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2020年4月24日 (金)

コロナ禍で6月株主総会を断行することの違法性(取締役の善管注意義務違反)について

さきほど、昨日のエントリーに対して、unknown1さんから興味深いコメントをいただきました。引用いたしますと・・・

ISSが、計算書類や事業報告なしでの配当・役員選任・報酬議案には否定的な対応をせざるを得ない、とコメントしたようです。総会延期の選択があるにも関わらず継続会を前提とした総会開催は株主の視点には立っていないとの判断とのこと。 (引用終わり)

私自身、この情報の真偽は確認しておりません(どなたか英語に堪能な方がいらっしゃいましたら、ご教示願いたいところです)。しかし本当だとすると、6月総会の完全延期を後押しする大きな力になることは間違いないと思います。

(さて、ここからが本題ですが)本日(4月23日)開催された積水ハウスの定時株主総会は、いろいろと話題が豊富でしたが、とりあえず会社側提出議案がすべて可決成立(株主側提出議案が否決)ということで決着がつきましたね。本件につきましては、申し上げたいことはヤマほどあるのですが、ご賢察のとおり(?)諸事情ございまして私個人はコメントを控えさせていただきます(笑)。

ただ、昨日、大阪地裁第4民事部において、積水ハウスの定時株主総会開催禁止の仮処分命令申立て事件の決定が下され、株主側(債権者)の申立が却下されておりました。この却下決定の全文が、株主側特設HPにて開示されておりましたので、講学上の興味から一読いたしました。

決定理由(被保全権利なし)、結論とも至極妥当なものであり、特段驚くべきこともないのですが、債権者側(株主側)が「このコロナ禍のなかで総会を断行すべく、従業員を前日からフル稼働させている。役員個人の利益のためだけに感染のリスクを従業員に負担させている、こんな株主総会は暴挙だ!」と主張したことに裁判所が判断を述べている箇所は興味深い。(以下、決定理由の要旨です)

・・・仮に、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情変更と一般的に評価されているといえるのであれば、債務者(代表取締役)に対し、取締役会を別途招集させるなどして、本件定時株主総会招集決議に従った業務執行をすべき義務を解除させ、本件定時総会に関し、流会、延会や継続会を含めた時宜に応じた柔軟な業務を執行可能とする授権を得ることに向けて尽力すべき義務について検討する余地がある。しかし、緊急事態宣言が迫る4月2日に経産省と法務省から公表された「株主総会運営に係るQ&A」のみならず、緊急事態宣言が出された後である4月14日改訂版の内容から判断しても、緊急事態宣言が、株主総会の開催自体を決定的に左右する事情であると一般的に評価されているということはできない。(以上、引用おわり・・・なお下線およびカッコ内記述は管理人の注書きです)

緊急事態において定時株主総会を断行することが、代表取締役の善管注意義務違反と評価される可能性は認めつつも、経産省&法務省が「継続会」や「安全の徹底による開催」を前提に指針を示している以上は、(Q&Aは緊急事態宣言下での定時株主総会の開催を想定しているのであるから)そのまま断行することに違法性は認められないとのこと。さすが、行政による指針表明の存在は大きいですね。しかし、これは現状を前提としたものであり、事態は流動的です。緊急事態宣言が解除されず、さらに人との接触8割削減の要請が厳しくなり、他社の中にも総会延期決定が増えてくるようになれば、6月総会を禁止することを決定しなければ、その代表取締役の執行行為は違法性を帯びる場合がある、ということになりそうです。

なお、私個人としては、取締役の善管注意義務といった法的責任論で「6月総会を延期すべき」と述べてきたわけではございません。取締役個人に及ぶ些細な損害額の法的リスクではなく、法人自身の競争上のハンデを背負うことになる損害に関する法的リスクを問題にしております。何度も申し上げるとおり、流会とするか続行するかは「経営判断」であり、ただ、その経営判断が多大な法的リスクを含んだものである、ということから申し上げているところでございます(念のため)。

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コメント

法治国家における最大決定機関の裁定の有/無等も含め、
おそらく、日本と言う国の(新型コロナウィルスに限らず)重要決定の類い/従来からの方向転換は、「何か深刻な惨事が発生しないと動かない」事が圧倒的に多いという、負の歴史の繰り返しも、存在してきました。
昨夜(4月23日)の「報道1930」等での台湾国の対処/時系列フリップ説明等での用意周到な感染予防好例とは対照的に、埼玉県内で、軽症者が自宅療養で急変して死亡しないと、手法を変更しない=後手に回る事での惨事の繰り返しが、今後も多発すると危惧します。
仮に、通勤電車起因で重篤/死亡者多発…これまでの自動改札機に起因する「密」=従来は「一人でも多くの乗客を迅速に流す」自動改札機能力が求められて来た訳ですが、どこかの時点で改札機起因で発症者多発等にならないと、行政の重い腰は上がらないかと。
その悪夢…該当改札機が「オムロン」製なら、亡くなられた立石氏も浮かばれないのではないでしょうか…。
(機械調整/プログラム変更で、GW修了までの一時的にでも、一定の通過時間を設ける等で乗客の前後間隔を開けるというリスクマネジメントは可能かと思うのですが…。)
株主総会は自粛要請の対象外なれど、都道府県を越境してまで欲求を満たすパチンコ好きや、サーファー達と同様、後になってから、「株主総会では感染/クラスターは発生しない」と、誰が言い切れるのでしょう?。現時点では残念ながら「判断変容」はされず、かけがえのない現役経営者や、機関投資家諸氏、愛する家族を持つ株主等の中から、悲劇の人が集団発生してしまう?

世界大戦時の行動に例えるのは本意ではありませんが、敵の戦艦に(飛行操縦者は、本当はしたくないのに)「業務命令」の下で零戦特攻した、有望な若者の如く、株主総会決行起因の感染〜重篤〜医療崩壊&患者死亡という地獄絵は発生して欲しくないと、あらためて思っています。
(万一発生=諸外国から外見は同情されつつも、内心は嘲笑…を避ける意味でも・・・。)

投稿: にこらうす | 2020年4月24日 (金) 06時59分

ISSのコメントにより継続会でしのごうとしていた企業が慌てています。企業が延期を決断するよう祈っています。
経理や監査の現場は延期を望んでいると聞きます。一方で先生前回blogのご指摘の通り経営者は現状維持を求めます。経営者が決算と監査を間に合わせることを現場に強要するケースが出てくる事を懸念します。

投稿: ty | 2020年4月24日 (金) 08時16分

(今朝:先ほどコメント送信したばかり/追記で恐縮ですが、
 TV:モーニングショーで東京都:小池都知事は、企業に対し、明日=土曜日〜GW明けまで12日間の休業要請を発表されたらしく…)

上記の件:正規/非正規問わず、従業員視点で…ですが、上場、非上場限らず、大手になるほど、従業員は多大で、当然家族や知人も多い訳ですが、
本人含め、その中に「パチンコ愛好家」が存在する事はあり得ます。
自粛対象外のパチンコ店へ越境してまで行く/のめり込んでいる人も。
現状では、要請に従わない店舗に対し、禁止等の法整備が出来ないので、店舗名公表が精一杯とか。けれど、遊戯を行なう本人達は実名を出される事は無いでしょう。
しかし、株主総会スタッフでなくても、明日以降の長期休日の間に、同じ本社ビル勤務等の同僚や上司/部下、本人及び近隣者が間接的にパチンコ店感染/クラスター発生の可能性に繋がって行くとしたら…?と、ふと思いました。
テレワーク/在宅勤務の下でも、休憩時間はある訳で、その時間帯に「ちょっと息抜きに」とパチンコ店に向かう社員もいる可能性があります。けれど、実名を明かされないので、実態を追う事は不可能に近いです。この時期にパチンコ店に行こうとする程度の人物が、自主的にパチンコ店行きを申告する誠実さを持っているとは考えにくい…かと。
ここまでくると、愛好家のレベルではなく、「ギャンブル依存症」の可能性が高く、やがては業務に支障をきたす可能性も少なくないかと思われます。
確か…アメリカ(?)では法定感染症にかかる可能性のある人には、行政機関の感染者予防センター的施設が、感染を未然に防ぐ為、当事者を「強制隔離」出来る法体系があったかと。
日本国内に、同様の法律が存在するかは存じませんが、間接的/トレーサビリティ視点で株主総会での感染防止をするイメージ=緊急事態宣言下での時限社内規定(仮称)を、トップダウンで配信してはいかがかという発想です。
「我が社に属する正規、非正規を問わず、社員全員には、時限的措置として、自粛要請に従わないパチンコ店等への往来/遊戯を禁止する…
もしこの規定に従わず、内部通報を含め、規定違反が判明した場合は、処分対象にする…」というイメージです。
これが実現すれば、社員本人は勿論、家族や近親者にも安易にパチンコ店往来をする事の抑止的展開になるのでは?と。

(新型コロナウィルスで亡くなられた多くの犠牲者、今現在も重軽関係無く感染で苦しんでいる方々の気持ちに応える事が、緊急事態宣言下の国民全体、一人一人、1社1社に求められる行動変容ではないでしょうか・・・。)

投稿: にこらうす | 2020年4月24日 (金) 08時56分

ISSのコメントは、6月末定時総会を予定通り開催することへのプレッシャーになるでしょう。これで継続会を考えていたのに無理して6月末に向けて舵を切る会社が多くなるでしょう。ISSが日本のコロナ拡大に手を貸したことになります。責任重大です。

投稿: 名無し | 2020年4月24日 (金) 10時17分

 「ふつうの」感覚からしても、「計算書類」なしの定時株主総会というものがイメージできません。
 会社の環境はさまざまであり、重要な海外子会社があって、すでに「決算確定」が困難な企業もあると思います。この場合、「延期」以外の選択肢はすでにないものと考えます。
 一方で、「決算確定」自体にさほどの困難を伴わない会社も存在しているものと。この場合、「監査」のスケジューリングが必要ですが、延期確定会社が一定数あれば、監査資源の投入の調整は可能と思われます。
 決算確定→会計監査終了の道筋がたつか否かが第二のハードルで、ここをクリアできるのかどうかを判断の上で次のステップ。
 外野的発想かもしれませんが、「決算確定」、「監査終了」が、現実的にできるのか否かの判断が求められていて、それを踏まえての総会開催問題と考えます。

投稿: 元会計監査従事書 | 2020年4月24日 (金) 17時42分

名無しさん
経営者の「通常通り総会を開け・最悪でも継続会にしろ」という指示を所与とすると、そうしたお気持ちになるのは理解できます。
しかしISSは継続会を検討せざるを得ない企業に総会の延期を促すためにコメントを出したと理解しています。
公衆衛生を考えると決算が間に合ったとしても6月に総会を開くのが良いのかが疑問視される中で、決算が間に合わない可能性がある企業が無理に経理部門や監査法人に出社を求めて決算を間に合わせるのが、正しい経営判断なのでしょうか。総会の延期を決断するのが経営者としての責任なのではないかと、個人的には思います。

投稿: ty | 2020年4月24日 (金) 21時48分

金融庁の新型コロナ(略)連絡協議会の発表を読み直し、計算書類や監査報告書なしでの継続会を推奨した金融庁は、発表が自身の管轄である会計監査を否定することを意識したのか、と悩んでいます(それとも会社法監査は法務省の管轄だから良いのでしょうか)
今回の件は、上場会社に対する規制が金融庁と法務省の二重構造である問題点が、最悪の形で表面化した事例だと思います。せめて一つの省庁がまとめて管轄していれば、ここまでゴタゴタせずに済んだのではないか…なんて思っていたら、今度は、経産省から「企業決算・監査及び株主総会の対応について」という声明が出ました。
https://www.meti.go.jp/speeches/danwa/2020/20200424.html

投稿: ty | 2020年4月24日 (金) 22時02分

先生 コメントバックありがとうございます。
>しかしISSは継続会を検討せざるを得ない企業に総会の延期を促すためにコメントを出したと理解しています。
とされていますが、そうであれば、ISSは延期を選択せず6月に通常通り総会を開催する会社に対して、何故可能なのか総会で質問するよう投資家に助言すべきですが、そのような助言をしているとは聞いていません。
出社を制限した状態で、決算数字が固められるか、監査が実施可能かという点と、大勢が集まることが想定される株主総会を6月というタイミングで開催していいのかという点で、例年通り6月に株主総会を開催をしていいのかを考えた場合、先生の仰る通り、たとえ決算も監査も完了できたとしても延期することが経営者としての適切な判断、責任だと思います。すでにそのような判断をされた会社もいくつか出てきています。
しかしながら、実際には配当基準日を動かしたくない、取締役の任期が切れてしまう、などのいずれも会社法上の理由から、延期の選択をしない経営者が多数を占めています。自身のリスクヘッジの観点から定時での開催を選択するのでしょう。総会出席者からコロナ感染者が出たとしても、総会由来ではないと言い訳ができるからとか、一言謝罪の言葉を言えば済むとでも考えているのかもしれません。
経団連も強く言いませんし、監査役協会も総会日を決めるのは取締役の責任だからと動きません。もちろん法務省も金融庁も一般論以上のこと言いません。それを良いことにみんなやっているからウチもやれと言って、社員をはじめ多くの関係者にプレッシャーをかける経営者が残念ながら多数派を占めていると思われます。
そうでなければ、4月も終わりのこのタイミングで、総会延期を表明する会社が、もっと多く出てきても良いのだと思います。4月の残り1週間弱のあいだに、延期の決断をする会社が多数出てきて、この感覚が外れることを祈りますが。

投稿: 名無し | 2020年4月25日 (土) 10時56分

名無しさん
おそれいります。コメントは私ではなく「tyさん」です。イニシャルは私と同じですが(笑)、私ではございません。名無しさんの問題意識は私も共感するところでして、そうならないように、まだエントリーは続編を書きたいと思っています。
積水ハウスの総会も、昨年の10分の1とはいえ、160名もの株主が1時間半ほど缶詰で大盛り上がりだったそうです。出席された方からお聴きしましたが、開始時刻も30分遅れた、とのこと。しかしコロナの関係では何も話題にならない、という世間の風を、まずは真摯に受け止めたうえで、続編を書きますね。

投稿: toshi | 2020年4月25日 (土) 12時37分

先生、tyさん失礼しました。
先生には是非続編を継続的に出して頂きたいと思います。これは経営判断としておかしいと声を出す人が増えないと、みんな今の状態が当然と思いこんでしまいます。

投稿: 名無し | 2020年4月25日 (土) 12時54分

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