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2020年3月31日 (火)

優秀な営業社員はなぜ実績とコンプライアンスを両立できるのか?-「かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会報告書」より

昨年の代表的な企業不祥事である「かんぽ生命保険契約問題」ですが、昨年12月18日付けの第三者委員会報告書につづき、今年3月26日に追加報告書が公表されました。合計275頁に及ぶ大作でして、なんとか読了いたしました。委員の方々および委員補佐、フォレンジックス調査ご担当者の皆様の成果品として、たいへん興味深く拝読させていただきました。先日の関電金品受領問題の報告書を読んだときにも同じ感想を持ちましたが、「かんぽ問題」として日本郵政グループを一括りにはできず、やはり各組織で微妙にコンプライアンス意識(組織風土)に違いがあり、とてもおもしろい。

当該第三者委員会報告書(とくに追加報告書)において、もっとも関心がありましたのが「2018年4月24日のNHKクローズアップ現代+(プラス)において、あれだけ保険商品の不適切販売に関する事件が大きく取り上げられたにもかかわらず、なぜ日本郵政グループ(とくにかんぽ生命と日本郵便)の経営陣は調査委員会を立ち上げなかったのか・・・」という点です。しかし、この大作には、その答えが出てきませんでした。たしかに「クロ現問題への日本郵政グループとしての対応」については記述があるのですが(追加報告書77頁以降)、各社取締役会がクロ現問題にどう反応したのか…という点には触れられていません。

この点について善解するならば、おそらく日本郵政や日本郵便そしてかんぽ生命の社外取締役さん達も、「あんなおかしな契約をとっているのか。これはいったん募集を停止して調べる必要があるのではないか」と声を上げたのではないかと推測します。しかしながら、2018年1月から、日本郵政グループ挙げて不適切募集をなくすための施策を開始しており、その施策に関する中間報告によって「次第に不適切案件が減っている」という報告を聞いてしまった。したがって、社外役員も「NHKで紹介された事案は極端な事案であり、もう少し様子をみておこう」ということになったのではないかと。

ただ、やはり私には理解できないのです。私も実際に2018年4月のNHKクロ現をアーカイブで視聴しましたが、視聴後の感想としては「これは金融庁が動くだろう。その前に社外役員を委員長に据えた社内調査委員会を立ち上げて、件外調査を含めた徹底調査が必要だろう」と確信しました。それまでも西日本新聞社が執拗に特集を組んで問題を指摘していましたが、このNHKクロ現の影響力は絶大だと感じました。

たとえば賃貸住宅大手であれば、レオパレスの建築瑕疵事件、スルガ銀行の不正融資事件が大きく新聞報道された際、「私が社外取締役を務める会社でも同じことは起きてるのではないのか?」ということで、経営陣と相談をして社内調査委員会を立ち上げ、結果は国交省、金融庁に報告します(どこの会社とは申しませんが)。後で内部告発等で発覚してしまい、「自浄能力のない企業」といった社会的評価を受けることだけは避けたいという思いがあるからです。かんぽ生命や日本郵便でも、同様の意識を経営陣が持ったはずであり、しかし、これを打ち消すだけの「何かの動機」があったと思います。そこのところが、上記報告書を読んでも、やはりすっきりとしませんでした。

ところで、かんぽ生命保険契約問題に関する特別調査委員会報告書を読んで、なるほど、と感心したことがありました。実は不適切販売行為に及んだ営業社員の人たちが多い中で、販売実績も優れており、またコンプライアンス的にも模範となる(つまり募集品質が高いと評価された)人たちがいます。その方々にはある共通点がある、ということで8項目にわたって解説がなされています。実際にその営業担当者の方々の生の声も紹介されています(追加報告書48頁~52頁)。どのような共通点があるか、ということにご興味がございましたら、ぜひ3月26日公表の追加報告書をお読みくださいませ。

どうすれば販売実績と募集品質を両立させることができるのか・・「なるほど、これはぜひ私もお手本にしよう」と思える内容が含まれています。金融機関だけでなく、メーカーさんの営業社員の方にも参考になるかもしれません。とりわけ営業担当者の方々は、ぜひとも51頁の「金融機関の販売思想に違和感を抱いた」とされる有能な営業担当者の意見をぜひお読みいただきたい(この内容は私が架空循環取引を防止できる企業の営業方法そのものと痛感しました)。インセンティブ報酬制度を採用しつつ、「人」で商品を売るのではなく「企業の品質」で商品を売る姿勢がどれだけ社内に浸透するか・・・、ここに販売実績とコンプライアンスの両立の鍵があると考えています。

最近は関西電力金品受領問題の第三者委員会報告書に関心が集まっていますが、こちらのかんぽ生命保険契約問題の二つの報告書も、コンプライアンス経営を考えるうえで立派な「生きた教材」になると思いました。

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コメント

 タイトルに同感、です。目次を見て、真っ先に48ページ「販売実績が高く、かつ、募集品質も良好な募集人の募集態様等の共通点」から、読み始めました。

 自社の商品を関連情報も収集しながら徹底的に研究して、お客様のことも事前に調べる。お客様を高齢者に限定せず、若い方にも対象を拡げる。訪問頻度など、とにかく大量行動する。接客の場面では、小手先のテクニックではなく、お客様の立場に立って行動する。契約後もアフターフォローを欠かさず、良好な関係を維持して、紹介につなげる。売れない原因を、組織のせいや、自社の商品力のせいにしない。

 これらは営業マンのベストプラクティスとして、よく取り上げられる事柄です。かんぽ生命にも、こういうプロフェッショナルな営業マンたちがいたことが、救いです。

 調査報告書はえてして、原因を明確にする関係から、問題点つまり「出来ていないこと」に注力しがちです。けれども問題を「解決」する上では、「出来ていること」に焦点を当てることも重要と考えます。そういう意味で、今回の報告書は出色の出来と言えそうです。

投稿: コンプライ堂 | 2020年3月31日 (火) 09時08分

コンプライ堂さんのおっしゃるとおり、特別調査委員会報告書で「コンプラアンスを守ることも出来ている」社員にスポットを当てたことは「素晴らしい」報告書だと思います。
内閣府消費者委員会第218回の動画配信で、公益通報者保護法改正案「通報窓口の守秘義務違反に罰則を与える」ことについては、委員の方々からも「よくここまで出来た」と評価されていました。
あらたなガイドライン作成も消費者庁消費者制度課から言及され、山口先生のコメントにもありましたが、委員に大注目されていました。
MS&AD経営陣の委員が「法改正の意義」に賛同され真っ先に発言されたこと、大変嬉しく思いました。
本当に「公益通報者を守る」ためには、まだまだかかると思いますが、政府・行政・経済団体・国会にも協力し、微力ながら参画していきたいと思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年3月31日 (火) 17時31分

「かんぽ生命保険契約問題特別調査委員会報告書」と、
(将来:発行されるかもしれない)「新型コロナウィルス感染者/死亡者調査報告書(仮称)」を現時点で重ね記するのは早計かと思いつつ…。

(未曾有の世界混乱の新型コロナウィルス問題が、エイプリルフールだと思いたい心境と併せて)企業や組織の内部不祥事では無いものの、「異常事態発生」の公表=リリースのタイミングを、5W1H視点で考えています。

阪神タイガースの藤波選手が「私の感染を伏せておいてくれ」と事務所に伝えれば、若者に味覚・臭覚異常の警鐘は浸透しなかったでしょうし、故志村けん氏がヘビースモーカーと公表されなければ、喫煙者への注意喚起も微少に終ったかも知れません。
三重県の知人から、鈴鹿サーキットホテルに宿泊した、富士通社所属の銀メダリストが感染した事を知りましたが、三重県知事からは個人名等は公表されず、(元選手の強い要望で)富士通社が公表に至ったそうです。その知人は、TVで知事の会見を視聴していて、「いつもの明瞭快活な鈴木知事ではなく、何かを隠している雰囲気」が伝わってきたそうです。それまでは、埼玉からの出張会社員=HONDAの社員か?とのウワサが鈴鹿市内で蔓延/風評被害一歩手前…とか。
因みに、HONDAの子会社=鈴鹿サーキットは、再開しているとのこと。USJやTDL、サンリオピューランドとの認識格差を感じています。

報告書作成ほどではない事例でも、企業組織の言動/会見等が、社会に与える影響の大きさや、ウワサがウワサを呼ぶ人間社会の構図。発端はともかく、コンプライアンスと後日検証の材料=「生きた教材」としての「報告書」作成の重要性を、あらためて感じています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年4月 1日 (水) 06時51分

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