ISS議決権行使基準の厳格化方針と経産省「社外取締役実務指針」
8月5日にリリースされた大和総研リサーチ「ISSが議決権行使の厳格化を検討、意見募集」によりますと、議決権行使助言最大手のISSが、日本の上場会社向けのローカルルールにおいて、上場会社に対して厳しい基準改訂を検討しておられるそうです。機関投資家向けに意見募集を行っている、とのこと。
上記リサーチによると①監査役(会)設置会社における社外取締役の比率が3分の1以上でないと経営トップの再任に反対、②大規模な政策保有株式を保有する会社の経営陣の再任に反対、③取締役会構成員の属性に関する事項への関心、というもの。なかでも研究員の方もおっしゃるとおり、すでに社外監査役が2名以上存在する上場会社において、さらに3分の1以上の社外取締役を選任せよ、というのは現実的に相当に厳しい基準です。
しかも7月31日にリリースされた経産省CGS研究会「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」は、令和元年会社法改正において(公開会社に)社外取締役の設置を義務付けた趣旨を十分に汲んだ内容であり、「社外取締役を導入することで企業価値が向上するかどうかはともかく、投資家や資本市場からの信頼を高めるために社外取締役の選任は必須」ということで、投資家が期待する社外取締役の在り方を追求するものです。
したがって、上記経産省「社外取締役ガイドライン」に求められる役割を果たす社外取締役を「3分の1以上の比率」で取締役会構成員として選任せよ、となれば、これは上場会社にとって相当高いハードルになります。このうえで、ISSの関心事項とされる(1)ジェンダーダイバーシティ(女性役員の選任)、(2)取締役の兼任制限、(3)在職期間(8年から10年)という基準を導入するとなれば、上場会社としては「どないせーっちゅうねん!」となる予感がいたします。
今年の定時株主総会の動向などをみておりましても(先日の東芝でもそうでしたが)、日本では議決権行使助言会社の影響力はますます高まっているものと思われます(機関投資家の議決権行使結果・理由の開示制度が運用されるようになって、さらに強まったのではないかと)。日本版スチュワードシップ・コード改訂版(2020年3月24日公表)は、このような議決権行使助言会社の影響力に配慮した原則8を策定しましたが、私的にはこの原則がそれほど助言会社の影響力を制限するようには思えません。
ということで、上場会社の今後の対策としては、厳格化される議決権行使基準を真摯に受け止めるか、もしくは基準に従わない理由を「建設的な対話」によって機関投資家に説明して回るか(開示も含めて)、今後検討を要することになるのでしょうね。「社外取締役選任基準」とは別に、最近は「社外取締役行動規範」を策定する上場会社も散見されますが、こういった「行動規範」をきちんと策定して自社の態度を明確にすることもひとつの対策になるかもしれません。
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コメント
ご無沙汰しております。元EY,のKです。先日は関西CFE"リモート"研究会でお久しぶりでした。
今は某上場準備会社で常勤監査役をしています。改めまして、ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
さて8/7のブログ拝見で1点、ISSの意見募集は2019/10に終わっていて、助言方針の改訂版は2020/2/1施行されているようです。
投稿: TK | 2020年8月 7日 (金) 13時19分
ISSのパブリックコメント等の施策は客観性を担保しよようとする努力があり敬意を表します。しかし現状、グラスルイスと言う競合はいますが、実態はISSの独占市場であります。ISSのリコメンデーションがその品質の維持向上を保つためには、やはり市場における競争と言う原理が働く必要があると思います。ISSのライバルが複数出現することを望みます。
近時、第三者委員会の公正性について格付委員会があったり、第三者委員会の場合にはその後の訴訟における検証があったりします、競争原理の担保が確保できないばあいには、ISSの個別のリコメンデーションにおいても何か客観的な検証のシステムがあると良いと思いました。
投稿: xx | 2020年8月 7日 (金) 15時34分
TKさん、こちらこそご無沙汰しております。毎回出席とはいきませんが、今後ともよろしくお願いいたします。
ところでご指摘のISS2020基準ですが、これは今年の6月総会向けの基準で、おそらくリリースされたのは2021基準に向けた意見公募だと思います。監査役設置会社については、2020基準だと「2名以上の独立社外取締役」を要求しているようなので、これに輪をかけて(?)厳しくなる気配ですね。
投稿: toshi | 2020年8月 7日 (金) 15時57分
xxさん、コメントありがとうございます(お疲れ様でした、といったほうが良いのでしょうかね?笑)。ご指摘の点は私も本文で書こうかと思ったのですが、米国のISS意見への企業側の反論権について、機関投資家が反対している、といった報道がなされているのを眺めながら、意見の客観性をどのように担保すべきか、私もまだ思案中というのが正直なところです。
投稿: toshi | 2020年8月 7日 (金) 16時02分
TKです。すいません早とちりでした。
うちは取締役〇人中社外が1人なので、ISS基準では反対票対象ですw
しかし、社外取締役を数だけ増やしたところで、実効性は正直なところ?です。ガバナンスの効いてない会社ほど、社長に迎合してれば、たまにコンタクトとるだけで報酬、ステイタス、選任の継続まで安泰です。役員報酬をもらう関係となったとたんに独立性なんてなくなり、逆に無報酬なら力なんてはいりません。
本当に会社のガバナンスに寄与させるなら、社外でなく社内の人になって意思決定への影響力を握る必要があると思います。
投稿: TK | 2020年8月 7日 (金) 16時57分
>本当に会社のガバナンスに寄与させるなら、社外でなく社内の人になって意思決定への影響力を握る必要があると思います。
それ、まったく同感です。私の周囲にも社内の人になった弁護士がおられます。社外役員の限界を感じたから、ということだったと記憶しています。
あと、会社法や東証ルールの上では独立性はありませんが、非常勤の業務執行に関与する社外取締役さんもときどき見かけます。こっちのほうが社長への影響力は格段に大きいように思います。
投稿: toshi | 2020年8月 7日 (金) 17時12分
山口先生、「社外役員の限界を感じたから」と社内の人になった弁護士さん、社長への進言、ガバナンスへの寄与、やる気が満ちていますね。
こういう役員に出逢えると「公益通報者への不利益」など無いのではと、一緒にガバナンス構築する「意欲」も高まります。
私が通報した社外取締役、社外監査役も通報受付方法について様々でしたし「社長への影響力」も様々なのではと想像します。
そもそも社長自ら「ガバナンス構築」のトップマネジメントをするのが理想だと思いますが。
投稿: 試行錯誤者 | 2020年8月 9日 (日) 06時33分