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2020年8月17日 (月)

ワイヤーカードの会計不正事例-日本の「第三者委員会」制度では不正を暴くことはできただろうか?

先週に引き続き、会計不正に関連する話題です。連休中にドイツのワイヤーカード社の一連の会計不正事例に関する記事などを整理しておりまして、ふと疑問に思ったことを簡単に記しておきます。

2019年10月21日、ワイヤーカード社は、前週のフィナンシャルタイムズによる不正疑惑報道(及びその後の株価下落)を受けて、KPMGに独立監査を依頼しました。KPMGにはグループ全社の全情報へのアクセス権する、との取締役会、監査役会決議がなされたそうです。そして半年後である2020年5月1日、ワイヤーカード社はKPMGによる独立監査の結果を公表しました。

調査結果の内容は「ワイヤーカード社の不正を示す証拠は見つからなかったものの、真相解明に必要な証拠を十分に入手することはできなかった」というものです。この結果を受けて、ワイヤーカード社の会計監査人(EY監査法人)は財務報告の承認を拒否、その後、2200億円にも上る架空預金口座の存在が明らかになっていきます。

このワイヤーカード社の会計不正事件の発覚経過を眺めていますと、KPMGの「独立監査」の調査結果が大きな役割を果たしていることになります。そういえば、これまでの日本企業の会計不正発覚の経過において、第三者委員会が独自調査によって不正を発見した、ということがあったでしょうかね?比較的最近の事例では、たとえば雪印種苗の第三者委員会が調査対象範囲外で大きな不祥事を発見したこと、関西電力の第三者委員会が金品受領問題とは別に「報酬後払い疑惑」の存在に光を当てた、といった事例もありました。しかし、それらは極めて稀なケースであり、今回のワイヤーカード社の会計不正の存在を日本の第三者委員会が暴くことは困難だったのではないか、と考えています。

ここからは全くの私見にすぎませんが、先日ご紹介した八田進二著「第三者委員会の欺瞞」でもメインテーマとなっておりましたように、最近の第三者委員会は経営者との距離感が近すぎて、中立・公正な第三者たる立場での調査に疑問を抱くことが多い。「疑惑」の対象とされた不正事実の存否を明らかにするにあたり、当該事実の存在を示す証拠の有無については熱心に調査を行いますが、「この事実が存在しない、といったすべての『仮説』について否定的評価が揃った場合には『不正は存在しない』と推測してもよい」といった、仮設を立てての調査については熱心ではないように思います。

これだけ第三者委員会調査の影響力が大きくなってくると、往々にして「委嘱された対象事実の存在を認めるに足りる証拠はなかった」という調査結果が、「不正事実は存在しなかった」といった調査結果と同等であるかのように誤解されるケースが増えており、おそらく経営陣もバイアスが働いているので「不正はなかった、とのお墨付きを第三者委員会からもらった」と公表するケースが散見されます。しかし、もしこれらの仮説のひとつでも、要求された証拠によって明らかにならなかった場合には、第三者委員会としては「疑惑とされた事実は(証拠によって)認められなかったものの、不正は存在しなかった、と確信を持てる心証は得られなかった」という調査結果を出すことも必要ではないでしょうか。弁護士が中心となる委員会よりも、監査経験のある会計士さんのほうが馴染みのある調査結果ではないかと。

もしワイヤーカード社の会計不正が「独立監査」の調査結果によって明らかになったのであれば、このKPMGによる「独立監査」と日本の「第三者委員会調査」のどこが違うのか、ぜひともきちんと検証すべきだと思います。

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