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2020年6月30日 (火)

天馬社の否決元取締役の「執行役員」即時復帰で勃発する(?)第2ラウンド

6月26日に開催された天馬社の定時株主総会では、創業家出身者を含め、海外贈賄事件に関与したとされる3名の経営陣の再任が否決されました。機関投資家は企業不祥事に関与した経営陣の再選には厳しい姿勢で臨む時代になったと(昨日のエントリーにて)申し上げましたが、総会終了直後の取締役会では、私もまったく予想していなかったような驚くべき事態が発生したようです。

本日(6月29日)の日経ビジネスオンラインの有料記事によりますと、当該取締役会では執行役員人事が諮られ、さきほど総会で取締役選任議案が否決されたばかりのK氏を執行役員に選定する決議が通ったそうです(ちなみに、元CFOの方を含め、他の否決された2名の方々も執行役員として返り咲いたのでしょうかね?天馬社のHPが総会後に更新されておりませんのでよくわかりません・・)現状の取締役会の構成は、会社側6名・株主側3名ですが、当該K氏の執行役員選定議案については(紛糾の末)賛成5、反対3、棄権1ということでギリギリ可決された、とのこと。(棄権されたのは弁護士の新任社外取締役の方で、第三者委員会等でもご活躍の方ですね)。

上記日経ビジネス記事によりますと、当該取締役会はK氏の執行役員選定にあたって紛糾したそうですが、たしかに紛糾するでしょうね。いくら取締役と執行役員は違うと言っても、天馬社の重要な業務執行に関わる点では同様でしょう。天馬社は監査等委員会設置会社です。定款がどうなっているのかは調べておりませんが、今回の定時株主総会で社外取締役が過半数となったので、重要な業務執行権限を(取締役会決議で)取締役に委ねることができます。ということは、K氏も(委任された取締役からの再委任によって)重要な業務執行の決定権限を持てることになります(もともと社長候補者だった方ですから、当然といえば当然ですが)。

多くの株主が「役員にふさわしくない」として否決したにも関わらず、その直後に「取締役としてふさわしくない」とされた元経営者を執行役員に選定するということが、果たして株主の意思に沿う行動、もしくは株主から信認を得られる行動と言えるのかどうか。上記のとおり、天馬社は過半数を社外取締役で構成される監査等委員会設置会社ですから、いわゆるモニタリング型のガバナンスを採用することになると思いますが、果たして社外取締役に適切な監督機能が期待できるのかどうか。ちなみに、天馬社の臨時報告書によって公表された「総会における16名の取締役候補者の得票数」をみても、株主側候補者である執行役員の方々よりも、K氏は得票数が少ないようです。

とりわけ会社の有事における社外取締役は、株主共同利益のため、ステークホルダーの利益のために、経営陣と緊張関係をもって行動することが要求されます(このあたりは令和元年改正会社法施行後の社外取締役を見据えて、6月30日頃に公表される経産省CGS研究会(第2期)「社外取締役の在り方に関する実務指針」でも経営陣への監督機能が強く求められています)。諸事情あるかもしれませんが、外部からどうみえるか、ということを、社内人事権の行使の場面でも尊重すべきでしょう(←これは令和元年改正会社法によって「社外取締役の1人以上の設置の義務付け」が立法化された理由とも関係します。この点はまた別の機会に)。私なら、会社側候補者として選任されたとしても、この弁護士の社外取締役と同様に反対票(すくなくとも棄権票)を投じると思います。

ところで天馬社の経営権争いは、総会で決着がついたわけではないように思います。というのも、監査等委員会が元経営陣の責任の有無および訴訟提起の是非を判断するための「責任調査委員会」を設置して、現在その審議が継続しているからです。当該委員会の報告書次第ではありますが、元経営者の方々の責任が認められるような事態となれば、監査等委員会は(取締役会とは並列関係に立つものであり、議事録さえ取締役会に見せることを拒絶できる立場にありますので)元経営陣を提訴する、ということも十分予想されます。

もちろん監査等委員会と取締役会との意見の相違は「経営権争い」とは言えませんが、経営の正常化を図るためには大株主側と手を結ぶことは考えられます。一方の会社側も、経営の正常化を図るために監査等委員である取締役の改選や監査費用の締め付け等によって対抗する可能性もあります。多くの方の興味とは少し視点が異なるかもしれませんが、監査等委員会設置会社の有事対応に関心を抱く私としては、本件はたいへん興味深い事件であり、今後も注視しておきたいと思います。最後に(今更ながら、の感想ですが)大株主側も社外取締役の候補者を増やしていたらどうなっていたのだろうか・・・と、天馬社の臨時報告書を読んで若干の疑問が湧いてきました。

最後になりますが、渡邊彩香プロ、5年ぶりのツアー優勝おめでとうございます!「いい部屋ネットレディース」は残念ながら中止となり、凱旋のお姿を拝見することはできませんが、スポンサー企業の末席の役員として、心よりお祝い申し上げます。ものすごく元気と勇気をもらいました。

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2020年6月29日 (月)

2020定時株主総会はまだ折り返し地点ですが、若干の意見

例年ですと、この時期は「今年の定時株主総会を振り返る」といったテーマで株主総会の総括をしております。しかし、今年は有事の総会ということで、この29日、30日に延期した会社もありますし、延会、継続会、2回方式といった7月以降に総会を残す会社も100社ほどありますので、まだ折り返し地点といったところですね。総会担当者の皆様には、本当にご苦労様と申し上げたいです。

さて、私が社外取締役を務めております大東建託の総会は26日に開催されまして、私を含め社外取締役3名はリモート出席という形で登壇させていただきました。例年200名以上の株主の方々が現実出席されますが、今年は17名ということで、リモート越しに会場を眺めておりましても、ずいぶんと風景が異なっていました。

ということで、今年は質問はないのだろうな・・・とやや期待しておりましたが、なんと2問も「そこのリモートで出席しておられるガバナンス委員会委員長の山口取締役にお聞きしたい」とのことで、ご指名がありましたので、回答させていただきました。1問は大東建託の政策保有株式(なぜ住友不動産株式だけは政策保有を解消せずに保有し続けるのか、合理的に説明していただきたい)、もう1問は上場子会社(ハウスコム社)との関係について(昨年東証1部に登録替えしたハウスコム社だが、100%子会社化するのか、現状のままか、それとも持分法適用会社にするのか、どのように御社とハウスコムの関係を構築すれば企業価値が向上するのか、当該議論はしているのか)。

私もご質問者の方と全く同じような問題意識を持っておりますし、実際に取締役会やガバナンス委員会で議論をしておりましたので、インサイダー情報に触れない範囲で私の意見を含めて回答させていただきました。おそらく他の上場会社においても、最近は社外取締役さんには厳しい質問が飛ぶ機会が増えているのでしょうね(当該株主の方からは後日、当ブログにもコメントを頂戴しておりますが、本当にご意見・ご質問ありがとうございました!私自身も勉強になりました)。

ところで、他社の総会の様子を新聞報道等からみておりまして、私的に驚いたのがみずほFGと天馬社の株主総会の結果です。みずほFGでは、環境問題の社会的解決を図らない企業への融資をしない旨の定款変更を求めた株主提案に、なんと35%もの賛成票が集まりました。また当ブログでも注目しておりました天馬社では、株主側提案はすべて否決されたものの、会社側提案についても、このたびの企業不祥事に関与したとされる経営陣3名の取締役選任が否決されました。

ESG経営や企業不祥事が、総会の賛否にも大きな影響を及ぼすことを強く印象付けたのではないでしょうか(議決権行使助言会社の影響や3月公表のスチュワードシップ・コード改訂版の影響も大きいような気がします)。コロナ禍における有事の総会対応ばかりに目を奪われ、バーチャル株主総会の是非、株主総会の完全延期の是非、簡素化の是非といったところが話題になりましたが、サステナビリティ(持続性)というところに株主の関心がかなり大きく寄せられていることが一番印象に残りました。たとえ総会は終了したとしても、今後は情報開示、対話という形で株主と向き合わねばなりませんが、ESGの視点は「主たるテーマ」になりつつあるように思います。

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2020年6月25日 (木)

新型コロナ危機下の企業法務部門(超おススメの新刊書でございます)

Img_20200624_210128_400 先週金曜日(6月19日)に、法務、コンプライアンス部門の皆様の研究会で(リモートですが)講演をさせていただきまして、意見交換の際に、コロナ禍における法務担当者の苦悩を少しばかり拝聴させていただきました。

そのようなきっかけから、(法務担当者の方々は今頃どうやって仕事をしているのだろう、何を考えながら業務を遂行しているのだろう)と思いながら、本書を購入いたしました(大阪地裁の書店では先週から販売していたようです)。

読み始めると途中で止まらなくなりまして(笑)、2日で完読みしてしまいました。本日(6月24日)の日経朝刊一面でも広告が掲載されていましたが、法務やCSRのご担当者だけでなく、管理部門にお勤めの方にも超おススメの一冊であります。

新型コロナ 危機下の企業法務部門-経営のパートナー&ガーディアン。法務部門は現危機下で何をすべきか。(経営法友会編 商事法務 2,700円税別)

Amazonの解説では「新型コロナ危機に直面する企業法務部門は、今どのように、悩み行動しているだろうか。また、将来にわたって何を模索していくべきだろうか。1,300社が集う企業法務団体である経営法友会、その会員企業の英知を結集」と紹介されています。

「想像力を働かせよう」「法務のあるべき姿は」「仕事の質を高めよう」「機関運営を深化させよう」「みんなで語ろう」の5章に分かれておりますが、それぞれの章で大手企業にお勤めの法務グループの方々のご論稿が詰まっております(最終章「みんなで語ろう」はリモート形式による座談会となっております)。

執筆されたのは、皆様5月上旬ですが、もはやWithコロナ(新常態)を意識したうえでのご執筆ということで、在宅勤務、取引法務、新規事業のリスク管理、押印業務、リーガルテックの活用、社会貢献、情報収集や発信など、本格的に法務部門が取り組まねばならない「有事における覚悟」のようなものが感じられます。いや、どのご論稿を読んでもたいへん勉強になりましたし、これからの仕事の参考にさせていただきます。

先日も、某社株主総会の終了後、私は

「なんでこんなにたくさんの書類に(多くの社外役員が交代で)印鑑を押さなきゃいけないのかな?決議から2週間以内に登記申請って、社外の皆さんのとこまで今からハンコもらいに行くの?クラウドサインとかじゃダメなのかな?押印の機能ごとに、これから御社も電子署名や電子サインの活用を本格的に検討してみてはどう?」

などと、したり顔で法務担当者に提案をしておりました。

しかし、本書の(株)乃村工藝社法務部の方のご論稿「新型コロナ対策を契機とした業務の棚卸と文書管理のススメ」を拝読して、いたく反省し、かなり恥ずかしい気分になりました。

契約書を廃して「電子契約」を採用する、ということは、資源や技術の問題をクリアできたとしても、これだけ社内の手続きを改変し、さらに社内・社外の根回しがなければ実現しない、という現実です。果たして(電子契約制度の導入するために)これだけの企業実務慣行を変えることが法務部門にできるか…といわれると、かなりしんどいだろうな、それだったら多少の面倒があっても印鑑を押すほうがマシだよな、と思います(ホント、この論稿は多くの上場会社の社長さんとか、規制改革に関係する経産省や法務省の官僚の皆様にぜひ読んでほしいなぁ)。ちなみに最近「押印は不要」といった政府見解が話題になっていますが、私的には民法92条との関係(業界取引慣行における押印の慣習と確定的意思の認定)でも論点があるように思うのですが。。。

最近は経産省「法務機能の在り方研究会報告書」などがリリースされたこともあり、本書副題にもあるように「(法務部門に関する)経営のパートナーとしての役割とガーディアンとしての役割」が指摘されます。たしかに目指すべき方向はそのとおりだとは思うのですが、その前に立ちはだかる「法務の壁」があり、その「壁の正体」は一体どんなものなのか。本書を読み、コロナウイルス感染症対策という全社的な危機に直面する中で、その「壁の正体」が一気に表面化したような気がいたします。これを吐露する大手企業の法務部門の現場報告、ご意見の数々は、我々のような法務部門を支援する者には、まさに経営のパートナー&ガーディアンとして企業価値向上に寄与するための手がかりが見えてくるように感じました。

おそらくご興味の湧くところから読み進めていけるものと思います。ぜひぜひお読みいただきたい一冊であります。

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2020年6月24日 (水)

最近の(私的に興味深い)株主総会関連情報について

今週は26日まで株主総会関連で忙しく、ブログネタを考えている時間がとれません。ということで、固い法律の話ではなく、あまり報じられていない株主総会関連のとれたて(?)情報をご提供したいと思います。

ひとつは7月末に延期されました東芝の株主総会ですが、「物言う株主」で有名なエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが3名の取締役選任議案を株主提案として出しました。ちなみに会社側は、当該候補者の就任について反対意見を述べています(サンケイビジネスアイより)。記事には掲載されていませんが、東芝の開示情報から株主側取締役候補者の名前を拝見して「おお!」と驚きました。私の存じ上げる竹内朗弁護士と経営法友会の前代表幹事(花王の前執行役員)の杉山忠昭さん。竹内さんは仕事もご一緒しますし、杉山さんには花王時代にお世話になりました。

エフィッシモといえば、常に「旧村上ファンド系」とメディアで紹介されますが、ここのところ中長期的な企業価値向上のための施策を要求することが多いように思います。委任状争奪戦になるのかどうか、今後の展開はわかりませんが、エフィッシモの人選は至極まともなものだと思いました。「今年の総会は6月で終わらない、終わらせるわけにはいかない」という雰囲気です。

ふたつめは「富岳」のスーパーコンピューターで湧く富士通ですが、6月22日の株主総会で、15年間社外監査役をお務めになった元裁判官の方(弁護士)が、再選されたうえに、このたび「常勤監査役」に就任されたそうです(他の会社の社外役員も、この6月総会で退任されたそうです)。非常勤社外監査役から常勤監査役、監査役会議長に就任される、というのは珍しいですね。

15年間も日本を代表する企業の社外役員を務める・・・というのも「就任期間が長くなりすぎて独立性に問題があるのでは」との声も聞こえてきそうです。ただ、この常勤監査役の方は、2012年のこちらのエントリーでもご紹介しておりますとおり、「富士通元社長が、反社との交友が疑われたため、退任を要求された」事件において、元社長に直接退任を通告した方です。オウム真理教裁判では有名な判決を下し、また「裁判官というお仕事」を「マツコの知らない世界」でマツコさんに解説されていました。「独立役員」からは外れましたが、今でもガバナンスの要なのかもしれません。

最後に(これは少しだけニュースになっていましたが)伊藤忠商事の株主総会では「数人の株主が出席するという『ハプニング』が発生した」(6月20日産経新聞朝刊)そうです。5月18日のエントリー「伊藤忠商事の定時株主-出席自粛要請・役員のみ開催-総会に関する素朴な疑問」において、「役員のみで開催します」という総会はおかしいのではないか、と意見を述べましたが、ホントに一般株主の方々がお越しになったのですね( ゚Д゚)。。

どのような株主の方々がお越しになったのか不明でありますが、会社側はどうされたのでしょうか?「お越しになったのなら、やむをえない。どうかご入場ください」となったのでしょうか。昨日(6月22日)に公表された伊藤忠商事の臨時報告書を読みますと、「議決権の数に株主総会に出席した議決権の数の一部を加算しなかった理由」として「本総会当日に出席した株主のうち、賛成、反対、棄権の確認ができていない議決権数は加算しておりません」とありますので、たしかに一般株主の方々が当日出席されているみたいです(役員であり株主でもある方は、間違いなく前日までに行使しているはず)。

しかし、あのリリースの表現はどうみても「株主出席は一切禁止」と読めるので、株主への公平な取り扱いを重視するのであれば出席はご遠慮願うのは筋のような気も致しますが。それとも、どなたかコメントされていたように「一切禁止とは言っていない。来ないことを推奨しているにすぎない」といったことだったのでしょうか。法的に考えるといろいろと疑問も生じますが、本日は固いことは抜きにして(*'ω'*)

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2020年6月22日 (月)

任意の指名・報酬委員会の実効性と取締役会の付議案件との関連性

昨日(6月21日)の日経朝刊(総合1面)に、「任意の指名・報酬委 東証1部の5割超が設置-年1、2回半数、実効性課題」と題する記事が掲載されていました。東証1部の会社(監査役会設置会社、監査等委員会設置会社)のうち、任意の指名・報酬委員会を設置している会社は、指名委員会は52%、報酬委員会は55%に上るそうです。ただ、設置している企業の半数程度は開催頻度が年1回、2回程度ということで、本当に実効性があるのかどうか疑問も呈されている、とのこと。

上記記事において、デロイトトーマツのパートナーの方が「(指名・報酬委員会における議論は)形式的な議論にとどまっている可能性がある」と指摘しておられますが、私もかなり近い意見を持っております。一般的には(役員人事や報酬に関する)経営執行部が作成した原案が委員会に持ち込まれ、委員である社外取締役は、当該原案の作成プロセスの説明を受け、著しく不公正な点がない限りは、これを追認する、といった運用がなされています。プロセスチェックがなされていれば、一応監督機能が果たされている、と考えるのであればこれで良いのですが、株主・投資家が指名・報酬委員会に期待している点とは合致していないと思います。「形式的な議論にとどまっている」と指摘されるのは、こういった期待ギャップに原因があります。

指名・報酬委員会において「実質的な議論」が行われるためには、次のような要点を確認しておく必要があります。たとえば「誰が次期社長にふさわしいのか」という点を判断するのであれば、①5年後、10年後に会社が向かうべき道筋が明確になっていなければ、委員である社外取締役は自信をもって選べない、ということ、②指名委員会は、業務遂行能力だけでなく、監督能力も含めて評価を行うこと。「役員の誰にどれだけの報酬を付与することが適切なのか」という点を判断するのであれば、①役員報酬の決定方針の策定に社外取締役が関与していること、②業績連動報酬の方針が会社の事業戦略の方向性と合致していること。つまり、取締役会において、グループ会社を含めた重要な事業戦略がきちんと社外役員も含めて議論されていなければ、そもそも指名委員会も報酬委員会も実質的な議論はできない、ということです。

以前、私は「社外取締役が過半数を占めるような指名・報酬委員会で実質的な議論など無理。プロセスチェックだけ行っていれば善管注意義務を尽くしていると言えるのではないか。会社が有事に及んだ場面のみ、委員会が実質的な議論を果たせばよいのではないか。」と説明してきました。しかし、令和元年改正会社法においては(有価証券報告書提出会社に対して)社外取締役の一人以上の設置が義務付けられ、その条文の趣旨が

「わが国の資本市場が信頼される環境を整備し、上場会社等については、社外取締役による監督が保証されているというメッセージを内外に発信するため、会社法において、上場会社等には社外取締役を置くことを義務付けることとしている」-竹林俊憲ほか「令和元年改正会社法の解説(Ⅴ)」旬刊商事法務2226号7頁。

と正式に解説される現在、(社外取締役が中心メンバーとなる)任意の指名・報酬委員会の運用についても、株主・投資家の期待する役割を無視することができない状況に至ったと考えています。したがいまして、かつてはソフトロー(コーポレートガバナンス・コードや経産省実務指針)を理解したうえで、指名・報酬委員会はプロセスチェックに努めていればよかったのかもしれませんが、ハードロー(改正会社法)の趣旨を理解したうえで、構成委員としては実質的な議論をしなければならなくなった、と思い直しております。

たとえば私が報酬委員会委員長を務めたときの経験(ニッセンホールディングス社 2015年~2016年)や、令和元年改正会社法における報酬規制の改正の趣旨などを参考にして、報酬委員会で実質的な議論をしたと内外に説明するためには、①なぜ社長に報酬決定を再一任することが、当社にとっては妥当であると判断するのか、②なぜ、当社の役員報酬の決定方針をそのように定めたのか、現金報酬と株式報酬の比率はどうやって決まったのか、③なぜ当社では報酬総額をそのように定めたのか(今後、大幅な取締役の増員を予定しているのか)、④なぜそのKPIを、当社における業績連動報酬の判断に活用するのか、といったところは最低限度理解しておく必要がある、と考えています。

とりわけ、このたびの天馬社の事例などをみておりますと、監査等委員会設置会社に任意の指名・報酬委員会が設置される場合、有事には監査等委員会と指名・報酬委員会のどちらが人事・報酬の意見形成で主導権を握るべきなのか、かなり混乱を生じることが予想されます。平時から、そのあたりの社内指針を策定しておくほうが良いのかもしれませんね。

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2020年6月19日 (金)

定時株主総会への取締役のリモート出席には事前準備が必要

モノ言うアクティビストファンドとして有名なオアシス・マネジメントの株主提案に対して、三菱倉庫は一部譲歩されたそうです(ブルームバーグニュースはこちら)。同ファンドのキャンペーンHPを読んでいて「なるほど、ガバナンスの勉強になるなぁ」と思っておりましたが、やはりISSやグラスルイスが株主提案に一部賛同していたようで、これを受けて三菱倉庫としても要求に一部応じることになったものと思われます。

先日の前田道路、前田建設の垂直型協働の有効性についても、オアシスは早い時期から目をつけていて「目利き力が鋭い」と感じましたが、オアシスは(海外ファンドとしては珍しく)いよいよ東京に拠点を構え、アナリストも新たに採用しておられるので、同ファンドが株を保有している会社さんは、今からガバナンス対応に留意しておいたほうがよさそうですね(以下本題です)。

さて、本日(6月18日)私が社外取締役を務める会社の定時株主総会のリハーサルが行われまして、今年は社外取締役全員がリモートで出席する予定です。ということで、リハーサルではありますが、会社のバッチを胸につけて、当職事務所から参加いたしました。

社外役員にとって、総会リハーサルに出席する意味ってあるのかな?とも思っておりましたが、実際リハーサルをやってみたところ、バーチャル株主総会も含め、ふだんとはかなり様相の異なる総会を開催するのであれば、社外役員も総会リハには参加されることをお勧めいたします。

会場の様子がわからないというのはなんとも不安です。たとえば株主の質問に対して、議長がハキハキと回答している場面はよいのですが、舞台後方の事務局や総会指導の弁護士の方とヒソヒソ話をする場面がありますよね。あれって、リモート出席者にはどんな場面が展開されているのかわかりません。ひょっとして議事が進行しているにもかかわらず、自分だけ音声が届かなくなったのかな・・・と極度の不安に陥ります。

総会開催時に、リモート出席者は会場の株主から見えるのか、それとも発言時以外は見えないのか。決議が承認された際、入退場の際にお辞儀をしますが、リモート出席者はどうすればよいのか。今回は発言時以外はリモート出席者は顔を見せない、ということになったのでお辞儀をする必要もないのですが、会場の出席株主およびインターネット動画を聴取される株主の方々には違和感はないのか(会場から社外役員への質問も、なんとなくやりにくいような気がします)。

総会当日はリアルで出席する予定の社内取締役が、リハーサルではリモートで出席し、株主への質問に回答していたところ、途中で画像が固まり、音声も途切れるということがありました。当日、社外役員にも同様の事態が起きることも考えられます。ということで、私は総会当日、リモート装置が機能しない場合には、すぐに携帯電話で会場の音声につなげる体制をとることになりました。

あまり内情を暴露するのはよくないのですが(笑)、質問に回答する際には、演題下の小さなモニターに「想定問答」が映し出されるのです。ごく短時間に、関連質問を探し出して、その回答を映し出す総会担当者のスキルはたいしたものです。ところがリモート出席だとたぶん総会担当者のスキルでは間に合わない。私はいつも「出たとこ勝負」で回答しておりますので、とくに問題ないのですが、不安に感じる役員の方もいらっしゃるかもしれません。

昨年は株主質問が合計9件、うち社外役員である私を指名しての質問が1件ありましたが、「あなたはブログで『6月総会は完全延期すべきだ』とおっしゃっていたのに、どうして当社は例年どおりに6月総会を断行したのか」などといったイジワルな質問が来ないことを祈ります。「株主質問はできるだけお控えいただき、しんみりとリモートにて会議に出席している心中を察していただくことを推奨いたします」と申し上げたい気分です( ゚Д゚) 後日発行されます「統合報告書」にて、私のインタビュー記事が掲載されますので、株主の皆様にはそちらをご参照いただければ、と。

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2020年6月17日 (水)

天馬社の委任状争奪戦-監査等委員会設置会社のガバナンスとISSの議決権推奨

ベトナムにおける海外贈賄事件に続き、定時株主総会を前に会社側・大株主側の対立が表面化したプラスチック成型大手の天馬社の件について、少しだけ続編を書かせていただきます。6月12日の日経ニュース「26日総会の天馬、取締役案で株主と対立」に続き、文春オンラインでも「『現経営陣を一掃しないと将来はない』 東証一部『天馬』8人の執行役員が前代未聞の反乱劇」と題するネット記事がリリースされています。大西康之さんが天馬の記事を書くとは・・・ずいぶんとメジャーなニュースになりましたね。

毎度申し上げておりますとおり、私は本件には何ら関与しておりませんし、どちらかの議案推奨を勧誘する意図は全くございません。しかしながら、どうしても天馬社のガバナンスへの関心から、同社の監査等委員会の動きに注目してしまいます。ちなみにいつも勉強させていただいている梅本剛正教授のブログでは「委任状勧誘規則」(金商法)の視点から意見が述べられています。同じ事例を同じニュースから見聞しても、やはりいろいろと視点が異なるものだと感心いたしますね🐱←梅本先生風

先日のエントリーで、天馬社の監査等委員会は(選定された監査等委員を通じて)会社側の取締役候補者の議案に対して意見陳述権を行使したことをお知らせしましたが、その後、ISSの議決権行使に関する推奨意見(推奨レポート?)が出され、監査等委員会が候補者としてふさわしくないと意見を述べた方々に対しては反対票が推奨されたそうです(大株主側キャンペーンHPの記事より)。

なお、ISSの議決権行使の推奨意見は「会社側vs大株主側」といった大雑把なものではなく、各候補者ごとに分析評価のうえ意見を表明しており、結果として賛成推奨意見は会社側5名(8名中)、そして大株主側4名(就任承諾を表明している6名中)のようです。つまり監査等委員ではない取締役候補者だけをみると会社側有利な情勢です(なお、大株主側は、ISSから反対推奨された2名の候補者については事実誤認あり、と反論しています)。

しかし天馬社は「監査役会設置会社」ではなく「監査等委員会設置会社」です。3名の監査等委員も全員取締役です(監査等委員ではあるが取締役ではない、という人は法制度上存在しません)。ご存じない方も多いと思いますが、会社法上、監査等委員会設置会社の取締役については、監査等委員でない取締役の任期は1年、監査等委員である取締役の任期は2年です(つまり、監査等委員である取締役の独立性がかなり強く保障されている、ということです)。天馬社の監査等委員会を構成する3名のうち2名は「現経営陣の経営方針には反対」という意味では大株主側に近い立場なので、かりにISSの議決権行使助言のとおりに賛否が決せられるとすれば、取締役会構成は6:6で拮抗することになります。

さらに、このたびの定時株主総会では、監査等委員である取締役の選任議案が別枠として上程されており、当該候補者の方は監査等委員会の推薦を受けているはずなので、選任された場合には大株主側に与する可能性が高い(おそらく)。つまり、大株主側が取締役会の過半数を握れる可能性があります。

大激戦になることを喜ぶわけではなく、ここで私が申し上げたいことは、監査等委員会が会社の有事に前面に出る場合には(といいますか前面に出なければ善管注意義務違反になってしまうおそれがありますが)、こういった支配権争いの場面においてもキャスティングボートを握る可能性がある、ということです。その鍵を握るのが、まさに他の取締役よりも監査等委員である取締役の任期が長い、ということと、議決権を持つ取締役(監査等委員)候補者について、監査等委員会が選任議案を請求できる、という監査等委員会設置会社の特色にあります(監査役会が監査役選任議案を請求できる場合とは大きく異なります)。

3500社余りの日本の上場会社のうち、すでに1000社を超える上場会社が監査等委員会設置会社であり、この6月総会でも監査等委員会設置会社に移行する企業が増えそうな気配です。しかしながら、社長が知らないところで企業不祥事が発生した場合(天馬社のようなケース)や、経営方針の相違によって大株主と現経営陣で支配権争いが生じるようなケースでは、監査等委員会が前面に出ることによって趨勢が変わる可能性が高い、ということを理解している会社がどれほどあるのでしょうか?

もちろん、監査役さんだって社長と本気で対峙すれば「強大な権限」を武器に、社長を震撼させることはできます。私もこれまで「こんな総会直前に、監査役さんの自宅に深夜に伺うなんて、思いもしなかったよ」と嘆く社長さんを何人が見てきました。しかし「違法性監査」で戦う監査役さんと「妥当性監査」で戦う監査等委員とでは戦うハードルの高さが違います。「違法性監査」で戦うにはかなりの勇気を伴いますし、ピエロになる覚悟も必要かもしれません。一方、法的責任ではなく経営責任を問う(議決権を行使する)ことで戦える監査等委員は、(委員の過半数を握れば)いざという時にモノが言いやすいと思います。

「いや~(笑)、ウチの監査等委員の方々はみんな監査役から『横すべり』で取締役になった人ばかりだから。そんな甲斐性あるわけないでしょう(笑)」と笑っておられるソコの社長さん!(/・ω・)/ それは「正常性バイアス」にとりつかれています。関西電力だって、監査役(みなさん、以前は経営執行側の方々ばかり)がお世話になった関西経済界のトップを20億円の損害賠償を求めて提訴する時代ですよ。監査役、監査等委員の善管注意義務違反のリスクが認知されればされるほど、みなさん行動する可能性は高まるものと思います。とりわけビジネスの領域に新常態が到来する時期には・・・

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2020年6月16日 (火)

関電金品受領問題-現旧監査役を提訴しなかった関電取締役会の判断

本日夜7時に、関電から「当社現旧取締役および現旧監査役に対する提訴請求への当社の対応について」と題する文書が公表されました。新聞報道のとおり、法人としての関電は、元経営トップであり、関西財界の重鎮でいらっしゃった方々5名を相手に19億円余の損害賠償請求訴訟を提起することを決定しました。昨年来「関電が本気で変わる気持ちがあるのであれば、株主代表訴訟を待たずして、自ら元経営陣を提訴することである」と何度もブログで意見を述べてきました。そういった意味では、関電の機構改革の第一歩を踏み出したのではないか・・・と、私は高く評価いたします(しかしD&O保険でどれだけカバーできるのでしょうかね?)

ただ、先日の「取締役責任調査委員会」の報告書を読んだ私としては、他の取締役の方々についても善管注意義務違反の疑義はぬぐえないように思います(たとえば、金品を受領した取締役の方々の中には、当該事実について監査役会に報告する義務があった人もいるのではないか・・といった論点)。もちろん報告書の結論に従った判断といえばそのとおりですが、株主代表訴訟が提起されることも想定して、もう少し広く提訴すべきではないか、との意見もありうるところと思います。

そして、昨日のリリースには、もうひとつ興味深い論点が含まれていました。6月11日の当ブログエントリー「関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか?」で予想しておりましたとおり、(やっぱり?)関電の取締役会は、株主から提訴請求を受けておりました現旧の同社監査役の皆様を被告とする損害賠償請求訴訟を提起しないことに決定しました。関電の監査役の方々に「善管注意義務違反」が認められ、損害についても認定できるにもかかわらず、関電取締役会は「現旧の監査役は誰一人として提訴しない」という判断に至りました。

少しだけ法律の解説をしますと、株主から取締役や監査役への「提訴請求」を受けた会社としては、提訴すべきかどうか調査のうえ、提訴しないという決定ができます(取締役に対しては監査役・監査役会が、監査役に対しては取締役会が判断します)。そして提訴しないとの判断に至った場合には、その理由(不提訴理由)を株主に通知することになります(会社法847条4項 なお、不提訴理由通知制度の詳細は、昔の私のエントリー等をご参照ください)。しかし会社法には、どのような場合に提訴しない、という判断ができるのか、その内容については何ら示されていませんので、そこは解釈の問題となります。

上記関電のリリースによりますと、取締役会としては、たとえ特定の監査役に法的責任が認められる可能性が高いとしても、かならず責任追及の訴えを提起しなければならないわけではなく、そこには一定の裁量が認められる、とされています。これは、おそらく取締役が第三者に対して訴訟を提起しなかったことが善管注意義務違反に該当するかどうかが争われた裁判例を参考にしているものと推測されます(東京地裁判決 平成16年7月28日 判例タイムズ1228号269頁以下参照)。当該判例によれば、訴訟不提起が善管注意義務違反に該当するためには、①勝訴の高度の蓋然性、②勝訴した場合の債権回収の確実性、③訴訟追行により回収が期待できる利益が、そのために見込まれる諸費用等を上回ること、等が必要としています。今回の監査役に対する不提訴理由についても、当該判断基準に沿ったものと理解できます。

ただ、上記裁判例は取締役が第三者を訴える場合の事例であり、取締役会が同じ会社の監査役を訴える場合にも同様のことが言えるかどうかは疑問があります。そもそも「不提訴理由通知制度」というのは、平成17年の会社法制定時に「株主代表訴訟の提起を委縮させてしまう」との理由で、国会で修正-訴権濫用却下制度の削除-された形で導入されたので、「どのような場合に提訴しない、との判断ができるのか」という解釈も、あまり会社側に有利に解釈すべきではない、という学説も有力です。

また、監査役を提起することによる「訴訟が会社の信用に及ぼす影響」が(判断理由として)考慮されています。たしかに「金品受領問題を裁判で争う」ということが長く続けば会社のイメージダウンにつながる、という考え方もあるかもしれませんが、一方において、株主代表訴訟によるものではなく、会社自身が監査役を提訴することの「自浄能力」「自浄作用」の発揮こそ、毀損された会社の信用を回復させるための絶好の機会ではないか、とも考えられます(むしろ、私は後者の意見のほうが今回の事例では適切な判断ではないかと考えます)。

おそらく、提訴請求を行った株主の方々は、この関電の判断を前提に株主代表訴訟を提起することになると思われますが、ぜひとも取締役および監査役の責任調査が行われたわけですから、その調査の成果である資料については、原告株主にすべて開示していただき(それが会社法における提訴請求制度の趣旨ではないか)充実した株主代表訴訟及び会社請求訴訟が係属することを希望いたします。

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2020年6月15日 (月)

上場会社の対応が分かれる「グループ経営の考え方等の開示」-総会後のガバナンス報告書の更新

「6月の定時株主総会は完全延期すべきである」といった私の予想に反して(?)多くの上場会社が6月に定時株主総会を開催するようなので、そうなりますと東京証券取引所が公表した「上場子会社のガバナンスの向上等に関する上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正について」(本年2月7日施行)への対応が喫緊の課題になりますね。

上記規程の改正点として、グループ経営の考え方等の開示の充実(コーポレート・ガバナンスに関する報告書)が盛り込まれており、2020 年 3 月 31 日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会後に提出するコーポレート・ガバナンスに関する報告書から適用されることになっています。ということで、とりわけ上場子会社をグループ内に抱えている上場会社の取締役会では、社外役員を交えて、様々な議論がなされているのではないでしょうか。

もうすでにガバナンス報告書を更新して開示している企業もありますので、これらの開示例を研究しておりますが、これがなかなか興味深いです。本日はあまり時間がないので詳細はまた別途エントリーで述べますが、「グループ経営の考え方」については(業種、業界に関係なく)3~4つのパターンに分かれています。また、それぞれのパターンによって、開示にあたってどのようなプロセスをたどって、当該パターンの結論に至ったのか、というところが開示内容から判明するものと全く不明なものに分かれています。

コロナ禍における機関投資家の関心として、投資先企業のガバナンス改善が挙げられることが多いのですが、この「グループ経営の考え方」というのはガバナンス改善への本気度を測るための試金石になりうるような気がします。それほど大きな上場会社ではなくても、「うーーん、なるほど、この会社は真剣にガバナンス改革に取り組んでいるみたい」と、思わず唸りたくなるような開示例もあります。「横並び主義」が通用せず、御社の正解は、投資家との対話によって、御社独自に作り上げていくべきものかもしれません。

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2020年6月12日 (金)

業務委託先の不祥事に対する東京電力HDの対応は?-東証・不祥事予防のプリンシプル「原則6」の存在感

6月11日の朝日新聞朝刊一面トップに、朝日の独占スクープとして企業不祥事に関する記事が掲載されています。東京電力が家庭向けに販売する電気・ガスの電話勧誘業務を請け負った「りらいあコミュニケーションズ社」(東証1部)が、顧客との会話を録音した音声データを改ざん・捏造(ねつぞう)していた、とのことで、同社も事実を認めているそうです(朝日新聞のニュースはこちらです)。

今年1月に内部通報で発覚、社内調査を行い、東京電力(同社に委託した東電グループ会社)にはすでに報告し、同社は東電側から一部の委託業務を解消されているようです。東京ガス等との競争激化のなかで、同社が適切に業務を行っていることを東電グループ会社に報告するために改ざん・捏造を行ったそうですが、とても東証1部の企業が行う不正とは思えない内容です。新聞記事を読むと、東電側への虚偽報告ではありますが、最終的には勧誘を受けた消費者が不利益を被る可能性があることがわかります。

本件は今年1月の内部通報を端緒として社内調査が開始されたそうですが、結果として朝日新聞に(社内からと思われますが)内部告発(外部への情報提供)がなされ、世間が知るところとなりました。そもそも「りらいあ社」として、当該不祥事を公表しなければならないかどうかは別として、こういった不祥事例によって株価が急落する事態をみますと、自ら公表することの経営判断を改めて考えてみる必要がありそうです。

ところで、(ここからが本題ですが)上場会社である東京電力ホールディングス社は、今回のりらいあ社の不祥事についてはどういった姿勢で臨むのでしょうか。グループ会社ではない「取引先企業」であり、また東証1部上場会社の不正ということで、契約解消等の対応で済ませる、ということなのでしょうか。東京電力グループとしても、取引先の不正を二度と発生させないように努める責務があるのではないでしょうか。

たとえば、東京証券取引所が2018年に定めた「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を、東電も(上場会社である以上)遵守すべきです。ちなみに、同プリンシプルの原則6は以下のように定められています。

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感・・・業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。

そして、原則6の解説部分には以下のような記述があります。

(解説)
6-1 今日の産業界では、製品・サービスの提供過程において、委託・受託、元請・下請、アウトソーシングなどが一般化している。このような現実を踏まえ、最終顧客までのサプライチェーン全体において自社が担っている役割を十分に認識しておくことは、極めて有意義である。自社の業務委託先等において問題が発生した場合、社会的信用の毀損や責任追及が自社にも及ぶ事例はしばしば起きている。サプライチェーンにおける当事者としての自社の役割を意識し、それに見合った責務を誠実に果たすことで、不祥事の深刻化や責任関係の錯綜による企業価値の毀損を軽減することが期待できる。

6-2 業務の委託者が受託者を監督する責任を負うことを認識し、必要に応じて、受託者の業務状況を適切にモニタリングすることは重要である。契約上の責任範囲のみにとらわれず、平時からサプライチェーンの全体像と自社の位置・役割を意識しておくことは、有事における顧客をはじめとするステークホルダーへの的確な説明責任を履行する際などに、迅速かつ適切な対応を可能とさせる。

当該プリンシプルは「不祥事予防」のための指針です。したがって、不正が発生した原因に東電が何ら関係がないのであれば対応は不要かと思います。しかし、上記新聞報道によれば、電力・ガスの自由化による競争激化が「根本原因」のように思われます。東京ガスや大阪ガスとともに、利用者の獲得競争が激しくなっていることは明らかでして、サプライチェーンの一環である顧客勧誘作業をりらいあ社に委託している以上、今後の不祥事予防のために、東電が果たす役割は大きいものと考えられます。

りらいあ社の当該不正は既に東電側に報告されているのですから、報告後、これまでに東京電力HDは何をしてきたのか、そして不正の根本原因についてはどのように理解しているのか、その結果として、プリンシプル原則6に従い、電話勧誘業務の監督については再発防止策を検討しているのかどうか、といったあたりの説明責任を果たすべきではないでしょうか。さらに、東京電力HDによる「根本原因」の理解によっては、東電のグループ会社の(委託先に対する)監督状況に問題があることも考えられます。その場合にはプリンシプル原則5(グループ全体を貫く経営管理)の指針に沿った対応が求められるので、これを踏まえても十分な説明が求められるものと思われます。

 

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2020年6月11日 (木)

関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか?

6月9日の朝日新聞朝刊(関西版)に、私のコメント付きで報じられておりましたが、関電の金品受領問題について、新旧取締役の責任の有無を判定する調査委員会の報告書がリリースされ、合計5名の取締役の方々に「善管注意義務違反あり」「取締役らの責任額は合計10億円以上」とする意見が述べられました。

この責任調査委員会報告書について拙ブログで詳細を述べることは控えますが、内容的にはとても秀逸であり、とりわけ関電取締役の「善管注意義務」の内容を4つの視点に分けて考察しているところは非常に説得的だと感じました。さらに、当該義務違反行為と相当因果関係が認められる責任額も(多い人で)10億円を超えるものとされており、この調査報告書を受けて、関電の監査役(会)が取締役らを提訴するかどうか、6月17日までに判断するそうで、今後注目されるところです。

ところで、今回の「取締役に対する責任調査委員会」は、昨年11月および今年3月に、一般株主から提訴請求がなされたことを受けて(監査役会が)設置したものと思われますが、一方において関電の取締役会は、監査役に対しても提訴請求がなされているにもかかわらず、「監査役に対する責任調査委員会」を設置していません(こちらは、提訴判断をするのは監査役会ではなく、取締役会です)。おそらく、取締役会において提訴すべきかどうか、内部で調査のうえ(提訴請求から60日以内に)判断するものと推測いたします。

会社が監査役の責任を追及するにあたり、オリンパス事件や東芝事件の頃からずっと疑問に思っているのですが、監査役の責任が追及される裁判において、監査役は過失相殺の抗弁を主張することはできるのでしょうかね?会社法に詳しい方がいらっしゃたらぜひ教えてほしいのですが。。。かつてナナボシ事件判決(会計監査人の監査見逃し責任が、ナナボシの再生債務者管財人から追及された事件-大阪地裁判決、大阪高裁で和解)では、会計監査人が過失相殺を主張して、会社側に7割の過失が認められました(つまり賠償額が7割減額されました)。

このナナボシ事件の大阪地裁判決からすると、会社が原告となって監査役を訴えるケースでは「会社の社長や専務が監査役に報告してこなかったのだから、たとえ私に落ち度があったとしても、会社の構造的な欠陥のほうが悪質だ」と主張して、責任額を争うことができるように思えます。しかし、会社の責任追及を代位して行う「株主代表訴訟」でも、監査役が(原告株主に対して)過失相殺の抗弁を主張できるかどうかは、おそらく裁判例もないので不明です。常勤の監査役さんであれば、会社に遠慮して過失相殺の抗弁など出さないかもしれませんが、弁護士や公認会計士の「社外監査役」さんであれば、(もし出せるのであれば)普通に抗弁を出すことが考えられます。

この点、有名な野村證券株主代表訴訟の最高裁判決(最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決)では、河合伸一裁判官によって、以下のような補足意見が述べられています。

・・・過失相殺の規定(民法四一八条)を適用し,あるいはその趣旨を類推適用することも,検討されるべきである。取締役は会社の機関であり,対外的には一体と見るべきものであるが,会社の取締役に対する損害賠償請求権が訴求されているときには,たとえ取締役が現在もその地位にあるとしても,両者は債権者と債務者の関係にあるから,右規定が適用されることは自然である。また,たとえば取締役の行為が本規定に該当するものではあるが,それは会社の歴代の経営者がしてきたことを継承するものであるとか,会社の組織や管理体制に牢固たる欠陥があるなど,いわば会社の体質にも起因するところがある場合には,損害賠償制度の根本理念である公平の原則,あるいは債権法を支配する信義則に照らし,右規定を類推適用することが許されてよいと考える(最高裁昭和五九年(オ)第三三号同六三年四月二一日第一小法廷判決・民集四二巻四号二四三頁,最高裁昭和六三年(オ)第一〇九四号平成四年六月二五日第一小法廷判決・民集四六巻四号四〇〇頁参照)。もっとも,右の例のような場合,取締役は会社の体質を改善すべき義務を負うものであることも,考慮されなければならない。また,本規定に基づく責任が関与した取締役の連帯責任とされていることが,過失相殺規定の適用又は類推適用を困難にする場合もあろう。しかし,そのようなことも考慮しつつ,なおこれによって妥当な結論を導き得る場合があると考えるのである。

上記河合判事の見解からすると、そもそも会社に対して過失相殺の抗弁が立つ以上、株主代表訴訟でも主張することはできるのかもしれません。

会社が取締役の責任を追及する訴訟では、提訴請求を行った一般株主も、会社が提訴した裁判に参加しますので(共同訴訟として参加します)、馴れ合い訴訟はできません。事案の性格からみて、被告である取締役は、監査役の過失を主張して自らの責任を減じることはあまり考えられないものと思われます。一方において、監査役が会社から提訴された場合には、監査役は「そもそも我々を疎外して不正を行った取締役が悪いのだ」といった過失相殺の抗弁を出すことで、責任額を減少させることは十分に考えられます。そして抗弁の主張立証に成功すればするほど、ますます取締役の責任根拠となる「内部情報」が、裁判上で明るみになる可能性があります。

ということは、関電の取締役会としては、監査役の方々を提訴しないほうが、自らの地位を守ることにもなる、というインセンティブが働くように思うのは私だけでしょうか。株主からの(現旧7名の監査役に対する)提訴請求がなされたにもかかわらず、「監査役責任調査委員会」を設置しなかった理由については、ぜひとも知りたいところでありますし、果たして関電が現旧7名の監査役の方々を提訴するかどうか、とりわけ取締役責任調査委員会の報告書が出た現時点においての判断に注目されます。

ちなみに関電の事例とは関係ありませんが、かりに社外取締役の責任も追及されて「責任あり」とされた場合、「俺は(私は)会社との間で責任限定契約を締結しているからだいじょうぶ」と考えておられる方も安心していられない、という論点があります。損害賠償債務は「連帯債務」とされているので、たとえば社長が3憶円の損害賠償責任を果たした後に、社長から社外取締役に求償権が行使されます。その求償権については「責任限定契約」は及ばないので、対会社との関係では1200万円で済む話も、対社長との関係では5000万円の請求を受ける、ということもありえます。そのあたりは拙ブログを開設した2005年ころからのナゾであります。

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2020年6月 9日 (火)

公益通報者保護法の改正法案が可決・成立-今後の課題について

本日(6月8日)は関西電力金品受領問題に関する責任調査委員会報告書の開示、天馬社における監査等委員会の反論書のリリースなど、コメントしたい事件がたくさんありましたが、やはり記念すべき「公益通報者保護法改正法案」の可決・成立日、ということで、少しマニアックな話題ではありますが、こちらを優先的に取り上げたいと思います。

参議院本会議にて、衆議院で一部修正されました「公益通報者保護法の一部を改正する法律」が全会一致で可決され、無事に成立いたしました(先日メモしておりましたように参議院では附帯決議が出されています)。これで施行から14年ぶりに(抜本的な)法律改正がなされたことになります(遅くとも2022年6月までには施行されます)。5年前に、今回の法改正を念頭に「消費者庁・公益通報者保護制度アドバイザー」に就任し、その後「公益通報者保護に関する実効性向上検討会委員」や「法改正ワーギングチーム委員」となり、この日を迎えたことについては、たいへん感慨深いものがあります。

手前みそになりますが、このたびの法改正の内容と企業実務への影響につきましては、ビジネスロージャーナル6月号(レクシスネクシス社)の拙著「2020年通常国会-成立・注目法案の影響度(公益通報者保護法)」をお読みいただければ概要は把握できると思います。いままでの公益通報者保護法と、改正法の内容が(その法的な性質において)大きく変わっていることがおわかりいただけるかと。

先日(6月3日)の参議院消費者委員会での審議では、3名の民間参考人からのヒアリング・意見交換が行われましたが、予想どおり3名(田中亘先生、拝師弁護士、オリンパスの濱田さん)とも「今回の改正法案は合格点だが、不満」という意見でした。その不満の要因は、事業者が通報者に対して不利益な取り扱いを行った場合のサンクション(制裁)が改正から抜け落ちたからです(この点は3年後の見直しの際に、重点項目となります)。通報者に対する不利益取扱いへの制裁条項(行政処分もしくは刑事罰)がないかぎり、通報者は安心して通報できない、という点は参考人全員が今後の課題として指摘しておられました。

たしかに「不利益取扱いへのサンクション」は改正法に盛り込まれませんでしたが、その分、公益通報対応業務従事者が「正当な理由」なく秘密を漏洩した場合の刑事罰(30万円以下の罰金)が盛り込まれ、また内部通報体制の整備義務を怠った事業者には行政処分(勧告、公表等)が規定されました。つまり、通報者に対して不利益取扱いが行われるような事態となれば、担当者には刑事罰が課されたり、事業者には体制整備義務違反(運用上の内部統制義務違反)による制裁が認められるケースが多くなるので、相当程度は通報者の安心は確保されるのではないかと考えております。

むしろ、日ごろ内部通報の窓口担当者や社内調査担当者を支援している立場からすれば、今回の公益通報者保護法が施行された場合には、いったい誰が刑事罰のリスクを背負ってまで内部通報の窓口や社内調査の担当者をやるのだろうか・・・と不安になってきます。どんな大会社でも、内部通報の専属従業員などいないのです。みなさん、法務や総務、人事、内部監査の仕事で忙しい中で、3年から5年程度のローテーションで窓口担当者に就任するのです。「通報者の秘密は、たとえ協力者にさえ漏らしてはいけない」という厳しい制約のなかで、自社やグループ会社のハラスメント問題や労務問題の是正に向けた調査を行っています(とりわけグループ会社の内部通報事案は、グループ会社の協力が不可欠なことから、通報者の秘密を守ることが極めて難しいのです)。

通報者から強い要求が出され、真摯に対応しているうちに、精神的疾患に陥ったり、退社してしまった窓口担当者、社内調査担当者も見てきました。サントリーホールディングス・パワハラ損害賠償請求事件の裁判例を示して「だいじょうぶ。そこまで通報者に寄り添っているなら、たとえ通報者の要望を受け入れなくても損害賠償で負けることはないから」と申し上げることも増えました。公益通報者保護法の改正を論じる際には「事業者vs通報者」という構図が描かれますが、そこにスッポリ抜け落ちているのは、制度運用の高まりとともに疲弊していく通報窓口、社内調査担当者の存在です。

このたびの改正で「公益通報対応業務従事者」として彼ら・彼女らには光が当たることになりますが、参議院附帯決議でも出てきましたように、彼らが過度に疲弊しない対策は喫緊の課題です。通報者が安心して通報できる環境を整えるためには、事業者による通報者への不利益取扱いに制裁を加えるという道もありますが、私はそれ以上にガバナンスの健全性の向上が必要だと考えています。先日の日本郵政グループによる不適切な商品販売でも明らかですが、現場の組織力学は、行政処分くらいでは治りません。経営トップからすれば「そんなことが起こっていたとは知らなかった」で終わりです。

むしろ、社外役員を含めた経営陣に「公益通報対応体制の整備義務の重要性」を認識してもらい、経営者が関与する不正にも内部通報が機能するシステムを構築すること、組織の信用を毀損してしまうような重大な問題についてはかならず情報がトップに届くシステムを構築することが最優先だと考えます。通報者が安心して通報でき、また窓口担当者、社内調査担当者が安心して対応業務に従事できるためには、まず公益通報者保護法の改正法をガバナンスの健全性が後押しする必要があります。

おそらく改正法に関わった方々の多くは、今後の課題として「不利益取扱いへの刑事罰、行政処分の導入」を挙げると思いますが、私はむしろ内部通報制度の重要性をどれだけ経営トップに認識してもらえるか・・・という点が最も重要な課題と考えます。

数年前の事例ではありますが、某社の不正競争防止法違反事件の調査に携わり、私は「過去に〇〇のような事例がある。このままだと通報は告発(外部通報)に変わり、マスコミから発覚したら信用はもたない。今回も〇〇だから公表すべき」と(意見書を書いて)社長に公表を勧めましたが、理屈では動いてもらえませんでした。その後、法務担当の執行役員のおひとりが私の意見に同調して、社外役員会にかけてくれて、社外役員全員が「公表すべき」となり、それでも社長は動きませんでした。最後に社長を動かしたのは、会社の苦楽を共にしてきた同期入社の専務の意見でした(「俺が連れてきた社外取締役に恥をかかせるなよ」的な言い方だったそうです)。その一連の動きを従業員が知り、この会社では「通報しても機能するんだ」ということで、その後は内部通報が活用されるようになりました。

まだまだ公益通報者保護法の認知度は高いとは言えません。しかし、今回の改正法が「民事解決ルール」の領域から「行政取締法ルール」の領域へと踏み込み、2号通報(行政機関への通報)の保護要件を緩和することで内部通報と外部通報の「制度間競争の論理」が活用されていることから、内部統制システムの構築を怠ると監督官庁から「ブラック企業」の烙印を押されてしまう結果となる・・・ということに(経営トップが)気づくようになるはずです。そうすれば、内部統制システムとガバナンスの両輪で対応する必要性が少しずつ理解されるようになるのではないか、と期待をしています。

これからも、真正面から、というわけではありませんが、側面あたりから改正公益通報者保護法の実効性を向上させるために尽力していきたい、と考えています。

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2020年6月 5日 (金)

公益通報者保護法改正法案に対する参議院附帯決議(案)

本日はかなりマニアックな備忘録です。公益通報者保護法の一部を改正する法律案(閣法第41号 衆議院送付)に対する参議院「地方創生及び消費者問題に関する特別委員会」における審議が終了し、法律案は了承されましたが、そこに附帯決議案が出されました。以下、私のメモ程度ではありますが、改正法の理解に大いに参考となるため、参議院における附帯決議(案)の内容を記載しておきます。なお、青字部分は衆議院の附帯決議には入っておらず、参議院の委員会独自の決議案です。

政府は本法の施行にあたり、次の諸点について適切な措置を講ずるべきである

1 本法の改正趣旨や各条項の解釈等について、現行の公益通報者保護法及び公益通報窓口とともに、労働者、退職者、役員、事業者、地方公共団体、関係行政機関等に十分周知徹底すること。周知にあたっては、公益通報者として保護される要件をわかりやすく解説するとともに、公益通報者保護法の認知度が低いことを踏まえて、認知度が上がらなかった要因を分析し、それを解消する工夫を図ること

2 内部通報制度に対する労働者等の信頼性を高め、かつ、内部通報制度の導入に向けた事業者のインセンティブの向上を図るため、第三者認証制度の創設も含め、内部通報制度認証のさらなる普及促進を図ること

3 役員による事業者外部に対する公益通報の保護要件として求められる調査是正措置について、役員による公益通報を過剰に抑制することがないよう、事業者内部における通報対象事実の是正可能性の有無、程度や、公益通報をした役員に対する不利益取扱の蓋然性に留意した調査是正措置の在り方に関する考え方を明らかにすること

4 本法に基づき、内閣総理大臣が定める指針において、内部通報体制整備義務の内容を定めるにあたっては、法令順守の促進の観点に加え、通報者への不利益取扱いの防止や通報者の氏名等の秘密の保持等、通報者保護の観点を明確化するほか、内部通報に関する具体的な記録の作成、保管等を通じて、各事業者における内部通報制度の利用状況や、通報者保護の状況を事後的に検証できる仕組みとするよう検討すること

5 中小企業者を含め、実効的な内部通報体制の整備が促進されるよう、事業者の業種、規模等に応じて、導入可能な内部通報体制の好事例の周知、業界団体等による共通窓口の設置支援等、効果的な普及促進に努めること

6 消費者庁は、内部通報体制整備義務の履行を徹底するため、消費者庁内部の人材育成、人員増強を行うとともに、将来的に不利益取扱いをした事業者に対する行政措置を十分に担うことができる体制を整えるため、外部の専門家の知見の活用も含め、組織的基盤の強化を図ること

7 消費者庁は、内部通報体制整備義務の履行に関する行政措置を行うにあたり、その円滑かつ確実な実施に向けて、関係行政機関の協力を得つつ運用すること

8 公益通報対応業務従事者が、守秘義務を確実に守りつつ、不安を感じることなく公益通報対応業務に臨めるよう、具体的な業務における留意事項等を定めたガイドラインを整備するとともに、必要な研修、教育を十分に行うこと

9 公益通報対応業務従事者の守秘義務が解除される正当な理由については、通報者が安心して通報できるよう、詳細に解釈を明らかにするほか、事業者がとるべき措置に関して、考え方を明らかにすること。また、通報対象事実の調査および、その是正に必要な措置等を講ずる過程における過失または周辺状況からの推測等により、通報者の氏名等が不要に漏らされることがないよう、調査およびその是正に必要な措置等の手法に関する好事例の収集、周知等を行い、適切な公益通報対応体制の整備の促進に努めること

10 行政機関における公益通報対応体制の整備義務の履行が徹底されるよう、小規模な地方公共団体における公益通報対応体制の在り方について検討を行い、必要な支援策を講ずること

11 通報しようとする者が、事前に相談する場が必要であることから、民間における通報相談を受け付ける窓口のさらなる充実に関し、 日本弁護士連合会等に協力を要請するとともに、国および地方の行政機関における通報相談の受付窓口の整備、充実に努めること

12 消費者庁に開設する一元的窓口において、通報者からの相談対応の一層の充実を図るとともに、通報者への十分な支援を行うこと。また、行政機関が不適切な通報対応を行ってきた事例が生じたことに鑑み、通報者から行政機関における通報対応に関する意見、苦情を受けた際は、適切な対応を求めること

13 本法附則第5条に基づく検討にあたっては、行政処分等を含む不利益取扱いに対する行政措置、刑事罰の導入、立証責任の緩和、退職者の期間制限の在り方、通報対象事実の範囲、取引先等事業者による通報、証拠資料の収集、持ち出し行為に対する不利益取扱い等について、諸外国における公益通報者保護に関する法制度の内容および運用の実態を踏まえつつ検討を加え、その結果に基づいて、必要な措置を講ずること

以上

改正法施行3年後の見直しに向けて、多くの課題があることが附帯決議案から浮かび上がります。いよいよ施行から14年ぶりの改正が目前となりました。とりわけ従業員300名超の事業者の皆様、法律の性格が大きく変わりますので(2年の猶予はありますが)改正法案にはぜひ注目していただきたいと思います。

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監査等委員会の「抜かずの宝刀」ついに抜かれる!-天馬社の株主総会人事案に意見陳述権行使

公益通報者保護法の改正法案が、いよいよ6月3日から参議院で審議入りとなり、同日に開催された委員会では参考人意見陳述と質疑が行われました。2時間20分の審議を中継で拝見しましたので、また来週にでもその感想を述べたいと思います。

さて、本日(6月4日)のベトナム系ニュースによりますと、天馬社の外国公務員贈賄事件について、ベトナム当局が遂に動き出したことが報じられています(日本側に情報提供を要請している、とのこと)。日本における捜査当局の動きは不明ですが、株主総会を目前にして、経営陣の皆様は本当に厳しい状況と拝察いたします。

そして「厳しい状況」といえば、天馬社の経営陣にとっては、支配権争いを繰り広げる大株主(創業家元名誉会長側)との関係も厳しさを増しております。本日、大株主側のHP(天馬のガバナンス向上を考える会)に、天馬株式会社の監査等委員会による報道発表資料が開示されました。その後、深夜には会社側から「当社監査等委員会に関する一部報道について」と題するリリースが出され、意見陳述権を行使した当社監査等委員会の行動には中立性・公正性に疑義がある、との主張が示されました(こちらもぜひ参考にしていただきたく)。

なるほど、6月2日付けの監査等委員会による報道機関向けのリリースがメディアに投げ込まれていたことから、日経新聞の報道が先行していたわけですね(誰かが秘密裏に情報を記者にリークしていたのかと思っておりました)。しかし監査等委員会が報道機関向けに資料を提供する、というのはかなり異例です。おそらく会社側の開示姿勢に疑問を抱いておられたのではないかと。

上記資料(会社側リリースを含めて)を読みましたが、先週木曜日(5月27日)のエントリー「天馬社の経営権紛争-注目される監査等委員会の動向」で予想していたとおり、天馬社の監査等委員会(取締役監査等委員3名で構成)は、6月の定時株主総会に現経営陣(会社側)から上程される取締役選任議案に対して、創業家出身者を含む候補者3名の「選任は不適切」とする意見(意見の内容の概要)を示しました(会社法342条の2第4項、会社法施行規則74条1項3号。なお、陳述については、監査等委員会が選定する監査等委員が株主総会にて行うことになります)。

6月3日の日経新聞朝刊記事でも報じておりましたが、1000社を超える上場会社の監査等委員会が、会社側取締役選任議案において「会社側が推薦する取締役候補者は不適切」とする意見を陳述するケースは初めてであります。まさに「抜かずの宝刀」が遂に抜かれましたね。監査等委員会のリリースを読みますと、監査等委員会が「不適切」とする意見と並べて、取締役会側の意見(監査等委員会の意見への反論)も詳細に開示されていることが注目されます。監査等委員会が「一枚岩」ではないこともリアルに開示されています(3名のうち1名の監査等委員は意見陳述に反対意見)。

しかしファンドさんが現経営陣側に与しているとはいえ、会社側が深夜に開示したリリース内容を読みますと、現経営陣としては、社外の敵対する大株主だけでなく、社内の監査等委員会の動きにも配慮しないといけない、というのは、たいへんな状況です。取締役会側からも「監査等委員会は中立・公正な立場で意見を述べておらず、極めて遺憾である」とのリリースが出され、その根拠事実も示されていますので、あまり事実関係の真偽には踏み込まず、監査等委員会制度に関心のある者として、以下の点だけコメントさせていただきます。

まず「監査等委員会」というのは指名委員会等設置会社に準じた機関形態である、という「会社法の建付け」から、本当は「絶大なる権限を持っている」という点です(たぶん1000社を超える上場会社の経営者の方々は、そういったことを知らずに移行しているものと思います)。さらに、監査役制度と異なり、組織的監査が原則なので、今回のように2:1で意見が分かれてしまった場合には、その少数側の監査等委員の意見はどこにも反映されない、ということになります。したがって会社が有事に至った場合の監査等委員会の行動を止めることは、かなりむずかしい。つまり取締役会からすれば「けしからん」と言えるかもしれませんが、いっぽうで監査等委員会からも「取締役会はけしからん」と堂々と言えることになります。監査等委員会からすれば、取締役会から「君たちの委員会活動を報告しろ」と言われても、「は?そっちから我々の権限行使のために報告しろよ」と反論できるわけです。

以前、こちらのエントリーにてご紹介した神田秀樹先生のご論文(「会社法・金商法 随想-立法事実からみる、近況・課題その1-上場会社の期間設計と監査等委員会設置会社」判例時報2020年1月11日号 №2425号 4頁)でも述べられているとおり、実は取締役会の妥当性監督、妥当性監査の権限と、監査等委員会の妥当性監督、妥当性監査の権限の振り分けというのはよくわかっていないし、これまでもあまり整理して議論されてきませんでした。本件では取締役会の意見と監査等委員会の意見が真っ向からぶつかった実例であり、こういった議論を真剣にしなければならないことがわかります(なお、最新の神田秀樹著「会社法(22版)」267頁以下でも、取締役会と監査等委員会との権限の割り振りに関する問題-難問?が解説されています)。

日ごろは監査等委員会の経営評価機能(取締役人事や報酬に対する意見陳述権)はそれほど目立たないものの、このたびの天馬社のように「まさに会社が有事の場面」であれば、監査等委員会は前面に出る必要があると思いますし、むしろ意見陳述権を行使することが監査等委員である取締役の善管注意義務の実践場面だと(私的には)考えております(監査等委員会設置会社に任意の指名・報酬諮問委員会が存在する場合には、もっと複雑なことになりますが、とりあえずこれは私個人の見解です)。指名委員会等設置会社の場合は、指名委員会しか役員指名権を持たないわけで、これに準ずる立場にあるとすれば、かなり取締役会に対してモノが言えると考えるべきでしょう。

なお、本事例においては、監査等委員会の意見陳述権ばかりが注目されているように思われるかもしれませんが、天馬社の監査等委員会は、意見陳述権のほかに、取締役の責任追及委員会を設置し、さらには会社法344条の2第2項に基づき、監査等委員である新任の取締役選任議案を(取締役会に請求したうえで)上程している点にも注目したいところです。同社の監査等委員会は、会社法が監査等委員会に期待しているところを、そのまま実施している点において評価できますし、他社の監査等委員会を構成する取締役の皆様にも(会社の有事には、ここまでやるべきではないか・・・という意味において)参考になるのではないかと。

さて、このような監査等委員会の活発な活動、および大株主・会社双方の主張を前にして、今度は天馬社の株式を保有する機関投資家の方々の動向が注目されます。ご承知のとおり、今年3月にスチュワードシップ・コードの再改訂版が施行され、金融庁のHPを確認しますと、すでに多くの機関投資家が、当該再改訂版を遵守することを宣言しています(宣言期限は9月末まで)。ということは、会社側、大株主側どちらの取締役候補者にマルをつけるのか、その結果だけでなく判断理由まで開示されることになります(もちろん、機関投資家は、議決権行使場面のすべてにおいて理由を開示するわけではありませんが、これだけ注目される案件なので、間違いなく判断理由は開示されるでしょう)。

国内外の大手機関投資家の場合、短期的な利益よりも責任投資、つまり中長期の持続性を重視して議決権行使に及ぶことが考えられますが、いったいどのような事実を重視して、どのような判断基準に基づいて賛否を決定するのか、今後の責任投資の在り方を占ううえでも大きな試金石になる予感がします。自動車メーカーのグローバル展開には欠かせない商品を製造する天馬社なので、おそらく国内需要よりも海外需要に今後の業績は依存することになるはずですから、海外展開する企業として、何が不可欠なのか、ぜひ多くの機関投資家の判断理由を聞いてみたいものです。

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2020年6月 4日 (木)

「新型コロナウイルス影響下の法務対応」に論稿を掲載いたしました。

Img_20200528_220859_400 本日(6月3日)の日経朝刊に「会社の取締役案『不適切』 天馬の監査等委、総会で」との見出しで、天馬社の監査等委員会が意見陳述権を行使する見込みであることが報じられていました。先日のこちらのエントリーで予想していたことが現実になりましたね(私は本件には何ら関わっておりません。念のため)。ただ、本件については会社側から未だリリースがありませんので(株主総会の招集通知も開示されていないので)、内容が判明した時点で、また当ブログで取り上げたいと思います。

さて、本日は書籍のご紹介です。今週月曜日の日経朝刊1面にも広告が掲載されておりましたが、中央経済社ビジネス法務の別冊「新型コロナウイルス影響下の法務対応」におきまして、「在宅勤務制度におけるコンプライアンス上の留意点」なる論稿を掲載いただきました。14,000字程度の論稿ですが、なかなかコンプライアンスの視点からの執筆は苦労いたしました。内容を一口でご紹介しますと、

新型コロナウイルス禍において、事業者に対しては感染予防対策の一環として「従業員の出勤削減」「在宅勤務制度」への協力が求められている。特に、テレワークを中心とした在宅勤務制度の導入は喫緊の課題である。平時から「働き方改革」の一環として在宅勤務制度に取り組む企業のレベルとは別に、有事における在宅勤務制度の導入を検討している事業者を念頭に、①在宅勤務制度の導入時、②在宅勤務制度の運用時、そして③問題が発生した場合の危機管理時に分けて、事業者のコンプライアンス上の問題点を指摘し、対策を検討する

というものです。原稿の締め切りが4月20日ということで、4月下旬の状況を念頭に書かれたものであることをご容赦ください。「コンプライアンスの視点」として、在宅勤務制度をテーマにしたことは「当たり」でしたが、お読みになった方はおわかりのとおり、在宅勤務制度は弥縫策であり、コロナ禍終息後まで本格化しないのではないか・・・といった予想のもとに語っているところがありますので、そこは若干予想がはずれてしまいました(言い訳にすぎませんが)。こんなにテレワークが本格的に実施されるとは、正直予想しておりませんでした。有事の際に、有事のテーマを語るむずかしさを痛感いたしました。

ちなみに、サントリーホールディングス法務部長さんの「企業法務全般」から始まり、まさに有事における企業法務問題への対応を10名の執筆者がカバーする、というものであり、たいへん良く売れているそうです(6月2日の楽天ブックス「ビジネス・経済」で第3位)。

なお、中央経済社としては、書籍とともにこちらの出版社のHPからであれば「電子書籍版」を購入することも可能です(中央経済社としては、こちらの電子書籍と紙の本を同時に出版するのは本書が初めてだそうです)。まだまだコロナ終息までは時間がかかりそうなので、(私の執筆部分はともかく)ご参考にされてはいかがでしょうか。

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2020年6月 2日 (火)

6月定時株主総会-株主の出席を制限することへの(さらなる)素朴な疑問

先週金曜日(5月29日)は、6月の定時株主総会を完全延期する上場会社が急増しましたね(合計8社が7月以降に完全延期、そのうち3社が配当基準日も変更を決定)。6月に入りましたが、決算発表を延期した企業を中心に、まだまだ完全延期に踏み切る上場会社が増えそうな予感がいたします。

さて、本日(6月1日)の日経朝刊や最新の週刊東洋経済(6月6日号)などでは「バーチャル総会への関心が高い」「株主総会のオンライン化が進む」といった特集記事が出されており、有事における6月総会の話題はまだまだ関心が高いことがうかがわれます。厳密に考えるならば、コロナ禍における株主総会の簡素化の適法性問題とバーチャル株主総会の適法性の問題とは別個の問題であります(この点、メディアの解説は、やや混同されているように見受けられます)。ただ、おそらくコロナ禍における緊急避難的な定時株主総会の開催が、今後の「バーチャル株主総会」の実施に向けて「大きな契機」となることは間違いないでしょう。

6月の定時株主総会は完全延期すべき、とする立場の私としては、定時株主総会の簡素化について「伊藤忠商事の定時株主「出席自粛要請・役員のみ開催」総会に関する素朴な疑問」なるエントリーで素朴な疑問を述べたところです。さらに、経産省Q&A指針に従う形で、5月28日にはエイベックス社が「当社役員のみで開催する定時株主総会」について、伊藤忠社とほぼ同様のリリースを出しました。役員自身も株主のケースが多いので「株主ゼロ総会」とは言いませんが、少なくとも「一般株主の参加を予定しない定時株主総会」を開催する上場会社は、「株主の皆様の健康配慮を最優先と考えて」今後も増えるものと推察いたします。

この「株主総会の簡素化問題」については、5月中旬以降、著名な学者の方々や総会実務に詳しい法律実務家の方々の論稿、座談会記事等が多数出されておりますので、可能な限り拝読するようにしているのですが、やはり私としては(考えれば考えるほど)素朴な疑問を払しょくできません。有事の問題(コロナ禍という緊急避難的な状況だからこそ適法とする視点)であれ、平時の問題(そもそもコロナ禍でなくとも、バーチャル総会を可能とする視点)であれ、一般株主の総会出席を制限できる根拠、というものは理解できますし、議論する実益もあると思います。

しかし「一般株主の入場を一切認めない定時株主総会」については、なぜ違法ではないのか、私には理解できません。たとえば現実出席を認めない代わりに議決権の事前行使(書面投票制度、電子投票制度)が推奨されるわけですが、電子投票制度の採用は、各社とも(総会ごとに)取締役会で決めることになっています(書面投票制度については、上場会社の場合は会社法で強制されることになります)。この電子投票制度について、神田先生(学習院大学教授、東大名誉教授)の基本書を読みますと

株主の承諾がなくても取締役会決議で総会ごとに電子投票制度の採用を決めることができる。その理由は、株主は常に株主総会に出席する機会が確保されているからである。・・(中略)・・・なお、そのような会社(注 議決権を行使できる株主が1000人以上存在する会社)以外の会社が書面投票制度を採用する場合も、同様に取締役会決議で決めることができるが、その理由も同様である(文中の傍線ならびに注書きは筆者作成)

と解説されています(「会社法<22版>」神田秀樹著 201頁)。つまり、株主が(定時株主総会に)出席しようと思えば現実に出席する道が確保されているからこそ、書面投票制度や電子投票制度が取締役会決議によって導入できるわけです。ということは、そもそも株主の出席を認めない株主総会を開催するのであれば、たとえ緊急時の定時株主総会であったとしても、書面投票制度やインターネット投票制度は使えない、ということになりそうです。

書面投票制度や電子投票制度の実務からみても、たとえば書面投票を行った株主が、現実に出席をしたり、誰かに委任状を交付した場合の取り扱い(現実出席した場合には、その時点で書面投票は無効とされる)や、書面投票と電子投票を重複して行使した場合の取り扱い(定款に定めがある場合には、当該定款に沿った取り扱いを行う)に関する慣行や通説がみられます。こういった実務慣行や通説に従うならば、株主総会における事前の承諾や事後における総会参与権限の確保があって、はじめて事前の議決権行使(書面投票制度、電子投票制度)に関する取締役会決議の有効性が是認できることになります。

経産省Q&Aなどは、「出席を一切認めない株主総会も(議決権の事前行使の機会を確保することで)可能」とされていますが、このあたりの理屈はどうクリアになっているのでしょうか。私としては、「一般株主の出席は認めない」とは記載されていなくても、「一切認めない」ように読める書きぶりであれば、それだけでも会社法違反の可能性が出てくるのではないかと考えます。そして、当該瑕疵については、裁量棄却の法理や権利濫用の法理といった「株主総会の効率的な運用」を重視した考え方では払しょくできないものではないかと考えます。

毎度申し上げますとおり、株主総会の決議の効力を判断するにあたり、会社運営の効率性を図ること(裁量棄却や権利濫用制限法理)と、株主の総会参与権を保障することとのバランスをどこで図るべきか、という視点で検討しなければならないことは、私自身も心得ております。しかし、前回5月18日のエントリーで述べたように「株主総会における立憲主義と民主主義」の発想で考えた場合には、たとえ平時におけるバーチャル株主総会の在り方を検討する場面においても、また有事における緊急避難的総会の在り方を検討する場面においても、多数決原理の根本を支える株主権(公益権と自益権)は例外なく保障される必要があると考えます。

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