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2020年5月25日 (月)

緊急事態宣言解除後の6月定時株主総会は(やはり)完全延期すべきである

5月22日、経産省は「株主の皆様へのお願い -定時株主総会における感染拡大防止策について-」として、6月に予定されている上場会社の株主総会に参加される予定の株主の皆様へ向けて「呼びかけ」を行っています。とくに株主総会の会場への来場については

企業では、株主総会の開催に当たって様々な感染拡大防止策を講じていますが、多数の株主が会場へ来場した場合、結果として3つの密(密閉・密集・密接)が生じてしまう懸念があります。このため、御自身を含む来場株主の健康への影響等を十分考慮いただき、原則会場への来場はお控えいただくようお願いいたします。

として、出席自粛を呼び掛けています。株主の健康への影響を考えた場合、経産省がこのような呼び掛けをされるのは適切と考えます。しかし、株主に出席自粛を呼びかけるほど6月に総会を開催することが危険なのであれば、そもそも会社側には延期を呼び掛けるのが当然ではないでしょうか。

5月25日には緊急事態宣言が首都圏でも解除される予定ですが、全面解除後の政府の「基本的対処方針」原案によれば、(事業者に対しては)職場への出勤について、在宅勤務や時差出勤など、人との接触を減らす取り組みを続けるよう、今後も求めるそうです(NHKニュースはこちらです)。もし6月総会をそのまま実施するとなれば、これから関係社員や機関投資家、印刷会社、証券市場の関係者、さらには有報監査に向けた会計監査人の勤務状況は繁忙を極めるわけです。もし、緊急事態宣言後の基本的対処方針を遵守して、総会関係者の健康への影響は考慮するのであれば、6月総会は完全に延期すべきでしょう。

また、延期したとしても、いつまでコロナ禍が続くかわからない、といった意見も出ていましたが、東京都が5月22日に公表した「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップ」によれば、段階的ではありますが、100名から1000名のイベント開催も(モニタリング指標に従って)段階的に容認される見込みが示されています。もちろん「第二波」が生じないこと、事業者や株主が基本的な感染防止対策を怠らないことが前提ではありますが、総会を延期することによって、株主および総会関係者いずれの健康にも配慮した株主総会を開催する可能性が高まります。もはや完全延期のための条件はほぼ出揃ったものと考えます。このような状況であるにもかかわらず、なにゆえ「出席自粛」などといったイレギュラーな形をとってでも6月に総会を開催しなければならないのか、本当に理解が困難です。

「イレギュラーな状況での6月総会」という意味では、コロナ禍という緊迫した事態において、簡素化した総会を6月に開催することも、また7月以降に総会を延期することも同じです。ただ、「意味」の内容は大きく異なります。株主に示した配当の基本方針を守るために「つつがなく総会を終わらせる」こと、株主には議決権の事前行使を保障することが重要と捉えるのか、総会を取り巻くステイクホルダーの健康を重視し、また会計監査の役割を重視するために、短期的利益を喪失させることは申し訳ないれども、長期的利益を重視して経営したいというメッセージを示すことを重要と捉えるのか、という違いがあります。

5月24日のNHKスペシャルに、700兆円の運用を誇るブラックロックの日本法人代表の方が出演されていましたが「我々はコロナ禍でも変化できる企業、変化に強い企業を見極めたい」と述べておられました。コロナ・ショックにおいてビジネスモデルをどう変えていくのか、提供する商品やサービスに、「どのように役に立つのか」だけでなく「どんな意味を持たせるのか」という点へのメッセージにこそ注目しています。私は、株主総会ひとつとっても、その株主総会の運用にどのようなメッセージがあるのか、株主を含めたステイクホルダーに示す機会と捉えるべきではないか、と考えます。

かつての「上場会社の株主総会」といえば、総務担当者や法務担当者が主導して「つつがなく終わらせる」ことがなにより大切だったわけですが、私はもはや時代が変わった、株主総会は広報担当者や社外の広報コミュニケーション事業者と総務・法務部門との協働作業が必要になってきたのではないか、と考えております。とりわけ提訴リスクが極めて低い日本の上場会社の場合には、(バーチャル株主総会の実施も含めて)株主総会の在り方も、おおいに議論すべき時期が到来しているのではないでしょうか。

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コメント

経産省の「呼びかけ」についての一考察…と記すると大袈裟…恐縮です。
(コロナの感染者数公表や、PCR検査の実態への,メディアの追求にあたふたする厚労省さんの発信類/説明状景とダブるイメージを抱きますが)
(山口先生の「そもそも…に頷きつつ)様々な関係各社、関係者の繁忙…/政府の基本的対処方針等々。
行政発:今度は「ロードマップ」という表現…この言葉=多くの一般人は、これまでは(今も?)自動車走行における諸地図の事を指す言葉で広く浸透では?最近の行政発信は何故?何でもかんでも横文字/ここまでこじつけがエスカレート?/それほど横文字が使いたい…?
(とまれ、経産省の方々は、本当に「株主健康ファースト」を考えて方針を描くおつもりなのでしょうか?と不安視します)サッカー:ドイツリーグ某チームで計画進行中の「段ボールサポーター」に倣って「段ボール株主」展開を視野に入れているかの如くと、皮肉揶揄が聞こえて来る様です。

(先週末の検察:ナンバー2/人物の、呆れた「長年/複数回の賭け麻雀」(=賭博及び富くじに関する罪に違反?)に対する訓告という処分に、私もこの国に数日虚無感〜今はある種の寂寥感を抱いてしまい…)
そんな中での山口先生の本エントリー:「つつがなく総会を終わらせる」からの脱却等々のご記述…。
一例ですが、全日空社のCAが医療用品を作る事になったり、ユニクロ社が、むれにくい夏用マスクの販売をする事を発表する等、新展開の要点を声明発信する等の場として株主総会上でインフォメーション効果も含めた社外/内への相乗効果=山口先生のご提唱:広報と総務・法務部門の「協働作業」が幅広く展開される姿を想像しています。

(「金融庁、上場企業に対し、有報の中で新型コロナ影響の見積り仮定や事業影響の開示を要請」という報道にも触れ…)
1月以降の数ヶ月=感染〜重篤〜死亡された方々の中に株主という立場の方々も存在していたと思われますし、運営側の関係者にも、もしかしたら今も病床で病魔と闘っている人も存在するかも知れません。
旧態の個人情報保護法の下で、一人一人の身分や病状の中途半端開示及び保護等で、様々な憶測や偏見なども蔓延拡大。「コロナ感染ハラスメント防止法(仮称)」の法整備類も必要/急務的かと思われます。
(感染者にカウントされずに亡くなった人も存在?)
長年株主だった方がお亡くなりになって…(定時総会の場で「喪に服す」という事も、株主名簿から伺えるのかも?)

多くの休校錯綜の下で、9月入学議論も何故か、この時期に加熱していますが、「コロナ小学生時代」という言葉まで出て来た現在〜彼等が成人になる頃には、会社法改正(?)でYouTubeで株式総会閲覧が当たり前になっている(?)
県境線起点の自粛判断を求めるから、各自治体は自分の地域の感染者数増加を嫌い(=経済活動自粛=納税/財政影響)(公表値操作?)保身に傾倒し、感染実態解明/中長期防止策が遅々延々となる悪循環…そんな渦中で将来は証券会社各支店等で、株価推移ボードとは別に、株主マイナンバーカード(仮称)や専用アプリ登録/提示で株主総会動画をモニター経由で閲覧できる様な時代到来(?)
私見を幾つか記させて頂き恐縮ですが、緊急事態宣言解除を直前に控え、各企業でも様々な試行錯誤が繰り返されていると思います。

(CSR視点で)

世界集計で判明されただけでも既に33万人余がコロナ感染で死亡し、まだまだ増加の一途。
前例は無いものの、株主権利の有無関係無く、(戦没者追悼式典の場ではありませんが)「世界中のコロナ感染死亡者を偲び、6月開催予定の株主総会は延期」という着眼点はおかしいでしょうか…?
どうしても6月開催を行なうのであれば、せめて「開催にあたり…」に「黙祷」的時間枠を設けるような人情配慮も出来る様な企業に投資したいと考えます。(その後に述べられる、今期以降の活動方針類に効いてくる?)
金融庁さんの有報への要請がどの程度影響するのか?現時点では詳細は把握しきれていませんが(僭越ながら、私がかつてコメントで記させて頂いた「内部留保」活用提起と併せて)上記の様な気遣い経営が出来る会社の描く、コロナ禍での「これから」ビジョンには、会計不正や偽装とは無縁の、真の誠実なビジネス展開が期待できると、思い願いつつ・・・です。

投稿: にこらうす | 2020年5月25日 (月) 09時21分

株主総会はルールどおり(たとえば3月末決算であれば6月までに)やりなさいというのが政府の本音ではないでしょうか。会社法を所管する機関が法務省であり、法務省がアクションを起こしていない。本来、まず法務省が動きルールに柔軟性をもたせる(特例措置としての政令案を作り内閣へ説明し、承認を受ける等)べきと考えています。
そのルールが変更されない以上、政府(特に企業活動に責任を持つ経済産業省)は、「(我々政府は)コロナだから自粛しろと行ったのに、感染したのは企業、株主の責任だ」と後々でエクスキューズするためのお膳だての「呼びかけ」のように見えます。
それに、いままで、公益通報も、内部統制も、何でも右ならえでやってきた日本企業ですから、お上がルール(法令を改正するなどして)として9月末までに猶予しますとはっきりと示さない限り、他の企業が例年どおり6月にやるイベントを「うちは9月だ」となるのは相当難しいのではないでしょうか。

投稿: かつての法学徒 | 2020年5月26日 (火) 09時11分

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