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2020年4月13日 (月)

コロナ感染防止対策「出勤7割削減」は実現不可能と考える

(4月13日午前11時 追記)

4月12日の各紙1面トップ記事として、新型コロナウイルス感染症対策本部(内閣総理大臣)が、緊急事態宣言の対象区域である7都府県の全事業者に「原則在宅勤務、最低でも出勤を7割削減してほしい」との要請を行ったことを報じています。また、関係各省庁から、最低7割削減について、かなり厳しめの要請もなされるようです。

私は専門家ではありませんので、この「出勤7割削減」が実行できなければ感染症を拡大させてしまうのか、それとも重篤者はそれほど増加しないのか、という点について語る資格はございません。ただ、先日も申し上げましたが(原稿執筆のために)「在宅勤務(主にテレワーク)とコンプライアンス」に関する様々な資料調査やヒアリングなどを行う中で、「これは都市封鎖でもしないかぎり、現状では無理だな」と考えております。理由は以下の4つです。

まず、事業者側で在宅勤務を「やろうと思えばできる」体制が整っていないこと。働き方改革の一環として、1年以上前から「在宅勤務制度」を推進している企業でさえ、現在は通信環境の整備や企業秘密保持(情報漏えい防止)の面において試行錯誤の状況(トライアル&エラー)です。ましてや、あまり積極的でない事業者が、後ろ向きな気持ちで取り組んで、いきなりモデル事例のような体制を整備・運用できるわけもなく「やろうと思ってもできない」のが現状かと。

ふたつめが報奨制度の存在です。東京都のように、要請を遵守する事業者には補助金(協力金)を出す、といった報奨制度がない以上、前向きに取り組むインセンティブがないと思います。たとえば金銭的報奨ではなくても、「当社は出勤7割削減を達成しながら、なんとか事業を継続しました」と公表して、これを評価されるような社会的な仕組みがあれば良いのですが、そのような仕組みは現存しません。

三つめが「同調圧力の活用」です。8時で営業を終了する飲食店が多い中で、要請に従わない飲食店が存在すれば、たしかに収益は上がるものの、同業者や地域住民の方々からは批判を受けることにもなりえます。しかし「在宅勤務によって出勤を7割削減していない」という事態は、おそらく他社(他者)からはわからないと思います。また、「こんなの業界や職種によって達成できないのはあたりまえ」と思っておられる方も多いはずであり、他社(他者)に不公平感をあまり抱かせないものと思います。

そして四つ目が(ひとつめの理由とも関連しますが)在宅勤務と出勤して勤務することとの評価の違い(おそらく偏見)です。いまだ「職能給制度」が根強い日本の企業において、「職務給制度」による人事評価の思想が根付かない。労務管理がむずかしい、「あ、うんの呼吸」によるコミュニケーションがとれないといった理由で、幹部社員だけでなく、取引先にも在宅勤務の職務内容がきちんと評価されていない傾向があるように思います。おそらく、この理由が「出勤7割削減」を不可能にする最大の理由ではないでしょうか。

(追記)Henryさんのコメントにあるように、5つ目の理由として「7割削減」というが、そもそも何を「7割」削減すれば良いのか・・・という根本的な問題もあるかもしれません。当エントリーでは「在宅勤務」に焦点を当てていますが、その他にもリモート会議で出張を削減したり、時差出勤制度を積極的に採用したり、どうしても出勤しなければならない職種についてのみ延期・中止する、という手法もあります。いずれにしても、経営者の英断が必要な点では共通しているように思います。(追記終わり)

ただ、そうはいっても企業コンプライアンスの視点からすれば、(内閣総理大臣による事実上の)要請とはいえ、なんとか在宅勤務制度を実施することで、要請に対して努力義務を尽くす必要はあるはずです。そこで「7割削減を実現するための指針」のようなものが公表されることを希望します。そして、ここからは全事業者、とはいえませんが、前向きな企業は「指針に基づいて、7割削減に向けた工程表」を開示する、といったことで社内・社外に「有事における在宅勤務制度」の人事評価や職務評価の姿勢を示すべきと考えます。

ある専門家の方の感染拡大の試算として、「出勤削減6割5分では感染拡大は食い止められない。7割で、はじめて数か月後に効果があらわれる」と示されていましたが、私はそもそも全事業者を対象とするかぎりは6割5分の在宅勤務すら不可能だと思います。感染防止に向けて、事業者が政府要請に協力することと同時に、社員ひとりひとりが「3蜜防止」を実践して、たとえ感染者が増えたとしても重篤者と医療崩壊だけは阻止する方策のほうが現実的ではないでしょうか。

 

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コメント

おはようございます。
私も先週より基本が在宅勤務になっています。
多少なりともコロナ感染拡大対応施策への貢献になっていればと感じています。

ところで、出勤の7割削減や接触の8割削減などの話が行きかっていますが、具体的にどのように測ればよいのかについては示されていないようにも思います。
単純に7割の人が通勤をやめればよいということでしょうか。接触する人数を2割以下に抑えようということでしょうか。
あくまで目途と言うことになるのでしょうが、100%勤務・通勤をやめられない人も少なくないと思うので、ひとりひとりのレベルでは気になるところです。

個人的には、Social Distanceを取れない状況の交通機関を利用しての長時間通勤による接触というのが「3密」の条件に当てはまり、接触人数も非常に多くなる可能性があり、よりリスクが高いようにも思いますが…。

投稿: Henry | 2020年4月13日 (月) 10時02分

おはようございます。コメントありがとうございます。
すいません、実はHenryさんがご指摘の点も「理由」のひとつとしてぼんやりと考えておりましたが、本文に抜け落ちておりました。もう少しすれば、いろんな政府への批判から「7割削減」の具体的な指針のようなものが出るかもしれません。ひょっとしたら関係各省等から、ということになるかもしれません。
事業者が自主的に取組むわけですから、せめて会社としてどう取り組むのか、BCP対策本部において明示する必要はありますね。

投稿: toshi | 2020年4月13日 (月) 10時35分

在宅勤務を要請/緊急事態宣言の下での私たちの仕事の在り方を問われている昨今、個人的には、「量より質」視点で考えています。
(後述しますが、過密な通勤電車のイメージとその周辺環境…。)
都市部における電車通勤では、時差出勤も中々はかどりません。
「9時から夕方5時」概念ゆえの、朝夕の混雑が旧態依然と映り、TVでは品川駅等、1車両に乗車する乗客の制限をしている光景を見る事は出来ません。つまり、次の列車=「遅刻=業務評価が下がる」という構図/背景が、多くの通勤者の「すし詰め通勤」を助長している状況下…。
限界はありますが、改札〜ホームで待機する時〜等々で、一定の距離を開けて乗車/通勤が出来れば、(極論ですが)7〜8割という数値にこだわらなくても、感染防止の一助になるかも…と考えます。
(スーパーの買物における、前後客との空間確保/線引きの応用)

(週末に外出していて、そこで予想外の「3蜜」的になってしまっていたら?)
某社が、先月新たな車両を始動、中距離のビジネス客を狙った特別急行列車がデビューしました。ただ、デビュー日は土曜日:ビジネス客より、鉄道ファンが全国から座席指定を奪い合う状況でスタートしました(3月14日)。
三重県の知人によると、名張市内での人身事故で、名古屋と大阪を結ぶその車両も、デビュー日に、名張駅で長時間(臨時的に)警察の事故検証終結まで、相当時間の待機をしたとか。前後の普通や急行列車の乗客もあふれ、名張駅のホームと、待合室は暖を求め「3蜜」と化していたとか。通常2時間弱での名阪間の移動が、相当遅れたらしく、特別列車の中では、外にも出れず、座席で待たざるをえない状況だったそうです。
つまり、その日の乗客は、名阪区間なれど、全国各地からの鉄道ファンが乗客として占め、不特定多数の人と隣り合わせになった可能性があります。
その中に、残念ながら保菌者が存在したら、1〜2時間の過密の下で、窓も開けられない車両で名阪区間を移動、その人達の多くがサラリーマンであれば、翌日以降の平日に各社に通勤する日常に繋がる…。想像の範囲ですが、阪神地域と、名古屋地域や全国に多発している「感染経路不明」=ライブハウス等には行っていないけれど、感染の一要因になっていたとしたら、平日のGW明けまでの「出勤7割削減」が仮に遵守されていても、感染者の数は減少しない?と考えさせられています。
政府の方針を不十分云々と否定するつもりは無いのですが、「木を見て森を見ず」になってはいないでしょうか?と危惧する視点で、今回の山口先生の本エントリーへの参考情報とさせていただければと思っています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年4月13日 (月) 10時59分

おはようございます。

私の勤務先では「毎日、出社人数を所属員の20%以下に抑えること」という指針が出ています。私の部署(内部監査部門)ではボス以外はすべて在宅、ボスが週に1日か2日くらいの出社、となっていて、日毎の出社率は 0%ないし12.5%で目標達成、です。人数がバレますね(笑)

かように、内勤者だけの部署であれば計測はたやすいのですが、外回りの営業などの部署ではこんな簡単ではなさそうです。現業部門があるところ、たとえば建設業などはどうするんでしょうね? と思いました。

投稿: しがない内部監査員 | 2020年4月13日 (月) 11時55分

製造業、工場に在宅勤務はできません。
生産ラインを停止しなければなりません。
接客業、営業に関する在宅勤務不可の話題は多々ありますが、
製造業に関することは、「残り3割」に該当することが当然と見られて、声が上がっていないように思います。
「優れていて憂える内部監査員」(私はそう感じます)の方のコメントにも共感しますが、この時期に「重大なコンプライアンス違反」や「善管注意義務違反」が風化される、隠蔽されることのないよう、内閣総理大臣にも試行錯誤して要請したいと思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年4月13日 (月) 12時53分

建設業の現状です。
一応、政府の「基本的対処方針」では最低限の事業継続が要請されている事業に「公共工事」が入っています。
そのためか、国交省は、受注者から申し出れば工事を中止してもいいよと全国に通達しています。
受注者としては、感染者が出れば別ですが、なかなか言い出しづらいようで、全国の国発注工事9000件のうち一時中止は200件、4/7現在中止中工事は7件だそうです。
もちろん、私の勤務先も現場は通常通りです。
とあるゼネコンが、工事を止めるとプレス発表して業界がざわつくような体質です。

投稿: 建設業の内部監査員 | 2020年4月13日 (月) 13時24分

皆様、各業界の在宅勤務制度に関する現状をご報告いただきまして、ありがとうございます。たいへん参考になります。しがない内部監査員さんのような勤務体系だと、会社資料などはクラウド上にあるのでしょうね。そうでないと、内部監査部門の仕事は進捗しないように思うのですが。
建設業の内部監査員さんがおっしゃっていることは西松建設の件だと思いますが、大手ゼネコンの中でいろいろと対応が分かれている点は興味深く、在宅勤務制度の導入問題とも絡むところで、次のエントリーのネタにしようかと思っておりました。
ぜひまた、現場のご意見なども頂戴できましたら幸いです。

投稿: toshi | 2020年4月13日 (月) 13時43分

今回の緊急事態宣言が、タイミング的に、定例監査業務のうちの往査(現地実査)が完了して、資料収集もほぼ終わって、報告書作成~役員報告のフェーズに切り替わるところだったので、在宅勤務で仕事がはかどってます。雑音がなく報告書作成に邁進しています。

そういう状況なので、連休明けも引き続き家に籠っていろ、と言われると、その時点で仕事のネタが尽きます。勤務先は紙の資料がまだまだたくさんありますので、次の監査に向けて在宅ではできないことが多すぎです。

なお、在宅勤務で、テレカンファレンスも結構やってます。現地実査の際のヒアリングのうち、かなりの部分はテレカンファレンスでできるなぁ、と思いました。逆に、絶対に現地に赴かないとできない部分、というのも見えてきて、強制的に在宅勤務に切り替わったことで、思いがけず、いい意味で仕事の棚卸しができるなぁ、とポジティブに考えています。

投稿: しがない内部監査員 | 2020年4月13日 (月) 17時44分

厚生労働省の専門家会議が愚策を続け状況を悪化させているなか、根拠の不明な出勤率7割減などという負担を国民の押し付けるのを見ると、第2次世界大戦中、作戦失敗で敗退を続けるなか、国民に「竹槍戦術」や「焼夷弾は布で覆って手で消せ」と効果のない負担を押し付けていたどこかの国の陸軍を連想させます。
専門家会議の愚策には、枚挙にいとまがないですね。
・PCR検査の件数を制限して感染者の水際対策に失敗した。専門家会議の資料によれば「感染源不明の感染が発生しなければ」、感染源に接触していない人のPCR検査は不要というのが根拠だが、大前提が崩壊している現状でも、PCR検査を制限している。PCR検査を十分しなかったから、感染源不明の感染者が大量発生している。
・「医療崩壊が起きてから感染爆発が広がる」という非科学的な迷言を行い、それを妄信している
・「PCR検査で陽性となっても、2週間症状がなければ、再度のPCR検査で陰性を確認することなく、陰性になったと見なして行動制限をなくす」という方針に転換し実施している。無症状の感染者がいることを考えるとあり得ない愚策
・院内感染に対して効果的な対策が打ち出せず、院内感染が最大の感染原因になっている
・専門家会議の資料によれば、感染者に自宅待機させても、家族に2次感染するだけで、家族からの3次感染は起こりえないことになっている
・「接客業の人の99.8%は発熱がない、主婦などの99.9%は発熱がない」というLINEの調査を「接客業の人は、主婦などの2倍発熱している人が多い」と発表。職業差別を生みかねないナチス的な宣伝をしている。また「発熱=コロナ感染」でもない。
・3密などという日本独自の神話を作り出し、WHOから「3密は仮説に過ぎず、検証された事実ではない」とたしなめられる。
専門家会議は「病院の利益代表」であり「国民の安全」には興味がないように思えます。この点も陸軍を思い起こさせます。
「愚かな専門家に従うべきか」という話は、今回にしても、大戦にしても、倒産しかけの会社にしても繰り返し出てくるテーマであり、アメリカが上手に人を入れ替えて対処する(ガバナンスが機能する)のに対し、日本はそのまま破滅を迎えるというのが圧倒的に多いですね。安倍首相も早く専門家会議のメンバーを入れ替えた方が良いでしょうね。

投稿: unknown1 | 2020年4月14日 (火) 10時09分

unknown1さんのご意見は、ちょっと過激に感じました。
たいへん失礼とは存じますが、私の想像する山口先生のバランス感覚からは、ご掲載されたのがやや意外な感じを受けました。(勝手なコメントですみません。)
(たとえ話)
IT開発プロジェクトで、業者=全社で全力でやってますが後3ヶ月かかります、お客さん=明日までに完了させろ、みたいな話かなと。トップや知恵袋を取り換えても、現場の物理的な壁を変えるのは無理があるのではと思われます。(それで良い訳ではもちろんありませんけれども。)
(ひとつの提案)
各企業が、具体的な対策をネットにアップして、みんなでそれをみながら、よりベターなプラクティスを探して取り入れ、ブラシュアップしていくというのはどうでしょうか。各企業の自社のベストプラクティスの公開合戦みたいなことになれば、流れも変わっていくのでは。
現在のそのような投資によって、世の中が少しずつ改善され、回りまわって将来の利益につながる、と考えればよいのではないでしょうか。なかなか有報にそこまで書ける経営者は少ないとは思いますが、インセンティブがなければ動かないでは済まない気がします。日本をひとつの組織体とすれば、各企業のそういう取組はボトムアップ戦略と言ってもいいのではないでしょうか。トップ(政府)からの指針を待っていても進みませんので。広義のコンプラと言うには、無理がありますか。

投稿: しがない元会社員 | 2020年4月14日 (火) 17時10分

「韓国は外出制限なしでコロナを乗り切った。日本は韓国を見習うべきだ」と慶応大学の小幡教授(経営学)が指摘していますね。重要な指摘だと思います。
また、米ハーバード大学の研究では、外出制限は感染爆発を先送りするだけで、防ぐことはできない。2022年まで外出制限で感染爆発を先送りすれば、ワクチンが開発されて大丈夫になるかも、と言っています。「5月6日まで」ではなく「2022年まで」だと、「話が違う」ということではないでしょうか。私の子供が高校生ですが、このまま学校に行くことなく、卒業しそうです。
これから韓国には大きく差をつけられることになるのでしょうね。

投稿: unknown1 | 2020年4月16日 (木) 20時00分

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