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2020年8月29日 (土)

公益通報者保護法の「改正法Q&A」公表(消費者庁より)

8月28日、消費者庁より「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第 51 号)に関するQ&A(改正法Q&A)」が公表されております。「まだ頭出し程度のもの」とうのが個人的な感想ですが、改正法の施行時期(おおむね令和4年になる見込みであること)や公益通報への体制整備義務を果たすための措置の概要などが示されております。

なお、今回の法改正は内部通報と内部告発(外部通報)を通報者に選択させて「制度間競争」を促す意味もあるので、とりわけ事業者の監督官庁への通報保護がかなり重要になります。そういった意味ではQ&Aの最後に示されている行政機関の公益通報を受理する体制整備の措置についても注目されるところですね。

いずれにしても、常勤の従業員が301人以上の事業者に内部統制構築義務を定め、公益通報対応従事者には刑事罰付きの規律を設ける等、法律の性格まで大きく変わるものなので、施行までに検討すべき事項が多いはずです。

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2020年8月27日 (木)

宝印刷「Disclosure&IR」誌に論稿を掲載していただきました。

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このようなご時世に贅沢に思われるかもしれませんが、おそらく9月末頃までは、かなり忙しい日々を送ることになりそうです。諸々書きたいブログネタはあるのですが、書き込む時間的余裕がなさそうです。ということで本日も短めに拙稿のご紹介をさせていただきます。

投資家向けの宝印刷さんの機関誌「Disclosure&IR」におきまして「令和元年改正会社法が社外取締役制度に及ぼす影響」と題する論稿を掲載していただきました。99%の上場会社に社外取締役が就任している現状で、会社法が(公開大会社である監査役会設置会社に)1人以上の社外取締役の選任を義務付けることって、なんの意味があるの?といったご疑問にお答えする内容です。とりわけ、このたびの会社法が社外取締役の設置を義務付けた制度趣旨から、今後は真剣に投資家と会社との間における「期待ギャップ」を埋める努力をしなければならないことを説明しています。

さらに、このたびの改正により、社外取締役にも一定の条件のもとで業務執行権限が付与されます(セーフハーバー・ルールであることは横に置いといて)。私は社外取締役の報酬の多寡を論じるよりも、社外取締役の果たすべき機能を語るには、こちらを真剣に論じることが重要だと思います(実際に、会社法上の社外取締役ではないが、社長と一緒に業務を執行する非常勤社外取締役さんて結構いらっしゃいますよね)。取締役会の実効性評価を実施する企業が増えていますが、本当に評価制度を運用する気があるのであれば、各社外取締役がステークホルダーから期待されている役割を果たしているか、といった点も評価基準にすべきではないかと。

上記機関誌は一般の書店では販売しておりませんが、上場会社のご担当者の方々に広くお読みいただければ幸いです。しかし目次をご覧の通り、かなり興味深いテーマを取り扱う機関誌なので、一般の書店でも販売してくれないかなぁ、との感想を持ちますね。

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2020年8月25日 (火)

企業が「正義」に対して発言する時代

本業がかなり忙しい状況でして、あまりブログを書く時間もないので、短いお話をひとつだけ記しておきます。

日経新聞8月24日の朝刊に阪大の先生による「やさしい経済学-企業が発言する時代」なる小稿が掲載されています。以前であれば企業が政治的な態度を明確にすることはマーケティング上はタブーとされてきたが、現代では「沈黙は共犯」と受け止められるようになり、企業としては「正義」について発言しなければならない時代になった、とのこと。同日の読売新聞(会員記事)では、偶然にも「どうなる21世紀の『国際秩序』、無視できない「正義」の「経済」への影響力」なる特集記事が掲載されており、なるほど時代が変わり、企業も政治問題については何らかの発言が必要ということになったのかもしれません。

たしかに消費者やNPO団体から「御社は化粧品のCMで『ホワイトニング』『美白効果』なる言葉を多用しているが、今後も白いことが優越的との印象を与える当該言葉を広告等で利活用することを予定していますか?」との質問が飛んでくる、という話を耳にしました。これに「回答を控える」との返事を出すとすれば、差別を容認する企業ということで、グローバルな事業展開が困難になることも考えられます。「沈黙は金」どころか「沈黙は共犯」という時代となれば、今後は企業が「正義」に対して発言すること(発言せざるをえないこと)も増えるような気がいたします。

同業他社がどのような反応をするのか見極めてから発言しようとすると「日和見主義」と指摘されかねません。経営トップの思想信条に委ねる、というのも、組織の発言がコロコロ変わることになってしまいそうです。よって、こんな時代だからこそ「組織風土」に根差した企業倫理綱領、行動規範に基づく発言が必要になるものと思います。平時から考えておかねばならない課題のようです。

 

 

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2020年8月21日 (金)

コンフリクトの疑われる代理人を相手方は裁判で排除できる-特許権侵害事件・知財高裁決定の衝撃

本日は企業法務マニアの方しかご興味が湧かないお話しで恐縮ですが(しかも長い・・・)、私の周辺でとても話題になっている件。令和2年8月3日に知財高裁から出されたこちらの決定(訴訟行為の排除を求める申立ての却下決定に対する抗告事件)です。なぜ「知財高裁」かといいますと、基本の事件は塩野義製薬等が原告となって、薬品販売会社を相手に特許権侵害を訴えている事件だからです。

今回話題となっているのは、この「特許権侵害に基づく損害賠償」という基本事件に関する部分ではなく、原告である塩野義製薬側から「相手方の代理人に就任している弁護士を排除せよ」といった申立てがなされた部分(本件申立て事件)です。このたび、本件申立てが知財高裁で認められました。正確には「弁護士A及び弁護士Bは,基本事件につき,弁護士としての職務として相手方の訴訟代理をしてはならない」といった主文です。

そもそも職務上で信頼関係を築いている人と法律上対立している相手方の代理人になる、という弁護士の行為は弁護士倫理上問題であり、弁護士法や弁護士職務基本規程に反する行為となる可能性が高いわけです。そういった事実が認められるケースでは、仕事に直接影響を及ぼすようなペナルティ(たとえば弁護士法に基づく懲戒処分)が課せられます。

しかし、このたびの知財高裁の決定は、相手方には排除を申し立てる権利がある、としています。弁護士法や職務基本規程の規定は、単に弁護士職務の公正を維持するだけでなく、公正な職務を信頼する当事者の利益を保護する趣旨も含む(だから信頼に傷をつけられた当事者は裁判で争っている権利保護のためにも代理人の地位をはく奪できる)、とのこと。うーーん、これはいろんな場面で使えそうな予感がします。

もちろんコンフリが疑われる事件は最初から受任しなければよいわけです。東京の大手法律事務所では「コンフリ審査担当者」として、ベテランのパートナー弁護士が厳しくチェックしていることも事実です。ただ、そうは言っても受任した後に「え?これって利益相反じゃない?」といった疑いが生じる案件が出てくることもたしかにあります。本件の事案についても、だれがみても「おかしい」と判断できるような事案、でもなさそうです。正確なところはご自身で判決全文をお読みいただくこととして、概要だけを以下に記します。

塩野義製薬で10年ほど社内弁護士を務めておられたC弁護士が塩野義製薬を退職されたのですが、在職時は自社の知財戦略チームのリーダーだったそうです。このC弁護士が退職後、知財で有名な法律事務所に転職されることになりますが、当該法律事務所の別のA弁護士が本件の基本事件を争っている相手方の代理人に就任します。C弁護士が塩野義で知財戦略に関わっていることを知ったA弁護士は、(C弁護士の入所後)直ちに事務所内で徹底したチャイニーズウォールを敷いて、基本事件に関する情報が一切C弁護士に入らないような体制を整えます。最終的には事の重大性を認識してか、このC弁護士は入所1か月で当該法律事務所を退職することになりました。

相手方に(C弁護士が入所したとされる)当該法律事務所の弁護士が代理人に就く、ということを知った塩野義製薬はおそらく激怒して本件申立てに至ったものと推測されます。しかしながら原審は当該法律事務所が徹底した情報隔離の対策をとっていたことから(弁護士法、職務基本規程の細かい法律解釈は省きますが)当該法律事務所のA弁護士が就任できないわけではないとして申立てを却下しました。そして抗告審である知財高裁の判断は、ほほ同様の事実認定のもとで原審とは真逆の結論となりました。

たしかに当該法律事務所としては、C弁護士の入所を基本事件において有利に活用しよう、といった気持ちはなかったのかもしれません。しかし「外から見ればどう見えるか」「相手方が不当に権利を侵害されるという不安を抱くのは当然ではないか」といった価値判断から、知財高裁は基本事件の原告側に代理人排除権(?)を認めたことになります。

ということで、こういった決定が出た以上、いろんなことを考えてしまいます。たとえば海外の(法務社員が1000人以上在籍しているような)大企業が日本企業を相手に1000億円規模の裁判を仕掛ける、もしくは仕掛けられるといった事態となった場合、東京や大阪の大手法律事務所にくまなく「法律相談」に出かけて、「ではまた依頼するかもしれませんのでヨロシク!」といって相談料を支払ったとします。

そして相手方日本企業がいざ提訴された(提訴することを決議した)場合、いわゆる専門性の高い大手法律事務所は(すでに海外企業の相談に応じているので)コンフリの関係で日本企業の相談に応じられない、代理人になれない、たとえ就任したとしても海外企業はこの代理人を排除できる、結果として海外企業は日本での訴訟を有利に展開できる、ということになるのでしょうか?

いままでも上記のような話は笑い話として語られていたかもしれませんが、上記の知財高裁の決定が出た以上、弁護士自身の懲戒処分のリスクにとどまらず、相手方企業の訴訟リスクにまで発展する話になりそうです。ほかにもたくさん素朴な疑問が湧いてくるのではありますが、私個人としては、ぜひとも上記知財高裁の決定が最高裁では維持されるのか、変更されるのか、当事者の皆様に争っていただきたいと(ひそかに?)願っております。

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2020年8月19日 (水)

関西電力・役員報酬等補填問題調査報告書からみた「他社への教訓」

各メディアが報じているとおり、8月17日、関西電力は東日本大震災後の経営不振で減額した役員報酬等を補填していた問題で、社内に設置したコンプライアンス委員会主導による調査報告書を開示しました(役員退任後の嘱託等の報酬に関するコンプライアンス委員会の調査結果について)。関電の信用回復のためには、私は金品受領問題よりも役員報酬等補填問題のほうが重大と考えておりましたので、さっそく調査報告書の全文を読みました。

役員退任後の嘱託報酬が「役員報酬の後払い」と評価されるのか、報酬支払に関与していた経営陣の方々に善管注意義務違反が認められるのか、といった法的評価についてのコメントは控えさせていただきますが、認定された事実から、私は以下のような感想をもちました。かんぽ生命の不適切販売に関する追加報告書と同様、本報告書にも(他社においても参考となるような)教訓を含んでいるように思います。

調査委員会も厳しく指摘しているとおり、経営トップの方々による役員報酬の補填は、度重なる電力料金の値上げに応じていた消費者、賞与も出ない中で頑張っていた社員、「経営責任に基づく役員報酬の減額」を真に受けていた株主らの信用を完全に裏切る行為です。原発再稼働の遅延という想定外の事態が生じた中で、ステークホルダーに不利益を甘受させておきながら、役員だけが自身の不利益の回復を図るという方針がなぜ実行されてしまったのか、本報告書を読んでも明らかにはなりませんでした。

しかし、消費者から見れば「おかしい」といわれるような行為であったとしても、経営不振から厳しい報酬減額を呑んできた役員に報いてあげられる人だからこそ社長、会長にまで上り詰めたのではないでしょうか。昨日の記者会見でコンプライアンス委員会の中村委員長が「複数の元役員らが報酬の減額幅が大きかったことに不満をもっていた」と述べておられましたが(8月18日読売新聞朝刊より)、清濁併せ吞んでそこをなんとかする人だからこそ社内での人望が厚かったものと推測します。そして、ステークホルダーよりも目に見える先輩・後輩への仁義を尽くすことを優先する風土というのは、私はけっこう多くの日本企業にも通じるところではないかと考えています。

その象徴とも言えるのが秘密の共有です。元会長(相談役)は「おかしなことをやってるわけではないが、世間に知れると問題になるかもしれない。だから内密にしておいてくれ」といいながら、減額報酬や修正申告納税分の補填(の予定)を対象者に伝えたそうです。部下にとって経営者から秘密の共有を持ち掛けられるほどうれしいことはありません。サントリーの名経営者でいらっしゃった佐治敬三さんのご著書のなかでも「社員に頑張って働いてもらうには秘密を共有させることが一番」と書かれてありました。本報告書では「秘密の共有」は経営者における違法性の認識を示すものとして指摘されていますが、私は「なるほど、これなら補填される役員は意気に感じるだろうなぁ。。囁くタイミングも抜群。さすがだなぁ」との印象です。

もちろん、公益的な事業を担う企業だからこそ、経営者は一般の民間事業者以上に規範意識を備える必要があるのかもしれません。しかし個人的な要素だけでなく、身内の信頼よりもステークホルダーの信頼を大切にする組織風土をどのように形成すべきなのか、そこに光を当てて改革を図る必要があるように思えました。

さらに金品受領問題の場合には「会社は関与せず、役員個人で対応するように」といった方針が社内に存在したために、あまり意識をしませんでしたが、こちらの役員報酬等補填問題は(認識している役職員は少ないものの)会社内部で処理されていた問題です。つまり金の流れを追うことが調査において必要となります。そこで問題となるのが「秘書室経費」です。関電では、2018年には総務部に統合されるものの、それまでは経営トップと二人三脚で役員報酬等補填問題を担当していたのは「秘書室」だそうです。ということであれば、会計監査人が、これまで「秘書室経費」をどのように監査してきたのか、ということに関心が湧きます。

私が某社の第三者委員会の委員長を務めた際、外国公務員への贈賄は「役員室経費」で賄われていましたが、「開かずの間」となっているケースも多く、調査においてかなり抵抗された経験があります。会計監査においても「企業全体からみれば極めて小さな金額なので重要性がない」ということで、「秘書室経費」(役員室経費?)の金の流れを調査することもないのかもしれません。ただ、関電においてはこれだけ微妙な問題を秘書室が取り扱っていたのであれば、そこにお金の流れがよくわからない費用項目があったのではないでしょうか(金品受領問題発覚時の各役員の修正申告分の納税をどう補填するのか、そのあたりの社内の段取りに関する会話内容が興味深いです)。

関西経済の顔として活躍されてこられた方々が、なぜこのような問題を主導されたのか、正直今でもよくわからないのですが、(たとえ金品受領問題において和解をしてでも)国税調査からも守りたいような「お金の聖域」があったからこそ、世間の信頼を裏切るような行動に走ってしまったのではないか、と推測してしまいました。

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2020年8月17日 (月)

ワイヤーカードの会計不正事例-日本の「第三者委員会」制度では不正を暴くことはできただろうか?

先週に引き続き、会計不正に関連する話題です。連休中にドイツのワイヤーカード社の一連の会計不正事例に関する記事などを整理しておりまして、ふと疑問に思ったことを簡単に記しておきます。

2019年10月21日、ワイヤーカード社は、前週のフィナンシャルタイムズによる不正疑惑報道(及びその後の株価下落)を受けて、KPMGに独立監査を依頼しました。KPMGにはグループ全社の全情報へのアクセス権する、との取締役会、監査役会決議がなされたそうです。そして半年後である2020年5月1日、ワイヤーカード社はKPMGによる独立監査の結果を公表しました。

調査結果の内容は「ワイヤーカード社の不正を示す証拠は見つからなかったものの、真相解明に必要な証拠を十分に入手することはできなかった」というものです。この結果を受けて、ワイヤーカード社の会計監査人(EY監査法人)は財務報告の承認を拒否、その後、2200億円にも上る架空預金口座の存在が明らかになっていきます。

このワイヤーカード社の会計不正事件の発覚経過を眺めていますと、KPMGの「独立監査」の調査結果が大きな役割を果たしていることになります。そういえば、これまでの日本企業の会計不正発覚の経過において、第三者委員会が独自調査によって不正を発見した、ということがあったでしょうかね?比較的最近の事例では、たとえば雪印種苗の第三者委員会が調査対象範囲外で大きな不祥事を発見したこと、関西電力の第三者委員会が金品受領問題とは別に「報酬後払い疑惑」の存在に光を当てた、といった事例もありました。しかし、それらは極めて稀なケースであり、今回のワイヤーカード社の会計不正の存在を日本の第三者委員会が暴くことは困難だったのではないか、と考えています。

ここからは全くの私見にすぎませんが、先日ご紹介した八田進二著「第三者委員会の欺瞞」でもメインテーマとなっておりましたように、最近の第三者委員会は経営者との距離感が近すぎて、中立・公正な第三者たる立場での調査に疑問を抱くことが多い。「疑惑」の対象とされた不正事実の存否を明らかにするにあたり、当該事実の存在を示す証拠の有無については熱心に調査を行いますが、「この事実が存在しない、といったすべての『仮説』について否定的評価が揃った場合には『不正は存在しない』と推測してもよい」といった、仮設を立てての調査については熱心ではないように思います。

これだけ第三者委員会調査の影響力が大きくなってくると、往々にして「委嘱された対象事実の存在を認めるに足りる証拠はなかった」という調査結果が、「不正事実は存在しなかった」といった調査結果と同等であるかのように誤解されるケースが増えており、おそらく経営陣もバイアスが働いているので「不正はなかった、とのお墨付きを第三者委員会からもらった」と公表するケースが散見されます。しかし、もしこれらの仮説のひとつでも、要求された証拠によって明らかにならなかった場合には、第三者委員会としては「疑惑とされた事実は(証拠によって)認められなかったものの、不正は存在しなかった、と確信を持てる心証は得られなかった」という調査結果を出すことも必要ではないでしょうか。弁護士が中心となる委員会よりも、監査経験のある会計士さんのほうが馴染みのある調査結果ではないかと。

もしワイヤーカード社の会計不正が「独立監査」の調査結果によって明らかになったのであれば、このKPMGによる「独立監査」と日本の「第三者委員会調査」のどこが違うのか、ぜひともきちんと検証すべきだと思います。

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2020年8月11日 (火)

「会計不正」に強い企業であることを示すための工夫とは(その1)

今朝(8月10日)の日経新聞1面に「国内会計不正 5年で3倍-粉飾や資産流用・統治実効性に課題」なる見出し記事が掲載されていました。日本公認会計士協会の調査によると、2020年3月期は前年から比べて不正会計が7割増し、5年前と比べると3倍もの会計不正事件が発覚した、というもの(おそらく会計監査人が設置された上場会社の調査結果でしょう)。

2021年3月期は、新型コロナウイルス感染症の影響により、さらに会計不正事案は増えることが予想されます。2200億円もの架空預金の存在が判明し、ドイツ最大の会計不正事件に発展しそなワイヤーカード社でも、昨年1月の内部告発を契機にフィナンシャルタイムズが報じたニュースに対しては「全くのナンセンスな報道」と平然と構えていました(その後、株価も回復しました)。日本企業も「会計不正など全く関係ない」と考えておられる上場会社も多いと思いますが、今後、会計不正の疑惑などが報じられる可能性が皆無とは言い切れません。

では、その自信を「見える化」してみてはいかがでしょうか。おそらく機関投資家の皆様にも、御社の「うちは会計不正とは関係ない」との宣言を形で示す姿勢に安心してもらえるはずです。そんなに費用を要することではありませんので、中小規模の上場会社でもヤル気次第で実践できるはずです。

会計不正とは無縁、との自信を「見える化」する手法として、私は御社の内部通報制度の規定を改訂して、内部通報の窓口に御社の会計監査人(監査法人)を加えることをお勧めします。現行の公益通報者保護法では、会計監査人への公益通報は「労務提供先」への通報には該当せず、「被害拡大の防止のために必要とされる第三者」への通報に該当します。つまり、通報者は通報事実の「真実相当性」を証明することができなければ(労働契約法上)保護されません(消費者庁の公式見解では、株主や会計監査人への通報は、いわゆる「3条3号通報」と解釈されています)。

しかし、会社が内部通報の窓口として会計監査人を追加していれば、通報者は「会計不正」の確証となる資料を持参していなくても「3条1号通報」として保護の対象となります(公益通報者保護法2条1項本文参照)。つまり通報者は「誤謬」なのか「不正」なのかわからないけど、ともかく不適切な会計処理が行われた、もしくはこれから会計処理が行われる可能性が高い、と思えば、当該事実を会計監査人に伝えることで公益通報者として保護の対象となります。従業員による通報のハードルを下げることは、まさに経営者の「会計不正根絶」の自信を示すものと言えます。

したがって、対外的に「当社は会計不正とは無縁であります」と宣言して機関投資家に信用してもらうためには、会計監査人と協議のうえで、会計監査人を内部通報の窓口として追加すること(「労務提供先等」の「等」に含めること)がひとつの工夫となります。ただし、通報事実については秘密を守ることが必要となりますので、通報後の調査体制についても、どこまで会計監査人が主体的に関与すべきなのか、あらかじめ協議をしておく必要があると考えます。

まだまだ「会計不正に強い企業であること」を機関投資家に示すための工夫はほかにもありますが、また別の機会に述べてみたいと思います。

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2020年8月 7日 (金)

ISS議決権行使基準の厳格化方針と経産省「社外取締役実務指針」

8月5日にリリースされた大和総研リサーチ「ISSが議決権行使の厳格化を検討、意見募集」によりますと、議決権行使助言最大手のISSが、日本の上場会社向けのローカルルールにおいて、上場会社に対して厳しい基準改訂を検討しておられるそうです。機関投資家向けに意見募集を行っている、とのこと。

上記リサーチによると①監査役(会)設置会社における社外取締役の比率が3分の1以上でないと経営トップの再任に反対、②大規模な政策保有株式を保有する会社の経営陣の再任に反対、③取締役会構成員の属性に関する事項への関心、というもの。なかでも研究員の方もおっしゃるとおり、すでに社外監査役が2名以上存在する上場会社において、さらに3分の1以上の社外取締役を選任せよ、というのは現実的に相当に厳しい基準です。

しかも7月31日にリリースされた経産省CGS研究会「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」は、令和元年会社法改正において(公開会社に)社外取締役の設置を義務付けた趣旨を十分に汲んだ内容であり、「社外取締役を導入することで企業価値が向上するかどうかはともかく、投資家や資本市場からの信頼を高めるために社外取締役の選任は必須」ということで、投資家が期待する社外取締役の在り方を追求するものです。

したがって、上記経産省「社外取締役ガイドライン」に求められる役割を果たす社外取締役を「3分の1以上の比率」で取締役会構成員として選任せよ、となれば、これは上場会社にとって相当高いハードルになります。このうえで、ISSの関心事項とされる(1)ジェンダーダイバーシティ(女性役員の選任)、(2)取締役の兼任制限、(3)在職期間(8年から10年)という基準を導入するとなれば、上場会社としては「どないせーっちゅうねん!」となる予感がいたします。

今年の定時株主総会の動向などをみておりましても(先日の東芝でもそうでしたが)、日本では議決権行使助言会社の影響力はますます高まっているものと思われます(機関投資家の議決権行使結果・理由の開示制度が運用されるようになって、さらに強まったのではないかと)。日本版スチュワードシップ・コード改訂版(2020年3月24日公表)は、このような議決権行使助言会社の影響力に配慮した原則8を策定しましたが、私的にはこの原則がそれほど助言会社の影響力を制限するようには思えません。

ということで、上場会社の今後の対策としては、厳格化される議決権行使基準を真摯に受け止めるか、もしくは基準に従わない理由を「建設的な対話」によって機関投資家に説明して回るか(開示も含めて)、今後検討を要することになるのでしょうね。「社外取締役選任基準」とは別に、最近は「社外取締役行動規範」を策定する上場会社も散見されますが、こういった「行動規範」をきちんと策定して自社の態度を明確にすることもひとつの対策になるかもしれません。

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2020年8月 5日 (水)

東芝の株主総会決議結果の開示-国広エフィシモは大健闘と考える

(8月5日 夜 追記あり)

ドラッグストアの店頭から「うがい薬」が消えておりますが、こういった場合、塩野義製薬や明治ホールディングスから、なんらかの「コロナへの効用」に関するコメントは出されるのでしょうか?大阪府知事からは生産体制にも踏み込んだ発言がありましたので、かなりむずかしい対応を迫られているようにも思えますが。。。(以下本題)

本日(8月4日)、7月末に開催された東芝の定時株主総会における議案の決議結果(議決権行使結果)が開示されました(東芝8月4日付け臨時報告書はこちらです)。大株主であるエフィシモ側の取締役候補者3名については、賛成率が43%、42%、38%です。一方で社長さんは58%。いや、これは驚きました。国広弁護士がアドバイザーについたエフィシモは大健闘といえそうです。定時株主総会が1カ月延期されたことも、本件では微妙に影響しているのかもしれません。

先日のブログでは、「まあ、この結果(会社側上程議案がすべて可決)はおおよそ予想していた通りでした」と書きましたが、こんな結果になるのがわかっていたら偉そうに書かなければよかった(国広さん、候補者の皆様、たいへん失礼いたしました)。なんといってもISSもグラスルイスも会社側提案に賛成推奨をしておりましたので「うーーん、かなり厳しいかな」と思っておりました。

もちろん、この議決権行使結果について会社側は(遅くとも総会前日までには)わかっていたと思いますが、これ結構東芝側にとっては難題ですよね。ここからはまた勝手な野次馬的意見ですが、エフィシモの株主提案はすべて議決権の4割程度の賛成を得ていますので、来年もまた実質的に同様の株主提案が出た場合には過半数の賛成が得られる可能性が出てきました。東芝グループ全体として、コンプライアンス経営への取り組みを「目に見える形」で運用しなければ、そもそも「両立する議案」だけに株主提案に賛成票が上積みされるかもしれません。

私は東芝の株主構成を把握しているわけではありませんが、たとえば3%でも5%でも保有している大株主がいれば「俺たちの要求を呑まないと、来期は社長を信認せず、また株主提案に賛成するぞ」といった要求が出てくるかもしれません(まさに漁夫の利)。もちろん利益供与にあたるような要求はできませんが、「株主共同利益のため」として、様々な大株主からの要求が会社側に届くのかもしれません。株主総会の機能は「会社意思決定機能」だけでなく「経営に対する定量的な評価機能」もありますが、この結果の開示は、これからの東芝と株主との「建設的な対話」を促すものとして大きな意味がありそうです。

もちろん国広さんは本気で株主提案を通すつもりで総会に乗り込んだと思いますので、「大健闘では意味がない」とおっしゃるかもしれませんが、上記のとおり「株主との建設的な対話を今後も促進する」という意味では、たしかに国広エフィシモは株主提案を行ったことで、(誰が得をするのか・・は別として)実質的な目的は達成しているのかもしれませんね。

(追記)なお、当エントリーに対して、ある方から以下のようなコメントをいただきました。たいへん有益なものと思い、本文中に追記させていただきます。

東芝株主総会 ではエフィシモが取締役候補として株主提案した代表の今井氏が43.43%の賛成を得たことについて、先生のブログ「東芝の株主総会決議結果の開示」、私どもも注目しています。ご存知のように、この提案については外為法の事前審議(安全保障の観点から、1%以上保有する株主が密接な関係者を取締役として提案する場合として)の対象とされました。エフィシモのプレス・リリースでは持ち株比率を10%未満とすることで事前審査は承認されたとあります。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000052455.html
今回の賛成率を見る限り関東財務局が承認の条件とした持ち株比率を10%に下げる意味の不可解さが残るだけであり、特に海外投資家の納得は得られないと思います。外為法の不透明性についての財務省、経産省の説明責任が問われます。東芝の外人持ち株比率は70%以上です。同社が苦境にあったときにゴールドマンが幹事で大量に増資し外人株主が異常に増えました。外為法審査での10%以上(公表はされていませんが)の「基準」がブラック・ジョークに思えます。

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2020年8月 4日 (火)

財務省幹部研修-やはりWEB講義は寂しいですねぇ(*´Д`)

「半沢直樹」の前シリーズのときも思ったのですが、金融庁の幹部の皆様は、あの「愛之助」証券検査課統括検査官の姿をみてどう感じておられるのでしょうか?ご立腹なのか、シンパシーを感じるのか。まぁ「証券取引等監視委員会」という存在は、高視聴率ドラマによって広く認知されるわけですから、むしろ歓迎されても良いのかもしれません。

かつてNHKドラマ「監査法人」のストーリーを当ブログで「会計監査は不正を暴くものではない」と批判した際、多くの常連の方から「まあ、ドラマだからよいのでは」と諫められましたので、今回もストーリー自体には文句は言いません。ただ、統括検査官がなぜあのようなキャラなのか不思議でたまりません。ということで(?あまり関係ありませんが)、本日は金融庁ではなく財務省のお話しです。

ちょうど2年前に財務省コンプライアンス推進会議のアドバイザーに就任しましたが、毎年この時期は(人事異動に合わせて)組織トップの方々向けにコンプライアンスの基本研修の講師を務めさせていただいております。財務次官、官房長、国税庁長官、各局長、総務課長の皆様一同に会して1時間ほど講話をいたしますが、今年はWEB形式での講話となりました。8月下旬、9月に予定されている事例研修等も今年はWEB研修となるそうです。

時節柄やむをえない、ということは重々理解しておりますが、やはり対面での講話とは異なり、WEB講話はかなりむずかしい、といいますか、熱意が伝わるには限界を感じます。対面での研修だと(みなさん、国会中継の答弁の際のような無表情ではなく)かなり反応していただけるのですが、さすがにWEB上だと反応がわからず、一人でテンションを上げ続けなければならない。時々「こんなセンシティブな話を盛り込んでも大丈夫だろうか?」といった内容にも触れるのですが、聴講されている方々のリアクションがわからないので「マズイ・・スベったかも( ゚Д゚)」と不安になるときもあります。

今朝の朝日新聞ニュースにダイキン工業の井上会長のインタビュー記事(成果主義に異論「遅咲きの人もいる」)が掲載されていましたが、井上会長もおっしゃるように、いくら在宅勤務制度が重宝だとしても、対面もなければ組織のコミュニケーション能力は落ちてしまうと思います。既存のビジネスモデルを推進するのであればテレワークでもなんとかやっていけそうですが、新たなビジネスモデルの創設となりますと、信頼関係の創設を含めて、やはり対面でのコミュニケーションが不可欠ではないでしょうか。財務省幹部研修も、人事異動で3分の2の方とは初めてお会いするわけですが、その初見がWEB上で、というのは寂しいですね。

しかし私のような単発の研修講師でも「寂しい」と感じるのですから、大学の前期すべてを担当された大学の先生方にとっては、本当にご苦労が多かったと拝察いたします(ひょっとして後期もですよね??)逆にWEB講義のほうが評判の高い先生もいらっしゃるかもしれませんので、私もWEB研修で実力を発揮できるように工夫してみたいと思います。今年度は本省だけでなく、各財務局の職員の皆様への研修も予定されていますので、ホンネベースで語れるよう尽力いたします。

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2020年8月 3日 (月)

東芝の定時株主総会を終えて-監査委員会に期待される「社外監査役」の役割

皆様ご承知のとおり、7月31日の東芝第181期定時株主総会におきまして、会社側上程議案がすべて可決され、株主提案についてはすべて否決されました。会社側の取締役候補者12名がすべて選任され、2名の株主側の候補者合計5名の取締役候補者は選任されませんでした。まだ議決権行使の結果(賛否の票数)については開示されていませんが、コロナ禍での株主総会について、まずは関係者の皆様の健康に支障が出ませんことを祈念しております(ご苦労様でした)。

本件について、私は完全な野次馬的な評論しかできませんが、これまでメディアや会社側リリースから伝えられる情報だけをみるかぎり、ほぼ予想された結論であります。ただ、取締役候補者の選任にあたり、議決権を行使する株主の皆様は、「監査」と「監督」の区別がどこまで理解されたうえで投票に至ったのだろうか・・・といった点について懸念を抱いております。

ご承知のとおり、東芝は「自他ともに認めるガバナンスの優等生」として、2003年に監査役会設置会社から指名委員会等設置会社(当時は「委員会設置会社」)に移行しました。そこには監査役(会)は不在であり、監査権限は取締役会から選定された取締役によって構成される「監査委員会」が組織的に行使することになります。つまり、監査委員会を構成する取締役の方々は、取締役会構成員としての「監督」機能と、監査委員会の構成員としての「監査」機能を果たすことになります。

では、東芝の「監査委員会」はどのように監査機能を果たすのでしょうか?米国のように監査委員会は年に数回開催されるだけで、内部監査機能をチェックする役割に徹するのか、それとも「監査役会」に類似した形で常勤監査委員が往査中心の監視・検証手続きに従事するのか、2015年の会計不祥事を踏まえて、今後どのように監査委員会の役割を果たそうとされるのか、会社側リリースを読んでもよくわかりませんでした。

会社側の社外取締役候補者の皆様も、当然のことながら見識のある方ばかりです。ただ、それは取締役会の構成員として監督機能を果たすうえでは申し分のない方々ですが、「監査」機能を果たすうえではどうなのでしょうか。それは東芝が(指名委員会等設置会社であるがゆえに)目指す監査の在り方が対外的に示されなければ判断できないように思うのです。

ここからは、野次馬の勝手な意見でありますが、私は2015年の会計不正事件(および事後の第三者委員会報告書の提言)、先日の循環取引への関与、そしてメディアで取締役会議長が「自分たちは9割やってきたつもりだが、世間からは信用されていない」(7月13日付け日経ニュース)と述べられたような「社会からの評価」を前提とするならば、今の東芝には「社外監査役」が必要ではないか、と考えています。たしかに社外取締役として選任される以上、経営を監督することも重要ですが、些細な兆候をもとに自ら業務執行を調査したり、その兆候を発見できないシステムがあればその不備を課題として問題提起するような監査役としての役割こそ、「監督機能」に活きるのではないでしょうか。

ちなみに7月31日にリリースされた経産省「社外取締役実務指針」でも、また、そこで参照されている平成31年9月28日改訂版「CGS研究会ガイドライン」でも、監査委員である社外取締役には、細かなコンプライアンス違反等の調査に関与することは、社外取締役の役割として「のぞましくない」とは書かれていません(CGSガイドラインには「本来、細かな業務執行に関わることはのぞましくないが、監査委員である社外取締役は除外する」とあります)。このたび東芝は、内部監査部門の増強を図るそうですが、そうであればぜひとも監査委員である社外取締役の方々には「社外監査役」に求められる役割を期待したいと思います。

そして社外監査役の役割を「守りのガバナンス」という言葉で表現する時代ではなくなりました。たとえば2015年の東芝の事件からの教訓は、①大型M&Aの意思決定過程の健全性、②社内におけるモニタリングのための情報共有、③ハラスメント(職場環境配慮)、④経理部門、監査部門への人事評価の在り方(指導機能と保証機能)、⑤不正の兆候発見能力(見て見ぬふりを容認する組織文化を含めて)等、守りと攻めの一体としての経営監督が必要、ということです。取締役の職務執行の監視・検証は、単なる「コンプライアンス」では済まないものであることを念頭に置いた監査活動が求められる時代であることを、十分に認識しておく必要があります。

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