

さて、同じ3月20日に、NHK NEWS WEBに「ビジネス特集-関西電力 原発に巣くう閉鎖性」と題するニュース記事が掲載されました(NHKのWEB記事は削除される時期が早いので、早めに閲覧されることをお勧めいたします)。第三者委員会報告書が指摘する「金品受領と原子力事業との関係性」に焦点をあてた内容です。

ところで当該記事に、とても興味深いNHK記者の指摘がありました。当該記者がY前会長に取材をしたとき、部下であるはずの原子力部門担当のT副社長のことを「T先生」と呼んでいたそうです。「なぜ経営の実質的トップであるY氏が、T氏のことを『先生』と呼ぶのか」、当該記者は違和感を抱いたそうです。

T氏が関電の社外役員(中途から関電に入社してきた)ということであれば、なんとなく納得できるのですが、T氏は1978年に関電に入社したプロパーの役員です。Y前会長のほうが入社時期では6年先輩です。この関係からすれば、私もなぜY前会長から「先生」と呼ばれるのか、たしかに不思議です。

おそらく違和感を持つのは、私が社外の人間だからでしょう。社長・会長でも、原子力部門担当の副社長に「先生」と呼ぶことは、関電の中では全く違和感がなかったのではないかと思います。違和感がないからこそ、T氏に対して(社内事情に精通していた)高浜町元助役からは1億円以上の金品が贈与されていたのであり、また取締役退任後に(修正申告分の)納税額の補てんや報酬減額分の補てんとして「顧問料」の名のもとに高額報酬が支払われていたはずです。

ではなぜT副社長は会長・社長から「先生」と呼ばれていたのか・・・。上記記事では残念ながら、そこまでの経緯は示されていませんでした。

かつて、私が〇〇宗総本山の顧問弁護士を務めていた頃、当該宗教法人には二人のトップがいて、ひとりは事務総長(実務方のトップ)であり、もうおひとりは法主(宗派における象徴としてのトップ、法主とか管主と呼ばれる方)でした。事務方の人たちは、当該宗派の僧侶としての呼称で呼び合っていましたが、法主の地位にある方だけは、他の僧侶から自然に「先生」と呼ばれていました。

当時、法主が「先生」と呼ばれるのは「宗派内での尊敬の念の現れ」ということよりも、「宗派の顔」であることを対外的に示す必要性に由来するものだったと記憶しています。宗教の世界とビジネスの世界は全く異なりますが、「原子力事業」においても、同じような関係が成り立つのではないかと勝手に想像しています(たとえば、昨年1月、フランスで国家功労勲章を受章したのはT副社長さんのようです)そうしますと、「原子力のドン」と呼ばれていたT氏に1億以上の献金をしていた高浜町元助役の関電における立場がより鮮明に浮かび上がります。

同じ「副社長」でも、失権したN副社長は地元との折衝中心、当該T副社長は海外も含めた国家との折衝中心、国家とのオモテ舞台で活躍する立場の副社長と、地元・地方公共団体とのウラ交渉で暗躍する立場の副社長など、様々な役割をトップが果たさなければ原子力事業は成り立たないようにみえます。今後、関西電力における再発防止策が実践されるにあたり、このように社外の常識では考えられないような社内常識とどう向き合うべきなのか、これを是正しようとすれば、関電のビジネスモデルにいかなる弊害が生じるのか、十分に理解しておかねば防止策の実効性は高まらない、と思う次第です。

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2020年3月19日 (木)

令和元年改正会社法における「補償契約」を会計監査人に適用することの違和感

某会計雑誌の「会社法改正特集」を読んでいるときに、ふと思ったのですが、このたびの会社法改正には「補償契約制度」が新設されており(会社法430条の2)、たとえば粉飾決算によって会計監査人が第三者から「監査見逃し責任」を追及された場合(会社法、金商法等を根拠として)、会計監査人が負担する賠償金とか弁護士費用を会社が負担することも、会社との補償契約締結によって可能になります(ただし上場会社の場合には、契約締結にあたり取締役会の承認決議が必要です)。

「健全なリスクテイク」を会社法制度の面からも支えよう、ということで「補償契約制度」が設けられたわけでして、取締役や監査役の防御費用、対第三者損害賠償(損失)を会社が負担することについては理解できます。しかし、会計監査人と会社との関係で補償契約を締結する積極的な趣旨はどこにあるのでしょうか。すくなくとも「健全なリスクテイク」とは関係なさそうです(いくらリスクをとれ、といっても、監査の失敗まで奨励できないはず)。

会社と会計監査人は委任に関する規定に従う、ということなので(会社法330条)、これまでも民法の規律によって会計監査人に必要な費用を会社に請求できることになりますが(民法649条、同650条)、この必要な費用の範囲が明確でなかったので、これを明確にする趣旨である、ということになるのでしょうか(そもそも、これまで監査見逃し責任が問われた事例において、監査法人の訴訟遂行費用や賠償金を会社が代わりに支払った、という例などあるのでしょうか?)

しかし、会計監査人には職務の独立性が求められるわけであり、いくら会社との関係が「委任契約」に基づくものであったとしても、実質的には株主、投資家、会社債権者(たとえば金融機関)のために監査業務を行う立場にあります。会計監査人の負担する賠償金や弁護士費用まで会社が支払ってくれる、ということになりますと、補償契約を締結していない会社の監査には厳格だが、締結している会社には甘くなる、ということになりませんかね?補償契約やD&O保険の会社法規律に会計監査人が含まれることに、やや違和感をおぼえるところです。

少なくとも「外からみたら利益相反状況にある」ということで、このあたり、会社法監査を担当される監査法人さんは、補償契約は(職務倫理上)一切締結しない、といった申し合わせとかあるのでしょうか?

仮に会計監査人も補償契約を締結する場合、通説では「補償契約を締結していても、個別の事情によって補償しない、という判断は可能」と言われています。また、モラルハザードに陥らないように、「通常要すべき費用」の解釈や実際の支払の可否は健全性を担保するための措置(たとえば監査役会の判断)によって支払いを拒否する運用になると思いますので、会社としても難しい判断が迫られそうです。

会計監査上の「二重責任の原則」(財務諸表の作成に関する責任は経営者にあり、監査意見に関する責任は監査人にあるという責任分担原則)といったことは、そもそも会社法改正の際に検討されていたのでしょうかね?実務上の混乱が生じないように、令和元年改正会社法が施行されるまでに、このあたりの法的な整理が必要だと思います。

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2020年3月18日 (水)

関西電力・第三者委員会報告書から考える-関電が一番隠したかったものとは?

一昨日に引き続き、関電第三者委員会報告書に関するエントリーです。この報告書をじっくり読むと、日本の企業社会に潜む病巣を見ているようで、たいへん興味深い。なお、以下のエントリーにおいて、意見にわたる部分は私個人の意見にすぎませんのであしからず。。

たとえば報告書86頁の(注)76などを読むと、原子力事業担当者以外にも、高浜町元助役やその関係会社から金品を受け取ってしまった幹部社員が存在したことがわかります(火力発電事業部門の幹部の方だそうです)。たまたま原子力事業担当者からの要請で、元助役と会食をされたそうで、会食の際にもらったお土産の中に商品券が入っていた、とのこと。

その後、その幹部社員のところへ元助役と関係会社がやってきて「仕事をまわしてほしい」と要請を受けたそうですが、この担当者はきっぱりと拒絶しています。これは当然かと思います。別に元助役が激怒したところで「うるさい爺さんやからほっとけ」くらいで済む話だと思います。その後、とくに事業の遂行に支障は生じないからです。しかし原子力事業部門となるとそうはいかない。機嫌を損ねると関電の恥部を暴露されるからではなく、まだ関電は彼を必要とする(かもしれない)からです。

マスコミでは「関電のガバナンス」とか「関電の企業体質」が問題とされていますが、本当に問題なのは関電のなかのひとつのセクションである原子力事業部門(及び対外対応拠点であった京都支社)、および原子力事業部門を特別視する経営層の体質ではないかと。一昨日のエントリーでも書きましたが、ここの原因分析を見誤ると、来月いよいよ分社化される関西電力について、再発防止策の実効性も失われてしまうような気がします。

第三者委員会は、3月13日の記者会見で「関西電力は森山氏に『共犯の関係』に引きづりこまれた」と表現していましたが、フォレンジック調査で浮かび上がった関電社員のメール内容などを読むと、まさにその通りだったと感じます。しかし「引きづりこまれた」という表現よりも、私なりには「原子力事業を推進するためにどうしても森山氏が必要だった」と表現するのが適切です。

つまり関電が会社として隠したかったものは「関電と森山氏との関係」ではなく、東日本大震災前には収益の半分以上を占めていた原子力発電事業のビジネスモデルそのものだったのではないか。贈答品を返還しようとする経営幹部を怒鳴りつける元助役からすれば「原子力事業をなめるなよ。そんなことで国や地方公共団体や地元住民と対峙できると思うな」といったところが本心だったのではないでしょうか。

報告書73頁~74頁によれば、元助役と関係の深かった関電元会長、元副社長は関電を去り、すでに亡くなっておられます。どんな関係だったのかは不明とありますが、やはり関電の福井県内の原子力発電事業を推進するために森山元助役が必要だったことはほぼ間違いないでしょう。関電の再発防止策としては、「第二の森山氏」を出さないためにどうするのか、というところが出発点です。つまり原子力事業部門の運営において、政治家、地方自治体、地域住民とどう交渉するのか、といったビジネスモデルの在り方を見直すことが必要であり、これを「接待、贈答問題」に矮小化してしまってはならない、ということです。

しかし、原子力事業を何事もないかのように進めることができる人物こそ、社内で評価されトップへと昇格できる人なのでしょうね。だからこそ、原子力事業で苦労した役員には「裏報酬」(修正申告による納税分)を「顧問料」として支払い続けることが(社内的には)大事だったと思います。この組織風土をどう変えていけるのか・・・そこが課題ではないでしょうか(かなりむずかしい・・・)

ちなみにご存知の方も多いと思いますが、関電で失権した元副社長さんの証言は、朝日新聞「法と経済のジャーナル」(有料版)で、8回にわたってリリースされています(関西電力元副社長 内藤千百里の証言)。森山氏は関電を金品贈与によって「共犯」に仕立て上げたという文言はすでにここで書かれていますし、またフナクイムシ事件の真相も書かれています。

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2020年3月16日 (月)

関電・金品受領問題に関する第三者委員会報告書に対する第一印象

土曜日(3月14日)の午後2時に公表された関西電力・第三者委員会調査報告書(全文)を2日かけて読みました。第三者委員会委員の方々の記者会見でも「関電のガバナンスが全く機能していなかった」とのことですが、では「どのようにガバナンスが機能していなかったのか」ということで12点ほど指摘できるのではないか・・・と考えております。

ところで、そういったガバナンスの問題点については、また別のところでお話することとして、当ブログでは「報告書を読んだ第一印象」といいますか、素朴な感想だけ述べておきたいと思います。

いくつかのメディアでは、2月7日の時点で「(関西電力は)第三者委員会報告書とは別に責任判定委員会の設置を検討している」と報じられていましたが(たとえば東京新聞ニュース)、今後関電は責任判定委員会を設置するのでしょうか?私が第三者委員会報告書を読んだ印象としては、相当役員の方々に厳しい意見と事実認定がなされていますが、会社側がこの報告書の内容を知って「やっぱり、やめとこ・・・」となったのでしょうかね。

仮に責任判定委員会を設置しないとすれば、関電としての自浄能力を発揮するために、株主代表訴訟よりも先に、会社自身が役員(元役員)の方々を被告として損害賠償請求訴訟を提起しなければならない、ということでしょうか?そうでないと「本気で反省していない」と世間から(ユーザー目線で)批判されるように思います。

つぎに、毎日新聞ニュースが詳細に取り上げていましたが、経営陣と常任監査役のもとに4通ほどの内部通報(外部からの情報提供?)が届いていました。この内部通報に関する記述が報告書にはなかったのですが、有事における経営陣の対応には当該通報が何らの影響もなかった、ということなのでしょうか?もしそういった通報が役員の手元に届いていなかったとすれば、そっちのほうも問題になると思うのですが。

さらに、素朴な疑問ですが、そもそも本件は全社的な組織風土の問題なのか、それとも「原子力事業部門」という関電の一つの組織における風土の問題なのか、という点です。報告書を読むと、火力や水力、ガスといった他の事業部門では同様の不適切行為は発見されなかった、とあります。また、過去に別件で別の事業部門における金品受領問題が発覚した際、再発防止策として「今後は同じことが起きないように、事業部門上げて尽力いたします」と社内で発表されています。

最後に、金品受領問題の国税調査を受けて、関電では2018年10月9日に「役員コンプライアンス研修」が開催されていますが、10月1日に本件問題を知った監査役が誰も参加していません。社外を除く取締役や執行役員が全員参加しているのに、5名の監査役さんが誰も参加しない、ということはちょっとありえない。これは何か理由があったのでしょうかね?

関電の多くの役職員の方々は「関電がいろいろ批判されているけど、これって(福井に拠点のある)原子力事業と経営トップの問題だけじゃないの?我々のコンプライアンス意識は高いのだから、再発防止策は関係ないのでは?」といった意識をお持ちではないかと。そういった方々に、今回の再発防止策というものは心に響くのでしょうか?

関電問題を外からいろいろと批判する意見はたくさんあると思います。しかし、これからコンプライアンス経営を浸透させる責任者の立場からすると、上記で述べたところは大問題だと思います。

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2020年3月13日 (金)

NOSを中心とした架空循環取引事件の根本原因とは?某氏の視点(下)

本日(3月12日)、ネットワンシステムズの第三者委員会報告書(最終報告書)がリリースされました。あまりにタイミングの良いエントリーになってしまいましたが、昨日に引き続き(下)をご紹介いたします。最終報告書へのコメントはまた後日とさせていただきますが、最終報告書の「原因分析」と以下のコメントで示されているところを比較していただきますと、同じ視点、異なる視点が浮かび上がるのではないでしょうか。それにしても2007年に発覚したIXI事件への関与を含め、NOS社は10年間に3度も大きな架空循環取引に関与していたわけです。「4度目の架空循環取引への関与はない」ということをこの最終報告書を読んだ東京証券取引所自主規制法人ほか、ステイクホルダーは確信できるかどうか・・・。2月17日のエントリーでも述べた通り、蜜の味漂う架空循環取引は増えこそすれ、減ることはありません。その誘惑からNOSは今後絶対に距離を置くことができるか、注目すべき点です。

(以下、某氏のコメントの続き)

外資系IT企業出身者が経営幹部を占めるNOSでは、幹部の多くがハイタッチ営業経験者の可能性は高く、共有されるバックグラウンドから”営業ノルマが厳しすぎた”のでないかと指摘はある。ハイタッチ営業は”コミッションセールス”であり、業績いかんで、報酬の大きな差異はあろうし、業績への意欲、執着は相当高いかもしれない。その可能性は十分に考えられる。

ここでは少し違う視点を指摘したい。A氏の動機が、より切実なものであった可能性である。報道によればA氏は中堅営業とあり、仮に40代営業と考えれば、自分のキャリアの先が概ね見え始める頃であり、自分の”居場所”を確保、維持することが動機の一つになったのではないか。NOSはこの10年で、地味な老舗ITインフラ企業というイメージから(やや強引にも見えるが)イメージを変えつつある。ステータス高く、高感度ショップに隣接した本社を構え、HPや会社案内で見るに、社内はまるで外資系かと見紛うほど、ユニークな空間もあるようだ。評価制度、報酬制度、人事制度は当然のごとく、業績に強く連動させているであろうし、特にその運用は業績ありき、業績あっての強権、恣意と写っていた可能性はある。厳しくなっていく評価のもと、A氏は大きな失注に動揺し、自分の目先”居場所”の確保に焦り、自己防衛本能より不正に手を染め、結果的に、業績さえあれば保身以上の評価や信任を得て、その維持こそが強く目的化したのではないか。

現在、第三者委員会にて鋭意解明されつつあるが、今後、関係者から周辺情報が漏れ伝わる可能性はある。多くの不正につきものであるが、例えば、不正実行者やその部下、上司、周囲関係者に過剰、過大な接待交際費が供されていた場合である。不正部門は中央省庁が顧客であり、うかつな接待に同行同席はないであろう。万が一、社内他部署の人間の同席や、循環登場各社関係者の同席が確認されるようなことがあれば、第三者委員会報告書での事実認定や共謀性を根本から覆すこともありうる。

本件では、あらゆる面で要らぬ邪推、曲解を徹底的に排除すべく判断、行動が求められており、決算修正に託け(かこつけ)時間をおき、頃合いを見て社内外ともに穏便に対応すべし等、万が一にも誤解を与えては、社員を含め全てのステークホルダーに不実極まりなく取り返しがつかない。株価をもって正当性の強弁であれば、経営者の現状認識の甘さゆえであろう。

不祥事が繰り返す理由は明白である。不祥事は問題なのでなく、表出する現象に過ぎない。不祥事を繰り返し生み育てる組織風土こそ本質であり、その風土を修正、是正する客観的、「独立」、「公正」な目、意見を軽んじてきた可能性は否めず、現代の企業活動において逃げてはならない正しい厳しさに耐え抜く覚悟が、経営陣もとより社内外取締役、監査役幹部社員に不足していたのではないか。それらしく組織、委員会は作れど「仏作って魂入れず」。十六銀行事件の報告書に感じたことだが、「他責に逃げる」組織風土を連想させる。他責には「自分(達)は特別だ」という自意識、集団意識が強く働き、正当化される。

全てのステークホルダーの信頼回復につながる姿勢とは、まさに欠如が指摘される誠実さであろう。不祥事発覚のたび、見識権威ある第三者を招聘し委ね、不正実行者個人の瑕疵に激しく、欠ける当事者意識。再発防止策は第三者委員会の提言待ちに徹する、傍観者然たる姿勢。現場のガンバリに支えられた業績、株価回復に期する対応のみでは、長い目でみて投資家株主、全社員の信任に違えかねない。

NOSは商材や人材に小さくない成長余地を秘めており、顧客や市場に恵まれてきた。反面、売上や株価に自ら踊り踊らされ、言動と行動、素地と実像、は看板に追いついておらず”不都合な真実”はないか。幹部の内輪意識の強さゆえかウチに甘く、ソトに不感不堪な姿がここに映る。「他責に激しい」組織風土を変えぬ限り、これからも不祥事を生み育て、見逃し続けるのであろう。一考察にすぎぬが、山口氏の指摘に強く同意するゆえである。

(某氏のコメントおわり)

上記コメントには、私(山口)の意見は全く含まれておりません。あくまでも某氏の意見です。しかし、架空循環取引の根本原因に遡るためのヒントが含まれています。これはコメントを読んだ私(山口)の感想ですが、そもそも大口取引の相手方(出荷先や納入・発注先等)に対して、営業担当の幹部の方々は年に数回程度は挨拶に出向かないのでしょうか?私などは、上記A氏の取引先に経営幹部が出向いていれば、異常性は認識できたのではないかと思うのですが。

(上)(下)のコメントを通じて、私は「不可侵感」という某氏の言葉が印象的でした。本日リリースされた最終報告書でも、このあたりが強調されていたように読めます。架空循環取引の闇は本当に深いのですが、取引のリスクに真正面から向き合える組織風土こそ、他社が学ぶべき点ではないでしょうか。なお、私個人の「架空循環取引を防止・発見するために必要なこと」は近日、某会計専門誌に論稿として掲載予定です。また、なにかの機会に当ブログでも内容をご紹介したいと思います。

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2020年3月12日 (木)

NOSを中心とした架空循環取引事件の根本原因とは?-某氏の視点(上)

いつも当ブログをお読みいただき、ありがとうございます。さて、当ブログの2月17日付けエントリー「会計不正事件の王道「架空循環取引」は増えることはあっても、減ることはない」では、ネットワンシステムズ社(NOS社)を中心とした架空循環取引について取り上げましたが、そこにある方(某氏=私が勝手に関係者と思っている方)からコメントをいただきました。

後日、この方の了解を得て、以下にコメント内容を掲載いたします。なおコメント内容は、(コメントされた方や関係会社にご迷惑がかからないように)当ブログへのコメントとして許容できる範囲で修正させていただきました。また、このエントリーは、けっして関係会社を非難したり、揶揄するためにコメントを掲載するものではありません。(2月17日エントリーでも述べておりますとおり)どこの会社でも架空循環取引は起こりうることから、講学上、他社にも参考になるものと考えご紹介する次第です。

実は、「なるほど」と参考になる深い内容もあったのですが、関係会社の信用問題、またコメントされた方が(関係者かどうかは不明ですが)特定されるおそれもあったため、省略しております。あくまでも公表された第三者委員会報告書および当職エントリーへの某氏のコメント、としてお読みください

(以下、某氏のコメントです) 

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第三者報告書の中間報告に目を通した。不正は「公共営業部門のシニアマネージャー(課長級)A氏が全ての指示役であり単独犯」、「大きな失注をリカバーするために始めた」と記される。個人的動機による個人による不正である、との見解は、2013年の十六銀行事件同様である。第三者委員会による調査、報告である点は厳に留意すべきであり、溜飲下げたステークホルダーも少なくないかもしれない。以下に強く印象が残った。

A氏=不正首謀者(課長)、B・C・D・E氏=不正補助者(課員)、貴社=NOS
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(カ) 監査対応等の発覚防止工作
A 氏は、前述の見積明細作成の指示を受けて、事前に金額が決まっていることや顧客と向き合うはずの営業担当者が認識していない案件の存在について疑問を抱く部下らに対し、事実関係を明らかにせず、あるいは叱責して質問をさせないなどの対応をとっていた。例えば、A 氏は、B 氏に対しては、「先にお金が必要なお客様がいる。お金を先に払う代わりに、利子がついて返ってくるというビジネスで、悪いことはやっていない。」などと説明し、D 氏に対しては「銀行がお金を回す必要があってこのような取引があり、悪いことをやっているわけではない。」などと説明し、そのようなビジネスもあると思わせ、従わせていた。E 氏に対しては、納得できる回答をせずに「とにかく急ぎの案件である。」と述べ、指示に従わせていた。さらに、C 氏に対しては「お前疑っているのか。」と叱責し、それ以上の質問を受け付けずに指示に従わせていた。
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(エ)A氏による上長らへの報告、説明
貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件について、受注先(顧客)に見積書を提出するには、事業本部長の決裁を得る必要があるが、それに先立ち、部下が上長らに対し、来期の案件の見通し等につき説明を行う場が設けられている。A 氏は、上長ら(本部長、副本部長、部長及び副部長)に対し、実在する案件に架空取引を織り交ぜた来期の見込みを巧みに説明していた。かかる上長らへの説明は、多くの案件では営業担当者が行うが、本不正行為に係る案件については、営業担当者でなく、マネージャーである A 氏が単独で行っていた。A 氏は、その後、具体的に架空の商流取引に係る顧客宛ての見積書を提出するに先立ち、営業担当者ではなく自ら、上長らに対し、順次、上記の事前説明に沿って、当該架空商流取引の背景事情や商流、粗利率、入出金の予定等を資料に基づいて説明し、上記管理職らをして実体のある商流取引であると信じさせ、決裁を得ていた。
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報告書に記載された事実認定をまとめると、重要なのは以下の2点。
(1)「国税指摘以前より、A氏部下4名から不安、不審の声が上がっていたこと」
(2)「A氏案件は、承認手続において例外対応を続けていたこと(全ての案件説明に営業担当者を同席させずA氏のみ単独実施)」

5年以上続けたA氏の狡猾さとともに、上記2点には疑問も残る。「客先注文書の偽造、捏造という誰もが疑いようのない不正行為を指示、命令され、部内で騒ぎになっていないのはなぜか?」、「部下4名は不安不審を訴えていたとあるが、上長は対応したのか?課長の否定、叱責が続けば、部長に相談するであろう。部長は上長や監査室、コンプライアンス室に相談可能なはず。現場の信頼関係は崩壊していたのか?」、「案件承認制度、社内監査は、たった一名の悪意ある営業にこれほど無力なのであれば、現場の対応で防ぎようがない。今後、どうやって不正を防ぐの?」社内の動揺は小さくないであろう。他部門においても何らかの不作為、不正が行われているのではないか、自分の周囲を信用できなくなった、現場には声にしない声、疑念未満の不安が起きても不思議はない。不審のコストほど高いものはない。

十六銀行事件で不正の温床となったのは、機器調達になくコンサル、設計、構築といった実役務費用、科目にあり、外注費用の操作による不正と解明された。本件(十六銀行事件)の第三者委員会報告書を丁寧に読むと、このような古典的かつ典型的な手法が7年も見過ごされ続けたことに驚く。その根因を察するに、不正実行者は本部長という上級幹部であり、高い社内評価が「特別感」「不可侵感」となり、不正を拡大、長期化させたように見受けられる。今回の件のA氏は課長級であるが、自身で演出した「秘匿」感や高業績が一種の不可侵になっていた可能性はあるだろう。

素直に考えれば、中央省庁に向けた営業部署という性質上、公示入札案件の対応が本来主業務であろう。プライムで応ずるか、他社スキームの下に入るケースも多いと考えられる。A氏はもっともらしい虚偽を重ね、承認審査に対応していた光景が指摘されている。個人情報保護法や特定秘密保護法の対応を持ち出し「情報共有しない」盾としたのだろう。個人情報や機密情報に関わる取引は存在するだろうが、専用仕様に基づく機器、ソフトウェアは随意契約による製造元への直接受注が常套であろうし、NOSが介入する余地は考えにくい。報告書では、A氏しか知りえぬ案件や、案件詳細を担当営業さえ知ることができない状態が、社内でまかり通っていたと読めるが、これが日常光景であるならば「秘匿」を通り越し、「不可侵感」が漂ってきそうだ。極めて不自然な状態を5年以上放置した上長、強化してきた承認制度の「不備をつかれた」と経営者は一言で表したが、何の「不備」だったのだろうか。

本件の理解にあたり、IT業界の特異性、公共案件の特殊性、秘匿性などディテールに目を奪われがちだが、前述(1)および(2)より見えてくる光景は、日常業務での機能不全、不作為を予想させる。(1)、(2)といった「社内における不正未満の例外、異常」が、部内、本部内、監査室、コンプライアンス室と正しく報告、上申されていれば、注視、精視は継続的に実施され、不正を自主的に発見すらできた可能性もある。仮に発見できなくとも、その報告、対応こそがコンプライアンス、ガバナンスの第一歩、必要要件であるはずだ。(1)、(2)の放置があったとすれば、上長に留まらず、掌握取締役や常勤監査役に善管注意義務違反すら疑われるのではないか。当たり前のことが当たり前に行われない代償はこれほどに大きい。

以下、某氏のコメントは(下)に続きます。

コロナ・ショックにより、NOS社が開発するテレワーク・ICTネットワークソリューションの重要性を改めて認識します。ぜひとも、今回の不祥事を契機として健全な組織風土が醸成されることを祈念いたします。

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2020年3月11日 (水)

日本郵政に巨額減損処理の危機?-経営陣にちらつく三洋電機株主代表訴訟大阪高裁判決

3月10日の日経と朝日の朝刊に、日本郵政が2020年3月期に保有株(ゆうちょ銀行株)の減損処理をする可能性が出てきた、と報じています。ゆうちょ株の時価はコロナ・ショックで急落、簿価の半額以下になっているからだそうです。

減損の処理を行うとなりますと、対象が子会社株式なので連結財務諸表には影響ありませんが、単体では利益剰余金がマイナスとなり、配当に影響が出てきます。現行の会計基準だと、子会社株式の時価が取得価格の50%程度下落し、取得価格程度まで回復見込みが合理的に認められないかぎり減損処理が必要になります。つまり、例外的に子会社株式の時価に回復可能性が認められれば減損しなくてもよい、ということで、子会社株式の上場の有無によって時価算定方法は異なりますが、おそらく「5年以内に取得価格まで回復可能性があるかどうか」といった判断基準は(上場・非上場に関係なく)同じと考えられます。親会社経営者としては、当然のことながら、子会社の株価には回復可能性があると考えたいところです。

このたびのコロナ・ショックで、日本郵政だけでなく、子会社株式や持合い株式を保有している他の上場会社にも、子会社株式の減損処理の可能性があると思います。そこで、減損処理の必要性を考えるにあたり、思い出されるのが「三洋電機減損ルール」の是非が問われた三洋電機不正会計事件に関する株主代表訴訟判決です(平成24年9月28日)。当時、三洋電機は金融庁から「不正会計」と判断されて課徴金処分が下ったものの、役員の法的責任(違法配当に関する責任追及)が問われた株主代表訴訟では、大阪地裁が「三洋電機の会計処理に違法性は認められない」として原告株主の請求は棄却されました。当ブログでも、この大阪地裁判決は何度も取り上げましたね。

この大阪地裁の判決では、子会社の業績が将来的に回復が見込めるかどうか(回復可能性)、これを合理的に判断できるのは裁判官ではなく、三洋電機の経営陣であるとして、会計基準の適用や会計処理の方法については、経営陣に広い裁量権があるとされました。会計基準の適用、会計処理の方法については、経営者の経営判断の合理性が尊重された、といっても良いと思います。

さて、ここまでは結構ご存知の方も多いと思うのですが、実はこの大阪地裁判決は控訴され、1年後に大阪高裁判決が出ています(平成25年12月26日)。そして、三洋電機の減損ルールを適法とした地裁判決とはまったく異なり、「会計処理は違法である(不正会計である)」と、大阪高裁は判断しています。この大阪高裁判決は、たいへん重要な判決にもかかわらず、刊行物未登載のままになっています(その後の最高裁では「判決」ではなく「決定」で終結していますので、おそらくこの大阪高裁判決が確定したものと思われます)。

たしかに経営者は子会社の事業の将来性について、合理的な説明ができるのかもしれないが、減損処理を回避するための「回復見込み」というのは、もう少し短期的な見込みを指すのであり(相当期間内に取得価格まで回復する見込みのことであり)、単なる「事業の将来性の判断」とは自ずから異なるものである、ただ漠然と中長期で回復の見込みがあるとする立証では事業の将来性についての証拠にはなりえても、相当期間内における回復可能性を証明するには足りない、これを証明しえていない以上、会社法上の計算書類は公正なる会計慣行によって作成されたものとはいえない(つまり配当は違法である)というのが大阪高裁の判断理由のようです。

したがって、子会社株式が取得価格の50%を割るような状況にある場合、会計監査人と減損処理の必要性について協議をすることになるのかもしれませんが、安易に三洋電機株主代表訴訟の大阪地裁判決だけを念頭において「会計処理については経営判断に合理性さえ認められればよい」と認識すべきではない、と考えております。三洋電機の経営陣の方々は、「違法配当の責任」をなんとか「過失なし」ということで免除されましたが、このように大阪高裁判断が下った以上、これからは減損の可否判断の前提となる「将来見積もり」の合理性判断においては、十分な資料と十分な議論に基づき、経営陣として善管注意義務を尽くす必要があると思います。

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2020年3月10日 (火)

コロナ・ショックは会計不正事件まで自粛させてしまうのか?

(3月10日午後0時40分最終更新)

本日(3月9日)、東洋経済ニュースで知りましたが、昨年4月にこちらのエントリーでも触れております上場会社さんが、えらいことになっていますね。元代表者の言い分と第三者委員会の認定事実とどちらが正しいのかはわかりませんが、すくなくとも元代表者の方が監査役の役割を軽視しておられたことは間違いないようなので、それはとても残念です。そして報告書が公表された当時、とても話題になりました「(元代表者の方の)私的にメールを送った女性関係図」なるものが、第三者委員会の調査において必要だったのかどうか、調査目的との関係で、ぜひ真剣にご議論していただきたいと思います。

さて、いつも有益な情報を頂戴している「第三者委員会ドットコム」さん(上記会社の第三者委員会報告書の存在も、ここで知りました)のHPにおいて、2月14日以降、会計不正もしくは不適切な会計処理を適時開示する上場会社がひとつも見当たらないことに気が付きました。コロナ・ショックで株価急落の中、上場会社では会計不正事件は起きなくなってしまったのでしょか?(追記:と言っておりましたところ、午後0時30分ころにジャスダック上場会社の不適切会計発覚→第三者委員会設置 のリリースが出ましたね(;'∀') )

ちなみに、上記HPから、2019年1月~3月の会計不正・不適切会計処理に関する適時開示の数を調べてみますと、2019年1月6件、2月6件、3月は7件となっておりました。それと比べて、今年は1月9件、2月6件、3月0件です(追記:3月1件に訂正いたします)。おそらくどこの会社でも、ビジネス自体が混乱してしまって、内部監査や不正調査における疑惑解明といった職務自体が停滞しています。そんな中で、過去の不正が表面化する確率がかなり減ってしまった、というのが現実ではないでしょうか。

会社が非常事態となり、ジョブシェアリングやテレワークが採用されるとなると、職場で隠ぺいしていた不正が発覚する機会も増えますよね。ただ、会社が非常事態から脱却するために、社員一丸となって業績回復に邁進するなかで、「この人、不正やってます」と手を上げることって、かなり勇気が必要です。このあたり、職能給制度の国と職務給制度の国では差が出るように思います。

よく「2019年と2020年を比較して、今年は会計不正事案が多かった(少なかった)」といった調査結果がリリースされますが、コロナ・ショックの影響で、今年は比較すること自体があまり意味がないかもしれませんね。

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2020年3月 9日 (月)

乾汽船における買収防衛策廃止を目的とした臨時株主総会の招集請求に東京地裁が許可決定

昨年5月、自動車部品メーカーであるヨロズ社において、買収防衛策を廃止する旨の株主提案を、会社側が定時株主総会において取り上げないことの適法性が争われました。東京高裁は、ヨロズ社の定款の解釈として、買収防衛策の廃止に関する提案ついては、株主総会の専属権限ではなく、取締役会に提案権限があるとして、会社側の主張を認め、株主側の仮処分命令の申立てを棄却しました。

ところで、かねてより乾汽船の経営者側と対立していた大株主(アルファレオホールディングス合同会社)が、乾汽船が導入している買収防衛策の廃止を議題とする臨時株主総会の招集許可決定を東京地裁に申し立てておりましたが、3月6日、東京地裁はこの申立てを認めて、招集許可決定を出しています(乾汽船のリリースはこちらです)。

一見すると、この東京地裁は昨年のヨロズ事件に関する東京高裁決定と矛盾するように思えますが、どうなんでしょうか。ヨロズ社と乾汽船社とでは買収防衛策導入に関する定款の規程が異なる、という点が問題にされたのでしょうか?それともヨロズ社の大株主は「濫用的買収者」だが、乾汽船社の大株主にはそのような傾向がみられない、という点が考慮されたのでしょか?このあたりは、乾汽船事件東京地裁決定の内容を読まないとわかりません。

ただ、最近、再び買収防衛策の実効性や適法性についての話題が盛り上がりをみせていますので、結論を異にした理由がどのあたりにあるのか、ぜひ知りたいところです。

話は変わりますが、先日のエントリー(タッチの差で遅かった?-ハイブリッド型バーチャル株主総会の実務指針)において、このたびの新型コロナウイルスの影響で、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催するところが出てくるのではないかと予想しておりましたところ、実際に3月総会の上場会社において実施に踏み切るところが出てきましたね。

私は、エントリーを書いた2月20日頃の情勢を前提として、そのような予想をしたわけですが、3月9日時点において、国内外の新型コロナウイルスの感染状況は深刻となっており、そもそも株主総会を開催できる状況といえるのかどうか疑問を持っています。感染のおそれ、という物理的な理由と、「当日の総会にはなるべく出席せずに事前行使をお願いします」とか「なるべく短時間に総会を終わらせましょう」といった総会運営方針をとることへの株主の違和感からです。

「株主との建設的な対話の場」としての株主総会の役割に注目が集まる中で、「実質的な対話を実現するために延期する」という選択肢もあろうかと。実際、2月末の定時株主総会の議事録を拝見しても、株主からの質問は「このコロナウイルスが会社の業績に及ぼす影響はどのくらいか」ということに集中していて、平時の経営に関する質問が少なかったようです。そもそも、このようなご時世、一般株主の方々も、たとえ出席したとしても、会社側の意向を「忖度」して、質問されないのではないかと。

ということで、法務省の見解を参考にしながら、3月総会を延期する上場会社も出てきても不思議ではない、と思っております。

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2020年3月 6日 (金)

速報版・公益通報者保護法改正法案が国会に提出されました!

本日(3月6日)、公益通報者保護法の一部を改正する法案が閣議決定され、さきほど国会へ提出されました。提出法案の内容は、こちらの消費者庁のHPにて公表されております。

業務中なので、中身はまだ確認していませんが、とりあえず良かったですね。ここまでご尽力された皆様に敬意を表したいと思います。まずは速報版ということで。

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社長さんのセクハラ疑惑行為と企業のコンダクト・リスクへの対応

今朝の朝日新聞朝刊1面に、大手服飾メーカーの社長さんのセクハラ疑惑を報じる記事が掲載されていました。「これは、会社側からの反論をまって第2弾の記事が出るのでは?」と思っていたところ、3月5日の夜に第2弾の記事が朝日新聞WEB版に出ましたね。

私も現在進行形で、似たようなセクハラ事案の調査を行っていますが、第三者からの通報に基づくセクハラ・パワハラ調査というのは、被害者とされる方の(調査を進めることに対する)意向を確認しながら、また関係者の秘密を徹底的に守りながらの調査になりますので、認定は困難を極めます。職場の同僚の方に調査への協力を要請しても、(協力に向けての)いろんな条件を出されるために「真実追及と関係者保護のどちらを優先すべきか」と悩むことが多い。通報された第三者の方が、いろいろな思惑をもって通報するケースもありますので、調査する側は「職場環境配慮義務を尽くすため」とはいえ、複雑な心境になるときもあります。

このたび報道された事件について私はコメントできる立場にはありませんが、過去の査問委員会の結論(厳重注意)という点に、少し関心を持ちました。セクハラに関する調査によって、最終的にセクハラがあったと断定できないケースはよくあります。ただ、「セクハラと疑われても仕方がないような事実」については認定できることが多いのです(加害者とされる方も、これを認めるケースは多いと思います)。そのあたり、査問委員会は認定できなかったのでしょうか。

パワハラ調査と異なり、セクハラ調査の場合には、「セクハラ行為はなかったかもしれないが、セクハラと疑われてもしかたのない行為」については、ミスコンダクト、つまり企業行動規範や倫理規範に違反する行動になることが多いと思います。法的根拠としては、就業規則上、制裁条項にある「会社の品位を害する行為」とか「職務誠実義務違反」に該当する、というものです。「セクハラと疑われる行為」については、一般の社員ではなく、社長という立場にある方だからこそ「会社の品位」と密接に関係します。

なお、「セクハラと疑われる行為」は社内の業務とは一切関係ありませんから、比較的処分が出しやすいのですが、「パワハラと疑われる行為」については、上司の適切な指揮命令と密接な関係を持ちますので、簡単には処分は出せません。

このあたり、この会社では企業行動規範や倫理規程がどうなっていたのか、就業規則の「制裁条項」はどのような内容だったのか、という点がもう少し深く知りたいところです。

最後に「大きなお世話」と言われそうなことですが、査問委員会の厳重注意がなされた後に、この社長さんは内閣府の男女共同参画会議のメンバーに就任された、とのことで「これはヤバイかも。。」とは思わなかったのでしょうかね?第三者通報の結果として、処分が甘いとなりますと、今度は通報が社外(マスコミや行政当局)に向かいます。このような要職に就く、ということは内部告発者の意欲を掻き立てることは必至です(現に朝日新聞や週刊新潮の記事が出てしまいました)。そのあたりのリスク感覚はどうだったのだろうか・・と。

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2020年3月 5日 (木)

監査等委員会の眠りを覚ます改正会社法の「取締役報酬規制」

一昨日(3月3日)、某会計専門誌が「監査等委員会設置会社に関する特集記事を掲載する」ということで、当職が取材を受けました。この2月時点で監査等委員会設置会社は1020社に上るそうで、上場会社の3割が「監査役さんがいない会社(監査役会が存在しない会社)」になったのですね。もはや取締役監査等委員の方々も「少数派」とは言えない時代になりました。

ところで、取材の際には話題になりませんでしたが、このたびの令和元年会社法改正(おそらく2021年4月か5月に、一部項目を除き施行予定)の主要改正項目に「取締役の報酬規制」があります。上場会社の場合、金銭報酬については個人別報酬の内容に関する決定方針を取締役会で決定し、株式や新株予約権による報酬についてはその数の上限や政省令で定める事項について株主総会で決議をする、ということになります。さらに株主総会前に開示される「事業報告」には代表取締役への再一任の方法を含む重要事項について記載する必要があります。

会社法制(企業統治等関係)部会の神田秀樹座長が「今回の改正の目的は、今まで形式的だった報酬ルールの改善」とおっしゃるとおり(「企業会計」2020年3月号95頁)、報酬規制の目的が「お手盛り防止」(経営陣が勝手に高額報酬を決めることを防ぐ)から「インセンティブ付与」「監督機能の促進」へと移るわけです。報酬規制に関する会社法361条の条文も大きく変わり、定時株主総会で、報酬に関する議案が上程される頻度も高くなることが予想されます。

そこで問題となるのが監査等委員会の「経営評価機能」の発揮です。監査等委員会は、監査等委員ではない取締役の報酬に関する議案が総会に上程された場合には、(選定監査等委員を通じて)委員会としての意見を陳述する権利があります(会社法361条6項、同399条の2、3項3号 なお、意見陳述義務はありません)。もちろん、総会に報酬議案が上程されずとも、意見を述べることができるというのが通説的見解ですが、このたびの会社法改正によって、報酬議案が上程される頻度が高まれば、どうしても監査等委員会の意見陳述権に光が当たります。

これまで、会社法上の取締役報酬規制は「形式的なルール」でしたから、監査等委員会の報酬に関する意見形成職務は(ほとんど)問題になりませんでした。しかし、報酬規制がインセンティブ付与、監督機能の充実にあるとすれば「当社の報酬制度が取締役のインセンティブとして妥当なのか」「当社の個別取締役の報酬決定方針に問題はないのか」「社長に再一任している報酬決定が、当社決定方針に合致しているといえるのはなぜか」「当社の任意の報酬委員会と監査等委員会との関係に問題はないのか」「譲渡制限付き株式は、なぜ一部の取締役にだけ報酬として付与されるのか」「監査等委員である取締役にも業績連動報酬が付与されるのは妥当ではないと思うが、どう考えているのか」等々、株主の方々には様々な疑問が湧いてきて当然かと思われます。

さらに、定時株主総会の前に、株主の目に留まる「事業報告」には詳細な役員報酬に関する事項が記載されることになります(詳細は、政省令よって決まります)。おそらく監査等委員の皆様に対して、(事前に事業報告を読んできた)出席株主から意見陳述権の行使を促す質問が飛んでくるのではないでしょうか。当然、意見陳述義務はありませんが、職務としての「意見形成義務」はありますから、質問されれば改正法の趣旨に沿った合理的な説明をしなければなりません(おそらく回答するのは常勤の監査等委員の方だと思います)。

平成26年改正会社法で生まれた監査等委員会設置会社ですが、このたびの令和元年会社法改正によって、いよいよ監査等委員会の「指名」「報酬」に関する意見陳述権が長い眠りから覚めるのではないかと期待しております。先日、武田薬品工業は、役員の業績連動報酬部分にクロ―バック条項を導入することを決めたそうですが、それは昨年の株主提案への賛成票が52%集まった結果に配慮したものです。このような株主による報酬監視を補完する(情報を提供する)機能こそ、監査等委員会の意見陳述権の役割なのです(平成26年改正法の立案担当者の解説)。令和元年会社法改正により、報酬規制が形式から実質へと移行する中で、監査等委員会の意見陳述権は、もはや「抜かずの宝刀」では済まされないはずです。

平成26年会社法改正の折、当時の改正法立案担当者のご説明では「監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社への移行過程にある機関設計」(残念ながら1020社のうち、まだ1社も移行した上場会社はありませんが)、「監査役会設置会社と制度間競争を期待している新たな制度」と語られていたことを記憶しています。私はそのような制度であるならば、監査等委員会の取締役人事、報酬への意見陳述権の積極的な行使が今こそ求められていると考えています。

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2020年3月 4日 (水)

独禁法コンプライアンスの「無形資産」になるか?-「公取委vs楽天」の攻防

(楽天の話題・・・といっても、ギガ放題2980円のほうではございませんので悪しからず・・・)

本日(3月3日)の朝日新聞(朝刊・社会面)に「公取委立入りの医薬品大手 改善計画提出 調査終了へ」との見出しで、日本メジフィジックス社が2例目の確約手続の適用を受けたことが報じられていました。医薬品販売にあたり、富士フイルム社の子会社による参入を妨害した疑いがあったそうですが、同社は公取委の確約通知に対して改善計画を提出し、公取委としては計画の実効性に問題なし、と判断したようです。日本メジフィジックス社としては、法令違反は認められないために自らの社会的信用を守り、公取委としては、ほとんど労力を使わずに行政目的を達成し、また富士フイルム側も、自ら闘わずして新たなビジネスチャンスを手に入れました。

2018年末に施行された確約手続の適用第1号は楽天だったわけですが(楽天トラベルによる最低価格表示強要問題)、ご承知のとおり、このたびの「送料無料」「送料込み」問題では、楽天は公取委の要請に応じず、行政処分が下りる前に実施を予定しているため、公取委は東京地裁に対して緊急停止命令の申立を行ったそうです(独禁法70条の4、1項)。「緊急停止命令申立て」というのは、そもそも「行政目的の達成は、専門的知見を有する行政の手で」行われるのが日本の法制度においては原則ですが、行政目的達成のために「一時的に(暫定的に)」裁判所(司法)の手を借りる、という極めて異例な制度です。

公取委としては、確約手続やリニエンシー制度、そして今後施行される「調査協力減算制度」などによって、法令違反が疑われる企業自身の対応をみて強権的な行動に出るかどうかを判断する時代となりました(いわゆる「応答的規制手法」)。したがって、審査の開始から強権発動(排除措置命令)までには時間を要することから、今回の様に一時的な企業行動の停止措置が必要となる場面が生じます。同様の制度は、同じく課徴金制度を採用している金融庁が申し立てる金融商品取引法の緊急差止命令(同法192条)があり、こちらは(以前は「抜かずの宝刀」でしたが)最近頻繁に使われるようになりました。

なお、ニュースでは「16年ぶりの公取委による緊急停止申立て」と報じられていますが、16年前の事件では、申立てはなされたものの、被申立人が申立ての直後に停止の対象となる行為を中止したために公取委は申立てを取り下げています(有線ブロードネットワークス事件)。しかし、楽天のリリースを読みますと「我々は法令違反はないと考えております」とありますので、不公正取引案件において、「違反する疑いのある行為」(同法70条の4,1項条文)がどのような事実をもとに、またどのような疎明資料によって認められるのか(認められないのか)裁判所の判断過程が注目されます。

私は経済法については詳しくありませんし、楽天のビジネスモデルにも精通していませんが、令和元年独禁法改正でも明確にされたように「公正取引委員会の応答的規制、協調的法執行路線」への企業の対応には、「独禁法コンプライアンス」の視点から極めて高い関心を持っています。あるときは公取委に協力して企業の社会的信用を守り、またあるときは公取委と徹底的に闘って企業の信用を守る。また、不公正な取引を排除するために、公正取引を妨害されている企業は自力救済(たとえば差止請求仮処分)もしくは公取委に協力して経済的利益を守る、公取委は行政目的を達成するために、できるだけ民間活力を利用する、ということで、当事会社の法務の実力の差が企業の儲けに直結する場面です。

おそらく楽天も、GAFAに負けないほどの法務力をつけなければプラットフォーマーとして生き残れないはずで、あるときは行政目的の達成のために行政に協力し、あるときは行政と対決することで「競争領域の明確化」を図り、レッドオーシャンをブルーオーシャンに変えていく戦略をとらねばなりません(金融事業の分野では金融庁とも対決するのかもしれません)。楽天から不公正な取引を強いられている、と主張する事業者の方々も、今度は自分達で楽天を追い詰めるために、裁判所はどこに注目するのか、公取委はどんな資料を提供すれば味方になってくれるのか、平時から学習する必要があります。

今回の緊急停止命令の申立だけでなく、排除措置命令への楽天の対応も含めて、この「公取委vs楽天」事件の司法判断は、不公正取引の領域における独禁法コンプライアンスにとっての「無形資産」になりうるのではないかと思います。いや、これを最大限の無形資産として活用することを企図して固唾をのんで見守っているのは、紛れもなくGAFA、MSといったプラットフォーマーの(計1万人を超える)法務関係者ではないでしょうか。楽天の「法務力」について、これからも注目しておきたいと思います。

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2020年3月 3日 (火)

機関投資家が「目的ある対話」として社外取締役に質問したい内容とは?

2,3年ほど、社外役員さんの支援をさせていただいた経験から、「機関投資家は社外取締役のどこをみてガバナンスの評価をしているか」ということに興味を持ちました。以前、頭の中で想定していたのは「自社取締役会の実効性評価の話」だったり、「ESG経営やCSR経営への社外取締役の関与」だったり、「監査能力や内部統制に関連する話」などを聞かれるのではないかと思っておりました。

しかし、実際のところは、そのような質問は皆無でした(少なくとも私が経験したところでは)。むしろ、対話の相手が社外取締役であったとしても、短期的利益の向上に関する話がほとんどです。

たとえば①機関投資家が当該企業の業績向上に必須とみているKPI(重要業績評価指標)について、その数字の変動は社内のどのような事象に起因していると思うか(当該KPIは、各投資家によって異なることが対話によって理解できます)、②利益率、売上の今後の向上もしくは低下については、どのような条件(経営環境、同業他社との戦略の違い、国の政策等)に依拠していると考えているか(この「経営環境」のところでSDGs等も含まれるのかもしれません)、③貴社の場合、〇〇のようなコスト削減が喫緊の課題だが、そのようなコスト削減は中長期の企業価値向上にどんな影響を及ぼすと思うか、④資本政策(自社株取得、配当、内部留保)についての貴社の前向き(後ろ向き)な姿勢をどう評価しているか、⑤中期経営計画の実施にあたり、未達となる原因があるとすれば、どういったことか、といったところかと。

CEOは機関投資家に夢を語ります。その夢が正夢になるのか、悪夢になるのか、そこのところを社外取締役からの話で補完したい。社外取締役との「目的ある対話」によって「あなたはどれだけ会社のことを勉強していますか?どれだけ利益率や売上の向上に関心を持っていますか」ということを知りたい、CEOを監視するにふさわしい能力を持っていることを知りたい、というのが最大の関心事だと思います。会社の有事ともなれば社外取締役の出身とか専門性などにも関心を持たれるのかもしれませんが、平時においては、そんなことよりも会社の経営にどれだけコミットメントしているか、という点に注目しているようです。

なにかの想定問答集に出てくるような、誰でも「使いまわし」ができるような回答は求められていません。機関投資家は「身銭を切って」リスクを背負った人たちであり、当該会社のことをよく勉強しています。社外取締役も、当該会社の短期的利益の向上に関心を持つことが大前提であり、そのうえでの「中長期的企業価値向上への寄与」だと考えるのが現実的です。「守りのガバナンス」を重視することは、たしかに企業経営に安定をもたらすものとして資本コストを低下させますが、機関投資家の購買意欲を掻き立て、株式価値を高めるものはエージェンシーコスト(社内における経営監督者としての能力)だと痛感しています。

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2020年3月 2日 (月)

「公正なM&A指針2019」で変わる独立委員会実務

本日は企業価値算定に関連する独立委員会(主に社外取締役の責任と役割)に関する話題です。2月28日に、(企業の公正価値算定で著名な)プルータス・コンサルティング社から送られてきたメールマガジン(プルータス・ニュース)では、昨年6月28日付け「公正なM&Aの在り方に関する指針」が公表された後に、実際に公開買付が行われたMBO事案(18件)の調査結果が示されています。

主に「独立委員会の実務が、上記指針公表によって変わってきたのか」というところに焦点を当てたものですが、①独立委員会の構成員、②構成員の変化に伴うアドバイザーの起用、③フェアネス・オピニオンの取得、という点において、顕著な変化がみられます。

たとえば①では、かつては委員の独立性・公正性という点が重視されていて、外部有識者が構成員を占めることが多かったのですが、上記実務指針が公表された後は、被買収会社の社外取締役が構成員になるケースが増えています。また、ファイナンスや法務に詳しくない社外取締役の方が構成員になる以上、アドバイザーとして専門家が独立委員会に関与するケースが増えています。

さらにフェアネス・オピニオンについては、18件中7件ということで、半分以下ではありますが、上記指針を意識してオピニオンを取得する事例が増えているそうです。今後も、フェアネス・オピニオンの取得については、公正な企業価値算定のプロセスにおいて重要と認識する企業が増えてくるのではないかと思います。

先日も「アスクル・モデル」についてご紹介しましたが、親子関係もしくは支配・従属関係にある場合に、子会社(従属会社)側の独立社外取締役の責任と役割が重要視されるようになっています。そのあたりは、昨年6月以降の実際の例からみても、子会社側の社外取締役の中でもかなり意識をされている方が多いことがわかりました。

なお、独立委員会が設置する法務アドバイザーについて、会社側のアドバイザーとは別の事業者を選任するほうがよいと思います。社内取締役と利益相反にあるからこそ、独立委員会を設置しているのですが、当該委員会と会社側と同一のアドバイザーが支援しているとなりますと、やはり少数株主からみれば「なれ合い」に映る可能性があります。ここは会社側の矜持として、独立委員会がイニシアティブをとって、自らのアドバイザーを選任すべきだと思います。

 

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