関電・金品受領問題に関する第三者委員会報告書に対する第一印象
土曜日(3月14日)の午後2時に公表された関西電力・第三者委員会調査報告書(全文)を2日かけて読みました。第三者委員会委員の方々の記者会見でも「関電のガバナンスが全く機能していなかった」とのことですが、では「どのようにガバナンスが機能していなかったのか」ということで12点ほど指摘できるのではないか・・・と考えております。
ところで、そういったガバナンスの問題点については、また別のところでお話することとして、当ブログでは「報告書を読んだ第一印象」といいますか、素朴な感想だけ述べておきたいと思います。
いくつかのメディアでは、2月7日の時点で「(関西電力は)第三者委員会報告書とは別に責任判定委員会の設置を検討している」と報じられていましたが(たとえば東京新聞ニュース)、今後関電は責任判定委員会を設置するのでしょうか?私が第三者委員会報告書を読んだ印象としては、相当役員の方々に厳しい意見と事実認定がなされていますが、会社側がこの報告書の内容を知って「やっぱり、やめとこ・・・」となったのでしょうかね。
仮に責任判定委員会を設置しないとすれば、関電としての自浄能力を発揮するために、株主代表訴訟よりも先に、会社自身が役員(元役員)の方々を被告として損害賠償請求訴訟を提起しなければならない、ということでしょうか?そうでないと「本気で反省していない」と世間から(ユーザー目線で)批判されるように思います。
つぎに、毎日新聞ニュースが詳細に取り上げていましたが、経営陣と常任監査役のもとに4通ほどの内部通報(外部からの情報提供?)が届いていました。この内部通報に関する記述が報告書にはなかったのですが、有事における経営陣の対応には当該通報が何らの影響もなかった、ということなのでしょうか?もしそういった通報が役員の手元に届いていなかったとすれば、そっちのほうも問題になると思うのですが。
さらに、素朴な疑問ですが、そもそも本件は全社的な組織風土の問題なのか、それとも「原子力事業部門」という関電の一つの組織における風土の問題なのか、という点です。報告書を読むと、火力や水力、ガスといった他の事業部門では同様の不適切行為は発見されなかった、とあります。また、過去に別件で別の事業部門における金品受領問題が発覚した際、再発防止策として「今後は同じことが起きないように、事業部門上げて尽力いたします」と社内で発表されています。
最後に、金品受領問題の国税調査を受けて、関電では2018年10月9日に「役員コンプライアンス研修」が開催されていますが、10月1日に本件問題を知った監査役が誰も参加していません。社外を除く取締役や執行役員が全員参加しているのに、5名の監査役さんが誰も参加しない、ということはちょっとありえない。これは何か理由があったのでしょうかね?
関電の多くの役職員の方々は「関電がいろいろ批判されているけど、これって(福井に拠点のある)原子力事業と経営トップの問題だけじゃないの?我々のコンプライアンス意識は高いのだから、再発防止策は関係ないのでは?」といった意識をお持ちではないかと。そういった方々に、今回の再発防止策というものは心に響くのでしょうか?
関電問題を外からいろいろと批判する意見はたくさんあると思います。しかし、これからコンプライアンス経営を浸透させる責任者の立場からすると、上記で述べたところは大問題だと思います。
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コメント
今朝8時早々に、NHKでも「業務改善命令」が、経産省から関西電力社に出されたとの報道に触れました。
電気事業法(昭和39年:法律第170号)の第一章:総則では、
(目的)第一条
この法律は、電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて、
電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、
電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、
公共の安全を確保し、及び環境の保全を図ることを目的とする。
と記されています。
健全な発達から程遠い「金品受領」等が法令遵守から逸脱しているのであれば、懲役や罰金等の処分が下される?(誰に?)などなど、議論は尽きませんが…。
フクシマ以降のエネルギー施策:公共の安全維持、保全を考えると、
巨大な放射能汚染水タンクが1,000器近く設置してもまだ足りないとか、数十年かかるデブリ対策等に対し、帳簿上の損得以上のリスクを抱える発電所の運営が、民間1社では賄いきれない事が明らかになった訳ですから、原発は、他の発電所と別に分けて組織運営:ガバナンス対応でもしないと、「放射線汚染パンデミック」になってからでは遅いのではと、危惧します。
(極論的ですが)電力各社から、それぞれの原発部門を分別し、半官半民で(日本原子力ホールディングス(仮称))として統一組織運営…とか。稼働の権限を、小さな(失礼)市町や県に委ねて安心出来る時代ではないとも危惧します。関東の電力会社が東北に設置した原発での事故が、日本のみならず、世界に影響を及ぼした訳ですから、金品受領の防止は当然の事、広義/多面的な危機管理可能な組織に変更する事を国民視点で議論しても良いのでは?と思ったりしています・・・。
投稿: にこらうす | 2020年3月16日 (月) 09時22分
偶然にも新型肺炎への関心が集中する中での、今回の関電事件調査報告記者会見でした。当該企業内では多くの教訓を残す事件であり、コンプラ体制強化について、いきなりの体質改善は無理としても、徐々に少しは改善していくのだろうと感じられた会見でした。限られた調査期間と調査範囲において詳細な全容解明は無理だと思われる中で、「一区切り」がついたとせざるを得ません。国家のエネルギー政策に沿った、公的企業の経営政策、そしてここから派生した不適切な企業行動だったとするならば、その国策経営を糺す筈の「国策調査」のあり方や限界が、ここに見えてきたのではないでしょうか。なぜか東芝事件とのアナロジーを強く意識しました。
投稿: 一老 | 2020年3月16日 (月) 14時41分
関電・金品受領問題に関して企業ガバナンスの面からの課題の分析や検討は、重要と考えます。
しかし、企業ガバナンスの面だけではなく、公共インフラの設備投資と運営に関わるあり方についても十分な研究や検討がなされるべきと私は考えます。
1) 九電力(十電力)制度は、昭和25年11月24日発令の電気事業再編政令と同日付け公益事業令により始まった。それ以前の電力管理法は廃止され、日本発送電は解散されることとなった。
九電力は上場会社となり、日本の電力事業のありかたは、当時の言葉を使えば民主化された。
電力会社の事業である、発電、送電、配電は公共インフラであり、建設地についても、設備仕様の決定についても、納入・建設業者の決定についても電力会社が全責任を負う。上場会社としての義務、電気事業法他電気事業者としての義務もあるが、どうあるべきかは常に問い続ける必要があると考える。
一方、電力自由化に伴い電気事業者の情報開示義務が徐々に狭くなりつつある。例えば、火力発電所の燃料使用量もかつては、発電所毎に開示されていたのが、今は事業者毎となった。
2)原子力発電は、やはり国家政策であったと思う。電気事業者の事業も長期的なビジョンでとらえれば、国家政策との整合性は重要である。国家政策についても上場企業の企業活動についても、国民は意見や要望を述べることはできる。制度として十分か、どう整備すべきかは今後の大きな課題である。
原子力神話は、誰がつくったのか?電力会社、政府、政治家、地元自治体、地元住民、電力供給を受ける消費者?私は、複雑であると思っている。
関電・金品受領問題というのは、思考を狭い範囲に止めず、様々なことを考える機会だと思って書きこんでみました。
投稿: ある経営コンサルタント | 2020年3月16日 (月) 15時57分
経営陣への内部通報(外部からの情報提供?)と聞いて、いの一番に思うのは通報無視、不正発覚後の通報者への報復です。
本日16日には「退職した経営陣の報酬カット分の補填が秘密裏に行われていた」と関電が発表し、広報が「返納を求めていく」と話したとのことです。
これも第三者委員会の調査により秘密が暴かれたようで、金品受領問題の社内調査時には隠蔽されていたことです。
公益通報して不利益を受けたものが、勇気を持って「誰に(上司や経営陣、取締役、監査役)、いつ(不正発覚前ですが)、どのように通報していたか」を現経営陣に改めて通報したり第三者員会設置要望したり、「通報者本人の不利益」とともに善管注意義務違反等を明示してゆく社会正義としての必要性を感じます。
経済産業省や関係省庁のご協力を求めます。
投稿: 試行錯誤者 | 2020年3月16日 (月) 20時06分
「ユーザー目線でのコンプライアンス意識」が「醸成」される前に、関電丸が沈まなければいいのですが。原発ブリッジで舵を握る船長ら乗組員たちは、フナクイムシが船底に穴をあけつつあることに、気づいていたのでしょうが、海面に隠れて見えないことで、そのまま船を操船していたような。
30年以上船底を食い荒らしたフナクイムシは、とりあえずいなくなりましたが、他にもいるかもしれないし、地球温暖化で数も増えることでしょう。船底を食われて船を沈められたくなければ、木造船ではなくて、鉄の船に乗り換えるべきだと思うのですが。原発中心の電源構成は変えない、と言ってるし。大事な積荷は、「電力」という国民生活に欠かせないものなのですが。一体、どこに運ぶつもりなのでしょう。
投稿: コンプライ堂 | 2020年3月18日 (水) 09時07分
皆様、コメントありがとうございます。
私も東芝事件との対比で考えてしまいました。この関電事件は金品受領問題の枠で考えざるをえず、根本原因まで掘り下げていくことには限界があると思いました。むしろ関電側のリスク管理の視点で考えれば、金品受領問題けしからん!と社会が批判しているうちは御の字です。
原子力事業の在り方そのものまで遡るとなりますと、今後の国家のエネルギー政策への風当たりも強くなりそうで、マスコミも取扱いに苦慮することになると思います。「人権」問題なども出てきますし・・・
投稿: toshi | 2020年3月19日 (木) 00時51分
(2回目のコメントで恐縮です)
今朝(3月20日:金曜日)の読売新聞「解説」面の下段/論点スペシャルを目にして、二つのサプライズ…です。
一つは、山口先生の論点:統治改革「社外の目」必要という見出しを拝読で来た事。読売新聞社は「読売中高生新聞」という媒体を、週に一度発刊していますが、該当生徒世代にも、解り易い文面だと思いました。
(山口先生のお写真:背景のファイル棚を上手く入れての一枚:さすが報道カメラマン、先生の肩書きを表す仕上がりとも思いました)
二つ目は、対面者として掲載された大学の特命教授:柏木氏の論点。
氏に目くじら立てて…も仕方がありませんが、
「電力会社の再編を検討・・・」の部分は、私が今回の山口先生エントリーに3月16日にコメントした事と同じです。
氏が、読売新聞インタビューの前に、山口先生のブログを見て、私のコメントを覗いたかどうかは存じませんが、
仮にも全国紙の一つの一面の半分近いスペースで掲載しての記事。
おそらく多くの人が、氏が発端で提唱していると、多くの読者は思われるのではないでしょうか。
言論に先発明特許的概念は在りませんし、コメントに著作権が発生するかは判りませんが、「著作権侵害」「特許料請求」の類いは発生しないと思いますけど…、著名識者が、私の様な者のコメントを、我が者顔で「後出し」…?。
原発への考えの是非はともかく、仮に私が、TVに毎日出演する様な有名人だったら、氏は、どうするのか?と思ってしまっています・・・。
投稿: にこらうす | 2020年3月20日 (金) 09時49分