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2020年5月 7日 (木)

監査役(取締役監査等委員)は、6月下旬の継続会(株主総会)を切り抜けられるのか?-6月定時株主総会完全延期のススメ

政府による緊急事態宣言が5月末まで延長されました。3月決算の上場会社の決算発表も延期されるところが多いようですが、大都市部で「原則在宅勤務、8割接触制限」の要請が続くとなりますと、連休明け、いよいよ6月の定時株主総会をどう開催すべきか、各上場会社にとって本格的に検討することになります(5月中旬から下旬に決算承認取締役会が開催されるため)。

ここ1か月ほど、当ブログで自説を述べ続けているせいか、経理担当者、監査役さん、会計士さん、経営者の方々から、さまざまな情報をいただきました。例年どおり5月中旬には決算承認の取締役会を開催できますよ、といった意見もいただきますが、やはり会計監査人から「総会は延期してください」と報告を受けた会社もあるようです。例年、会計監査を担当されている公認会計士の方々はGWも関係なく大忙しですが、今年はそんなわけにもいかなかった方が多いように思います。

さて、前回(4月30日)のエントリーに対して、上場会社の常勤監査役さん(と思われる)「ふうさん」から、以下のようなご質問をいただきました。

初めて投稿させて頂きます。先生の「それでも6月定時株主総会は完全延期すべきである」を興味深く読ませて頂いています。もし経営側が継続会方式を選択し、6月総会では計算書類を提供なしで、配当と役員選任議案につき議案とする場合、通常の総会のように冒頭に常勤監査役が監査報告を読み上げることは無理としても、「会社法第384条に関して調査した結果、取締役が株主総会に提出する議案等には問題がなかった」と監査役が例年発言している件は、如何様に考えればよろしいのでしょうか?監査役会にて議論した結果になるでしょうが、先生が述べられておられるように、後で法的な問題が出て来る可能性があるのなら、上述の発言にはネガティブな対応にならざるを得ません。監査役の対応につき、ご教授頂けますと幸甚です。

ご質問ありがとうございます。そうなんですよね。経営財務のご論稿はいつも楽しみに拝読しております野村総研上級研究員の三井千絵氏のブログ(4月29日付)でも、継続会方式(二段階方式の総会開催)による6月総会では、長年常勤監査役として勤務されていた方が(今期で退任する場合)、監査報告もせずに会社を去っていく事態になることを危惧しておられます。

会社法上、監査役さんには定時株主総会への出席義務はありませんが、どこの上場会社でも「監査の結果、とくに株主の皆様にご報告すべき事項はありませんでした」と、常勤監査役が報告を行うのが慣行(通例?)となっておりますので、寂しい退任になるのかもしれません。もちろん7月~9月にかけて継続会が開催されるのであれば、(法律上は)継続会終了時まで務めるべきですが、実質的には新しい監査役さんがすでに活動している状況にあると思われます。

「そうか・・・、じゃあ継続会方式だと出番はないか」と落胆(安堵?)されている常勤監査役・監査等委員さんもいらっしゃるかもしれません。しかし、それはちょっと楽観的ではないでしょうか。

上記「ふうさん」がご指摘のとおり、監査未了のために継続会方式で(ともかく)6月総会を実施するのであれば、常勤監査役さんだけでなく、社外監査役、取締役監査等を含めて、監査役(監査等委員会)には「議案、紙の監査」(会社法384条)が待ち構えており、「特に問題ありませんでした」では済まないものと考えております。なぜなら、継続会方式で開催する6月総会は「計算書類が出ない、事業報告もない」「だけど議決権行使を株主の皆様にしていただく」という「会社法上の大問題」があることを前提に開催されるからです。

ちなみに会社法384条というのは

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。 この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。

と定めるところでして、監査役監査は「取締役の職務執行の適法性を監視・検証すること」が中心(つまり「人の監査」)ですが、株主総会に提出する会社上程議案について、株主に説明するための書類があれば、これを調査する(つまり「議案、紙の監査」)必要があります。例年の株主総会では、計算書類には会計監査人の適正意見が付され、事業報告には監査役自ら適性意見を出しますので、そもそも「問題はないだろう」と推定されます。したがって「議案、紙の監査」については、あまり問題にはなりません。

しかし今年は、(7月~9月ころに継続会を開催することを前提に)6月の時点でとりあえず総会を開催するのであれば、計算書類や事業報告が出されない状況で役員選任や剰余金処分、報酬議案等が決議されるわけですから、「問題がないこと」は事実上推定されません。したがって、監査役・監査等委員は「問題がないこと」を調査義務を尽くしたうえで積極的に説明する立場にあります。「なぜ計算書類や事業報告が出ていないのに、議案に賛否を表明しなければならないのか?これに代わる書類については真正であることはだれが責任を持つのか」といった素朴な質問が株主から出されることが想定されます。

なかには「あなたの監査報告もないのに『重要議案の決議』が行われるということについて、あなたは違和感はないのか?監査役って、この会社ではその程度のものなのか?」「計算書類の監査結果も出ていないのに、どうして会計監査人の再任を決めたのか?本当に会計監査人の監督は行っているのか?」と質問を受けることも考えられます。

しかしそれ以前に、私は監査役・監査等委員が積極的に「これだけの書類が出ていますが、書類内容に虚偽はありません。我々は年間を通じて会計監査人とこれだけの作業をしてきました。会計監査人にも確認し、監査に代わるだけの意見は出せる状況です」と(質問がなくても)具体的かつ懇切丁寧に説明しなければならないと考えています。そして、その説明内容は、個々の上場会社ごとに異なるわけですから、日本監査役協会の「ひな型」を頼るようなことでは到底株主を説得できないと考えます。監査役・監査等委員会は、会計監査人を監督する立場にあるわけですから、当然のことながら会計監査人と協議のうえ、会社法384条に基づく調査結果の報告を行う必要があります。

考えてもみてください。機関投資家のバックにはアセットオーナーがいます。株主は、背後のアセットオーナーに議決権行使の理由を説明しなければなりません。生半可な理由で役員選任や剰余金処分、報酬議案に賛成することはできないのです。だからこそ、きちんとした監査役、監査等委員会からの説明を渇望するわけでして、どこかから引っ張ってきた「ひな型」でお茶を濁すような状況では納得できないのです。

以上申し上げたところから、継続会方式を採用する上場会社であれば、計算書類や事業報告がないにもかかわらず、第三四半期の開示内容や現状で作成されている決算関係書類等から、書類は真正なものであり、また議案の賛否を判断するにあたっては(書類については)充分であることを監査役さんが説明する必要があると考えます(以上が「ふうさん」のご質問への回答となります)。もちろん「問題なし」ということであれば、(株主総会参考資料にその旨を記載したうえで)監査役さんは欠席しても違法ではありませんが、今回の総会では事前質問だけでなく、当日の質問も当然予想されますので、出席しておかないと説明義務違反となるおそれがあります。

ちなみに、書類の中身が虚偽であるかどうか、といった「議案、書類の内容の適法性」だけでなく、議案審議にとって当該書類だけで十分かどうか、といった「議案審議のプロセスの適法性」についても監査役・取締役監査等委員の方々には調査義務があります。なぜなら、監査役・監査等委員には、監査役(監査等委員)の監査に付随する義務として「株主総会が適法に開催・運営されているかどうかを審査する義務」が認められるからです(根拠については、会社法384条だけでなく、会社法831条1項により、監査役・監査等委員には「株主総会の決議取消」の提訴権が認められているからです。なお、会社法コンメンタール8 411頁 吉本先生のご解説参照)。

つまり、株主総会の決議取消の原因となる事由については、監査役・監査等委員は未然に防止もしくは排除する義務がありますので、会計監査人との十分な協議のもとで、計算書類や事業報告に代わる書類だけで議案を審議してよいのかどうか、書類の虚偽性だけでなく十分性についてもきちんと説明しなければならないと考えられます。

逆の立場から申し上げますと、上場会社の社長さんや、社外取締役の方々からすれば「ほんとにこの書類だけで、役員選任や配当議案を通して後で問題にならないのか?」といった不安がよぎったとしても、会社法384条によって「監査役・監査等委員の方々からお墨付きをもらった」から免責される、と素直に考えるのではないでしょうか。とりわけ社外監査役に専門職が就任しているケースなどでは「弁護士や公認会計士の方々が議案を審議することに問題ない、とおっしゃっているのだから、堂々と継続会をやりましょう(後で問題が生じても、我々は過失はなかったと言えるのだから)」と決意できる安心材料となるはずです。

さて、そうなりますと監査役・監査等委員としては、どうしても会計監査人に頼るところが大きくなります。監査役や監査等委員会は、会社法上の計算書類については、会計監査人の監査の方法と結果の相当性についての最終判断を行う立場にありますから、会計監査人の意見を聞いたうえで問題なしと判断しました、と回答することになるでしょう。そうしますと、「監査責任」に準ずる形で、会計監査人もなんらかのリーガルリスクを負担する可能性が生じることになりそうです(監査役・監査等委員の方々も「会計監査人のお墨付きをもらったから」と抗弁して免責されたいですよね)。

上場会社の場合、2021年3月期からはKAM(監査上の主要な検討事項)の強制開示が施行され、監査役会・監査等委員会の活動状況も詳しく開示されます。なにか問題があれば、後日、開示情報をもとに「経営者の見積に問題があった、引当に問題があった、5年前から不正会計の予兆があった」と株主から指摘を受けることも増えるものと思います。このような状況は、おそらく今年限りのものだとは思いますが、誰かがイレギュラーな株主総会の「貧乏くじ」を引かないといけない事態だけは回避すべきと考えます。

5月1日付の東証「2020年3月期の定時株主総会の動向」によりますと、3月決算会社の15パーセントほどが「継続会」を検討している、と回答されています(私の周囲を見渡した「肌感覚」からすれば、3割程度は「継続会」を真剣に検討しておられるように思います)。私としては、従来から「6月総会は完全延期(7月~9月に計算書類も事業報告も出されたのちに開催)すべき」と申し上げておりますが、もし継続会方式で開催するとなれば、上記のような点に配慮したうえで開催すべきと考えます。また、冒頭にご紹介した三井千絵氏のブログによれば、4月22日の時点でISSの「コロナ禍における定時株主総会の開催に関する意見」が出され、(完全延期の選択肢がある中での)継続会方式には消極的な意見が示されているようなので、そのあたりにも配慮していただければと思います。

継続会方式を採用する場合に、3月に改定されたスチュワードシップ・コードとの関係でも問題となります(継続会方式だと、6月総会は9月まで継続することになるわけですが、それまでに各機関投資家が新しいコードへの順守を宣言した場合、6月に議決権行使を行った機関投資家は、当該議決権行使の理由の開示も(新しいコードに基いて)要請されるのでしょうかね?そうなると、やっぱりかなりやばい状況になりそうな気がしますが)。ここはもう少し検討してみたいと思います。

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コメント

(吉と出るか、凶と出るか…?)

従来の7都府県に加え、6つの道府県が加わり、13の特別警戒都道府県と、
他の34の県との自粛内容/部分的経済活動容認の線引きとか、
日本におけるGW区切りとか、5月末までの1ヶ月…とかの区切りと、県境での
区切り等は、諸悪の根源=新型コロナ「ウィルス」にとって、本当に抑止効果はあるのでしょうか?と、
歪な緊急事態宣言延長に入り、不安と疑問を抱いています。
札幌のある北海道、名古屋のある愛知、そして京都が「特別警戒」に加わる事…
特に愛知/TOYOTAの本社も含まれますので、多くの国内企業の定時株主総会開催時期〜有価証券報告書等の
展開に様々な影響が出ると思います。
今後の政府や各省庁の判断の区切りのタイミング時に、欧米同等の「医療崩壊」の有無が、
ビジネス展開〜株主総会開催(規模や方法含め)の判断材料要因となる可能性を考えると、
線引きされた34の県から更に感染〜重篤者〜死者の増加の有無もポイントになると思います。
懸念材料=感染実態と乖離していると避難されているPCR検査体制の今後の進捗も鍵の一つ。
3.11=東日本大震災=フクシマ汚染と同様に、新型コロナウィルス感染の影響は、
放射線被災の如く=感染後すぐに疾病が現れるのではなく、数日〜1、2週間後に人体を襲う怖さ:
日本経済を牽引する上場企業の6月定時株主総会に起因する悪夢/想定…
実際にクラスター発生をさせてはならないと「延期」の号令をかけられる立場の関係者/最終決定者諸氏のご判断や如何に?

(3月決算、6月定時株主総会という日程の間に発生した…欧米は「コロナ渦/魔の4月」で激変)

医療崩壊し、自国の経済に大打撃を与えた国々の、最近の「過剰債務:GDP比」統計に視線を向けると、
イタリアの147%をはじめ、アメリカ、フランス、イギリス、スペインで軒並み100パーセントを越えています。
その国々での偏った経済重視施策=感染予防対策/医療予算を軽視してきたツケ?が各国の懐事情/背景にもある様です。
しかし、欧州安全保障機構の枠内でも「債務ブレーキ制度」を導入してきたスイスやドイツ等は、上記の国より被害を抑えている状況。
では、日本の数値は?と眺め進むと「GDP比過剰債務、240パーセント」という突出数値に目を疑いました。
(2018年データ)(もし誤りならご指摘下さい)
日本における4月以降が、「魔の上半期」にならない様にと祈る心境と、「産」「官」「民」の従来の垣根を越えた、
新たな視点でのGDP構築=絆作りのきっかけとしても、株主総会開催議論を進めて頂ければと、願っています・・・。

投稿: にこらうす | 2020年5月 7日 (木) 10時27分

いつもありがとうございます。
今回のエントリーは、参加者(この「参加者」というのも、総会準備に関わる人たちも含むのですが)の健康、身体の安全という視点までは記載しませんでしたが、もちろん、ご指摘のとおりの点でも総会開催の是非を検討すべきと思います。その点は、今後の緊急事態宣言の解除時期との兼ね合いや、感染状況なども踏まえて考えたいと思います。
また、海外の動向も気になりますね。バーチャル株主総会によって危機に対応している米国のような例もありますが、そもそも「横並び主義」で総会を行ってきた日本企業にとって、危機とはいえ、他社と異なる運営をすぐに実行できるかというと、なかなかむずかしそうです。外部環境の変化が自社にとってどのような影響を及ぼすのか、またコロナ禍はそもそも自社にとって危機なのか機会なのか、株主は知りたいと思いますが、「とりあえず無難に乗り切る」という発想は、果たして変えられるかどうか、今後もいろいろと発信していきたいと思っています。

投稿: toshi | 2020年5月 7日 (木) 11時03分

山口先生、当方の質問に対して詳細なご教授を賜り、心より感謝申し上げます。小生は、監査役OBですが、後輩の現役常勤監査役等が、今年の6月定時株主総会を前にして、かなり悩んでいるのではと思い、ご質問させて頂いたものです。後輩諸君には、先生のご教授内容を真剣に学習してもらい、監査役会での協議及び会計監査人との情報交換を経て、監査役の総会対応について慎重に対応策を検討するようsuggestしてまいりたいと思います。本テーマでの先生の続編をお待ちしております。有難うございました。

投稿: ふうさん | 2020年5月 7日 (木) 12時20分

前述のコメント…慌てた入力背景を露出:文字変換の誤りや改行の拙さをさらけ出してしまい紅顔、申し訳ありませんでした。

投稿: にこらうす | 2020年5月 7日 (木) 17時34分

昨日JICPA手塚会長が声明を出していますが、その中で「これまでに、定時株主総会の7月以降への延期又は継続会の開催を決定した企業は少数にとどまっています」と懸念を示しており、引用しているデータでは「定時株主総会の開催を7月以降に延期するために基準日変更を決議した上場企業9社(39社が検討している)、継続会を決定した上場企業は0社(85社が検討している)(2020年3月期の定時株主総会の動向・5/1東京証券取引所発表) 」と3 月決算の上場会社数は 2,400 社超あるなか、ごくわずかの企業しか、総会出席者を含む多くの関係者の感染リスクを引き下げつつ決算・監査対応を図ろうとしていません。

投稿: 名無し | 2020年5月 8日 (金) 11時16分

ISSが「新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS日本向け議決権行使基準の対応」を出しました。
https://www.issgovernance.com/file/policy/active/asiapacific/Japan-Policy-Guidance-Impacts-of-COVID-19-Japanese.pdf

投稿: unknown1 | 2020年5月11日 (月) 22時40分

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