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2020年4月16日 (木)

6月総会延期問題に金融庁協議会声明リリース-それでもやはり6月株主総会は延期すべきである

ここ3日間ほど、たいへん多くのアクセスをいただき、またメールを含めて様々なご意見を頂戴しまして、厚く御礼申し上げます。自身の法律家として浅学な点も素直に反省しております。

今朝(4月15日)の朝日新聞経済面の記事「株主総会どう対応-決算難航・有価証券報告書は期限延長」を読み、筑波大学の弥永先生も、基本的には同じような問題意識をお持ちであることを知り、ややホッといたしました。ただ、弥永先生も(解釈論ではなく)「時限立法で3カ月より延ばすことが望ましい」とされ、さすがに超法規的措置として解釈できるとはおっしゃておられませんでした。結局のところ、本日金融庁(企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会) から声明がだされたとおり、続行決議によって継続会、もしくは完全な延期という方式で(株主総会の)延長問題に対応することが推奨されています。

しかし6月に定時株主総会を開催する上場企業は(おそらく?)2340社ほどに上ると思いますが、中小の上場会社も含めてイレギュラーな延長手法を適法にこなせるのかどうか、たいへん不安を感じます。ましてや、在宅勤務制度が浸透するなかで、たぶん2班か3班に分けて準備をしなければならないので(関係者のひとりが感染した場合は、そのチームの方々は全員自宅待機となりますので)各上場会社にそんなに総会関係者がいらっしゃるのか、不安をおぼえます。

さらに、物理的な問題とは別に、理屈の問題としても不安があります。本日の連絡協議会声明では、6月総会の「継続会」を実施することで、なんとかコロナ禍の定時株主総会を乗り切ることが企図されていますが、私はやはり2340社の上場会社一律に推奨するには大きなリスクがあると考えます。たとえば昨日のエントリーに対して(機関投資家の立場から?)tyさんがコメントを寄せておられますので、ご紹介したいと思います。(tyさん、承諾も得ずに本文でご紹介することをお許しください<(_ _)>)(以下、コメント引用)

新型コロナ(略)協議会の声明文では、決算が間に合わない企業に対して延期と継続会の2つの選択肢が提示されました。しかし計算書類が間に合わない企業が継続会を選択した場合、企業は事業報告も計算書類もおそらくは短信すらない状況で株主に対して議決権行使の判断を迫ることになります。(監査報告書なしの事業報告と計算書類を招集通知を添付する企業はあるかもしれませんが…)

過去の継続会の事例では、継続会となることが確定している場合でも、書面行使や電子行使の締め切りは当初の総会の前営業日までであり、継続会で事業報告や計算書類が提出されたとしてもそれに基づき議決権行使判断を変更する事はできません。株主からすると企業の前期の業績も事業報告の内容もわからない状況で配当や役員選任議案の賛否を判断しろと言われても株主は判断材料がないので判断できません。BSなしに剰余金処分の判断をする投資家、PLなしに取締役選任の判断をする投資家、会社役員の状況・株式の状況・主要な借入先の状況なしに社外役員選任の判断をする投資家は考えられません。「責任ある機関投資家」としてinformed decisionが求められる機関投資家はどうすればよいのでしょうか。

通常の状況であれば会社の情報開示の問題として関連議案すべてに反対する選択もありますが、それが適切だとは考えづらいです。一方で非常時なので判断材料はないが賛成しましたという説明ではアセットオーナーはその立場上納得するわけにはいきません。

声明文を読み頭を抱えている機関投資家の姿が目に浮かびます。

(コメント引用終わり)

私も昨日来、まったく同じことを疑問に思っておりました。6月に開催される株主総会では、会社側から計算書類も事業報告も提出されないままで「さあ、役員選任議案に賛成しろ」と株主は勧められるわけです。しかし株主は、役員選任の参考となるべき事業の通信簿もないままに取締役の選任(再任)を決めなければいけないのでしょうか?

せめて役員の顔と声だけでも聞きたい!と思っても、「いえいえ、コロナ禍ですから、出席は控えていただき、事前に書面もしくはネットで議決権を行使してください。私たちはバーチャル株主総会でやりますから」と言われてしまいます。出席は控えろと言われつつ、通信簿もないままに役員選任だけはイエスと言え、というのは、あまりにも株主を侮辱していることにはならないでしょうか?(tyさんがおっしゃるように、機関投資家の背後におられるアセットオーナーの皆様に、この状況で議決権行使をしたら、機関投資家の皆様はどのように説明責任を尽くせばよいのでしょうか?)

tyさんがご指摘のとおり、過去には継続会開催のケースでは、監査を経ていない事実上の計算書類や事業報告が参考資料として出される場合があり、これを参考に役員選任議案に賛成票を入れてください、と会社が株主にお願いするケースも考えられます。しかし、これは個別企業がやむにやまれず継続会方式を採用する場合(過去の事例)ならいざしらず、一律にこのような方式を採用するとなれば、もはや会計監査も監査役監査も不要であると国が認めたに等しいものと言えます。これでは不適切な会計処理を多発させることになり、到底許容できない運用です。

では、とりあえず決算期末の基準日の効力を残すためだけに、6月総会を開催しておいて、数か月後の継続会で役員選任議案と剰余金配当決議を行う、議決権の書面行使、電子行使も継続会の直前で結構です、というケースはどうでしょうか。

しかし、これではそもそも6月に株主総会を実質的に開催したことにはならず、むしろ議決権行使や剰余金配当の基準日の効力を残すためだけの脱法行為であると裁判所から判断される可能性があります。つまり、株主総会の決議取消(決議不存在)の訴えや(基準日以降に株式を取得した者から)損害賠償請求訴訟を提起されるリスクが残る、ということです。これは会社側としてとりえない選択肢ではないでしょうか。

過去のエントリーで何度も述べたように、6月総会開催、継続会で剰余金配当の承認決議という流れは、十分にありえます。やむにやまれず、個別企業が継続会を開催するのであれば、投資家が当該会社の開示情報の信用性に注意を向けられますから、ディスクロージャー問題として扱えば足りるでしょう。しかし、これを一律にやってしまうことには大きなリスクが伴います。やはり6月総会は中止をして、延期する以外に方法はないのでは、と考えております。

 

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コメント

(昨日の、山口先生のエントリーと併せての、本日のコメントを拝読し、過去に在籍した出版社視点で…恐縮ですが)
「総会開催のルール」に完璧に精通していないので、素人発想で恐縮ですが、「行動変容」視点で一言…。
開催延長議論が主になっていますので、確かに、前回の様な形式対応は難しいと思います。
私は、むしろ逆の発想で、ある事を思っています。例えば…、
渡しが在籍していた出版社では、新しい雑誌を世に送り出す際は、(試験的に)新刊誌をいきなり出す前に「プレ創刊」という形で、一般読者向けではなく、関係者(書店取次ぎや広告代理店など)向けに若干誌面の少ない「ご案内」的な試験誌を配布、リサーチを行ない、本番=正式創刊に備えます。
安倍総理大臣が緊急事態宣言を発令した後に、(指定されていない)他府県からも、同類的な宣言が続発しています。時限付…多くはGW明け=首相発令から1ヶ月後の5月6日まで。
つまり、5月末を目安にしての短信的な暫定有価証券報告書と、上層部の表明を併せた、(バーチャル含め)緊急事態宣言を受けての、企業業績の現状と課題を、誠実に「特別中間報告(仮称)」を行なっては?と。そして、その反響を基にして本番の株主総会開催を目指す…という発想です。
世界大戦に例えられる、日々刻々と状況が変わる状況下では、不安定な海外からの業績数値などに、どれだけ信憑性/信頼性が持てるのでしょうか。将来の明るい兆しが見えにくい現在こそ、企業のトップ/ご陣容ととして、企業としての決意表明を発する機会とされてはいかがでしょう。

因みに、アビガンという薬が、新型コロナウィルス特効薬として注目されていますが、奇形児を生ませる副作用があるらしいので、出産後の母子が感染していた事例も出ている昨今では、完全終息は容易ではないと危惧、ハーバード大学の研究報告の様に、事態は長期化が懸念されます。
1ヶ月限定の緊急事態宣言を、企業視点で検証しつつ、この期は数値よりも、規模の大小に関係無く、説得力のある、各社トップ陣の決意と先見力、そして新型コロナウィルス対策プラスα(アルファ)的リスクマネジメントを視野に入れた、熱のこもったお心意気を発信される事に、末席的立場から期待をしています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年4月16日 (木) 07時51分

3末基準日での定時総会を開催せずに、基準日外で再度基準日設定し定時総会を開催するということであれば、定款違反はあっても、感染リスクを避けるという合理的な理由があるため許されるとはいうお考えには賛同いたします。(延期後の総会で違反を治癒するための決議を採っておくとなお良いかと思います)。
しかし、この場合、3月末基準株主を確定したことによって生じた費用が無駄(別途基準日確定に伴う費用が生じること)になりますので、コロナ影響で業績悪化してコスト削減を要求されている総会担当者としてはきついですね。また、旧役員の任期が延長、新役員選任が先延ばしにされるので、役員交替を予定している企業は難しいとは思います。よって、出社制限下でも計算書類監査が間に合うという企業は、通常どおり開催するという判断になると思います。(4月総会で感染した方が出るなどして世論喚起がされれば別かもしれませんが)
他方、監査が間に合わず、継続会を開催しなければならないのなら、全部を延期した方が合理的と考えます。
というのも、継続会は初回の開催も含め2回物理的に開催しなければならず感染リスクが増大することに加え、コスト面でも会場費用等の運営コストや、計算書類監査未了で継続会のために別途送付する場合は招集通知とは別に計算書類を送付するコストがかかるためです(株主確定を別途行わずに済むことによって回避されるコストよりも大きいはず)。
なお、継続会のメリットとして、役員選任議案が先にできるということが考えられますが、継続会で再審議・決議せずに済むとしても、既にご指摘のとおり、そもそも計算書類等が無い中で賛否をせよというのは説明義務違反等の問題がありそうです。また、役員選任議案を初回に決議できたとしても、旧役員の任期は満了しませんし(継続会の場合は継続会の終結時が定時株主総会の終結時となるところ、任期が定時株主総会終結時と定款で規定されているため)、新任役員の選任の効力発生は通常定時総会終了時点と解されますから、新体制に交替したいとしても交替できず、この点では丸ごと延期するのと変わりないからです。
とすると、継続会で開催することのメリットは、3月末時点の株主が固定できることで、その方々への配当決議ができるということのみと思われます。
そうすると、計算書類の監査が間に合わない企業で、取締役会で配当決議ができる企業は、継続会ではなく、完全な延期というのが合理的な選択かと思います。

投稿: unknown1 | 2020年4月16日 (木) 20時06分

山口先生、コメントを紹介していただきありがとうございます。

配当を3月末基準日の株主に支払うことを企業は絶対視するからこそ、総会を延期せずに継続会の選択が検討されているのだと思いますが、3月末の株主への配当の支払いがどこまで企業にとって重要なのかが見通せません。
企業が重視するのは長期投資家であり、3月末基準日に裁定取引をする短期売買の投資家ではないはずです。長期投資家は短期間でポートフォリオを大きく組み替えることは少ないので、大勢としては影響は少ないはずです。
(意地悪なことを言えば、文句を言う可能性があるのは3月末には保有をしてたが新しい基準日時点では売却していた「元」株主だけであり、延期した総会の議決権は保有していないので企業はその声を無視できます)
unknown1さんが指摘されるように役員選任のためにはメリットはないように思えます。

平時においても3月末基準日後に配当予想額の修正を発表するお行儀の悪い企業があるのに、なんでこの非常時に律義に守ろうとするのだろうと、ぼやきたくなります…

なおunknown1さんの取締役会で配当決議が出来る企業は完全な延期が合理的な選択という指摘ですが、取締役会での配当決議の条件として計算書類の監査報告書が無限定適正意見が含まれることが気になります。

投稿: ty | 2020年4月16日 (木) 22時19分

山口先生、いつもありがたく拝読させて頂いております。素人考えの思い付きで恐縮ですが、取締役会で定時株主総会における配当議案を決議し、総会で決議されることを条件とした配当請求権を6月末までに行使して頂く形は難しいでしょうか。総会で減額(または増額)された場合は請求額に乖離が生じますが、議案の配当額からの減額率(または増額率)で自動的に調整することも条件として対応できます。基準日をもって配当請求権は確定しているので請求額を後付けで決定できるのであれば、配当基準日を変更する(=請求権を喪失する元株主を生む)よりは影響が小さいのではないかと考える次第です。あとはコロナの終息状況に鑑みて許容される期限内に定時総会を開催する(議決権行使基準日は法務省通達をもって定款変更なく変更する)というイメージです。失礼致しました。

投稿: NS | 2020年4月17日 (金) 14時48分

みなさま、有益なコメントありがとうございました。本文で書いたところは、偽らざる心境です。たとえ継続会形式を採用するとしても、相当なプレッシャーの中で6月総会を迎えることになると思います。

なお、NSさんのご質問ですが、6月には総会をやらずに、後日に延期する、という前提でのお話でしょうか?配当請求権を行使する、というのはとりあえず6月総会はやるということでしょうか?
もし6月に総会をやらない、ということになりますと、そもそも個別で行使される条件付き配当請求権に「基準日」を設定することはできないものと考えられます。議決権や剰余金配当以外にも、会社は基準日を設定できるのですが、それは株主一律に行使可能な権利とされています(通説)。また、3月末に設定された基準日は、条件のない(総会で承認された後の)配当請求権、ということなので、これを別の性質の配当請求権に援用することもできないように思います(質問の趣旨を誤解しておりましたらすいません)。おそらくNSさんのようにたいへん悩んでおられる方が全国にたくさんいらっしゃるように拝察いたします。

投稿: toshi | 2020年4月17日 (金) 21時02分

箇条書きでまとめてみました。ご意見を伺いたく。
1. 決算承認議案は、招集通知と同時に株主総会参考書類を発送しなければならない
→決議取消事由
2. 剰余金の配当は、形式上は、分配可能額を下回らなければ適法
① 分配可能額が不明な段階での剰余金配当のため、失敗すると役員全員、損害賠償義務を負う(無過失の立証責任転換))
② 剰余金処分議案が、計算書類と実質的につながっている等の慣習法が認められる等の結果、決議取消判決が確定した場合、役員の損害賠償責任が発生する可能性が否定できない。
3. 機関投資家は、(連結)計算書類が全くない段階で、剰余金処分議案や役員選任議案に賛成議決権を行使することは、前年度決算を根拠として結論を出すことから、スチュワードシップやフィデューシャリー・デューティーの関係上、きわめてハードルが高い
4. 金融庁の見解は、機関投資家の実務(議決権行使書面で議決権行使をすることがほとんどである。)考慮していないのではないかと思われる。
5. 延会や続会にしても、議決権行使書面の行使期限は「株主総会前」という会社法施行規則の条文に抵触することから、総会期日後の決算書提出によっても瑕疵は直らない。
6. 基準日問題は、基準日時点で株式を保有してその後株式を売却した株主を保護するかどうか、という論点になる。投資の安全性の確保からすると、基準日を守るのが適切であるが、コロナ禍の中で、どこまで維持するか、という価値判断が求められる場面である。

投稿: Kazu | 2020年4月19日 (日) 16時07分

KAZUさん、法律家の立場から、まとめていただき、どうもありがとうございます。法律論ということではおそらく異論・批判もあるかもしれませんが、私はおまとめになった中でも、3~6あたりは、証券市場を取り巻く人たちにとっても重要ではないか、と考えるところです。議決権行使にしても、配当にしても、今の株主総会では議案に対する意思表示を超えて、経営姿勢に対する意思表示を示す時代になったと思います(それはガバナンス・コードの補充原則1-1の➀で示されているのではないでしょうか)。そのあたりは、機関投資家の方々の意見もお聞きしたいところです。

投稿: toshi | 2020年4月19日 (日) 23時34分

tyさんのご指摘のとおり、取締役会での配当決議の条件として計算書類の監査報告書が無限定適正意見が含まれるとの点については、リスクがあると思います。
ただし、決議条件ではなく、無限定適正意見でない場合は効力が無効となると理解しております。
従い、延期されても、いずれかの時点では、無限定適正意見が得られるとの自信があれば実行可能かと思います。

投稿: unknown1 | 2020年4月20日 (月) 12時15分

山口先生、コメントを頂戴し大変恐縮に存じます。質問させて頂いた趣旨につきましてはご理解頂いております通りでございまして、6月に定時総会を開催せず、7月以降に延期する上で、3月末日を基準日とする期末配当の請求権を行使できないものかと思案したものでございます。同一の配当請求権と解されない旨ご教示頂き誠にありがとうございました。

投稿: NS | 2020年4月21日 (火) 23時01分

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