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2020年11月30日 (月)

米国の内部告発報奨金制度は会計不正事件以外にも適用される

11月29日の日経朝刊7面に「米国企業の不正 内部告発増える」との見出し記事があり、米国で内部告発による企業不正の摘発が増えていることが報じられています。2019年度は合計183億円の報奨金が告発者に支払われたそうです。

記事では2010年のドッドフランク法制定を機に、報奨金制度が機能しだしたとありますが、報奨金が支払われるのは会計不正事件だけではありません。米国には公益通報者保護の包括法はありませんが、個別法において保護規定が存在します。たとえば連邦自動車安全法にも内部告発奨励制度が定められており、ご承知のとおり2018年にはタカタ社のエアバック欠陥を指摘した同社元社員2名に合計1億2000万円の報奨金が支払われています。

上記記事にもありますが、日本企業でも米国法の適用を受ける問題が存在すれば、日本の社員が米国の規制当局に告発することにより高額の報奨金がもらえる可能性があります。告発によって、タカタ社のように企業の存続が困難になるケースもありますので、このたびの公益通報者保護法の改正法施行(2号通報、3号通報の保護要件が緩和されました)とともに、海外への内部告発リスクにも留意すべきと思われます。

なお、上記記事では触れられていませんが、米国の内部告発報奨制度においても、社内通報を優先させるためのインセンティブは用意されています(社内通報後の内部告発の報奨金は増額されることになっています)。このたびの日本の改正公益通報者保護法も、内部通報と内部告発の「制度間競争」を促進していますので、いずれにしても会社が自浄作用を発揮すべく内部通報制度の整備運用に熱心であればあるほど、会社が救われる制度だと考えるべきでしょう。

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2020年11月26日 (木)

ジュリスト2020年12月号特集記事(座談会)に登壇いたしました。

Img_20201125_201103_400有斐閣ジュリスト2020年12月号特集「公益通報者保護法改正」におきまして、「改正公益通報者保護法の実務上の論点」なる座談会に登壇させていただきました。2022年に施行が予定されている改正法の実務上の論点について、主に1号通報に対する内部通報制度を整備・運用する事業者側から意見を述べさせていただきました。

改正法では(事業者に)1号通報への適切な対応のための体制整備等の措置義務が改正法で明記され、また、公益通報対応業務従事者を指定することも必須とされています。これらの義務違反には行政上の措置(助言、勧告、指導、公表等)も発動されます。2号通報、3号通報の要件も緩和され、内部告発(外部への情報提供)も増えるために、監督官庁やマスコミ対応も要請されます。さらに、取締役や監査役自身による公益通報も可能となります。このような法改正を念頭において、実務上の問題点についてお話しいたしました。

11月24日から全国書店で購入できますので、ぜひともお読みいただければ幸いです。なお、特集論文も多数掲載されており、いずれも改正法を勉強するうえでは有益なものです。とりわけ田中亘教授の「改正公益通報者保護法の商法学上の論点」は、私自身も気づいていなかった知見が盛り込まれていて参考になりました。

今回の法改正により、取締役や監査役も公益通報の主体となるわけですが、2号通報(行政機関への通報)、3号通報(不正を防止しうる第三者への通報)を行う場合には「社内における是正措置」を行ったことが条件となります。会社との関係が従業員とは異なる、というのが理論的な根拠となるわけですが、公益通報前の是正措置の必要性を裏付ける裁判例も存在したことは、田中先生の論文を読んで初めて知りました。そういえば事件発生時、マスコミの報道に反応して当ブログでも取り上げたこちらの事例です(それにしても2011年当時の当ブログは元気がありましたし、いただいたコメントも半端ないですね!)。

事例をザックリと説明しますと、株式会社読売巨人軍の取締役であったK氏が、同社代表者のM氏と協議のうえ、来期のヘッドコーチを岡崎氏にしようとしていたところ、原監督(第1期ですね)がヘッドコーチに江川氏を推奨し、読売新聞のWオーナーに直訴し、承認を得ました。これに納得がいかないK氏は、読売巨人軍の内部統制上の問題を「コンプライアンス問題」として同社取締役会にも付議しないままに記者会見を2度も開き、読売新聞、巨人軍の名誉・信用を害したとして提訴された事例です。ちなみにK氏は反旗を翻した直後に役付きをすべて解任されています。

東京地裁平成26年12月18日判決(判例時報2253号64頁)では、読売新聞社、巨人軍の損害賠償請求が認容されましたが、その判決理由のなかで(概要)「取締役が他の取締役の違法行為等を対外的に公表する行為は、取締役会や監査役による監督・監査権限の行使がおよそ期待できない場合や、取締役会の招集を行う時間的余裕がない場合など、取締役会等の招集によっては当該違法行為を是正することが不可能又は著しく困難といえる特段の事情のある場合を除き、許されるものではない」とされています。

2号通報、3号通報は「社内の違法行為を暴露する」ものではありませんが、善管注意義務の観点からは、取締役・監査役は監督権限、監査権限を行使することが先決であり、これらによる是正が期待できないケースに初めて外部への情報提供が可能となる、という点では先例になるものと思われます。このたび判決全文を初めて読みましたが、ほかにもガバナンスや内部統制に関連する論点があって興味深い判決です。

判決文によりますと、原監督からヘッドコーチへの就任要請を受けた江川氏は、ゴタゴタに巻き込まれることを嫌って要請を辞退されたそうです。江川さんがジャイアンツのコーチに就任していたなら、もう少しソフトバンクの強力打線を牛耳れるような投手陣を育成できたでしょうかね?うーーん・・・

※ 蛇足ですが、取締役や監査役が公益通報の主体として保護の対象となるのであれば、まだまだよくわからない論点がたくさんあります。たとえばグループ会社の取締役がグループ会社の代表取締役の違法行為を親会社に通報するケースなどは1号通報に該当するのか、3号通報になるのか(おそらくグループ通報制度があれば1号通報になるのでは?)、グループ会社の取締役が親会社の不正をマスコミに通報する場合、是正措置は必要なのか(たぶん不要だと思いますが、そうなると保護要件を満たさない?)などなど、グループ経営における企業集団内部統制との関係がむずかしそうです。公益通報者保護法は基本的に「誠実義務違反、善管注意義務違反の違法性阻却事由を定めたもの」なので、裁判になれば公平の観点から保護されるケースもあると思いますが、また理屈についてもいろいろと考えてみたいと思います。

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2020年11月24日 (火)

独立社外取締役に求められる「人の問題」と「仕組みの問題」への対応

11月21日(土)、第13回日本内部統制研究学会の年次大会がリモート会議で開催されました(参加者は関係者を含めて120名前後だったようです)。午前の自由論題から午後の統一論題討論まで、休憩をはさんで8時間の長丁場でしたが、テーマ「内部統制報告制度導入後10年が経過した実務上の課題」にふさわしい、たいへん有益な学会発表でした。

とりわけ金融庁参事官I氏の「10年のふりかえり」と「今後の検討の可能性」に関する特別講演でのお話は、(もちろんI氏の個人的な見解を述べられたものですが)これからの内部統制制度への取組みを検討するうえではとても参考になるお話しでした。ちなみに英国ではカリリオン社事件、ドイツではワイヤーカード社事件を契機に、いずれもSOX法(米国)や監査品質の向上に関する基準等の研究が進み、法改正が検討されているようです。ただ、結局のところ、どこの国でも大きな会計不祥事が発生しなければ内部統制報告制度への関心も高まらない、というのが現実ではないかと。

上記金融庁参事官の講演を拝聴して痛感しましたが、この10年の市場規制の流れの中で、内部統制とガバナンスの議論の関係をどう整理するか、という問題への回答は、ますます重要になりつつあります。たしかに、年次大会の各発表を拝聴していても、現状の問題を解決するためには、全社的内部統制を問題とすべきなのか、それともコーポレートガバナンスを問題とすべきなのか、明確には詰め切れていない議論がなされていることが垣間見えたように思います。

そのような中で、日本公認会計士協会のT会長が語ったエピソードがなかなか興味深いものでした。T会長が、某上場会社の会計監査人をされていた頃、当該会社に独立社外取締役としてN氏(著名な元経営者の方)がいらっしゃったそうです。監査委員でもあるN氏とは、定期的な監査委員会との報告会で意見交換をしておられたそうですが、T氏が監査上の問題点を当該N氏にお伝えするたびに、「その問題は『人の問題』なのか、それとも『仕組みの問題』なのか、どちらで解決できる問題ですか」と質問されたそうです。大きな組織のトップとして、経営上の責任を担ってこられた方らしいN氏の質問が、当時はとても印象的だったとT会長が語っておられました。

(ここからは私の意見ですが)独立社外取締役として「人の問題」だと認識した場合には、取締役会の監督機能を発揮して経営者の交代、つまりコーポレートガバナンス上の問題として対応する必要があります。いっぽう「仕組みの問題」だと認識した場合には、経営管理の手法、つまり(事業戦略の実行、もしくはリスクマネジメントの実践のための)内部統制の問題として対応する必要があります。

少し前までは、「ガバナンスと内部統制の関係整理」といった話はやや「青臭い」「実務とは遠い」「原理的な」議論ではないか、といった「空気」が日本の上場企業に漂っていましたが、10月20日に再開された金融庁「SSコード、CGコードのフォローアップ会議」の議論の中身などから拝察しますと、真剣に「独立社外取締役に期待される役割」が取り上げられ、もはや「原理的」などとは言っておれない雰囲気になりつつあります。ESG経営が推進されるなかで、数値化することがむずかしい「G」のレベル感を上げるためには、独立社外取締役の役割と期待を明確に打ち出さねばならない風潮が高まっていることは事実です。

先が読めないVUCAの時代、企業の持続可能な生産性を向上させるためには、いかに変化に対応できるかという点が重視されます。その変化への対応は、経営管理の視点から臨むこともあるでしょうし、そもそも人の交代によって臨むこともあるのでしょう。私は独立社外取締役に必要なスキルとして、「人への評価」だけでなく「仕組みへの評価」つまり内部統制の整備・運用に関する基本的な理解も不可欠ではないかと考えています。

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2020年11月20日 (金)

「日本版議決権行使助言会社」はなぜ誕生しないのか?

東京で予定されていた仕事が次々とキャンセル(延期)となっておりまして、また「緊急事態宣言状態」に戻りつつあります。仲間内での忘年会もむずかしそうな感じになってきましたね。

企業統治改革が進み、とりわけ機関投資家の受託者責任(スチュワードシップ)に光が当たる中で、日本においても俄然ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社の存在に注目が集まりました。今朝の日経新聞9面では、代表的な議決権行使助言会社であるISSがドイツ取引所に買収される(株式の80%をドイツ取引所が取得する)と報じられており、素直に驚きました。

取引所ビジネスの在り方にも驚きましたが、私の「素人考え」では、ISSは中立公正な立場で議決権行使助言を行う事業であるものの、厳しい規制もなく(?)、意外にあっさりと株式売買の対象になってしまうという点です。ISSの保有するデータの利活用が買収の目的であり、議決権行使助言業務には関与しない(組織内にチャイニーズウォールを築く、ということ?)なのでしょうか。

しかし取引所のビジネスとして議決権行使助言会社を傘下に置ける、というのであれば、日本取引所も和製の議決権行使助言会社を作ればよいのではないでしょうか。海外でもローカルの中小規模の議決権行使助言会社があるように聞いたことがありますが、機関投資家の費用対効果に見合うような議決権行使助言業務を手掛ける組織を日本でも育成できるのではないかと。

ひょっとすると、すでにそのような取組みは進んでいるのかもしれません(私が単に情報に疎いだけかも・・・・(*´Д`))。日本企業も本腰をあげてESGに取組む状況がこれからも進むのであれば、ビッグデータの収集も含めて議決権行使の推奨を真剣に判断する事業が日本製で生まれても不思議はないように思います(ISSやグラスルイスの寡占状態に風穴を開けることが、議決権行使助言業務全体の質の向上にもつながるのではないでしょうか)。

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2020年11月18日 (水)

会社役員のコンプライアンス研修はやはり効果がある(と思う)

本日(11月17日)の朝日新聞(関西版)の一面トップで報じられているカプコン社の身代金ウイルス事件はひさびさに震えるような大事件であります。深い闇の中から社内ネットワークに侵入して機密情報を破壊し、一方で盗んだ情報を小出しに公開するということで、事件を公表した日からすでに16%も株価が下落しています。「身代金要求には絶対に応じない」といった断固たる意思は立派ですが、深い闇の中で公開されている機密情報がもし一般の人たちも閲覧可能な状況となった場合の企業価値の低下は計り知れない規模になりそうです。今後の事件の展開に注目しております(以下、本題です)。

さて、コロナ禍ではありますが、先週、東京のとても大きな某上場会社の役員コンプライアンス研修が開催されまして、2日間、研修の講師をさせていただきました。参加されたのは社長を含む社内取締役、監査役全員と執行役員の皆様です。その会社では「初めての試み」として、研修の前と後に「当社のリスクとして重大と考えている項目を3つ選んでください」というアンケート(同じ質問)への回答を(スマホを利用して)集計しました。

この「試み」を最初に聞いたとき、正直申し上げて、私は「そんな、いいオトナが研修やったくらいでリスク感覚が変わるなんてことないよなぁ。『研修の効果はなかった』という集計結果が出てしまって、むしろ逆効果じゃないの?」と不安に感じておりました。しかしながら(私の研修の内容が良かったかどうかは別として)、アンケート集計結果は、研修の前後で大きく異なりました。

10項目のうち、研修前に当該会社の役員の方々が重大リスクと考えていたのは「セクハラ」「パワハラ」「ルール・社内規定・法令違反」という項目が多かったのですが、研修後は多い順から「社内政治的な忖度」「モノが言いにくい組織風土・情報伝達における風通しの悪さ」「グループ行動規範に背く行為」の3項目が重大リスクとして挙げられました。本当に、社長や役付取締役の目の前で、このような集計結果が出たのです。これには研修の講師を務めた私も驚きましたし、責任者の方々も驚きました。

※※※※※※※

ここからは私の推測にすぎませんが、会社の役員の皆様も「本当の不祥事の芽は何か」という点は薄々わかっておられるのではないでしょうか。ただ、確信がもてないまま日常の業務執行に勤しんでおられるわけですが、こうやって外部の人間からコンプライアンス研修を受けることで「やっぱりそうか。不祥事の根本原因は、自分がふだんからモヤモヤっと感じているところと差はないのだ」といった確信を得ることになったものと思います。そのような確信を得ることで、経営トップの目の前でも「社内政治的な忖度が重大リスク」と堂々と意見を言えるようになるのでしょう。

有識者が外からやってきて、役員の方々が知らないこと、気づいていないことを理解してもらうことも大切かもしれません。ただ、私のような「特に最先端の専門領域」を持たない弁護士でも、「皆様がふだん『こうじゃないかな・・・』と素朴に感じていることを『なるほど、やっぱり俺の想いは正しいんだ』と再認識してもらうこと」に役にたつのであれば、やはりコンプライアンス研修も重要なトレーニングの機会になります。

最近、ガバナンス改革を契機に「取締役会の多様性」が注目されるようになりましたが、私は女性役員や外国人役員を集めることが多様性ではなく、社内の取締役の多様性を引き出すことが重要だと考えるようになりました。よく不祥事の原因分析において「社内の常識と社外の常識のズレが生じていた」と言われますが、そんなに言われるほど「社内の常識」が一枚岩ではありません。それは一枚岩に見えるように忖度する空気が存在するからであり、むしろ取締役会等の重要会議において社内役員の方々が様々な意見を出し合い、最後は「企業理念」とか最近はやりの「パーパス」によって意見を統一させるプロセスこそ「取締役会の多様性」ではないか、と考えています。

毎度申し上げておりますとおり、企業の信用を毀損する不祥事は「一次不祥事」ではなく「二次不祥事」(「一次不祥事」を隠す、虚偽報告する、証拠を廃棄する、放置する・見て見ぬふりをする)にあると考えておりますが、こういった日本の組織文化に根差す「二次不祥事」を防止するためにこそ、社内役員の多様性を顕在化させる研修が必要だと思うところであります。

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2020年11月16日 (月)

日本企業のESG-なぜGはE・Sと並んでいるのか?

さて、先週月曜日に続いてESG経営に関するお話です。ESGへの取り組みは本当に企業価値向上につながるのか?等、世界的にも議論の対象になっているESG投資ではありますが、日本では投資総額が急増していることは間違いありません。そこで、賛否両論はあるものの、第三者機関によるESG評価基準にも関心が寄せられるようになりました。

ただ、私はずいぶん前から「なぜ、環境、社会(人権)と並んでガバナンスが評価対象となるのか」ということについては素朴な疑問を持っておりました。ただ、最近は国内外の機関投資家の方々と意見交換を行う中で、「なるほど」と思うところがありました。そこで「環境」「社会」とならんで、なぜ「ガバナンス」が評価対象とされているのか、という点について私見を述べておきます。

「ガバナンス」への評価といえば、取締役会の実効性評価、つまり多様性だったり、モニタリングモデルだったり、社外役員の数だったりが評価の対象になることが想定されます。ただ、非財務情報であったとしても、環境関連財務情報であったとしても、「ガバナンス」自体が独立して評価される、ということではないように思います。

地球環境の変動や世界的な人権・社会問題に企業がどのような影響を及ぼすのか(リスクと機会を把握することが前提ですが)、各企業はその実体面について定性的もしくは定量的なコミットメントを行う必要がありますが、では、本当に実行できるのかどうか。その実行可能性は各企業の実施プロセスが明確にならないと判断できないわけで、このプロセスを説明する基準が「ガバナンス」だと理解する必要があるのではないでしょうか。

たとえば英国のESG評価機関が採用している「ガバナンス」の評価基準は、単なる「企業統治システム」だけでなく、リスクマネジメント能力、課税コンプライアンス、腐敗防止(品質偽装や外国公務員贈賄)、競争コンプライアンス(カルテル防止や優越的地位の濫用防止)といった評価項目が含まれており、つまり社会(人権)への取り組みを進めるための経営陣のコンプライアンス意識の高さがあって、はじめて「E」への配慮に信用性が付与されるものと理解されます。

また、米国のパリ協定復帰で注目される「TCFG」ですが、企業が気候変動に向き合う姿勢(脱炭素化に伴うリスクと機会に関する課題、及びその課題解決策の実施手法)を財務数値で説明するとしても、課題解決のプロセスを示すモノサシのひとつが「ガバナンス」です。経営陣が開示している将来目標を達成するための途中経過を理解できるだけの構成員がそろっているか(環境経営に関する知見の保有)、もし不十分であるならば、将来目標を達成しうる取締役会を構成できるか(監査と監督)、といったところがガバナンスの評価項目になるものと思われます。

そして、ガバナンスの開示にあたって大切なことは、そのようなプロセス(ガバナンス)の実効性が高いことを、エピソード等でストーリーとして対外的に示すことだと考えます。おそらくESG経営への取り組みにおいて、もっとも難しいのは、この点ではないかと。こうやって私見を書いてみますと、やはりESGに熱心な会社とそうでない会社とでは、開示情報に大きな差が生じることになるように思います。もしESGに前向きに取り組むのであれば、上記のような点に配慮することが求められるのではないでしょうか。

 

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2020年11月10日 (火)

第一生命は「オオカミ少年」を歓迎する組織に変えなければ不正は発見できない

11月9日の日経ニュースによりますと、第一生命保険さんは、相次ぎ発生した営業職員の金銭詐取事件を受け、年度内にも本部に営業職員を監視する統括組織を設置することを柱とした再発防止策を正式発表した、としています(第一生命HP「元社員による金銭の不正な取得」事案についての経過報告ならびにお客さまへの注意喚起」)。

朝日新聞ニュース(有料版)の記事などを読みますと、社内で当該営業職員の不審な取引が疑われるようになった後でもコンプライアンス部門に情報が共有されていなかった、ということなので、モニタリング機能を強化しなければならないのは当然のことと思います。ただ、(毎度申し上げるとおり)どんなに内部統制を強化したとしても「あやしい」と思った人が「あやしい」と声を上げる雰囲気(組織風土)が醸成されなければ統括組織に情報は上がってこないでしょうし、結局は絵に描いた餅になってしまいそうです。その組織風土の改革に取り組む「本気度」がなければ、今回のような不正は防げない(正確にいえば「不正を早期に発見できない」と考えます。

一番わかりやすい例が、「不正があるのではないか」と誰かが声を上げたときに、社内調査を徹底し、結局のところ不正事実が認定できなかったとしても、この「声を上げた人」を会社が称賛できる体制を採用することです。さらに、社内でそのような体制がとられている、ということをストーリーとして組織構成員に伝えることも必要です。

また、徳山で発生した事例については「特別調査役」だった89歳の職員は特別の存在であり、社内で声を上げにくかったことが指摘されていますが、そのような聖域(ブラックボックス)は一切許さない、といった組織風土に変える必要があると思います(そもそも上場会社に聖域を許容する組織風土が残っていること自体、私は構造的な欠陥があると考えます)。

もちろん、このような体制をとることには現場からは批判的な意見が出るはずですし、拒絶反応も出るかもしれません。ただ、不正防止に向けた教育研修や内部統制によって営業職員の日常の営業に制約が増えるよりも、不正はまた起きるものである、という前提で、起きた時にはアラートが鳴る仕組みを整備したほうが営業の効率性を維持するためには得策だと思います。

要は第一生命さんの経営陣が「今後は二度と不正を発生させない」という方向性で考えるのか、「また起きるかもしれないが、今度は早期に必ず発見する」という方向性で考えるのか、そこの割り切りが重要です。「多数の営業職員を抱えている上場会社」という現実を見据えた場合、私は断然後者の考え方でコンプライアンス経営を進めるべきだと思います。

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2020年11月 9日 (月)

米国新大統領の誕生と日本企業のESG経営の発想

11月8日あたりの内外のニュースでは、米国で民主党新大統領が事実上誕生した、とのこと。早くも日経ニュースでは「バイデン氏当確、21年1月、パリ協定復帰へ」との見出しで米国の政策転換の予想が報じられています。当ブログでの関心事としては、民主党の新大統領のもとで、米国はESG重視の姿勢に舵を切る可能性が高いと予想されているところですね。

日本でもESG経営に向けた関心が高まっていることは事実ですが、経営者の方々の「ESGへの取り組みの本気度」については未知数ではないかと。とりわけコロナ禍における業績悪化が避けられない企業では、「まずは来期の浮上案を具体的に示すことが先決。ESGはその先の話」といったところがホンネだと思います。

なぜそうなるのか、というと、これまで「ESGは儲かるのか?」「ESG経営が企業価値を向上させる、ということに有意な統計はあるのか」といったところで(つまりプラスの面で)議論をしているからではないでしょうか。関係省庁の研究報告なども「取組の好事例」は紹介されていますが、「悪事例」は紹介されることは全くありません。

しかし、受託者責任を果たすにあたり、ESGへの貢献についても説明責任を負わねばならなくなった機関投資家の方々のイメージは少し異なるように思います。「日本企業は、最近でこそESGに熱心になってきたと聞くが、そもそもESGに熱心でないと、どんな不利益を被ることになるのか、具体的に誰からどんなペナルティを課されるのか」「同業他社との比較において、非財務情報の開示に積極的でないことで、過去にどのようなハンデを背負ったのか、そのような分析がなされた文献はあるのか」といった質問を私自身も受けるようになりました。

日ごろからESGの面で、(たとえば情報開示等)取り組みが積極的でない企業は、実際、このような競争制限を受ける、競争上のハンデを背負う、といった「好事例」ではなく「悪事例」を分析したほうが、日本企業と投資家との対話においては有益なツールになりえるのではないでしょうか。今後、米国の新大統領の誕生とともに「日本企業におけるESG経営」への関心が高まるのであれば、「当社はESG経営を積極的に推進することによって、他社に起きた「このような悪事」を回避しています」といった(マイナス面での)議論を活性化させるほうが説得力を増すように思います。

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2020年11月 2日 (月)

地銀協月報に当職の「改正公益通報者保護法」連載論稿(第1回)を掲載いただきました。

Img_20201102_173046_400 一般社団法人全国地方銀行協会さんの月報(地銀協月報)2020年10月号に、改正公益通報者保護法に関する連載第1回「企業の不祥事と内部通報制度」を掲載いただきました。10月号から12月号までの3回にわたり、改正公益通報者保護法に関する解説記事を掲載していただく予定です。

第1回は、16年ぶりの抜本改正に至った背景事情を中心に解説し、第2回目は改正法の内容を解説いたします。なかなか一般の方には入手するのがむずかしい冊子ですが、金融機関の皆様におかれましては、改正法を知っていただくきっかけにしていただければ幸いです(ちなみに改正法の内容をご理解いただくにあたっては、消費者庁のご担当者の方々の論稿-旬刊商事法務やNBL1177号等-をお読みいただくことをお勧めいたします)。

ただ、実務を経験しておりますと、公益通報者保護法の改正を契機として、どんなに立派な内部通報制度を構築したとしても、まず各事業者の職場環境が整備され、組織風土が良好でなければ機能しない、というのがホンネであります。法改正やガイドライン(指針)への対応だけに企業が注力しても、コンプライアンス経営に資するような制度運用は期待できないわけで、まずは公益通報者保護法が機能する「土壌」から構築することが必須だと考えております。

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