« 関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか? | トップページ | 上場会社の対応が分かれる「グループ経営の考え方等の開示」-総会後のガバナンス報告書の更新 »

2020年6月12日 (金)

業務委託先の不祥事に対する東京電力HDの対応は?-東証・不祥事予防のプリンシプル「原則6」の存在感

6月11日の朝日新聞朝刊一面トップに、朝日の独占スクープとして企業不祥事に関する記事が掲載されています。東京電力が家庭向けに販売する電気・ガスの電話勧誘業務を請け負った「りらいあコミュニケーションズ社」(東証1部)が、顧客との会話を録音した音声データを改ざん・捏造(ねつぞう)していた、とのことで、同社も事実を認めているそうです(朝日新聞のニュースはこちらです)。

今年1月に内部通報で発覚、社内調査を行い、東京電力(同社に委託した東電グループ会社)にはすでに報告し、同社は東電側から一部の委託業務を解消されているようです。東京ガス等との競争激化のなかで、同社が適切に業務を行っていることを東電グループ会社に報告するために改ざん・捏造を行ったそうですが、とても東証1部の企業が行う不正とは思えない内容です。新聞記事を読むと、東電側への虚偽報告ではありますが、最終的には勧誘を受けた消費者が不利益を被る可能性があることがわかります。

本件は今年1月の内部通報を端緒として社内調査が開始されたそうですが、結果として朝日新聞に(社内からと思われますが)内部告発(外部への情報提供)がなされ、世間が知るところとなりました。そもそも「りらいあ社」として、当該不祥事を公表しなければならないかどうかは別として、こういった不祥事例によって株価が急落する事態をみますと、自ら公表することの経営判断を改めて考えてみる必要がありそうです。

ところで、(ここからが本題ですが)上場会社である東京電力ホールディングス社は、今回のりらいあ社の不祥事についてはどういった姿勢で臨むのでしょうか。グループ会社ではない「取引先企業」であり、また東証1部上場会社の不正ということで、契約解消等の対応で済ませる、ということなのでしょうか。東京電力グループとしても、取引先の不正を二度と発生させないように努める責務があるのではないでしょうか。

たとえば、東京証券取引所が2018年に定めた「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を、東電も(上場会社である以上)遵守すべきです。ちなみに、同プリンシプルの原則6は以下のように定められています。

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感・・・業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。

そして、原則6の解説部分には以下のような記述があります。

(解説)
6-1 今日の産業界では、製品・サービスの提供過程において、委託・受託、元請・下請、アウトソーシングなどが一般化している。このような現実を踏まえ、最終顧客までのサプライチェーン全体において自社が担っている役割を十分に認識しておくことは、極めて有意義である。自社の業務委託先等において問題が発生した場合、社会的信用の毀損や責任追及が自社にも及ぶ事例はしばしば起きている。サプライチェーンにおける当事者としての自社の役割を意識し、それに見合った責務を誠実に果たすことで、不祥事の深刻化や責任関係の錯綜による企業価値の毀損を軽減することが期待できる。

6-2 業務の委託者が受託者を監督する責任を負うことを認識し、必要に応じて、受託者の業務状況を適切にモニタリングすることは重要である。契約上の責任範囲のみにとらわれず、平時からサプライチェーンの全体像と自社の位置・役割を意識しておくことは、有事における顧客をはじめとするステークホルダーへの的確な説明責任を履行する際などに、迅速かつ適切な対応を可能とさせる。

当該プリンシプルは「不祥事予防」のための指針です。したがって、不正が発生した原因に東電が何ら関係がないのであれば対応は不要かと思います。しかし、上記新聞報道によれば、電力・ガスの自由化による競争激化が「根本原因」のように思われます。東京ガスや大阪ガスとともに、利用者の獲得競争が激しくなっていることは明らかでして、サプライチェーンの一環である顧客勧誘作業をりらいあ社に委託している以上、今後の不祥事予防のために、東電が果たす役割は大きいものと考えられます。

りらいあ社の当該不正は既に東電側に報告されているのですから、報告後、これまでに東京電力HDは何をしてきたのか、そして不正の根本原因についてはどのように理解しているのか、その結果として、プリンシプル原則6に従い、電話勧誘業務の監督については再発防止策を検討しているのかどうか、といったあたりの説明責任を果たすべきではないでしょうか。さらに、東京電力HDによる「根本原因」の理解によっては、東電のグループ会社の(委託先に対する)監督状況に問題があることも考えられます。その場合にはプリンシプル原則5(グループ全体を貫く経営管理)の指針に沿った対応が求められるので、これを踏まえても十分な説明が求められるものと思われます。

 

|

« 関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか? | トップページ | 上場会社の対応が分かれる「グループ経営の考え方等の開示」-総会後のガバナンス報告書の更新 »

コメント

山口先生が東電に説明責任があると思われる理由は納得しますし、グループ会社、業務委託先を含んだサプライチェーン全体像や自社の役割を考えることは極めて重要です。
しかし、こういう事例を見聞きするたびに「正直者がバカを見る事例」や「通報対応しないものが風化を待って得をする」「記録を保存・整理して指摘・通報したものが行政や第三者に客観的に理解されても、当該被通報者からは長年バレなかった不正「通報者」への報復受ける」ことの理不尽さを感じ、当該経営陣の個人的な倫理観に依存している部分の多さに納得してしまいます。
どこかから救世主(社長の同期の方など)が現れてくれないと、社外取締役会、社外監査役会の意見すら無意味になってしまうのは怖いです。
解決方法が見つからない不気味さが恐ろしいです。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年6月12日 (金) 01時38分

「未知の感染症リスクマネジメント時代」となった昨今ですが、多くの人々が自然界の新型コロナウィルスに翻弄/対策で、ただでさえ四苦八苦なのに、人間(又は法人)が、別の人間から意図的に金銭財産類を搾取したり、本来得られるサービスが滞る様な業務委託の様々な実情…中小、零細企業の模範となるべき一部上場企業なのに…世界に誇るJAPANのGDP、国内ビジネス慣例の裏の部分を見ている心境で、山口先生の本エントリーを拝読しています。
(業務委託問題…「別の『氷山』の一角(?)」)
東京オリンピック2020特需というオイシイ利益が先送り(消失の可能性も?)の焦り?…広告やイベント/スポンサー関連業務大手の電通社絡みの持続化給付金「業務委託」問題も過熱の一途:「コロナ給付金“丸投げ”法人の新たなナゾ」等の報道がされるほど、”業務委託ワールド”には甘い汁と共に、ESGとは真逆の暗黒的実態がまだまだ多く存在している現状を、「りらいあコミュニケーションズ社の件」が物語っている様に思います・・・。

投稿: にこらうす | 2020年6月12日 (金) 04時57分

私は、この事件で一番不思議に思うのが、何故電話だけで契約の解除や新規契約が成立したのだろうかという点です。
特に、一般消費者が電力購入者であり、消費者保護の原則が適用されるように制度がなっていると思う。
通常なら、電話の後に契約書や申込の書面が送付され、更には料金支払いに関わる銀行口座引き落としやクレジットカードの支払申込の手続きがあるはず。
契約当事者ではない電話業務会社が電話をして、顧客が現在締結中の契約を解約したり、他社に契約を切り替えたり、そんなことが可能なんて私には信じられないという気持ちがあります。

投稿: ある経営コンサルタント | 2020年6月12日 (金) 20時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 関電金品受領問題-関電は現旧の監査役を提訴するのだろうか? | トップページ | 上場会社の対応が分かれる「グループ経営の考え方等の開示」-総会後のガバナンス報告書の更新 »