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2020年8月11日 (火)

「会計不正」に強い企業であることを示すための工夫とは(その1)

今朝(8月10日)の日経新聞1面に「国内会計不正 5年で3倍-粉飾や資産流用・統治実効性に課題」なる見出し記事が掲載されていました。日本公認会計士協会の調査によると、2020年3月期は前年から比べて不正会計が7割増し、5年前と比べると3倍もの会計不正事件が発覚した、というもの(おそらく会計監査人が設置された上場会社の調査結果でしょう)。

2021年3月期は、新型コロナウイルス感染症の影響により、さらに会計不正事案は増えることが予想されます。2200億円もの架空預金の存在が判明し、ドイツ最大の会計不正事件に発展しそなワイヤーカード社でも、昨年1月の内部告発を契機にフィナンシャルタイムズが報じたニュースに対しては「全くのナンセンスな報道」と平然と構えていました(その後、株価も回復しました)。日本企業も「会計不正など全く関係ない」と考えておられる上場会社も多いと思いますが、今後、会計不正の疑惑などが報じられる可能性が皆無とは言い切れません。

では、その自信を「見える化」してみてはいかがでしょうか。おそらく機関投資家の皆様にも、御社の「うちは会計不正とは関係ない」との宣言を形で示す姿勢に安心してもらえるはずです。そんなに費用を要することではありませんので、中小規模の上場会社でもヤル気次第で実践できるはずです。

会計不正とは無縁、との自信を「見える化」する手法として、私は御社の内部通報制度の規定を改訂して、内部通報の窓口に御社の会計監査人(監査法人)を加えることをお勧めします。現行の公益通報者保護法では、会計監査人への公益通報は「労務提供先」への通報には該当せず、「被害拡大の防止のために必要とされる第三者」への通報に該当します。つまり、通報者は通報事実の「真実相当性」を証明することができなければ(労働契約法上)保護されません(消費者庁の公式見解では、株主や会計監査人への通報は、いわゆる「3条3号通報」と解釈されています)。

しかし、会社が内部通報の窓口として会計監査人を追加していれば、通報者は「会計不正」の確証となる資料を持参していなくても「3条1号通報」として保護の対象となります(公益通報者保護法2条1項本文参照)。つまり通報者は「誤謬」なのか「不正」なのかわからないけど、ともかく不適切な会計処理が行われた、もしくはこれから会計処理が行われる可能性が高い、と思えば、当該事実を会計監査人に伝えることで公益通報者として保護の対象となります。従業員による通報のハードルを下げることは、まさに経営者の「会計不正根絶」の自信を示すものと言えます。

したがって、対外的に「当社は会計不正とは無縁であります」と宣言して機関投資家に信用してもらうためには、会計監査人と協議のうえで、会計監査人を内部通報の窓口として追加すること(「労務提供先等」の「等」に含めること)がひとつの工夫となります。ただし、通報事実については秘密を守ることが必要となりますので、通報後の調査体制についても、どこまで会計監査人が主体的に関与すべきなのか、あらかじめ協議をしておく必要があると考えます。

まだまだ「会計不正に強い企業であること」を機関投資家に示すための工夫はほかにもありますが、また別の機会に述べてみたいと思います。

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コメント

先生、いつも拝見し勉強させて頂いております。

ただ、今回投稿された内容には少し疑問があります。
監査法人を内部通報の窓口にするとのことですが、大手監査法人であれば
有効なのでしょうが、中小の監査法人だと会社側に立って目をつぶることは
よくあることです。

担当の監査法人の先生にお聞きしたことがありますが、不正を見つけたり
耳にしたことを代表社員から叱責されたと聞きました。

理由は簡単です。「知れば指摘せざるを得ないから」とのことでした。

この国には監査というものは根付かないように思えてなりません。

投稿: あんこ | 2020年8月11日 (火) 08時56分

TKです。大手監査法人も安心はできませんよ。

私がジュニアの頃、某大手化学メーカーの法定監査で減損プロセスを監査していたところ、減損の兆候が絶対に生じない計算ロジックが組まれていたことを当時の主査に報告したところ、(さも検出した私が悪いかのように)黙殺の圧力をかけられました。
その主査は中途入所にも関わらずその後数年でめでたくパートナーになってました。まあ、大手法人といっても所詮その程度です。

”この国には監査というものは根付かないように思えてなりません。”に100%同意です。
この国は、市民の力で民間による監査を確立したわけではなく、形だけ輸入しただけなので、大手監査法人といっても成り立ちは中小会計事務所の寄せ集め、根本的に商売人の範疇から脱していません。会計不正の最後のゲートキーパーだ、何だかんだと理想をもって会計士になっても、結局こんな調子なので、まともな人は日本の監査法人をやめていき、出世欲だけの人が残る構造だと思います。もし大手監査法人がまともなら、オリンパス事案とか東芝事案とか、あり得ないはずです。
至上命題は会計の番人たることではなく、監査契約の維持のみです。

この国に最もフィットする監査の形は、個人的には、極論でもなんでもなく、公権力による強制監査だと思います。

第三者委員会も根は同じ(商売人説)ではないでしょうかね??

投稿: TK | 2020年8月17日 (月) 10時42分

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