« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »

2020年7月31日 (金)

KAM(監査上の主要な検討課題)の決定に経営者が関与することのメリットについて

今週号の週刊経営財務(7月27日号)では、KAM(監査上の主要な検討課題)の早期適用を行った上場会社の事例分析が特集されておりまして、会計監査や経理・財務に関わる方々の間ではKAM開示に関する運用実務の検討が進んでいるものと拝察いたします。私も会計・監査実務には素人ながら、このKAMの運用についてはとても興味を持って勉強しております。

2021年3月期決算から強制適用となるKAM開示は、監査報告書の品質を向上させ、経営者と投資家・株主との建設的な対話を促すための新しい制度として期待されているところです。ただ、先日も、こちらのエントリー「KAM(監査上の主要な検討課題)導入は監査法人と監査役等だけで盛り上がってはいけない」において申し上げた通り、監査役等(監査役、監査委員、監査等委員)や会計監査人の間で盛り上がってはいるものの、経営者ご自身が、本気で理解しようとされているのかどうかは疑わしいのが現状です。

そこで、上場会社の経営者がKAMの決定に関与することには、経営者自身にもそれなりのメリットがある、ということを考えてみたいと思います。もちろんKAMを決定するのは会計監査人ではありますが、これまでの早期適用の事例をみておりましても「特に重要であると判断した事項」としては、決算において見積りが必要となる事項が圧倒的に多い。たとえば固定資産の減損、関係会社株式の減損、繰延税金資産の回収可能性、貸倒引当金の計上等が代表例です。これらの事項については、どうしても経営者の将来予測や過去から現時点までの財務報告の分析を必要とするものであり、会計監査人がKAMを決定するにあたっても、原則として経営者の考え方を知る必要があります。

ところで、「会計上の見積り」について事後的に異なる結果を生じた場合には「誤謬」に該当するケースもあり、過年度に遡って見積りの変更が必要となる場合があります(なお、今回のコロナ禍における会計上の見積りについては4月10日付「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」参照)。そのようなケースでは上場会社役員の虚偽表示責任(金商法上の損害賠償責任)が問われるケースもあるわけですが、たとえ誤った見積りが行われたとしても、そこに経営者の過失はなかった、と認定されれば責任は否定されることになります。

当ブログでは、過去に何度も申し上げておりますが、取締役の注意義務違反の有無を判断するにあたり、会計基準の選択や解釈については、広い裁量が認められており、合理的なプロセスに沿って会計上の見積りがなされているのであれば、当該裁量の範囲内にある、もしくは公正な会計慣行に反するとしても過失までは問えない、とされる裁判例が圧倒的に多いと思われます(たとえば関係会社株式の減損に関する大阪地裁判決平成24年9月28日、大阪高裁判決平成25年12月26日-いわゆる三洋電機株主代表訴訟、工事進行基準と総原価発生見通しに関する東京高裁判決平成29年2月23日、貸倒引当金の計上不足に関する宇都宮地裁判決平成23年12月21日等)。

このたびのKAM決定事項(とくに監査人が重要と判断した事項)についても、有価証券報告書の記述情報を充実させなければならない現状において、経営者の見積りに関する考え方が(会計監査人に対して)明確に示される必要があります。「KAMに関する監査人との交渉は経理担当者や監査役がやればいい、結果だけ知らせてくれたらいい」といった気持ちで誰かに任せるのではなく、経営者自身が見積りの合理性を支える考え方を示すことが求められます。そのような「経営者のKAM開示に関与するプロセス」こそ、(誤った見積りによって)後日「財務報告の虚偽表示」が認められたとしても、経営者の裁量権逸脱もしくは過失(注意義務違反)による損害賠償責任は認められないという結論に導けるものと考えられます。

なお、以上は全くの試論にすぎませんし、いまだ法的な議論が(有識者の皆様の間で)なされているわけでもありません。ただ、今度こそ、投資家との建設的な対話を促す有価証券報告書、監査報告書が作成されるように、経営者の皆様にもKAM開示の議論の中で盛り上がっていただきたい。そこで、上記のような議論が少しでもお役に立つのであれば幸いです。なお、会計・監査に関連した記述に誤りがございましたら、またご指摘いただければ幸いです。

| | コメント (1)

2020年7月28日 (火)

かんぽ生命不適切販売事件に学ぶ-社外役員(社外取締役・監査役)を後押しするセカンドオピニオンの必要性

本日(7月27日)の朝日新聞デジタルの有料版記事「『金融庁の逆恨みだ』かんぽ経営陣が逃した3度の機会」は、永くかんぽ生命不適切販売事件を追ってきた藤田記者の渾身の記事であり、何度も読み返しました(第三者委員会による追加報告書をもとに、取材された内容だそうです)。

不正販売問題が報告され始めた2016年11月に「幻の不正防止策」と言われた対策案が作成された時期、2018年4月にNHKクローズアップ現代で「かんぽ不正問題」がスクープされた時期、そして同年11月、金融庁から調査要請がなされた時期と、日本郵政グループは、経営陣が自主的に全容調査を行うことができた機会が3度ありましたが、経営陣は全容解明には動かなかった。ではなぜ自主的な対応ができなかったのか、とても考えさせられます。

こういった事件では、どうしても「後出しジャンケン」によって責任追及をしたくなります。そうではなく、当時の状況を冷徹に再現したうえで、たとえ周囲が「たいしたことではない」とか「すでに一生懸命やっているから様子を見ようではないか」といった意見が多数を占めていたとしても、「いや、この程度では済まない、もっと広範囲の調査が必要」と言い出せるかどうか。

空気を読まずに積極的な意見を述べることができるのは社外取締役さん、社外監査役さんくらいかもしれませんが、7月21日の読売新聞朝刊(経済面)にも記載のとおり、かんぽ生命の社外取締役の方々は情報を共有していなかったので、機能不全に陥っていたそうです(ちなみに本日の日経夕刊1面記事「監査役会、昨年度は平均14回開催 内閣府令改正で開示」という記事によると、日本郵政の監査委員会は昨年28回も委員会を開催したそうです)。

しかし、いくら情報共有ができなかったとしても、さすがにNHKのクロ現のスクープを、社外役員の方々が「知らなかった」ということはなかったはず。いわば「情報共有」の端緒は存在していたわけですから、問題は社外役員自身がどこまで積極的に情報収集をしたのか、という点も問題視してよいのではないでしょうか。ただ、丸腰で社内の取締役さんに「不正疑惑に関する判明事実を教えよ」と言っても、やはり問題の核心に迫れるような情報を入手することは困難です。したがって、社外役員さんのためには「コンダクト・ルール(顧客本位の企業姿勢)」で物事を考えることを支援するセカンドオピニオンが必要ではないでしょうか。

会社の顧問弁護士さんは、どうしても会社もしくは経営陣に有利な法的支援サービスを提供する傾向があります(もちろん、中立公正な意見を述べる方もいらっしゃるかもしれませんので、あくまでも「傾向」と言っておきます)。「会社の活動は、顧客の視点からはどう見えるか」といった立場でのセカンドオピニオンこそ、社外役員の勇気ある行動を実現させるためには必要だと思います。

もちろん社外役員だって無為に会社と揉めたくありません。「社内の役員との関係を良好に保ちたい」といった「ヤワ」な気持ちからか、どうしても社内の空気を読みたくなるかもしれませんが、自身の抱いた違和感が独りよがりのものなのか、それともやはり専門家の立場からも違和感を抱かれるのか、このあたりの判断を手助けしてくれる外部のアドバイザーがいれば、社外役員も自信を持って(自ら必要と判断する)情報提供を要求できるはずです。

今朝の日経朝刊「経済教室」では、私が懇意にしている山田仁一郎教授(大阪市立大学)の「社外取締役制度の課題㊦ 多様化だけでは機能せず」と題する論稿が掲載され、海外でのガバナンス研究も豊富な山田教授による「日本企業における社外取締役制度」に対する厳しい指摘が印象的でした。ガバナンスを機能させるためには、社外取締役の数もあるが、差し違えるほどの真摯さをもって物を言う人物が関わっているかがカギではないか、との意見はまさに山田教授のおっしゃるとおりです。

ただ、社外役員に「差し違えるほどの真摯さ」を持つだけの自信がどこから生まれるのか。それはひょっとしたら「世間知らずのピエロの放言」「独りよがりの成功体験」となり、企業価値を毀損させてしまうことにならないのか。私自身も含めて、多くの社外役員経験者が思い悩むところだと思います。会社が顧客本位の経営姿勢を貫くために社外役員を有効に活用するためにも、ここをなんとかクリアする必要があると思うのです。

もうすぐ策定される経産省「社外取締役の在り方に関する実務指針(仮称)」でも提言されるかもしれませんが、

コンプライアンス対応の強化など、内部統制システムの構築・運用という「守りのガバナンス」においても、社内の常識にとらわれない視点を取り入れることが強く望まれる(仮案19頁より)

のであるならば、社外役員が会社費用をもってセカンドオピニオンを入手することは積極的に推奨されるはずです。もうそろそろ、社外役員(社外取締役、社外監査役)を支える専門家の存在がクローズアップされても良い時期に来ているのではないでしょうか。かんぽ生命・ゆうちょ銀行事例などを読んでおりますと、本当に社外役員を活用すること以外に経営陣を自律的な行動に誘導できる方法はないのでは、と考えてしまいます。

| | コメント (1)

2020年7月27日 (月)

上場会社の役員報酬に関する説明責任について

先週、機関投資家の方々と(改正会社法の条項に関連する)意見交換をする機会がありました。私個人とては、とりわけ役員報酬に関する令和元年改正会社法の改正事項についての運用会社の方々の意見が興味深かったので、またブログ執筆の時間が取れる時に別途詳細にご報告したいと思います。

ただ、役員報酬に関する会社法改正後の実務については一言だけ備忘録程度に記しておきたいと思います。先日(7月13日)、上場会社の役員報酬はダブルチェックの時代が到来する、といったエントリーを書きましたが、いろいろと意見交換を行うなかで、やや機関投資家の方々とは意見が違うことに気づきました。株主の関心は「(開示された報酬決定方針に基づき、個別の取締役の報酬が高いのか、低いのか」といったところでのチェックではないようです(それだけの時間的余裕はない、というところか)。むしろ会社が示す事業戦略と、個々の取締役のもらっている報酬との関係が(説明責任を通じて)明確になることへの期待が高いことのようでした。

役員報酬の重要事項が事業報告に記載されるようになれば、機関投資家は「我々に約束した中長期の事業戦略を『うまくいっている』と評価するのか『十分実行できていない』と評価するのか、その評価に関する取締役会の姿勢について知りたい」ということのようです。つまりこれからの役員報酬の決定は、機関投資家にとっては事業経営に関する説明責任を尽くすことと密接に結びつくわけでして、「これだけ報酬を受領することが正当である、と取締役会が評価しました」という説明を前提に、個々の役員の信任を評価する、というところが大切なポイントのように思いました。

業績連動性報酬を採用する企業が増え、また連動報酬の比率がどの企業でも高まりある中で、取締役会が本当に役員報酬の決定について関与(具体的な決定もしくは再一任のプロセスの監視等)しているのかどうか、令和元年改正会社法の施行はまだだいぶ先かもしれませんが、今からでも取締役会の関与の在り方について、きちんと議論(?)しておく必要があると思います。私個人の考えとしては、このたびの会社法改正によって、役員報酬への取締役会の監督機能は少しばかり高まるのではないかと思います。

| | コメント (2)

2020年7月22日 (水)

日本版司法取引第1号事件(MHPS海外贈賄事件)に対して、高裁が検察に厳しい一撃

すでに各メディアが報じているとおり、日本版司法取引制度(刑訴法上の「協議・合意制度」)が初適用されたタイの発電所建設に絡む贈賄事件におきまして、7月21日、東京高裁が二審判決を下しました。不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の罪に問われた三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元取締役の方に対して、懲役1年6月(執行猶予3年)だった一審東京地裁判決を破棄し、罰金刑(250万円)を言い渡したそうです(たとえば毎日新聞有料版記事はこちらです)。これは検察だけでなく、司法取引を行った法人側も驚愕の判決ではないでしょうか(たぶんノーコメントだと思いますが)。

上記記事によれば、「(東京高裁の)朝山裁判長は、被告人が供与を了承したとする部下の証言は信用できないと指摘。(被告人は)『代替手段の検討を促すなど終始贈賄に対しては消極的な姿勢を示しており、共謀を認定した1審判決は合理的に疑問がある』と述べた」とのこと。ただし、その上で、取締役として(贈賄を)阻止すべき地位にあったのに事実上黙認したとして、不正競争防止法違反行為のほう助罪に当たると認定したそうです。(産経新聞ニュースによれば)「被告人はプロジェクトを管理する立場で、違法行為を阻止すべき義務があったことは明らか。明確に反対しなかったのは、一種のお墨付きに等しく、部下らに賄賂を渡しやすくした」とのこと。

たしか一審では「贈賄もやむをえない」との当取締役の承諾がいつなされたのか、関係者の証言に食い違いがあるために、実行者の証言の信用性が争点になっていたはずです(検察は「ザックリ言って〇〇ころ」と特定しましたが、一審判決では「そんなザックリな特定はダメ、しかし関係証拠からみて△△日に承諾があった」と認定していました)。共同正犯を認定するには、高裁では、このあたりの客観的な証拠に乏しかったものと思われます。

2018年11月7日の当ブログエントリー「日本版司法取引の運用は本当に客観証拠中心主義か?」において懸念していたとおりの結果になりました。日本版司法取引の実施にあたっては、日弁連あたりからも「無実の第三者を冤罪に巻き込む危険性がある」と指摘されていましたが、第1号案件から、(無実ではありませんが)この懸念が現実のものとなってしまったようです。贈賄の実行者の証言を積み上げる中で、どうしても経営陣まで摘発したい、との正義感から(?)、司法取引の合意に至る前の法人であるMHPSと検察とのコミュニケーションに無理が生じたものと思われます。

おそらく最高検察庁を中心に、急いで対応を検討しているものと思いますが、元取締役側の弁護人としては「してやったり」というところはないでしょうか。もし、今後のグレッグ・ケリー被告人の刑事事件で同様の事態となれば、もはや検察の威信はかなりヤバいことになってしまいます(いや、検察だけでなく日産もヤバいことになりますよね)。

ところで本論からは逸脱しますが、(仮に共同正犯とは認められなかった場合に)海外公務員への贈賄の可能性(将来的に、自分の部下が外国公務員に賄賂を提供する可能性)を知った取締役が「見て見ぬふりをした」だけで犯罪(実行者への精神的な支援を行ったこと)になるのでしょうかね?

もちろん、実行犯と取締役との関係性なども考慮されるものと思いますが(本件では実行者は執行役員や部長さん)、不正を見て見ぬふりをしただけで「ほう助犯」(犯罪)が成立するとなれば、取締役は通常「不正を阻止すべき義務ある者」なので、多くの役員の方々へ脅威となるのではないかと(A取締役、B監査役は、私が不正に走ることをうすうす知っていながら何も言いませんでした。ということは、会社のために不正をあえて犯す私を後押ししてくれているのだ!と思いました・・・等)。

ましてや、当該取締役の方は(実行犯とされる部下の方々に対して)「大型クレーンを使って資材を陸揚げするなどの代替手段を提案したり、会議の後に自分自身でタイに精通している社員に相談に行ったり」していたので、むしろ違法行為を回避するための努力をしていたそうですが、それでも「ほう助」に該当してしまうのでしょうか。判決全文を読まないと正確なところはわかりませんが、果たしてこういった場合に「ほう助」の故意があるとされるのかどうか疑問ですし、そもそも「見て見ぬふりをすること」が、不正行為を容易にするための「ほう助」という実行行為と評価できるのかどうか疑問も残ります。

本件では、検察と司法取引を行った(合意内容書面を締結した)のは法人であるMHPS社です。立件されたのは上記取締役のほかに執行役員と部長(いずれも判決確定で懲役刑-執行猶予)です。法律的には様々な論点がありますが、いずれにしましても、これは早く判決全文が読みたいところです。おそらく「最近の下級審判決」として、最高裁のHPに近々掲載されることが予想されますね。

| | コメント (2)

2020年7月20日 (月)

半沢直樹・新シリーズにみる「創業者内紛リスク」のおそろしさ

久しぶりの半沢直樹・新シリーズの第一話を楽しく視聴しました。銀行系列のグループ会社における出向組とプロパー組との確執等、「楽しく」視聴できない方もいらっしゃるかもしれませんが、やっぱり「倍返し」のドラマストーリーは面白い。今後の展開がとても楽しみです。

ところで今回のシリーズはIT企業(上場企業)間における「TOBによる敵対的買収」を巡る人間模様が描かれていますが、ライバル会社が突如30%を保有する大株主として登場する原因が、対象会社における創業者(共同経営者)間における内紛(ライバル会社への株式譲渡)によるものでして、これもなかなかリアルです。

現在進行形の事例としてはコロワイドによる大戸屋への敵対的TOBなどは代表的なものですし、昨年のコクヨによるぺんてる株式取得なども(ファンドが途中で関与しているものの)同様な事例かと思われます。事業規模が大きくなったり、創業者の代替わりによって共同経営者の数が増えたりすることで内紛が表面化する事案にときどき関与しますが、「資本市場の効率性」が重視される現在の経営環境のもとでは、創業者内紛リスクがどのような有事に発展していくのか、経営者としても注視しておく必要性が高まっているように思います。

なお、一方で「創業者内紛リスク」を巧妙に利用して、現経営陣が創業家の力を低下させることも考えられます。先日、朝日新聞社創業家の方の生涯を綴った「最後の社主-朝日新聞が秘封した『御影の令嬢』へのレクイエム」を読みましたが、創業家における(内紛とまでは言いませんが)経営関与への見解の相違を巧みにかぎ取り、会社側が保有比率を次第に減少させていく様子はなかなかおそろしいものでした。

ちなみに「創業家の内紛リスク」と書きましたが、私が弁護士の駆け出しのころ、資産家の3兄弟が相続争いで長年もめていて、バブルの最中にも決着がつかず、決着がついたころにはすでにバブルが崩壊していたために、多くの資産をそのまま次世代に残せた・・・という事例がありました。おそらく仲が良かったら皆さんバブルに沈んでいたことが予想されましたので、内紛=リスク、とまでは言えないのかもしれません。

日本にも100年近くにわたって創業家が株式を(ほぼすべて)保有する大きな非公開会社が(様々な業界において)存在しますが、こういった「内紛リスク」の顕在化例をみていますと、長年にわたって創業家一族の結束が継続する、ということはホントにスゴいことだなぁと感心するばかりです。

| | コメント (0)

2020年7月17日 (金)

もはや「ESGおじさん」「SDGsおばさん」と揶揄できる時代ではなくなった(・・・ような気がする)

001

このたびのパンデミックを契機として、会計監査も「リモート監査の時代になる」といった、とても威勢のいいことが報じられています。ただ、記事をよく読むと「これって企業側も監査資料のデジタル化のためにずいぶんと協力する必要があるよなぁ」といった感想を持ちます。

会計監査人が会社に来ない、ということは、必然的に企業とのコミュニケーションが不足します。会社側が「あれ、去年までの会計処理がなぜ今年は認められないの?」といった事態に突然遭遇し、よくわからないままに「うちの品質管理部の方針なので」と言われても、コミュニケーション不足では納得できる説明も期待できず、結局のところ信頼関係も失われかねません。もし「リモート監査」を本格化させるのであれば、リモート状況でコミュニケーション能力を高めるという「二律背反」の課題をどう克服するのか、そこを真摯に検討する必要があるように思います(以下本題です)。

さて、本日(7月16日)夕方の日経WEBニュースでは「SDGsに積極姿勢、企業の2割に 帝国データ調査」と題する記事が配信されています。帝国データバンクが実施したSDGsに関する企業調査によりますと、2割強の企業がSDGsに積極的な姿勢を示しているそうです。なお、配信の元ネタである帝国データバンクの調査結果はこちらです。

業種別にみると金融が42%と最多で、製造業が29%。SDGsへの対応が企業の社会的評価の向上に不可欠になりつつあるなか、大企業と中小企業の間で対応に差も生まれており、今後の課題になりそう、とのこと。たしかに、「まだまだ2割しかSDGsに関心を示していない」ともとれそうですが、先日ご紹介したみずほFGの株主総会の様子をみておりましても、、もはやESG経営を軽視している時代ではなくなったと痛感します。

ESG経営に向けた資源の導入が、どれほど企業業績に影響を及ぼすのか、いろいろと意見が分かれるところではありますが、上図(当ブログ管理人作成)に示すとおり、同業他社との競争条件(ハードル)を低くして、競争を優位に進めるためには(資源導入も)避けられないところまでは来ているように思います(なお、上図は単に私のイメージ図にすぎません)。

★★★★★★★

ところで、最近のESGの話題としては、①海外機関投資家や金融機関との対話においてサステナビリティ(持続性)への評価指標として重宝されていること、②コロナウイルス感染症によるパンデミックのもとで、社会的な課題を解決する企業としての評価が高まることと等が、しばしば指摘されるところです(もちろん、統合報告書等における上手な情報開示の能力も問われていますが)。ただ、コンプライアンス経営を支援する仕事をしておりますと、どうもESGやSDGsという名目が、一定の経営目的を達成するうえで(良くも悪くも)巧妙に活用されている場面に遭遇します。

たとえばグループ経営管理やサプライチェーン管理の場面です。日本の会社法は単体中心の規律なので、企業集団の規制やステークホルダーへの配慮(社会的責任論)は会社法規制の枠外にあります(内部統制という概念は、いちおう企業集団にもありますが)。そこで、最近はSDGsやビジネスと人権に関する指導原則等を活用してグループ内のコンプライアンスルールを定めたり、取引におけるエシックス・コードの順守を求めることが増えています。

リスクマネジメント全般ではありませんが、少なくとも企業集団のトップとしては、グループやステークホルダー全体のコンプライアンスへの配慮義務を尽くすためのツールとしての「ESGの意義」は次第に大きくなっているように思います。つまり「結合企業法制が存在しない」といった法の欠缺を、ESGやSDGsの精神が補完する役割を担っている、と考えられます。これまでは国の力ではコントロールできないほど力の大きなプラットフォーマーが出現したために、国際間協調ルールとしてESGの精神が活用されるケースが多かったと思いますが、ローカルの場面でも活用されるケースは今後も増えるように予想しています。

ただ、一方において、ESGやSDGsの精神の名のもとに、実質的な下請いじめ、優越的地位の濫用、カルテル、特許侵害等の隠ぺいが横行していることにも注意が必要と考えます。親会社と同じレベルの環境基準を(人的資源の不足している)グループ会社や取引先に要請することは、相手先企業の労働への負荷を助長することになり、また環境技術に関する研究会と題して、実際には販売価格に関する協議会が仮装されていたり、オープンイノベーションの美名のもとで知財の使用許諾を強要する実態なども見受けられます(明らかな法令違反ではないが、私はコンプライアンス違反だと思います)。上記日経の記事では「大企業と中小企業との姿勢の差が大きい」とありましたが、私は大企業がESG経営を推進することで、中小企業にしわ寄せが及ぶことに不安を感じます。

かつてCSR担当部署に長年在籍している社員の方々に向けて、「業績に何の責任も感じずに、社内できれいごとを並べて警鐘を鳴らす人たちはいいよねぇ」といった意味を込めて「ESGおじさん」とか「SDGsおばさん」と揶揄する声も聞かれましたが、今後は(企業の真意はどこにあるのかはわかりませんが)そういったインテグリティ溢れる真摯な職務については、様々な場面で活用される機会が増えるのではないでしょうか。今年は「ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)」も日本で公表される予定です。益々投資家からESG経営に対する姿勢に注目が集まるはずです。

また、旧来の「ESGおじさん」「SDGsおばさん」に加えて、経営環境の変化にも耐えうるレジリエンスこそ競争優位の条件と認識されている今こそ、ESGに熱心であることから生じる「無形資産」や熱心でないことから生じる「負債」への定量的評価に注力する(新しいタイプの?)「ESGおじさん」が重宝されるかもしれません。上記帝国データバンクのアンケート講評でも「課題」とされていますが、やはり資源導入と企業の価値向上との「つながり」がわかりやすく説明できることが、ヤル気を起こすことになるのでしょう。

| | コメント (1)

2020年7月15日 (水)

今の東芝には「オオカミ少年」になれる取締役が必要ではないか

ここのところ、東京の企業さんからリモート形式での役員セミナー等のお問い合わせを受けることが増えました。打ち合わせもZoomやTeamsで行うのですが、なんとか担当者の方々ともコミュニケーションをとれそうなので、ウェブセミナー形式も前向きに対応したいと思います。また、ご用命がございましたらご連絡をお待ち申し上げております(以上、広報おわり・・)。

7月14日の日経朝刊13面に「東芝 エフィッシモに打診-法令順守の有識者会議に参加」との記事が掲載されています。当ブログでもご紹介したとおり、アクティビストファンドであるエフィッシモは、東芝のコンプライアンス経営が不十分として、3名の社外取締役の選任を株主提案しています。これに対して、東芝側は有識者会議を設置して(すでに内部統制やコンプライアンス経営に詳しい有識者の方々を選任していますが)、エフィッシモが推進する取締役候補者の方々に、こちらの会議体のメンバーとして迎え入れることを打診しているそうです。いわば東芝側からの和解的な提案かと思われます。

上記報道によれば、この提案についてエフィッシモ側は難色を示している、とこのと。有識者会議のメンバーも重要かもしれませんが、今の東芝にはコンプライアンス経営強化のための「独立取締役の選任が必要」と判断しているものと考えられます。なお、上記記事では「今後も(東芝とエフィッシモとの間で)水面下での調整が続く」とありますので、今後のエフィッシモ側の動向については、私は全く知る由もありません。また、私が尊敬申し上げる古田先生(元最高裁判事)と太田氏(私からみれば元日本監査役協会会長)によるインタビュー記事(こちらの東洋経済の会社側大反論)も、会社側の反対意見がよくわかるので、とても参考になります。

全くの野次馬である私からしますと、本件については、東芝が指名委員会等設置会社の機関形態をとること、最近、内部監査部門の大幅増員によって内部監査機能の強化を図ることを決定したこと、そしてグループ会社の不正リスク管理の在り方との関連で、取締役会の構成を検討する必要があると思います。監査役のいない、つまり取締役監査委員で構成された東芝の監査部門は、必然的に内部統制システムを活用した監査活動を中心とせざるを得ない。東芝に常勤社外監査委員の方がいらっしゃるとしても、理屈は同じかと思います。内部監査部門が大幅に強化されるわけですから(たとえ内部監査部門が社長直轄の部署だとしても)、監査委員会の権限強化のためにも内部監査部門との連携強化が望まれるところです。とりわけ今回はグループ会社で発生した不正事案なので、監査委員会の体制強化にも一理あるように思います。

ところで東芝は「指名委員会等設置会社」としての長い歴史を有する会社です。5年前の会計不正事件を契機として、少数だった社外取締役を大幅に増員して、モニタリングモデルとしての指名委員会等設置会社の強化を図ったものと思います。社外取締役にも、(会計不正事件時の第三者委員会報告書の提言を反映して)本当に立派な方が多いことは間違いない。ただ、内部監査部門が強化され、実質的に内部統制システムを活用する監査が充実するとなれば、「オオカミ少年」になりきれる人が取締役に必要ではないかと考えます。今まで東芝の役員には「オオカミ少年」になりきれる方がいらっしゃらなかったのではないか。エフィッシモ側の取締役候補者の方々には失礼な物言いで恐縮ですが「いざというときに、組織のために恥をかける人」「その言動から、能力面において誤解を受けることにも臆さない人」こそ、グループ会社を含めた経営管理に必要ではないか。「攻め」だけでなく「守り」の面でもリスクテイクできる人が必要ではないかと。

今朝の日経でも「空売り規制が粉飾事件の抑止を不全にした」といった事例が(一目均衡で)報じられていましたが、以前にも述べたようにエンロン事件の発端となったのも空売り専門の運用会社の(世間的にはかなり批判されていた)行動でした。今の東芝の取締役候補者は「正解を導く能力」に長けた人たちで構成されていますが、「現場情報から仮説を立てて、(たとえバカにされても)あるべき東芝の姿からみた問題を提案できる人」が不足しているように思えてなりません(これは関西電力の取締役候補者の方々にも共通しているように思いました)。

上記日経の記事で、東芝の取締役会議長の方が「コンプライアンス経営という意味では9割はやってきたつもりだが、まだ外からは信用されていない。不正会計以降の東芝の信用回復はまだ50パーセントくらいだろう」と回答されています。一番近くで東芝のガバナンスを理解している方からすれば「東芝のために役に立つ」という視点ではほぼ完成型なのかもしれませんが「東芝のガバナンスにとって意味がある」という視点ではまだまだ不足していると思います。ここに「信用回復という点では5割に映る」原因があるのではないでしょうか。まさに有識者会議の構成メンバーということだけでなく、増強された内部監査部門と連携して組織風土を変える可能性を世間に知らしめる社外取締役だからこそ「意味がある」のではないかと。

| | コメント (3)

2020年7月13日 (月)

上場会社の役員報酬はダブルチェックの時代が到来する(令和元年改正会社法)

7月12日の日経朝刊1面に「株で役員報酬 導入5割増しーJT・三井不動産など800社 株主視点の経営促す」との記事が掲載されています。今年6月末の時点で、自社の現物株を役員報酬として付与する企業が過去1年間で5割増え、上場企業全体の2割に達したそうです。コーポレートガバナンス・コードでも業績連動報酬の導入が推奨されていますが、コードを遵守する姿勢により、中長期的に株価を高める経営を行うよう役員に動機づける狙いがある、とのこと。

しかしソフトローだけでなく、ハードローの改正によって、さらに役員報酬制度は大きく変わります。当該記事の末尾にも記載されているとおり、役員報酬制度の改正は、このたびの令和元年改正会社法の改正の重要項目であり、実務に大きな影響を及ぼすものとされています。

上記記事で紹介されているような特定譲渡制限付き株式(リスクリクテッドストック、いわゆる「RS」と称されるもの)も、これまでは報酬総額の範囲内であれば、取締役会が自由に交付することができたわけですが、改正会社法のもとでは、株式や新株予約権の内容(上限と政令で定める事項、たとえば交付条件等)を株主総会が決めることになります。有価証券報告書だけでなく、事業報告でも「役員報酬等の決定方針に関する事項も開示されることになりますので、(役員報酬の総額が妥当かどうか、ということだけでなく)ようやく個々の役員の報酬が妥当なのかどうか、株主総会で議論される時代になります。

また、「役員報酬等の決定方針」の決定は、特定の取締役に委任することはできず、かならず取締役会で決定しなければなりません(主に上場会社である監査役会設置会社、監査等委員会設置会社)。個々の取締役の報酬決定を代表取締役に一任する(株主総会からみれば「再一任」になりますが)ことを決議することも可能ですが、そういった再一任するかどうか、報酬委員会があれば当該再一任にどのように関与するのか、といったことも「決定方針」として取締役会で決議することになります。とりわけ自社の現物株を役員報酬として付与することになれば、決定方針との関係で、そのような報酬を付与することが整合性があるのかどうかきちんと各取締役が理解したうえで、審議されることになるので、取締役会としての監督機能も発揮されることが期待されます。

実際のところ、金銭と現物株との比率(なぜ当該比率が短期ではなく長期的な成長のインセンティブとなりうるのか)、交付条件を判断するKPIとして、なぜ当該項目を選択したのか、業績ではなくESG経営の推進に寄与したことはどうやって判断するのか等、事前交付型のインセンティブ報酬はむずかしい判断を含みます。令和元年改正会社法の施行後は、株主から「当該プランに合理性があるかどうか」厳しくチェックされることになるので、その前提として実質的な議論が取締役会でなされる必要があります。監査等委員会設置会社の場合には、(個別の役員の報酬金額について意見形成義務を有する)取締役監査等委員の関与(判断過程)についても、株主から質問が来るでしょうね。

以前にも述べましたが、平成30年9月29日東京高裁判決(ユーシン社株主代表訴訟判決)は、役員報酬の決定過程や判断内容に明らかに不合理な点があれば、取締役の善管注意義務違反となりうることを明示しています。これは現行会社法のもとでの判断ですが、令和元年改正会社法のもとで、役員報酬の決定方針が決議され、また現物株を報酬とすることの相当な理由(業績連動報酬を採用することの相当な理由)が総会で示されるようになれば、さらに善管注意義務を尽くすべき範囲も広がるものと思われます。ということで、今回の会社法改正(施行はおおむね2021年5月ころ)によって、上場会社の役員報酬の決定過程は株主総会の取締役会によるダブルチェックのもとで、実務は大きく変わるものと予想しています。

経営陣にとって一番触れてほしくないのが「社長人事、役員報酬、株式持ち合い」ですが、社外取締役の活動自体を機関投資家が監視するような制度運用がなされるとなれば、もはやタブーとされる領域はどんどんなくなっていくのかもしれませんね(逆に取締役会の監視機能が高まることによって、皮肉にも「報酬諮問委員会」自体が経営者の隠れ蓑になってしまう、というおそれもありそうな気がいたします・・・「私の報酬は報酬委員会からお墨付きをもらっているのだから」といった言い訳が増えそうな気がします)

| | コメント (0)

2020年7月10日 (金)

ファミマ、大戸屋TOBで上場子会社に思惑買い-親会社側取締役の善管注意義務

7月9日夕方の日経WEBニュース「上場子会社に思惑買い ファミマ・大戸屋はストップ高」なる見出しで、同日の東京株式市場では上場子会社に思惑買いが広がったことが報じられています。外食大手のコロワイドが大戸屋ホールディングス(HD)に、伊藤忠商事がファミリーマートに対してTOB(株式公開買い付け)が行われるとのリリースで両社の株価が急伸しました。そこで、ローソンなど上場子会社株全体がグループ再編期待から株価が上昇。親子上場の解消は今後も増える見通しで、上昇傾向は中長期的に続く可能性がある、とのこと。

コロナ禍において証券市場の効率性が高まることは予想されるところであり、伊藤忠商事やコロワイドのような経営戦略が今後も増えることは間違いないと思っています。しかし事業の切り出し、つまり上場子会社を持つ親会社が、子会社株式を売却するような経営戦略も今後増えていくものと市場は想定している、ということのようです。この方向性は、経産省・事業再編研究会からもうすぐ公表される「事業再編実務指針-事業ポートフォリオと組織の変革に向けて-」とも合致するところです。

また正式版がリリースされた時点で詳しく検討したいと思いますが、上記「事業再編実務指針(案)」では、たとえば事業の切り出し(子会社株式の売却等の事業売却やスピンオフ等を想定)に関して、これを検討する親会社取締役の行動規範(善管注意義務)にまで踏み込んだ内容が含まれています。コングロマリット・プレミアムが生じているのであればよいのですが、いわゆるコングロマリット・ディスカウントが生じている状況であれば、社外取締役や経営陣が何らの対応もとらない、というのは善管注意義務を尽くしていないとの評価を受けかねない、とのこと。もはや取締役会や任意の委員会等できちんとした議論をすることが当然、ということで、このあたりは昨年6月に策定された「グループガバナンスの実務指針」の流れに沿った内容です。

たとえば今年2月のエントリー「浸透するか?-ガバナンス改革3.0と上場子会社が目指す『アスクルモデル』」でもご紹介したように、親子上場問題では、上場子会社側の取締役さんの善管注意義務(親会社との利益相反状況における行動指針等)に焦点があたることが多かったと思うのですが、今後は上場子会社を持つ親会社の取締役さんの善管注意義務も注目されることになる、ということでしょうか。先々週、私が役員を務める会社の株主総会で、私が受けた質問内容を(こちらのエントリーにて)ご紹介しましたが、そこでも上場子会社(東証1部)との関係についてご質問を受け、金商法や東証のディスクロージャ-・ルールに反しない範囲で検討経緯をお話しいたしました。

ただ、事業の切り出しについては、上記「事業再編実務指針(案)」でも課題として取り上げられているように、日本的雇用慣行のなかで、切り出される事業の従業員の方々に、どう納得してもらえるのかとても悩むところであり、だからこそ日本では事業売却が進まない、というのも当然のことだと思います。相談役や顧問の方が経営トップだった時代に買収した事業、創業家の方々の諸事情の理由から「赤字でも抱えている」事業等、誰かが言い出さないと取締役会で議論することすらタブー、という問題もあります。その他、リーガルリスクという視点ではブランド、企業秘密、特許権等の知財の保護という問題もあります。

資本効率を上げる、という企業統治改革の流れとか、親子解消のメリット・デメリットを比較する、といった教科書的な行動だけでは事業の売却はうまくいかない、つまり株主の期待や機関投資家からの圧力への対応だけで決断できるような問題ではない。むしろ(事業切り出しという問題以前に)取締役会で何を議論しているのか(本当に「経営方針の決定」を議論しているのか)、といった普段の取締役会の在り方とか、親子関係についての歴史を十分に理解して、子会社側の意見を十分に聞くことに注力すること等、かなり労力を要するプロセスを踏んでいるかどうかが成否を分ける決め手ではないか。私自身の経験からは、そのように感じます。

| | コメント (0)

2020年7月 8日 (水)

KAM(監査上の主要な検討課題)導入は監査法人と監査役等だけで盛り上がってはいけない

当ブログも2005年から始まり、もう16年目に突入しておりますが、当ブログでこれまで一番盛り上がったネタといえば2006年から2009年ころにかけて、いわゆる「財務報告内部統制(J-SOX)」の準備期から施行初年度あたりでした。毎日のコメントが30通~50通ということで、私がコメントを一括してアップしていた時期もありました(金融庁批判のエゲツないコメントも含めて)。

そして2021年3月期の金商法監査において、またKAM(監査上の主要な検討課題)開示という新たな制度が強制導入されるわけですが(企業会計審議会、改訂監査基準 第四報告基準二2【2】)、「J-SOX狂騒曲」の最中に身を置いた者として、ぜひとも経営者の「やっつけ仕事」にならないように制度全体を盛り上げる必要性は高いものと考えております。

最近の「週刊経営財務」や「月刊監査役」などのKAMに関する特集記事等を読んでおりまして危惧しているのが「監査役や監査法人は盛り上がっているけど、主役にならないといけない経営者や投資家は盛り上がっているのか?」という温度差に関する懸念です。うーーーん、これって14、5年前のデジャヴ(既視感)ではないのかな・・・。

前にも一度ご紹介しましたが、週刊経営財務3396号(2019年2月18日号)の座談会記事「KAMをより意義あるものとするためには何が必要か」は、ここ数年の同誌の記事の中で最高傑作だと思っております。三菱商事代表取締役、日本電気監査役、そして日本公認会計士協会の常務理事3名のバトル(と申し上げてもまったく誇張ではないはず)は、立場の違いが「KAMへの想い」に如実に出ていて非常に勉強になりました(すいません、個人的には三菱商事の方にとてもシンパシーを感じました)。「投資家や株主といった監査報告書の利用者に監査の透明性の向上を図ることが一義的な目的」(日本監査役協会 Q&A集・統合版」5頁)とするのであれば、今期から強制適用されるKAMを、監査人や監査役等だけでなく、経営者や投資家の共有資産として活用しなければならないと思います。

しかし、その役割は誰が背負うのでしょうか。金融庁でしょうか、それとも東証でしょうか。J-SOXの時は金融庁や東証が積極的に広報して、(私も法曹代表として参加しましたが)「ラウンドテーブル」なども開催されました。それなりに効果はあったと思いますが、結局のところ内部統制報告書の中身は「金太郎飴化(またの名を「ボイラープレート化)」してしまいました。経営者にとっては、毎年の恒例行事となり、「やっつけ仕事」となり、不正が起きれば「内部統制はいったん有効としておいて、後から訂正すればよい」という実務慣行が定着してしまいました。これでは悲しい・・・。

ということで、監査役等(監査委員、監査等委員の取締役の方も含めて)の立場から言わせてもらえば、KAMの導入にあたり、監査役等は通訳(調整役)に徹するのが最も現実的な役割ではないでしょうか。たしかに制度上は監査人と並んで監査役等は主役です。しかし表舞台に経営者と投資家を引っ張り出してこなければならない。上記経営財務の座談会でも浮き彫りになりましたが、KAMへの期待ギャップを明らかにして、そのギャップを埋める役割を監査役等が担う必要があると思います。

「そんなことだったら有報の『事業上のリスク』の開示で足りるではないか」「そんなこと書いたら会社の不正が疑われるやないか。信用毀損も甚だしいではないか」「よくわからない監査過程を開示するくらいなら、もっと投資家に有益な情報を開示規制で増やせばいいではないか」といった意見に、監査役等が応える役割を担うべきです。

7月6日、某上場会社が「当社の無形固定資産の減損リスクに関する新潮社の記事はけしからん!訴えてやるぞ!」とご立腹のリリースを出しておられましたが、のれん等の無形固定資産の減損や引当金の合理性、繰延税金資産の評価、子会社株式評価、収益認識の基準等、「俺が会計基準だ」と自信満々の経営者はたくさんいらっしゃいます。KAM開示は「アラート開示」だと認識されている経営者もたくさんおられると思うのです。そのような現実を冷静に見つめて、監査人も経営者もお互いに譲歩して、最終的には投資家のための制度であることを理解したうえで制度を運用する必要があります(そういった譲歩をしたとしても、法的リスクの顕在化にはつながらないことの支援を法律家もすべきだと思います)。

すでに海外では「コロナ禍が事業に及ぼす影響を監査人がどうみているのか、KAMとして開示せよ」と当局が指導しているそうです。監査人と監査役等で盛り上がりたい気持ちもわかるのですが、KAM開示の制度を広く関係者の共有資産として、資本市場及び投資家の監査制度に関する信頼を向上させることができれば良いなぁと、ひそかに期待しております。そのためには関係者それぞれが「ほんのすこしずつ譲歩する勇気」が必要ではないでしょうか。

| | コメント (1)

2020年7月 6日 (月)

7月末開催の東芝の定時株主総会-ECMの株主提案に注目します

今年の定時株主総会はまだまだ注目すべき会社がありますね。その中でも7月末の東芝の総会が気になっております。7月3日付けの日経ビジネスWEBニュース「改正外為法の審査厭わず エフィッシモ、東芝に株主提案」に、エフィッシモ・キャピタル・マネジメント(ECM)の法務アドバイザー(国広正弁護士)と取締役候補者である杉山氏のインタビューの内容が掲載されています。

すでに「ECMが3名の候補者を選任する理由」を示したリリース(6月22日付け「第181期定時株主総会の開催及び株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ)でも記載されているとおり、ECM及び取締役候補者は、決して会社側取締役候補者を批判するのではなく、会社の推薦する候補者が取締役会の構成メンバーとなった場合に、同社取締役会の機能を補完するにふさわしい候補者であることを前面に出しています。

東芝の定款によると、同社取締役の人数は20名以下、ということなので、会社側議案、もうひとつの株主議案と合わせても(候補者全員の選任が可決されても)17名なので、議案は両立します。会社側は「リスク管理体制はこれで十分だと思っているので株主提案には反対」としていますが、コンプライアンスやガバナンスに精通された方々が候補者となり、しかも「言行一致」といいますかECMの本気度を示すためにECMの役員自身が社外取締役候補者に名を連ねるというスタイルは、かなり斬新ですね。議決権行使助言会社や機関投資家がどのような判断を示すのか、とても興味深いところです。

ご承知のとおり、社外取締役に期待されるのは取締役会における監督機能の発揮、ということですが、どうしても不足してしまうのが「監督に必要な情報を収集する機能」です。「十分なフットワークを備えたハンズオンのモニタリングを行う」ことができる、というのは、不足しがちな情報を収集し、「おかしい」と声を上げることができるだけの内部統制の体制を構築するためには有用な職務行為です。

なお、「そのような業務執行に近いことが、果たして社外取締役に求められているのか」といった疑問の声も上がるかもしれません。ただ、令和元年改正会社法でも「社外取締役への業務執行の委託」に関する条文が新設されますが、業務執行取締役の指揮命令系統に属さないものであれば、たとえ社外取締役が業務執行を担ったとしても会社法2条15号イの趣旨に反することにはならず、むしろ、投資家の期待に応えうる機能を発揮できると考えられます。

東芝は指名委員会等設置会社ですから、そもそも不正の早期発見のためには内部統制を活用する、つまり社員を育成することによって「おかしい」と声を上げる雰囲気、不正発見に必要な調査スキルを向上させることが望ましいと思います。しかし、会計不正事件が発覚した際、東芝の優秀な社員で組織されていた「経営監査部」は、現場の効率性を上げるための指導機能ばかりに注力し、「おかしい」と声を上げるための保証機能を発揮することはなかったそうです(そりゃそうです。いくら声を上げても人事評価につながりにくいからです)。

ということで、独立性の高い人が社内調査や不正予防や発見のために必要な情報収集を促すことは、まさに架空循環取引のような組織の儲けとウラオモテの関係に立つ不正の再発防止にはとても有用ではないかと思います。コーポレートガバナンス・コード補充原則4-3④では「取締役会は、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない」とありますが、取締役会で取り上げるべきコンプライアンス上の問題とそうでない問題を(社内バイアスを排除して)整理する役割は誰かが担わねばならないと考えます。

また、東芝の米国子会社ウエスティングハウス社の損失問題を契機として東証の「上場会社の企業不祥事予防のプリンシプル」が策定され、グループ管理としてのプリンシプル(原則5)への対応も求められているなかで、東芝の子会社では何度か不祥事が繰り返されています。このようなプリンシプルへの対応にも配慮しなければならないでしょう。

なお、外資による日本企業への出資規制を強化する改正外為法とアクティビストファンドの権利行使との関係は、ZAITEN2020年8月号にも詳しく解説記事が掲載されていますね。「旧村上ファンド系」と言われて久しいECMですが、提案内容、提案理由とも至極まともですし、どれくらいの賛成票が集まるのか、今からとても注目しております。

| | コメント (0)

2020年7月 3日 (金)

やっぱり不思議?( ゚Д゚)コロナ禍における6月定時株主総会には瑕疵があるのではないか?

今年は数社の上場会社さんから「有事の定時株主総会」としてご相談を受け、リモート会議でいろいろと考えるところがありました。いまでも6月総会は完全延期すべきだった、という意見は変わりませんが、現実的には(配当基準日の関係もあり)6月総会を多くの会社が実施しました。そして、終わってみると、やっぱり有事の定時株主総会には、どういうわけかスッキリしないものが残りました。

たとえばコニカミノルタ社のこちらのリリースを読むと、とてもスッキリするのです。株主総会への出席について、議決権の事前行使を推奨したうえで、当日の自粛要請をしています。まさに、今年の定時株主総会における運営としては典型的な対応ですね。そして、そのうえで当日の株主総会の様子をライブ中継するそうです(もちろん議決権を有する株主のみ閲覧可能)。

以前、株主総会への出席を一切許可しないような株主総会においては、かならず当日の総会の様子をライブ中継もしくは動画による録画配信が必要ではないか、と書きましたが、コニカミノルタ社のように、株主に対して定時株主総会への出席自粛を要請し、議決権の事前行使を推奨している上場会社であったとしても、やはり当日の株主総会の様子をライブ中継もしうは録画配信する必要があるのではないか、と思えてきました。

たとえば会社の自粛要請に従って、当日に(出席して)質問したいことについて、会社の運営に協力する形で事前質問状を出したとします。会社はこの事前質問に対して、誠意をもって総会当日に回答しました。しかし、質問をした当の本人は会社の要請どおりに出席していないのですから、ライブ中継もしくは録画配信でもなければ、取締役が説明責任を果たしたのかどうかすら確認できません。また、会社の要請に従った株主には、総会招集手続きや総会手続きに問題があったとしても、録画配信でもなければ、これを確認する機会が付与されていないのです。

会社側としては、「株主の皆様には、出席しようと思えばできたのだから、総会決議の取消事由の有無を確認する機会は付与されています。現に、当日は40名余りの株主の方々が現実に出席しておられました。したがって決議取消権は放棄したものと取り扱わせていただきます」といったことで対応するのかもしれません。

しかし、(例年の総会のように)株主の都合で議決権を事前に行使して総会に欠席したのであれば「決議の取消提訴権の放棄」と言われても仕方ありませんが、会社側の「たとえ健康状態に問題がなくても出席を控えよ」との要請によって当日は出席を断念し、議決権を事前に行使した株主に対して、すくなくとも会社側から「決議取消の提訴権の放棄の意思表示」を黙示に認めることはできないでしょう(たぶん裁判官も認めてくれないはず)。

会社法831条1項は、株主総会の招集手続きや決議の方法に、法令違反や著しく不公正な事由がある場合には、株主(1単位の株式保有でも可)は総会決議の取消を裁判所に求めることができる、と定めています。たとえば過去の判例では、他の株主にとっての瑕疵を根拠として総会決議の取消の提訴権を行使することもできるとしていますし(最高裁判決昭和42年9月28日民集21巻7号1970頁)、また決議当時の株主に限らず、当該決議の後に株主になった者も取消の提訴権を行使できるとされています(新基本法コンメンタール「会社法3(第2版)」381頁)。

つまり、株主に決議取消の提訴権を認めたのは、株主に共益権の一種としての監督是正権を付与した趣旨である、と理解されています。そうだとすると、やはり会社側の出席自粛要請を受けて欠席をした株主に対しては、当該共益権の放棄の意思表示を推認することはできないと思います。

そう考えますと、先のコニカミノルタ社のような対応が必要になるわけですが、6月総会終了後に(株主限定で)当日の株主総会の様子をライブ中継または録画配信している上場会社はかなり少ないように思います。つまり、会社側が、株主の有する共益権(決議取消提訴権を前提とした監督是正権)を違法に侵害している、として総会手続きに瑕疵があるのではないか、との疑問が湧いてきます。そして、この発想は、今後「バーチャル株主総会」が会社法上で実現する過程においても、かならず考慮されなければならない論点ではないかと考えます。

なお、「たった1単位の議決権しか保有していない個人株主がガタガタ文句言ったとしても、会社法831条2項(裁判所による裁量棄却)で終わりでしょう」と言われて、議論の実益もないように思われるかもしれません。しかし、裁量棄却の規定は「株主総会の民主主義」が成り立つ場面(会社全体のために個々の株主が我慢する)で適用されるものであって、「株主総会の立憲主義」が成り立つ場面では適用されないでしょう。

ちなみに831条の総会決議取消提訴権は「立憲主義」に関わる規定です(他の株主の利益ために、一人の株主に会社全体の監督是正権を認めたもの)。したがって多数決原理(=会社運営の効率性重視)をもってしても制限できない権利です。だからこそ、会社側の自粛要請に真摯に対応した株主の方々にこそ、この権利は最大限尊重する必要があるように思います。

| | コメント (1)

2020年7月 2日 (木)

社外取締役の業務執行-外部からの評価基準となりうるか

このところのタイガースの戦いぶりをみていて「例年通りに開幕していたら、阪急阪神ホールディングスの株主総会は大荒れになっていたのではないか。藤浪のコロナ騒動どころではモノ言う株主は収まらなかったのではないか」と思わざるを得ません。東京ドームでさえ、半分は阪神ファンで埋まるわけですが、このチームは本当にファンのリアル観戦がなければ闘えないのではないか・・・と。あまりのふがいなさに言葉もありません💢

今週号の東洋経済(2020年7月4日号)では「なぜ取締役会に出席しない?-会社側の苦しい『言い訳』」と題する記事で、社外取締役・社外監査役(取締役監査等委員含む)の出席率ワーストランキング表が実名にて掲載されています(かなり厳しい記事ですね。。💦)。取締役会に3分の2は出席していてもランキング表に掲載されてしまうのですから、やはり最低でも(?)75%は出席しておかないとマズイのでしょうね。「そもそも忙しくて出席できないんだったら、早く辞めればいいじゃん」と言われたら、たしかにそうとしか言いようがありません。💧

ただ、私、比較的小さな上場会社のお手伝いをすることが多いこともあり、この表にランクイン(?)しておられる何名かの社外役員さんを存じ上げています。たしかに取締役会への出席率は悪いのかもしれませんが、中小の上場会社であるために、①指名・報酬委員会では中心的な役割を担っていたり、②内部通報の窓口を担当していたり、③大規模第三者割当における独立委員やM&A時の特別調査委員会委員をされていたり、④M&Aの相手方を見つけるために自らの人脈を辿って交渉にあたっている姿をお見かけします。かなりお安い報酬で「リスクを承知でここまでやるって、本当に頭が下がるな・・」と感心することもあります。

そういった方は、月1回取締役会に出席しておられる方よりも、ずいぶんと多くの時間と労力を当該会社のために費やしているわけです。この6年間で企業統治改革が進み、任意の委員会の構成員を含め、社外役員の担うべき役割が増加する傾向のなかで、社外役員の活動は取締役会の出席率だけでは到底評価できない状況に至りました。ただ、上記東洋経済の記事にもあるように、ほかの評価基準が存在しないのも事実であります。ちなみに「取締役会に出席せずして情報など得られるわけがない」とのご意見もありますが、社外役員が業務執行に関わることができれば必要な情報は執行担当者から入手できます。

その「社外役員の業務執行」についてでありますが、令和元年改正会社法348条の2は、株式会社が社外取締役を置いている場合において、(たとえば取締役会設置会社のケースでは)一定の条件のもとで会社の業務執行を社外取締役に委託することを認めています。会社法に詳しい方はご承知のとおり、この規定は「セーフハーバー・ルール」を定めたものであり、決して改正会社法348条の2で定めた場合以外には社外役員が業務執行に関与することができない、というわけではありません。

ところで「社外取締役を有効活用せよ」ということで、明文をもって社外取締役も業務執行ができる(正確には会社法2条15号イに記載された業務執行にはあたらない業務なら執行できる)、とされたわけですから、たとえば事業報告の「社外取締役の活動状況」によって、改正会社法348条の2によって委託された業務、その他、業務執行取締役の指揮命令系統に属さないために関与した業務の内容の概要を開示すればよいのではないでしょうか(委託された事案まで記載する必要はないと思うので、とくに会社のインサイダー情報が外部に漏れる、ということにもならないと思います)。企業統治改革の進展状況を、そのまま開示情報に反映させればよいのでは、と。

社外役員の職務の独立性については、多くの機関投資家が重視することは事実ですが、むしろ社外役員が関わった業務執行を明らかにして、その執行状況等が業務執行取締役の指揮監督下で行われたものではないことを開示したほうが、職務の独立性をアピールすることになるように思います。

なお、当ブログでは以前から何度も申し上げているとおり、会社法上の「社外取締役」ではない(東証にも独立役員として届出をしない)「社外取締役」さんもいらっしゃることを付言いたします。大手企業の社長経験者で、「俺は業務執行をやらせてもらうなら非常勤取締役になってもいいぞ」という方もいらっしゃるわけで、最初から非常勤業務執行取締役として活躍されています。リスクを共有する社外取締役なので(指揮監督される)社長・会長にもきわめて厳しい意見・提言をされます。攻めのガバナンスにも、守りのガバナンスにも、本当に役に立つ社外取締役さんというのは、そもそもオモテからはよくわからない「非常勤業務執行取締役」さんではないかな・・・・と思ったりもします。

| | コメント (1)

« 2020年6月 | トップページ | 2020年8月 »