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2020年4月30日 (木)

行政指針「継続会方式による6月総会のガイドライン」表明-それでも6月定時株主総会は完全延期すべきである

こんなにゴールデンウイークを感じさせない4月末を経験するのは初めてです。緊急事態宣言の解除が1カ月程度延長されるといったニュースも飛び交うなか、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、当ブログでは「コロナ禍における有事の株主総会対応」として、一貫して「6月総会は継続会方式(二段階総会開催方式)ではなく、少なくとも7月以降に完全延期すべきである」と主張し続けてきました。また、その合理的な理由も縷々述べてきました。

ところで、金融庁・法務省・経済産業省による「企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」は、6月総会の柔軟な対応を推奨するものとして、完全延期の選択肢のほかに「継続会方式(会社法317条)も選択肢のひとつである」との内容で、継続会方式を採用することを前提とした指針を表明しています(4月28日付け)。5月中旬までに決算が確定しない上場企業、監査終了が見込まれない上場企業にとっては、まさにありがたい指針になりそうですね。

ただ、上記指針を拝読いたしましたが、やはり私は(法律面ではなく、実務面において)継続会方式には無理があり、6月総会はきちんと延期決定を行い、議決権行使、配当請求権行使に関する基準日を変更すべきと考えます(すでにサマンサタバサやJDIのように、基準日を変更して5月総会、6月総会の完全延期を決定した上場企業も出始めており、連休明けの各社動向が気になるところです)。その理由は以下のとおりです。

まず一つ目の理由は「役員選任議案」について。上記継続会指針では「6月総会の際に、計算書類は提供されていないとしても、既に公表されている四半期報告等を活用して、この1年間の事業の概況、新任経営者に求められる役割等について丁寧な説明を行うことで、役員選任議案を通すことは問題ない」とされています。当ブログでも、この論点については議論したところです。

しかし、何度も申し上げるとおり、これは会計監査、監査役監査の重要性を全く顧みないものであります。イレギュラーな理由で、上場会社の1社、2社が計算書類を提出できずに「継続会方式」を採用するのであれば、(過去の例にもあるように)ディスクロージャー問題として、機関投資家はクリアできるでしょう。しかし、多数の会社がこの方式を採用するのであれば、丁寧な説明がされたからといって会計監査、監査役監査に代替できるとは到底思えません。

機関投資家が多数の会社の計算書類を短時間のうちに信認できるのは、そこに(社会的インフラである)会計監査人や監査役の適正意見、財務報告内部統制への相当性意見が付されているからです。いちいち「丁寧な説明」を聞いている時間的余裕などないはずです。もし多数の上場会社の「丁寧な説明」を聞いて議決権を行使しなければならないとすれば、それこそ機関投資家の方々の健康や安全を損なうことを奨励することになります。それを承知のうえで、このような意見が出される、ということは、あまりにも監査制度の実務を軽視(無視?)したものと言わざるを得ません。

さらに、いま継続会方式の採用を検討している上場会社は、6月下旬の総会を、できるだけ株主には出席してもらわない方向で準備をしています。議決権も事前行使を推奨する予定だと思います。そのような総会準備の状況と株主への丁寧な説明を要求することとは明らかに矛盾しています。株主から質問も受け付けない状況を一方で推奨しながら、もう一方で株主への(経営状況に関する)丁寧な説明を要求する、というのは、どのように考えても合理的な説明がつきません。

次に二つ目の理由は「剰余金の配当」議案についてです。継続会方式を採用する場合の最初の総会(つまり6月の総会)で剰余金の配当決議を行う場合、2020年3月期の計算書類が確定していなくとも、2019年3月期の確定計算書類に基づいて算出された分配可能額の範囲において配当を決議することは可能とされています。これは私も当初から述べているとおり、そもそも分配可能額に問題がない上場会社であれば配当は可能であり、違法配当や計算書類に欠損が生じる可能性が少ないのであれば継続会の当初の総会で決議することも可能でしょう。

しかし、2019年3月期の確定計算書類に基づいて剰余金配当を決議するためには、その前提として、2019年3月期の計算書類から分配可能額を計算しなおす必要があります。たとえば配当の効力発生日までの自己株式の変動、帳簿価格の価格算定、その他いくつかの項目について、あらためて減算を行い、分配可能額を確認しなければなりません。その作業は経理部門と会計監査人が行うわけですから、ただでさえ2020年3月期の決算確定に忙しいうえに、前年度の計算書類をもとに分配可能額の再計算を行うということは、この指針が「企業が従業員等の健康や安全を最優先に考えた」うえで継続会方式を採用することを前提としている趣旨と明らかに矛盾しています。

そして三つ目の理由は(法理論ではありませんが)欧米企業のコロナ禍における機関投資家の態度との整合性です。ガバナンス改革における「短期利益よりも中長期利益」といった企業価値の捉え方との整合性といってもよいと思います。継続会方式は、3月末決算時の株主への配当金支払いにどうしてもこだわっています。もちろん株主の重要な権利であるがゆえに、配当に関する基準日を変更したくない理由はわかります(ちなみに、一般社団法人信託協会は4月20日付け連絡協議会宛の要望書において「基準日の一律延長」を要望されています)。

しかし、現在は株主への配当や役員報酬を雇用維持や取引先支援、コロナ後の回復のための内部留保に振り向けるべき、といった意見が高まっています。米国ではGMもフォードも配当や自社株買いを停止しています。各企業が経済復興に向けて一致団結して動き出そうとしているときに、基準日を固定したいがためにイレギュラーな総会を開催しなければならないほどの切迫した理由になるのかどうか。私には理解できません。

ちなみに、配当に関する基準日を変更できない理由として「3月末の株主から訴訟を提起されるリスクがある」とよく指摘されます。しかし、この訴訟を提起されるリスクとは、いったいどのような訴訟を提起されるリスクなのでしょうか?ご承知のとおり、会社法上、基準日を変更することは可能であり、3月末の基準日をずらさない、という慣行は、株主にとっては反射的利益にすぎません(基準日を定款に記載している会社の場合には「反社的利益」は言い過ぎですから「期待権」と言い直したほうが良いかもしれませんが)。

また、株主の配当請求権は、株主総会の決議がない状況では抽象的な請求権にすぎず、会社に対して訴えを提起できる具体的な権利ではないとされています(江頭「株式会社法」第7版 692頁)。さらに、平時に基準日を理由なく変更するのではなく、「経営環境の先行きが全く見通せない状況の中で、事業の継続性を優先する、短期利益よりも中長期の株主利益を確保する」という大義名分のある中での変更です。私はどうも「3月末株主による訴訟リスク」というのはあまり考える必要はないのではないか、と考えております。

毎度申し上げておりますとおり、行政の指針が出されている以上、継続会方式を採用するのか、一気に6月総会を敢行するのか、それとも7月~9月あたりに総会を完全延期するのか、これは皆様方の経営判断です。そもそも「(基準日に関する)慣行は変えたくない」といった意見が強い日本企業に向けて継続会方式やバーチャル株主総会といった斬新な方式を推奨すること自体にやや無理があるように思いますが、この有事において、継続会方式やバーチャル株主総会を敢行するリスクが高いことは、おそらく感覚的に理解できるのではないでしょうか。

監査制度への懸念だけでなく、6月総会を断行することには安全面からの懸念もあります。想像してみてください。定時株主総会を開催する、ということは、その準備も含めて、社内外の多くの人たちの協力がなければなしえない、ということです。たとえ簡素化された総会が開催されるとしても、簡素化された分、準備にはたいへんな人たちのリアルな作業が増えるということです。それだけ多くの社内外の人たちの生命・身体の安全が危険にさらされることを、会社は許容することになります。それでも「断行する」ということは相当の覚悟が必要ではないかと。

働き方改革に前向きに取り組んでいる会社では「テレワーク」が比較的うまく運用されているのに対して、掛け声だけでお茶を濁してきた会社では問題が発生している様子からみて、「有事の株主総会」にも同じことがあてはまるような気がいたします。有価証券報告書の提出が猶予された9月末まで6月総会は完全に延期されるのが、もっとも妥当な選択ではないかと思います。

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2020年4月29日 (水)

産業經理(最新号)に「架空循環取引の根本原因を考える」と題する論稿を掲載いただきました。

Img_20200427_222611_400 一般財団法人産業経理協会さんが、会員企業向けに発行されている季刊誌「産業經理」の最新号(80巻2020年第1号)に、「架空循環取引の根本原因を考える」と題する小稿を掲載していただきました。1年にわたって(といっても4回ですが)「ビジネス法務雑感」の連載を担当しておりまして、その3回目として執筆したものです。論稿といいましても、他の会計・監査の学者の皆様のような大作ではなく、ほんの5000字程度のものです。

ただ、過去における架空循環取引調査に関わった実務経験から、「これを正さないと架空循環取引はなくならないのではないか」と考えていることを、簡潔にまとめたものでして、企業社会の不都合な真実を指摘しております。当ブログにおいて、架空循環取引はけっしてなくならない、と自信をもって言える背景がおわかりいただけると思います。

ところで、とても格調の高い会計誌ですが、会員企業以外の皆様には入手しにくいと思いましたので、産業経理協会さんのご厚意によって、当ブログから拙稿のダウンロードを許可していただくことになりました(どうもありがとうございます。ちなみにPDFの左下に「初校」とありますが、掲載原稿と全く内容は同じです)。もし、ご興味がございましたら、ご一読くださいませ。皆様にも関心の高いテーマであり、ご異論・ご批判あろうかと思いますが、感想も含めて、メール・コメント賜れれば幸いです。

(出典は一般財団法人産業経理協会「産業經理」80巻1号190頁~191頁)

「架空循環取引の根本原因を考える」 - e794a3e6a5ade7b58ce7908680e5b7bb1e58fb7e3808ce38393e382b8e3838de382b9e6b395e58b99e99b91e6849fe3808defbc88e5b1b1e58fa3e588a9e698ade59fb7e7ad86e58886efbc89.pdf

上誌の拙稿の後に「会計基準の開発と法の関係を考える」と題する公認会計士の阿部光成先生の論稿が掲載されていて、実はこっちもたいへん示唆に富む内容です。以前当ブログでも取り上げた「有償ストック・オプション」や「仮想通貨」に関する会計基準の取扱いに潜む問題ですね。私は「法と会計の狭間の問題」と考えています。

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2020年4月28日 (火)

(閲覧注意)日本郵政「内部通報つぶし」の録音データ公開-あなたはこの局長トップの命令に耐えられるか?

さきほど(4月28日午前10時30分)、朝日新聞のHPに、昨年1月に録取されたと思われる録音データが公開されました(ただし有料会員のみ 有料会員ではない方もデータ音声は聴けるようです、失礼いたしました)。(心臓に悪いのであまり体調の悪い方にはお勧めできませんが)ぜひお聴きいただきたいと思います(「絶対潰す」に震える局長 録音示す日本郵便の風土)。

統括局長曰く、「おまえ、まさかコンプライアンス室に通報してないよな?いまなら許すから正直に言え!俺は辞めた後でも顧問で残るから、きっと誰が通報したのかは、そのときわかる。そのとき局長が関与していることがわかったら、絶対に潰す。普通の社員ならしかたないが、局長(幹部)が通報することは絶対に許されない。みんなで仲良くやってきたではないか、そうやろ?」

問い質された局長の憔悴しきった対応、疲労困憊の様子は聴くに堪えないです。家族がいらっしゃるとしても、この様子では心配です(録音作業を行っていること自体が、安心材料かもしれませんが)。この録音データはぜひとも多くの中間管理職の方々に聴いてほしいです。どんな感想でも結構です。これが会社にとって「あたりまえの風景」ということであれば、20代、30代の若い従業員の方々にとっても気構えが必要ですし、我々、内部通報制度を支援する専門家にとっても、これが当たり前であることを前提に対応しなければなりません。

昨日、日立金属は検査不正が発生していたことを公表し、社内の情報提供が調査の端緒であったことを明らかにしています。今年1月下旬に届けられた1通の内部通報が、10年以上も現場で続いていた検査不正を明らかにしたのです。会社の自浄作用が発揮された一例だと(少なくとも現時点では)理解しました。

公益通報者保護法の改正法案の早期成立が望まれますが、どんな改正をしたとしても、これを運用する企業自身の風土が「旧態依然」ということであれば、通報制度は機能しません。経営トップのコミットメントも大切ですが、それよりも大事なのは「健全なレポートラインも根詰まりを起こす」ということへの中間管理職の意識だと常々考えております。

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2020年4月27日 (月)

機関投資家の要望が「配当より雇用維持」へ-6月定時総会完全延期の舞台整う

4月26日(日)の深夜配信された日経WEBニュース「配当より雇用維持を-コロナ対応で機関投資家が転換」を読みました。世界の大手機関投資家、ICGN等の提言内容から、「短期的な利益追求より、社会課題に向き合う方が長期的な成長につながる」と株主の考えが変わってきたことが如実にわかります。

先週来、コメントをいただいた方々のご発言から、ISSもコロナ禍の「年次総会延期」「配当議案」への意見が示されたとの情報をいただきました。まだ情報の真偽について正式には確認しておりませんが、ISSのHPに4月8日付けで「コロナ禍における議決権行使助言方針」がアップされているのを発見いたしました(英文)ので、こちらを確認いたしました。助言方針は、これからも新型コロナウイルス感染症の情勢によって更新されることが記されています。

その中で、年次株主総会の延期について、ISSは「総会開催が絶対安全に開催されると判断された場合のみ、年次株主総会は開催されるべきである(しかし、ここ数カ月はその可能性は低いであろう)。総会が延期されたとしても、株主は企業が開示する情報によってもエンゲージメントは可能である」としています。

また「配当議案」については、「現在、欧州各国の企業は、配当議案を撤回している。その状況から鑑みて、予定されている配当利益については、これを従業員への分配と、投資に向けた内部留保に振り向けるべきである。短期利益よりも、パンデミックの元では中長期の利益の方が重要である」としています。

このような有事における議決権行使助言方針から推測するに、ISSは「日本企業は6月総会を『二段階方式・継続会方式』で乗り切ろうとしているが、計算書類も事業報告もない状況で6月総会において(3月末の株主に対して配当を行うことについて)議決権を行使させるのであれば、これに反対せざるをえない」との意見をお持ちではないかと考えられます。

こうなりますと「名無しさん」が前回エントリーでコメントされているように、(企業としては、面倒なことになることを極力回避するために)なにがなんでも5月中旬までには計算書類の会計監査、事業報告に対する監査役監査を終わらせよう・・・といった経営者、CFOの意向が強くなるわけです。しかし、緊急事態宣言が延期される可能性が高いなかで、そんな無謀なことは絶対に避けていただきたい。それで6月総会は乗り切れても、不適切会計や違法配当等のおそれが高まり、結果として株主の利益を毀損することになると考えます。 

「そうはいっても、配当議決権の基準日を変更すれば株主とのトラブルは必至、7月開催などは選択肢として考えられない」というのが企業のホンネでありましょう。しかし、冒頭の日経記事のとおり、機関投資家自身が、もはや「この有事においては、自分たちの利益よりも、まずは従業員の利益を優先して事業の継続を図ってほしい」と考えているのであれば、もはや迷うことはないでしょう。会計監査および監査役監査を尊重し、そして総会の準備にあたる従業員の健康に考慮し、そしてなによりも代表取締役社長ご自身の感染リスクを最小限にするために、いまこそ決断すべきです。

そして、各監査法人の審査部門は、断固として会計監査の矜持を持ち続けていただきたい。たとえ各企業の監査チームが厳しい圧力を会社から受けたとしても、厳格な監査人としての対応を示してほしい。また、監査役・監査等委員・監査委員の皆様は、会計監査人と協働歩調で経営者と対峙してほしい。監査役等の皆様にとっては、ここが有事の正念場です。こういったときこそ、とりわけ監査役の皆様は「独任制」であることを思い返していただき、ひとりでも「おかしい」と違和感をお持ちになったら、ぜひとも声を上げていただきたい。もちろん、前回エントリーにて「元会計監査従事者」さんがおっしゃるとおり、会社のビジネスモデル次第では、5月中旬までに監査を終了させることができる上場会社もあると思います。ただ、その際には、なぜ緊急事態宣言が出ている中で、首尾よく監査ができたのか、きちんと株主に合理的な説明ができるように準備する必要があるでしょう。

もはや6月定時総会の完全延期の舞台はそろいました。このような社会の流れの中で、たとえ継続会であったとしても、6月に定時株主総会を開催する姿勢そのものが、株主、従業員、取引先ほかステイクホルダーからどのように受け止められるのか、ぜひとも冷静に検討いただきたいと思います。

正直申しまして、二段階方式(継続会方式)を含め、6月総会を強行する企業が増えれば増えるほど、(不正調査の依頼が増えて)私個人の収入という意味ではありがたいわけですが、私のような弁護士を儲けさせるような事態にだけはしてほしくないのです。まずは従業員の方々や下請、取引先企業の事業継続や安全を優先的に考えていただくことが、未曾有の試練を日本企業の無形資産として残すための唯一の道ではないかと思います。

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2020年4月24日 (金)

コロナ禍で6月株主総会を断行することの違法性(取締役の善管注意義務違反)について

さきほど、昨日のエントリーに対して、unknown1さんから興味深いコメントをいただきました。引用いたしますと・・・

ISSが、計算書類や事業報告なしでの配当・役員選任・報酬議案には否定的な対応をせざるを得ない、とコメントしたようです。総会延期の選択があるにも関わらず継続会を前提とした総会開催は株主の視点には立っていないとの判断とのこと。 (引用終わり)

私自身、この情報の真偽は確認しておりません(どなたか英語に堪能な方がいらっしゃいましたら、ご教示願いたいところです)。しかし本当だとすると、6月総会の完全延期を後押しする大きな力になることは間違いないと思います。

(さて、ここからが本題ですが)本日(4月23日)開催された積水ハウスの定時株主総会は、いろいろと話題が豊富でしたが、とりあえず会社側提出議案がすべて可決成立(株主側提出議案が否決)ということで決着がつきましたね。本件につきましては、申し上げたいことはヤマほどあるのですが、ご賢察のとおり(?)諸事情ございまして私個人はコメントを控えさせていただきます(笑)。

ただ、昨日、大阪地裁第4民事部において、積水ハウスの定時株主総会開催禁止の仮処分命令申立て事件の決定が下され、株主側(債権者)の申立が却下されておりました。この却下決定の全文が、株主側特設HPにて開示されておりましたので、講学上の興味から一読いたしました。

決定理由(被保全権利なし)、結論とも至極妥当なものであり、特段驚くべきこともないのですが、債権者側(株主側)が「このコロナ禍のなかで総会を断行すべく、従業員を前日からフル稼働させている。役員個人の利益のためだけに感染のリスクを従業員に負担させている、こんな株主総会は暴挙だ!」と主張したことに裁判所が判断を述べている箇所は興味深い。(以下、決定理由の要旨です)

・・・仮に、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情変更と一般的に評価されているといえるのであれば、債務者(代表取締役)に対し、取締役会を別途招集させるなどして、本件定時株主総会招集決議に従った業務執行をすべき義務を解除させ、本件定時総会に関し、流会、延会や継続会を含めた時宜に応じた柔軟な業務を執行可能とする授権を得ることに向けて尽力すべき義務について検討する余地がある。しかし、緊急事態宣言が迫る4月2日に経産省と法務省から公表された「株主総会運営に係るQ&A」のみならず、緊急事態宣言が出された後である4月14日改訂版の内容から判断しても、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情であると一般的に評価されているということはできない。(以上、引用おわり・・・なお下線およびカッコ内記述は管理人の注書きです)

緊急事態において定時株主総会を断行することが、代表取締役の善管注意義務違反と評価される可能性は認めつつも、経産省&法務省が「継続会」や「安全の徹底による開催」を前提に指針を示している以上は、(Q&Aは緊急事態宣言下での定時株主総会の開催を想定しているのであるから)そのまま断行することに違法性は認められないとのこと。さすが、行政による指針表明の存在は大きいですね。しかし、これは現状を前提としたものであり、事態は流動的です。緊急事態宣言が解除されず、さらに人との接触8割削減の要請が厳しくなり、他社の中にも総会延期決定が増えてくるようになれば、6月総会を禁止することを決定しなければ、その代表取締役の執行行為は違法性を帯びる場合がある、ということになりそうです。

なお、私個人としては、取締役の善管注意義務といった法的責任論で「6月総会を延期すべき」と述べてきたわけではございません。取締役個人に及ぶ些細な損害額の法的リスクではなく、法人自身の競争上のハンデを背負うことになる損害に関する法的リスクを問題にしております。何度も申し上げるとおり、流会とするか続行するかは「経営判断」であり、ただ、その経営判断が多大な法的リスクを含んだものである、ということから申し上げているところでございます(念のため)。

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2020年4月23日 (木)

6月総会延期問題-「継続会方式」「バーチャル株主総会」はリスクが高い

(4月23日午前 追記あり)

いろいろと世間をお騒がせしております「6月定時株主総会は完全延期すべきである」シリーズでありますが、1週間ぶりに続編を書かせていただきます。ちなみに、これまで極めて高いアクセス数となりましたのは①コロナ禍のもとで6月の定時株主総会を開催するリスクは極めて大きい(4月10日リリース) 、②もはや上場会社の6月定時総会の延期は「待ったなし」だと考える(4月15日リリース) 、③6月総会延期問題に金融庁協議会声明リリース-それでもやはり6月株主総会は延期すべきである(4月16日リリース) の3つでございます。また、お時間がございましたら前エントリーもお読みいただき、ご異論・ご批判を含め、ご意見を頂戴できましたら幸いです。

さて、緊急事態宣言の対象区域も全国に広がり、5月6日で宣言が解除されるのかどうか、政府もそろそろ見極めの時期となります。6日で解除となりましたら、6月総会の準備活動も少しは進みそうです。しかし「自粛期間延長」となれば、やはり剰余金配当議案の基準日変更も含めて潔く6月定時総会の完全延期をすべき・・・といった検討も本気で考えたほうがよろしいのではないかと。

この2週間ほど、大きな上場会社の社長、会長、相談役の皆さんとのリモート会議等で本件についてご提言・力説申し上げたところ、

どの社長、会長さんも曰く「いや~ウチの法務や経理や監査の連中が私にそんな腹立たしいこと言ってくることはないですよ、先生!(笑)」「そうそう、それでなくてもコロナで業績がどうなるかわからんというときに、総会くらい、すんなり終わってもらわんと」「まあ、彼らは自分たちがどうしたら評価されるか、ようわかっているから(笑)」

私「(;^ω^)・・・・・・ソンタクソンタク

ということで(?)、社長・会長さんらのおっしゃるとおり、やはり3月末の株主に剰余金を配当しなければ株主とのトラブルになってしまう、剰余金配当議案に関する基準日変更などもってのほか、どんなことがあっても6月総会は6月下旬に開催しなければならない、といったお気持ちで準備を進めておられる会社がほとんどではないでしょうか(ただ、6月総会を予定している上場会社の3割程度は、先週末に「完全延期」を決めた東芝のように、会社法459条に基づいて取締役会で剰余金配当を決定できる企業なので、そういったところはスムーズに完全延期も可能かと思います)。

コロナ禍の長期化、そしてこれに伴う会計監査手続の未了ということで、どこの会社も6月総会をどうクリアすべきかと悩んでおられるようですが、よく話題になるのが「株主総会の二段階方式(継続会方式)」と「バーチャル株主総会の活用」です。いずれも金融庁・連絡協議会のリリース等で推奨されていることから、採用を検討しておられる上場会社も多いと聞いております。しかし真剣に悩めば悩むほど、やっぱりこれらの緊急時総会の処方箋には無理があるように考えられます。

5月の取締役会で計算書類等の承認が間に合わない場合を想定して、剰余金配当議案を決議するための6月総会スケジュールを考えてみますと、①6月上旬の招集通知発送(ただし事業報告・計算書類の記載なし)、②6月下旬に定時株主総会開催(配当議案のみ実施OR役員選任議案+配当議案の決議実施)、③7月上旬に継続会の招集通知発送(事業報告・計算書類のみ記載)、④7月下旬 総会・継続会開催(事業報告のみ実施OR役員選任決議)というのがモデルケースかと思われます。

計算書類なしの役員選任議案への決議実施が大問題であることは前も述べたとおりですが、計算書類なしで配当議案を通すことも問題が残ると思います。つまり分配可能利益が存在しない場合や、計算書類に欠損(分配可能額がマイナスになること)を生じる場合には、株主や取締役の支払い超過額の返還義務が認められやすくなる、というリスクが発生します。

たとえば計算書類が取締役会における承認を得ていない状態で配当決議がなされた場合、通常であれば欠損の補てん義務のない取締役について(定時株主総会での剰余金配当の場合は免責されますが)、免責の効果は得られません(会社法465条1項10号イ)。また、承認された計算書類、事業報告がないままに剰余金配当議案が決議され、剰余金が配当された場合に、後日、違法配当や欠損が明らかになれば、株主には配当金の返還義務が発生し(会社法462条1項)、補填した会社・役員から求償権を行使される可能性も出てきます(会社法463条1項)。

まあ、分配可能額が問題になるような事態はない、という上場会社であれば大きなリスクではないかもしれませんが、4年ほど前のHOYAのように「資本コスト」を意識した資本政策を行っている場合には、ついうっかり自社株の買い過ぎを失念していた、ということも考えられます。また、数年後に会計不正事件が発覚し、5年前まで遡って計算書類の訂正がなされるということになれば、決して安心してはいられないと思います。

そしてなんといっても、株主や役員の違法配当リスク・欠損リスクが顕在化するのは、ずいぶんと時間が経過した後、ということが大きい。なぜなら、配当金支払い前の監査機能(不正の未然防止機能)はほとんど期待できないからであります。6月総会で役員選任や剰余金配当の決議が通ってしまった状況で、もし会計監査人や監査役が会計処理や財務報告内部統制に疑惑を抱いたとき、「これっておかしいのでは?」と声を上げることは至難の業です。

たとえば、固定資産の減損処理の柔軟化等、有事の会計基準の処理方針が発出されていることをよいことに、ひょっとしたら「なんちゃってコロナ対応」に近い会計処理が、かなり明白に疑われる上場会社もあるかもしれません。コロナ禍で業績が見通せない中で、いい加減な将来見積もりに終始する社長さんがいらっしゃるかもしれません。しかし無限定適正意見が得られない、監査役のひとりでも計算書類に異議を述べた、となりますと、計算書類の承認を改めて総会議案として上程しなければなりません。役員選任が先行しているケースでは「詐欺ではないか」と株主から糾弾されるおそれもあります。

そういったことも考えますと、監査法人や監査役が「おかしい」と声を上げる(ちゃぶ台をひっくり返す)ためには相当の勇気が必要です。二段階方式で事業報告・計算書類の提出が後回しとなった場合は、よほど覚悟をもった監査法人、監査役でないかぎりは監査は機能しないと考えてよいと思います。例年どおりに決算期末の利益を受けとるのと引き換えに、株主の皆様方は、例年にはない「将来の違法配当リスク」「会計不正リスク」を背負うわけです。このあたりの判断は、もはや現場ではどうにもならず、経営者自身が考えるべきではないかと。

なお、6月総会をコロナ禍でもなんとか切り抜けるための総会戦略として「バーチャル株主総会」の導入が検討されています。しかし出席型にせよ、参加型にせよ、活用されるにはもう少し時間を要します。今のところ、バーチャル株主総会が活用されることで儲けにつながるのでは?と思われる企業さん(ソフト会社や通信関連事業者)だけが開催(もしくは開催を予定)しているのが現状です。しかも①別途コストがかかる(300万円~400万円)、②株主の通信環境の整備が進んでいない、③ID・パスワードの発行手続が必要で煩雑、④運営ノウハウが乏しく、緊急事態への対応が不安(決議取消リスク)、⑤開催状況から、参加株主数も数名から十数名ほどであり、効果は限定的といったデメリットの解消に決め手がありません。証券代行さんの話だと、問い合わせは多いが、導入を決めた会社はほとんどないとのことです。ということで、頼みの「バーチャル株主総会」も、やはり継続会に導入するには時期尚早ということのようです。

私がここまで「6月総会は完全延期すべきである」と繰り返し主張する底辺には、会計監査や監査役監査への思いが強すぎて、ポジショントークのきらいがあり、バイアスが働いているのかもしれません。しかし、コロナ禍での従業員の安全、株主の安全、そして代表取締役だけは絶対に感染させてはならない、といった関係者の安全を第一に考え、基準日をずらすことの訴訟リスクも低減される状況ならば完全延期すべき、とおっしゃる法律専門家もいらっしゃいます(ビジネス法務 緊急特集「新型コロナウイルス感染拡大に伴う株主総会の準備と検討」をウェブ公開版を参照) 。私も(監査の重要性に加えて)この意見に強く与したい。

私の当初からの主張のとおり、「時間を短縮して開催」「参加株主を制限」「消毒液を用意」といったレベルで関係者の感染リスクを低減できるといった風潮はもはや世間にはありません。世間から見れば、そのような総会対策は「自分たちはここまでやったんだから、感染が発生しても責任を問われない」といった責任逃れの言い訳にしか聞こえないので注意が必要です。誰が見ても「安全対策」というのであれば総会延期しかありえないでしょう。「人との接触、8割減の新提案」が出されるこの時期に、ふだん株主総会など全く関心のない人から見れば・・・想像しただけでもかなりヤバいことになりそうです。

決算発表の時期も延期が決定される頃なので、総会延期問題も、ようやく経営者がそのむずかしさをご理解いただく時期が到来したのではないでしょうか。

(4月23日午前10時 追記)

今朝(4月23日)の日経朝刊に、EY新日本有限責任監査法人の理事長へのインタビュー記事「監査遅れ 書類確認が負担」が掲載されていました。新型コロナの影響で、3月期決算の集計や監査が遅れている実情が示されています。このまま急いで6月総会を断行することは日本の資本市場の信頼を失ってしまう、延期もしくは二段階方式開催に期待する、とのこと。どうしても「紙ベース」の監査は避けられず、そこに在宅勤務制度の壁があると思いました。

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2020年4月21日 (火)

BLJに国会提出法案(公益通報者保護法改正法案)の解説論稿を掲載していただきました。

Img_20200420_221421_400 ビジネス・ロー・ジャーナル2020年6月号の特集「2020年通常国会成立・注目法案の影響度」におきまして、公益通報者保護法の提出法案の解説論稿を執筆いたしました。審議において修正される可能性もありますが、大きく変わる公益通報者保護法の実務上の影響度を意識しながら執筆いたしました。ご興味がございましたらご一読お願いいたします(といっても、書店も臨時休業のところが多いので、入手するのはむずかしいかもしえれませんが・・・)。

まだ読んでおりませんが、同号の「ゴーン事件から考える日本の司法制度と内部通報」の特集論稿も、5名の著名な弁護士の方々によるもので、拝読するのが楽しみです。

私もこの論稿の中身についてはかなり自信作なのですが、まさかこんな状況になるとは思ってもいなかったので、そもそも今国会で成立するのかどうか、ちょっと心配になってきました。 

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2020年4月17日 (金)

監査法人の「意見不表明」でピンチ?-素朴な疑問が残るJDI不適切会計事件に関する第三者委員会報告書

4月16日夜の日経ニュースで初めて知りましたが、会計不正事件で揺れるJDI(ジャパンディスプレイ)の過年度有価証券報告書(訂正後)について、会計監査人(あずさ監査法人)が「意見不表明」「限定意見」を出したそうです。意見不表明の根拠としては「2013年4月に吸収合併した親会社などの会計帳票および勘定科目残高明細などについて網羅的に保存されていないため、財務諸表全体の監査ができない」とのこと。 第三者委員会報告書の指摘に従って訂正した有価証券報告書について、会計監査人から適正意見がもらえない、というのはあまり聞いたことがありません(報告書作成の時点で、第三者委員会は会計監査人と全く協議はされなかったのでしょうか?)。

そういえば先日、4月13日に開示されたJDI社の不適切会計処理に関する第三者委員会報告書をちょうど読了したところでした。会計不正の手法については、典型的なパターンが多いようです。公益通報者保護法の改正法案が今国会に提出されていますが、「公益通報」の取扱いにかなり問題があったのではないかと思われる点など、いろいろと興味深い点がありました。

ただ、本日は詳しくは書きませんが、当該報告書を読んで、そもそもの「素朴な疑問」がいくつか湧きました。JDI社の第三者委員会は、不適切会計の疑惑が生じたことから設置されたのですが、その不適切会計を申告したのは、報告書で「主犯格」とされている(すでに死亡された)A氏の告発です。その告発では「経営陣に指示されて不正会計処理をしてしまった」とされていますが、その「経営者が関与しているかどうか」という点が「不正の疑義ある事実」とはされていないのです。しかし、152名ものフォレンジック部隊を調査に投入しているので、普通であれば告発がある以上、メールや電子ファイルの調査によって「不適切会計に関する経営陣の認識」にターゲットを絞って調査するわけですが、そのような調査に関する記載も見当たりません(このあたりは実際は調査されたのでしょうか?)

また、2018年5月に、従業員からの公益通報が役員に届くわけですが、その通報対象事実がまさに不適切会計に関する事実でした。その後、通報を受理した役員が調査を続行している間に、会計不正を主導していたとされるA氏に、まったく別の横領に関する不正行為が発覚します。結局、このA氏は横領事件について懲戒解雇となり、その直後に不適切会計の告発に至ります。しかし、A氏の横領事実をどのように社内の経営陣が確知するに至ったのか、報告書を読んでも全くわからないのです。A氏はJDIにおいて強大な権限を有していたそうです。しかし、そのような権力を誇っていたA氏の横領事実を、取締役らがいかにして確知したのか(そして懲戒処分まで出すに至った経緯)は、JDIに自浄能力があるのかどうかを外部から判断する(評価する)際にどうしても知りたい事実です。なぜ記載がないのか、よくわかりませんでした。

そしてもう1点ですが、このJDIの不正問題はとても珍しいケースです。何が珍しいかといいますと、自死された(とされる)主犯格のA氏は、横領事件と不適切会計事件の両方に手を染めています。一方は私利私欲のため、もう一方は「業績が悪化している会社のため」です。しかし、この二つの動機は両立するものでしょうか?報告書では、A氏はJDI社ではとても評価が高く「男気」があり、部下からの信頼もとても厚かったと記載されています。そんな「男気」のあったA氏が、会社のために不正会計に手を染めることまではわかりますが、5億円以上もの金員を私欲を満たすために領得するのでしょうか?また、自死する寸前に(男気のある人が)「私は経営陣に嵌められた」と告発するでしょうか?もし二つの動機が両立するのであれば、その両立を合理的に説明できるほどの真因分析が必要です。その真因分析の対象事実こそ、フォレンジックで明らかにならなかったのか、そのあたりに素朴な疑問が湧きました。

こんなご時世ではありますが、本業の不正調査やガバナンス構築支援の関係で、いろいろと忙しくしております(もちろん関係者との面談は控えております)。時間のない中で上記報告書を読みましたので、ひょっとしたら読み飛ばしている点もあるかもしれません。もし上記の素朴な疑問について、お読みになった方から「その点は報告書のココに書いてありますよ」といったご示唆をいただけましたら幸いです。

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2020年4月16日 (木)

6月総会延期問題に金融庁協議会声明リリース-それでもやはり6月株主総会は延期すべきである

ここ3日間ほど、たいへん多くのアクセスをいただき、またメールを含めて様々なご意見を頂戴しまして、厚く御礼申し上げます。自身の法律家として浅学な点も素直に反省しております。

今朝(4月15日)の朝日新聞経済面の記事「株主総会どう対応-決算難航・有価証券報告書は期限延長」を読み、筑波大学の弥永先生も、基本的には同じような問題意識をお持ちであることを知り、ややホッといたしました。ただ、弥永先生も(解釈論ではなく)「時限立法で3カ月より延ばすことが望ましい」とされ、さすがに超法規的措置として解釈できるとはおっしゃておられませんでした。結局のところ、本日金融庁(企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会) から声明がだされたとおり、続行決議によって継続会、もしくは完全な延期という方式で(株主総会の)延長問題に対応することが推奨されています。

しかし6月に定時株主総会を開催する上場企業は(おそらく?)2340社ほどに上ると思いますが、中小の上場会社も含めてイレギュラーな延長手法を適法にこなせるのかどうか、たいへん不安を感じます。ましてや、在宅勤務制度が浸透するなかで、たぶん2班か3班に分けて準備をしなければならないので(関係者のひとりが感染した場合は、そのチームの方々は全員自宅待機となりますので)各上場会社にそんなに総会関係者がいらっしゃるのか、不安をおぼえます。

さらに、物理的な問題とは別に、理屈の問題としても不安があります。本日の連絡協議会声明では、6月総会の「継続会」を実施することで、なんとかコロナ禍の定時株主総会を乗り切ることが企図されていますが、私はやはり2340社の上場会社一律に推奨するには大きなリスクがあると考えます。たとえば昨日のエントリーに対して(機関投資家の立場から?)tyさんがコメントを寄せておられますので、ご紹介したいと思います。(tyさん、承諾も得ずに本文でご紹介することをお許しください<(_ _)>)(以下、コメント引用)

新型コロナ(略)協議会の声明文では、決算が間に合わない企業に対して延期と継続会の2つの選択肢が提示されました。しかし計算書類が間に合わない企業が継続会を選択した場合、企業は事業報告も計算書類もおそらくは短信すらない状況で株主に対して議決権行使の判断を迫ることになります。(監査報告書なしの事業報告と計算書類を招集通知を添付する企業はあるかもしれませんが…)

過去の継続会の事例では、継続会となることが確定している場合でも、書面行使や電子行使の締め切りは当初の総会の前営業日までであり、継続会で事業報告や計算書類が提出されたとしてもそれに基づき議決権行使判断を変更する事はできません。株主からすると企業の前期の業績も事業報告の内容もわからない状況で配当や役員選任議案の賛否を判断しろと言われても株主は判断材料がないので判断できません。BSなしに剰余金処分の判断をする投資家、PLなしに取締役選任の判断をする投資家、会社役員の状況・株式の状況・主要な借入先の状況なしに社外役員選任の判断をする投資家は考えられません。「責任ある機関投資家」としてinformed decisionが求められる機関投資家はどうすればよいのでしょうか。

通常の状況であれば会社の情報開示の問題として関連議案すべてに反対する選択もありますが、それが適切だとは考えづらいです。一方で非常時なので判断材料はないが賛成しましたという説明ではアセットオーナーはその立場上納得するわけにはいきません。

声明文を読み頭を抱えている機関投資家の姿が目に浮かびます。

(コメント引用終わり)

私も昨日来、まったく同じことを疑問に思っておりました。6月に開催される株主総会では、会社側から計算書類も事業報告も提出されないままで「さあ、役員選任議案に賛成しろ」と株主は勧められるわけです。しかし株主は、役員選任の参考となるべき事業の通信簿もないままに取締役の選任(再任)を決めなければいけないのでしょうか?

せめて役員の顔と声だけでも聞きたい!と思っても、「いえいえ、コロナ禍ですから、出席は控えていただき、事前に書面もしくはネットで議決権を行使してください。私たちはバーチャル株主総会でやりますから」と言われてしまいます。出席は控えろと言われつつ、通信簿もないままに役員選任だけはイエスと言え、というのは、あまりにも株主を侮辱していることにはならないでしょうか?(tyさんがおっしゃるように、機関投資家の背後におられるアセットオーナーの皆様に、この状況で議決権行使をしたら、機関投資家の皆様はどのように説明責任を尽くせばよいのでしょうか?)

tyさんがご指摘のとおり、過去には継続会開催のケースでは、監査を経ていない事実上の計算書類や事業報告が参考資料として出される場合があり、これを参考に役員選任議案に賛成票を入れてください、と会社が株主にお願いするケースも考えられます。しかし、これは個別企業がやむにやまれず継続会方式を採用する場合(過去の事例)ならいざしらず、一律にこのような方式を採用するとなれば、もはや会計監査も監査役監査も不要であると国が認めたに等しいものと言えます。これでは不適切な会計処理を多発させることになり、到底許容できない運用です。

では、とりあえず決算期末の基準日の効力を残すためだけに、6月総会を開催しておいて、数か月後の継続会で役員選任議案と剰余金配当決議を行う、議決権の書面行使、電子行使も継続会の直前で結構です、というケースはどうでしょうか。

しかし、これではそもそも6月に株主総会を実質的に開催したことにはならず、むしろ議決権行使や剰余金配当の基準日の効力を残すためだけの脱法行為であると裁判所から判断される可能性があります。つまり、株主総会の決議取消(決議不存在)の訴えや(基準日以降に株式を取得した者から)損害賠償請求訴訟を提起されるリスクが残る、ということです。これは会社側としてとりえない選択肢ではないでしょうか。

過去のエントリーで何度も述べたように、6月総会開催、継続会で剰余金配当の承認決議という流れは、十分にありえます。やむにやまれず、個別企業が継続会を開催するのであれば、投資家が当該会社の開示情報の信用性に注意を向けられますから、ディスクロージャー問題として扱えば足りるでしょう。しかし、これを一律にやってしまうことには大きなリスクが伴います。やはり6月総会は中止をして、延期する以外に方法はないのでは、と考えております。

 

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2020年4月15日 (水)

もはや上場会社の6月定時総会の延期は「待ったなし」だと考える

本日午後2時のNHKニュースにおいて、(主に)上場会社の有価証券報告書の提出期限の一律延長の方針が報じられました。以下、NHKWEBニュースの要旨です。

新型コロナウイルスの感染拡大で企業の3月期決算の集計に遅れが出るおそれがあることから、麻生副総理兼金融担当大臣は、6月末までに提出を義務づけている「有価証券報告書」(有報)の提出を、一律に9月末まで延長することを明らかにした。・・・3月期決算の企業の場合は、6月末までに有報を提出する必要がある。麻生副総理兼金融担当大臣は、14日の閣議のあとの記者会見で、「緊急事態宣言の発令に伴い、3月期決算の企業の多くで決算や監査業務の作業が極めて困難になると思われる」と述べた。そのうえで、「企業や監査法人に十分な時間を確保しなければいけない。有価証券報告書の提出期限を一律、9月末まで延長できるようにする」と述べ、今後、内閣府令を改正して、有価証券報告書の提出期限を一律に9月末まで延長することを明らかにしました。(下線は私が引いたものです) 

そして4月14日付けにて、「金融庁から新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」と題するリリースが公表されました。 

通常、会計監査人(監査法人)は、金商法監査も会社法監査も同一チームが担当するわけですから、財務諸表監査や内部統制監査と同様、計算関係書類の監査についても期限を延期しなければ有報提出を延期した意味がありません(計算書類に適正意見を述べた後で、財務諸表に別の意見を付すことは至難の業であり、結果として会計不正を見逃すリスクが高い)。4月10日のこちらのエントリー(コロナ禍のもとで6月定時株主総会を開催するリスクはきわめて大きい)でも述べましたが、たとえバーチャル株主総会であったとしても、6月総会を断行してしまうのは、会計監査・監査役監査をあまりにも軽視するものであります。

物理的な危険性についても問題があります。上場会社にとって、定時株主総会がきわめて重要な意思決定の機会であることは間違いありません。しかし、出勤8割(最低7割)削減、原則在宅勤務の要請を遵守する上場会社にとって、経理・総務・法務部門を中心に(コロナ禍のもとで)出社を余儀なくされ、有報についてはしっかりと監査する余裕が与えられた会計監査人が、計算書類の監査のために6月総会を強行したい会社の方針に従って出社を強要される、というのはあまりにも酷であり、社会の常識に反する行動です。

また、先日のエントリーでtyさんがコメントされているとおり、6月総会における議決権行使の準備のために、機関投資家をはじめ多くの社員、パート社員が総出で準備をします。つまりバーチャル株主総会であったとしても、その総会を開催するためには多くの人たちがリアルで密度の高い仕事をこなさねばならないのです。そこに思いを致せば、会計監査人による十分な監査体制の確保だけでなく、社員その他、総会開催に関わる人たちの生命・身体の安全のほうを優先すべきではないでしょうか。直前に延期してしまうのは関係者に多大な迷惑をかけますので、もし迷っておられるのであれば、すみやかに延期を決定すべきと考えます。

ところで、ではどうすれば6月の定時株主総会を延期できるのでしょうか。昨日(4月13日)に開催された金融庁・第2回「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会」では、(こちらの税務研究会さんのニュースによると)「株主総会については,仮に決算が締まらない場合にどのような開催延期手段があるのかを確認した。たとえば,『継続』として決算のみ別日に総会を開いたり,臨時株主総会で対応する,議決権行使基準日を動かすなどのやり方が議論された」とのこと。やはり総会延期について、有識者の方々が知恵を絞っておられる様子が窺がわれます。もちろん、前回のエントリーでも述べたように、配当基準日を新たに決定し直す方法が一番素直ではないかと思います。

しかし、「どうしても6月の定時株主総会を敢行したい」とする上場会社側の事情をくみ取らなければ、いくら「総会を延期することができますよ」と言っても延期に踏み切る上場会社は稀少ではないかと。結局のところ、決算日を基準日として、そこから3カ月以内に剰余金配当を決議しなければならない、とする法令と実務慣行を崩せない(決算日株主の利益と基準日株主を確定する会社の事務手続きの煩雑さ)ところにあると考えます。東日本大震災(2011年)の際に公表された経産省ガイドラインをみても、定款に記載された基準日の解釈は柔軟に考えられますが、会社法124条2項の「基準日から3カ月以内に議決権や配当請求の権利は行使されなければならない」という条文には例外が認められていません。また、取締役や監査役の退任時期がズレるとなると、新経営計画による事業がスタートできない、といったことも、延期に消極的になる理由のひとつかもしれません。

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ここからは、法律家としてはあまりにも乱暴な議論であることは承知しつつ、パンデミック状況下における超法規的措置の可能性についてではありますが、3月末日時点での剰余金配当に関する基準日をそのままにして、7月~9月の定時株主総会を迎える(6月総会を延期する)ことに違法性阻却事由がある(3月末の剰余金配当に関する基準日の効力は消滅しない)ものと処理することの可能性について検討したいと思います。私が可能と考える理由は以下のとおりです。

まず、基準日の定めが「3カ月以内に基準日権利を行使しなければならない」とされたのは昭和49年の商法改正です。それまでは2カ月以内に行使しなければならない、とされていましたが、大会社の監査に会計監査人の監査が要求され、監査期間が伸長されたことによって3カ月に伸びました(「会社法 第三版」鈴木・竹内140頁、同356頁参照)。厳密にいうと、当時は(権利を行使できる株主を確定するための)基準日制度と並び、株主名簿の閉鎖制度があり、名簿の閉鎖によって株主の権利をあまり長く制限することは妥当ではない、ということから、株主名簿の閉鎖期間は会計監査手続に必要とされる「3カ月」とされ、基準日制度もこれに合わせたようです。これと同時に、昭和49年商法改正では決算日から3カ月以内に定時株主総会を開催する旨の条文ができました(「新版注釈会社法『4』」32頁参照)。

しかし、現在の会社法には名簿閉鎖制度は存在せず、また決算日から3カ月以内に総会を開催せよとする条文もなくなったわけですから、基準日制度についても昭和49年の商法改正の趣旨を尊重すべきです。つまり、会計監査のために株主名簿の閉鎖期間が3カ月とされたわけですから、会計監査手続が全国一律に支障が生じるような特段の事情があるのであれば、基準日から3カ月以内に行使せずとも基準日の効力は失わなわれないと解釈すべきと考えます。

つぎに、権利行使期間を経過した場合の基準日の効力の問題ですが、行使期限の徒過によって基準日は無効となるという説と、有効とみる説に分かれているようです。ちなみに、上記鈴木・竹内説は「配当金の支払いを受けるのは決算期現在の株主であり、その後に株主になった者は理論上は損害賠償請求できることになるが、本来、配当金の支払いを受けるのは決算期現在の株主であるから、その後に株主になった者には損害を生じていないことになる、法律関係の簡易さからいって有効とみるのが妥当」としています(前掲鈴木・竹内「会社法第三版」140頁参照 ただし前田雅弘先生は、決算日以降に株式を譲り受けた株主が、適法に基準日が設定された場合の権利行使の機会を奪われるといった不利益は無視できない、として反対意見 「会社法コンメンタール3」282頁参照)。このたびは、3月決算日時点では「決算日の株主が配当をもらえる」といった期待をもっていたと思いますので、私は基準日は有効と考えてもよいのではないかと考えます。

ちなみに基準日の3カ月の制限を徒過して、株主に権利行使をさせてことについて、とくに過料による処罰はありません。平時であれば、任務違背が問題となる可能性もありますが、有事対応となれば会社に損害を与える目的は認められないと考えます。

最後に、「(定時株主総会の)継続会」で議決権を行使するにあたっては、あまり反対意見もなく基準日から3カ月を超えていても基準日の効力は否定されていません。おそらく株主総会さえ3カ月以内に開催されていれば、総会の効力がその後の延会にまで継続していることによるものかと思います。しかし「権利行使しようと思っても行使できなかった」という事情は、パンデミック下の事情でそもそも6月開催ができなかった場合と同じと評価できます。ちなみに「3カ月以内に権利を行使する」という意味は、剰余金配当のケースでは、基準日から3カ月以内に配当の交付を受ける、という意味ではなく、剰余金配当請求権を具体化させる決議に参加する、という意味です(上記「会社法コンメンタール3」283頁参照)。

なお、上記のような超法規的措置は、今回のパンデミックのような特殊な事情を考慮したものです。そもそも(基準日と権利行使日はできるだけ近接させるべき、との趣旨から)配当基準日を株主総会の直後とすべき、という意見も有力ですし、また、会社法459条に基づいて、剰余金の配当を取締役会で決定できるようにすべき(定款変更の必要あり)、との提言もありますので、それらは、投資家の皆様の意見も反映させながら、平時の定時株主総会の在り方として、今後検討されるべきものと考えております。

★★★★★★★★

これまで長々と書き綴ってきましたが、毎度申し上げる通り、上記は私個人の見解にすぎません。総会指導に長けた企業法務の専門家の皆様とは、おおむね意見が異なるでしょう。とりあえずバーチャル株主総会によって6月総会を開催して役員議案を成立させ、計算書類の承認は継続会で対応する、という手法もあるかもしれません(ただ、一律にできるかというと困難なような気がします。中小の上場会社も含めて、一律に対応できるような手法が必要かと思います)。しかし、今回の株主総会の開催の是非判断は、法理論だけで処理するにはあまりにもリスクが高い。

発注者の手前、建設を受注した大手ゼネコンでは「工事を中止してはどうか」とはなかなか言い出せません。そのような状況で、工事現場で勤務しておられた清水建設の3名の社員が新型コロナウイルスに感染し、たいへん不幸なことになりました(読売新聞関西版4月14日朝刊10面記事より)。西松建設では、どこよりも早く工事中止の宣言を出したことは日経新聞でも報じられています。おそらくいろいろな葛藤があったと推測されます。定時株主総会も、社内外の関係者にとってはとても負荷のかかるイベントです。誰かが「延期しよう」と言い出さなければ、おそらく敢行されるのでしょう。しかし、大手ゼネコンさんと同じような悲しい事件を起こすことだけは絶対に避けなければならない。

私が役員を務める会社も含め、総会を延期すべきかそのまま開催すべきか、という点はバーチャル株主総会(オンライン総会)の選択肢を含め、経営判断です(私も経営判断に従います)。14日の菅官房長官の記者会見でも、株主総会はオンラインでもできる、と表明されていたので、今後も総会の延期に及ぶ上場会社は出てこないかもしれません。ただ、東日本大震災の発生した2011年、6月総会を延期した上場会社は2社に過ぎなかったかもしれませんが、このたびのパンデミックはおそらく全ての上場会社の決算に深刻に関わるものであり、東日本大震災の際の状況とは異なります。これにどう対応すべきなのか、ぜひとも担当者任せにするのではなく、経営者ご自身の判断で(取締役会で協議したうえで)決定していただきたいと思います。

拙い文章を、最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2020年4月13日 (月)

コロナ感染防止対策「出勤7割削減」は実現不可能と考える

(4月13日午前11時 追記)

4月12日の各紙1面トップ記事として、新型コロナウイルス感染症対策本部(内閣総理大臣)が、緊急事態宣言の対象区域である7都府県の全事業者に「原則在宅勤務、最低でも出勤を7割削減してほしい」との要請を行ったことを報じています。また、関係各省庁から、最低7割削減について、かなり厳しめの要請もなされるようです。

私は専門家ではありませんので、この「出勤7割削減」が実行できなければ感染症を拡大させてしまうのか、それとも重篤者はそれほど増加しないのか、という点について語る資格はございません。ただ、先日も申し上げましたが(原稿執筆のために)「在宅勤務(主にテレワーク)とコンプライアンス」に関する様々な資料調査やヒアリングなどを行う中で、「これは都市封鎖でもしないかぎり、現状では無理だな」と考えております。理由は以下の4つです。

まず、事業者側で在宅勤務を「やろうと思えばできる」体制が整っていないこと。働き方改革の一環として、1年以上前から「在宅勤務制度」を推進している企業でさえ、現在は通信環境の整備や企業秘密保持(情報漏えい防止)の面において試行錯誤の状況(トライアル&エラー)です。ましてや、あまり積極的でない事業者が、後ろ向きな気持ちで取り組んで、いきなりモデル事例のような体制を整備・運用できるわけもなく「やろうと思ってもできない」のが現状かと。

ふたつめが報奨制度の存在です。東京都のように、要請を遵守する事業者には補助金(協力金)を出す、といった報奨制度がない以上、前向きに取り組むインセンティブがないと思います。たとえば金銭的報奨ではなくても、「当社は出勤7割削減を達成しながら、なんとか事業を継続しました」と公表して、これを評価されるような社会的な仕組みがあれば良いのですが、そのような仕組みは現存しません。

三つめが「同調圧力の活用」です。8時で営業を終了する飲食店が多い中で、要請に従わない飲食店が存在すれば、たしかに収益は上がるものの、同業者や地域住民の方々からは批判を受けることにもなりえます。しかし「在宅勤務によって出勤を7割削減していない」という事態は、おそらく他社(他者)からはわからないと思います。また、「こんなの業界や職種によって達成できないのはあたりまえ」と思っておられる方も多いはずであり、他社(他者)に不公平感をあまり抱かせないものと思います。

そして四つ目が(ひとつめの理由とも関連しますが)在宅勤務と出勤して勤務することとの評価の違い(おそらく偏見)です。いまだ「職能給制度」が根強い日本の企業において、「職務給制度」による人事評価の思想が根付かない。労務管理がむずかしい、「あ、うんの呼吸」によるコミュニケーションがとれないといった理由で、幹部社員だけでなく、取引先にも在宅勤務の職務内容がきちんと評価されていない傾向があるように思います。おそらく、この理由が「出勤7割削減」を不可能にする最大の理由ではないでしょうか。

(追記)Henryさんのコメントにあるように、5つ目の理由として「7割削減」というが、そもそも何を「7割」削減すれば良いのか・・・という根本的な問題もあるかもしれません。当エントリーでは「在宅勤務」に焦点を当てていますが、その他にもリモート会議で出張を削減したり、時差出勤制度を積極的に採用したり、どうしても出勤しなければならない職種についてのみ延期・中止する、という手法もあります。いずれにしても、経営者の英断が必要な点では共通しているように思います。(追記終わり)

ただ、そうはいっても企業コンプライアンスの視点からすれば、(内閣総理大臣による事実上の)要請とはいえ、なんとか在宅勤務制度を実施することで、要請に対して努力義務を尽くす必要はあるはずです。そこで「7割削減を実現するための指針」のようなものが公表されることを希望します。そして、ここからは全事業者、とはいえませんが、前向きな企業は「指針に基づいて、7割削減に向けた工程表」を開示する、といったことで社内・社外に「有事における在宅勤務制度」の人事評価や職務評価の姿勢を示すべきと考えます。

ある専門家の方の感染拡大の試算として、「出勤削減6割5分では感染拡大は食い止められない。7割で、はじめて数か月後に効果があらわれる」と示されていましたが、私はそもそも全事業者を対象とするかぎりは6割5分の在宅勤務すら不可能だと思います。感染防止に向けて、事業者が政府要請に協力することと同時に、社員ひとりひとりが「3蜜防止」を実践して、たとえ感染者が増えたとしても重篤者と医療崩壊だけは阻止する方策のほうが現実的ではないでしょうか。

 

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2020年4月10日 (金)

コロナ禍のもとで6月の定時株主総会を開催するリスクは極めて大きい

毎年、この時期は会社法に詳しい先生方が「今年の株主総会の傾向と対策」なるテーマで講演をされますが、今年はご存知のとおり「有事における株主総会」の話題一色です。おそらく6月総会を控えておられる会社の担当者の方々は、3月総会の様子を参考に、この「有事株主総会」を(平穏無事に)乗り切ることをお考えかと拝察いたします。しかし3月20日ころと現在では、もはや社会の状況は一変しています。

会社法に詳しい専門家の皆様は「定時株主総会は縮小してでも開催するほうがよい(望ましい)」とおっしゃています(ほぼ有識者の全ての方々のご意見だと思います)。しかし、東京や大阪に特措法に基づく緊急事態宣言が出され、国民に特措法45条1項違反(外出自粛要請違反)を推奨するような株主総会は、「開催することが望ましい」と本当に言えるのでしょうか?東京で181人、大阪で92人もの感染者(一日あたり 4月9日)が出る状況で、もはや株主総会の開催はあまりにも無謀と思います。

もちろん延期することのデメリットは大きいものがあります。退任予定の役員の方々に、もう少しだけ頑張ってもらわねばなりません。剰余金配当においても、権利付き最終日がずれることで(株価には配当分も織り込み済だ、として)投資家から批判されることもあります(現に、東証が「総会延期によって配当をもらえないことがある」と3月下旬に注意喚起して大騒ぎになったことは記憶に新しい)。事務手続きが増えて社員の方に負担をかけることも悩ましいです。

また、「まあ、そうは言っても6月下旬になったら収束しているかもしれないから、6月になって考えればいいのでは・・」といった楽観論もありえます。しかし、健康リスクに加えて、4月7日の日本公認会計士協会会長の声明は重い。重すぎます。私がリモート会議でご一緒している何人かの公認会計士の方々も「とうてい5月中頃までに計算書類の監査を終えることは困難」「会長はよくぞ声明を出してくれた」とつぶやいておられます。

テレワーク等、自宅での仕事が推奨される中で、どうやって経理部門や監査部門、会計監査人が5月中旬までに計算書類の作成、監査を終わらせることができるのでしょうか。たとえ物理的に可能であったとしても、切迫した状況の中で、不正の兆候を見つけた場合に声を上げる雰囲気などないと考えます。「監査や法務は二の次、ともかく例年通りにさっさと総会を終わらせろ」といった雰囲気で株主総会が開催されるとすれば、もはやコンプライアンスなど無いも同然です。「配当」が大切であることは重々承知しておりますが、株主の短期的利益に配慮するあまり、中長期的な利益をないがしろにする姿勢は、もはや昨今の企業統治改革の方針にも合致しません。

「延期したとしても、コロナ禍がいつ収束するのか見えないではないか」との声も聞かれます。いつまでも延期するわけにはいかないので、とりあえず6月総会の場合には7月末までに開催せざるを得ないでしょう。その際にこそ、先日公表された経産省・法務省連名によるQ&Aが(バーチャル総会の開催案も含めて)活かされると考えます。会計監査人の監査に(限定付き意見等)不十分な点が残るのであれば、会計監査の方法及び結果の相当性判断と財務報告に関する内部統制の相当性判断に責任を持つ監査役監査でカバーするしかないと思います。「いつコロナ禍が収束するかわからない不確実性」はありますが、6月総会を開催することによって感染者を出してしまう不確実性、会計不正事件が顕在化することの不確実性と比較すれば受容可能だと考えます。

有価証券報告書の提出期限の猶予、法人税および消費税の申告期限の延期についても、それぞれ「株主総会の延期」を見越してほぼ準備が整いつつあります。これで、株主総会延期(7月総会)のためのインフラは揃います。経路不明の感染が急増している現状からみますと、もはや「規模を縮小して、感染対策を万全に行う」というレベルの総会対策で国民の生命・身体を守れると考えるにはリスクがあまりにも大きすぎる(とくに出席株主には高齢者の方が多いことも心配です。基礎疾患がある方はご遠慮願う、といった対応では甘すぎるでしょう)。会計監査の重要性に目を背ける姿勢にも会計不正のリスクが大きく潜んでいます。

「延期したくでもできなかった」というケースと「延期できるのにしなかった」というケースでは、役員のリーガルリスクが異なります。また、緊急事態宣言が発出されたことで、株主および役員・従業員の感染の「予見可能性」も大きく変わりました。基準日と決算日を異にする実務慣行が日本企業には存在しないこと、株主確定コストが生じること、配当・税務スケジュールが遅延すること、第一四半期決算の時期が重なってしまうこと等、総会延期による様々なデメリットがあることは承知しておりますが、それらの弊害は「延期したくてもできなかった」ことの理由にはなりえません。コロナ禍の現状を踏まえますと、とりあえず6月に定時株主総会を開催する上場会社においては、開催時期を延期をして、考えられる弊害はトライアル&エラーで対応していくより方法はないと考えます。

なお、くどいようですが、上記は私個人の見解であり少数意見であります。どうしても6月総会を予定どおりに開催したいと考える場合のリスクについては重々承知のうえで実施に踏み切るべきであることを(社長を含めて)全社的に共有していただきたい。

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2020年4月 8日 (水)

新型コロナウイルス緊急事態宣言と在宅勤務推進に向けた企業の対応

5月総会の東証1部上場会社が総会の延期を決定しましたね(リリースはこちらです)。再三申し上げているとおり、私は株主や従業員の方々の安全のためには当然の措置ではないかと思います。しかし、4月総会の56社、残る5月総会の20社はどうされるのでしょうか?

さて本日(4月7日)、新型インフルエンザ等対策特別措置法(第32条1項、令和2年法4号追加-附則1条の2)に基づき、新型インフルエンザ等緊急事態宣言が発出されました(発効は4月8日午前0時)。

事業者は、政府や地方公共団体のコロナウイルス感染防止のための対策に協力する義務がありますが(同措置法4条2項)、緊急事態宣言が発出され、該当都府県の知事に(社員に対する)法的な外出制限の権限が付与されましたので(同法45条1項)、社員の在宅勤務を推進する、交代出勤制を導入する等、事業者には職務の安全性確保の必要性が高まっています。

Zaitakukinmu2 本来、働き方改革や生産性向上を目指して、テレワークを中心とする在宅勤務制度の推進が図られていますが、このたびは事業の継続性を維持するための在宅勤務制度の導入が、大企業や中小企業といった規模を問わずに検討する必要があることから、左図のような法的アプローチが必要ではないかと考えております。

このたび、某法律雑誌の緊急特集(緊急発売)「新型コロナウイルス対応の企業法務」におきまして、コンプライアンスの視点から執筆させていただくことになりましたが、できればその要旨だけでも早めに当ブログでもお伝えしたいと考えています。不定期ではありますが、企業の有事対応としてのテレワークを中心とした在宅勤務に関連する法律問題を取扱う予定です。働き方改革の一環としての在宅勤務の論点とは、また少し変わってくるかもしれません。

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2020年4月 6日 (月)

新型コロナウイルス「緊急事態宣言」と企業コンプライアンスの実践

業務中ではありますが、緊急事態宣言が出される見込みとなりましたので、とりわけ法務部門の方々に向けてお知らせいたします。

すでにご存じの方も多いとは思いますが、商事法務NBL最新号(2020年4月号)におきまして、BCPに精通された法律専門家の方々による「新型インフルエンザ等対策特別措置法改正法と企業の押さえるべきポイント」「新型インフル特措法」の一部改正と企業のリスク管理・BCP」なるご論稿が、いずれも無償で閲覧・ダウンロードが可能となっております。

こちらから閲覧・ダウンロード可能です。商事法務さん、さすがですね)。

緊急事態宣言が出された際の、企業の内部統制システムはいかにあるべきか、すくなくともどのような視点で緊急事態宣言に対応しなければ注意義務違反、善管注意義務違反になってしまうか等、非常に参考になるところでして、企業の皆様も参考にされてはいかがでしょうか。

金融庁が会計基準(固定資産の減損ルール)の柔軟な運用を推奨したり、法務省と経産省が連名で「有事における株主総会Q&A」を公表しています。私なりに解釈しますと「有事には合法的粉飾もありうること」「バーチャル総会の違法性阻却事由という特段の事由の例示」が公表されたものと拝察いたします。いずれも未曽有の有事ゆえの超法規的措置と理解しています。同様に、緊急事態宣言が出された際のBCPの在り方としては、個別条項の文言よりも、特措法の趣旨を尊重した運営こそ企業のコンプライアンス経営にとって必要なものだと確信しています。

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社内抗争が不祥事を生む-経営者必読の第三者委員会報告書

(4月6日 16:40 一部修正しました)

新型コロナウイルスの対応に世間の関心が向いていて、ほとんど記事にもなっていませんが、4月2日、上場会社の経営者の方々にぜひともお読みいただきたい第三者委員会報告書が公表されました。プラスチック成型・加工大手の天馬社(東証1部)が公表した第三者委員会報告書(第三者委員会の調査報告書の公表等に関するお知らせ )であります。たいへん興味深い内容で、週末一気に読了いたしました。ちなみに報告書「公表版」については、公的機関による捜査・調査に支障を与える可能性に配慮し、外国公務員への現金交付 が行われた国や海外子会社が特定されないように記述を工夫し、現地通貨については 一定のレートで円換算した金額を「○円相当」と表記されています。

天馬社の海外子会社が現地税務当局から調査を受け、法人税法違反の事実を指摘されます。海外子会社トップに対して「だいたいこれくらいの追徴金額、罰金になりますよ」と税務調査のリーダーから連絡を受けるのですが、その際、当該調査リーダーは「まあ、1500万円くらい持ってきてくれたらなんとかしますけど」と贈賄の要求がありました。海外子会社のトップは、日本の海外統括責任者に相談をするのですが、最終的には支払いが承認されたことで、1500万円を(現金で)支払ってしまうことになります。

外国公務員に(求めに応じて)1500万円の賄賂を支払うことで、9000万円の追徴金額がわずか160万円になるのだったら(もしくは4億2000万円の罰金が1600万円の罰金で済むのだったら)、皆様はどうしますでしょうか?相談した本社トップから「そんなことはお前が自分で考えろ!相談するな!」と言われたら、海外子会社マターとして処理するでしょうか?そのように社長から言われて「社長と秘密を共有できた」と意気に感じてしまうでしょうか?

たとえ後ろめたい気持ちになったとしても、たとえば2年前に同様の事案で賄賂を提供してうまくいった事案(しかも社長も黙認)があれば、「今回も同じように・・・」と考えてしまうのではないでしょうか。また、日ごろから少額ではあるけれども、現地の公務員にファシリテーション・ペイメントを供与する慣行が続いていたとすれば、支払うことに躊躇しますでしょうか。

さらに、現地での対応にコンサルタントを活用している場合に、コンサルタント手数料の中に「現地調整金」名目のよくわからない経費が紛れ込んでいる可能性があるとすれば、コンサルタントに「絶対に袖の下に使ってはいけない」と厳命できるでしょうか。私は本報告書を読みながら、海外子会社で結果を残すことを期待されている子会社トップの気持ちになっていろいろと考えておりました。

本件は、日本の上場会社において、海外贈賄事件を防止するための教訓もさることながら、海外贈賄事件が発生してしまった際の経営陣の身の処し方を考えるうえで、たいへん大きな教訓を含んでいます。まずなによりも、①どのような企業行動が海外贈賄の要件(たとえばFCPA、中国商業賄賂、UKBA等を念頭に)に該当するのか、最低限のトレンドを認識しておくこと、②発生させてしまったことよりも、これを隠蔽することのほうが、より厳罰の対象となること、③贈賄の事実の隠蔽は、会計不正事件へと発展するおそれがあること等を、経営者は認識する必要があります。

そして本件の最も大きな特徴は、海外贈賄事件を公表するに至ったきっかけが社内における派閥争いにある、という点です。社長派と名誉会長派とに分かれて、本件の海外贈賄事件による責任問題を主導権争いの道具に活用してしまおう、内部通報制度も社内抗争の道具に使ってしまおうといった目論見が、本件をオモテに出したといっても過言ではありません(このあたりの社内抗争の詳細は、録音データなどによって如実に報告書で再現されています)。本来ならば、有事に活躍しなければならない監査等委員(取締役)らはまったく「蚊帳の外」に置かれていて、監査役等の活躍に期待する人から見れば悲しい限りです。

もし社内抗争がなかったとすれば、海外贈賄の事実が発生したことが速やかに取締役会で報告されて、監査等委員も交えて対応が検討されたと思います(そうすれば、社外有識者から、的確な海外贈賄リスクへの対応方法の指南を受けられたはずです)。また、これを(一部の取締役によって)隠蔽することなどは回避されたものと思われます。さらに、コンサルタントの活用方法も適切だったと思います(実は、今回の海外贈賄事例では、賄賂を提供せずとも、コンサルタントの助言によって相当額の追徴金の減額が得られたことが明らかになっています)。

なお、本報告書を受けて、天馬社は今後どのような対応をされるのか明らかにされていません。本来ならば、第三者委員会報告書の公表と同時に、会社としての今後の対応も公表します。たとえば検察へ不正競争防止法違反の事実を報告をするのでしょうか、誰にどのような社内処分をするのでしょうか、ガバナンスの再構築はどうされるのでしょうか。こういったことを速やかに公表できない、という点も、やはり社内抗争が存在するからだと推測されます。企業の社会的信用を回復させるために、いままさに自浄能力を発揮しなければならないときに、発揮できないというのは誠に痛い。

海外贈賄問題に関する経営者の認識は、どこの企業でも天馬社の経営陣と似たり寄ったり、というのが現実ではないでしょうか。現在は新型コロナウイルスへの対応で精一杯かとは存じますが、少し落ち着かれましたら、ぜひ当報告書をお読みいただき、経営陣のベクトルの方向が一致していることの重要性、海外贈賄問題への対処が不正競争防止法違反の問題だけでは済まないことをご理解いただきたいところです。

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2020年4月 2日 (木)

経産省の不祥事(虚偽報告)は早く見つかって良かったのではないか?

本日(4月1日)の読売新聞朝刊(社会面)に「経産省職員が虚偽文書 関電改善命令 ミス隠ぺい、幹部ら処分」と題する記事が掲載されています。すでに報じられているとおり、経産省は関西電力に対して業務改善命令を発出したわけですが、手続上は取引監視委員会の意見を聴取しなければ命令を出せないにもかかわらず、委員会の意見聴取を担当者が失念していた、とのこと。後で気が付いて、慌てて委員会の意見を聴取したのですが、その聴取の日付けを命令発出前に書き換えていたそうです。担当部局の幹部も許容していたこと、担当者が相談した他の部局の職員も黙っていたことが判明しています(3月31日付け経産省によるリリースはこちらです)。

残念なのは、この隠ぺいの発覚は、改善命令に関する決裁文書への情報公開請求がなされたことがきっかけ、という点です。組織の自浄能力の欠如が露呈されてしまいました。もし情報公開請求がなければ、経産省内部で隠ぺいは(誰もトップに報告することもなく)そのまま眠ってしまうはずだったということです。

3年ほど前、人事院からの要請で、各省庁の幹部160名を集めたコンプライアンス研修の講師を務めましたが、その際「公務員の無謬性」についてお話させていただきました。なぜそこまで「無謬性」にこだわるのか?公務員だって「人生山あり谷あり」ですから不正に手を染めることだってありますし、ミスも起こします。なぜご自分の過ちを認めないのか、不思議でならないことを申し上げました。

このたびの経産省の件も同様であり、私には隠ぺいするほどのミスであることが全く理解できません。どうして「法令の認識不足で手続にミスがありました。現時点の命令を取消して、あらためて明日、命令を発出します。失礼しました」と言えないのか?上司もなぜ、その隠ぺいを了承してしまうのか・・・、私にはそれほどまでにコンプライアンスよりも「無謬性」を重視する発想がわからないのです。この公務員の発想を心底から理解できなければ、公務員の隠ぺい体質は直せないだろうし、森友問題の解明もむずかしいのではないかと考えます。

しかし、今回の経産省の件は、情報公開請求によって早めに発覚し、関係者の処分を終え、経産省にとってはとてもラッキーだったと思います。もしこのまま隠ぺい問題が放置され、数年経過してから「虚偽文書疑惑」のような形でオモテに出たとしたらどうなっていたでしょうか。おそらく「関電と経産省とのなれ合い体質(疑惑)」「手心を加えた経産省(疑惑)」といった形で週刊誌ネタになっていたはずです。経産省は強く否定したいのですが、根も葉もない噂に(確たる証拠をもって)反論できないがゆえに、手続ミスの隠ぺいでは到底すまないような組織の信用毀損に至ってしまう可能性もあります。

上記経産省リリースによると、再発防止策として「二度と起こさないための研修」をされるそうです。しかし、私は「残念ですが、どんなに立派な研修をしたとしても、また同じようなミスはかならず起きます」と言いたい。再発防止策は、起きたときにどうするのか、ということを省内、担当部署を越えて議論することです。あの大阪府警ですら、証拠偽造が頻発した折、府警本部長の指揮で「もし、偽装を署内で見つけたら、君はどう対応するか」というDVD研修に至りました。(※1)公務員の「過剰な無謬性」を捨て去ることが再発防止の第一歩です。

今年も財務省ほか、人事院研修の講師をさせていただきますが、同様のことを強く公務員の方々にお伝えしたい。

(※1)2012年、新聞でも報じられましたが、大阪府警でコンプライアンス e ラーニングの DVD が警察官 2 万 3000 人に配られました。2 年間続けて非常に大きな不祥事が大阪府警に続きました。7 年も前の事件の証拠を紛失してしまったから自分で作ってしまったとか、証言の調書を偽造してしまったとか、本当に恥ずかしい不祥事が 7 件も続きました。このことによって本部長が交代しましたが、大阪府警のコンプライアンス教育も変わりました。府警教育では「あなたが上司として、部下の不正を見つけたときにどうするか。」「あなた自身が証拠をなくしたときにどうするか、誰に報告するか」こういうことを e ラーニングで始めたのです。あの大阪府警で、警察官は不祥事を起こしてはいけないという今までのスタイルから、起こしたときにはどうするかという発想に変わったのです

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