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2020年12月30日 (水)

皆様、良いお年をお迎えください

コメント欄にがばこさんもお書きになっていますが、プラスチック成型大手の天馬社で、また大きな動きがあったようです。28日の適時開示によると、監査等委員会が、外国公務員贈賄事件発覚時において不適切な行動があったとして前取締役ら6名を被告として損害賠償請求訴訟を提起したそうです(提訴は25日付け)。

4月に公表された第三者委員会報告書をもとに、監査等委員会(社外取締役4名によって構成されています)が提訴を決定した、とのこと。当ブログでも何度かご紹介したとおり、天馬社では社内でいろいろと騒動が発生しましたが、いずれの側の取締役さんも被告になっていますね。昨日のエントリーで「監査役の影が薄くなっているのでは」と書きましたが、気骨のある監査等委員の方々はいらっしゃるものです。

開示情報からは明らかではありませんが、天馬社には社外取締役さんが6名いらっしゃいますので、残る2名の社外取締役の方々が、この訴訟提起に対してどのようなスタンスで臨んでおられるのか、とても興味があります。たしか第三者委員会報告書の開示にも時間を要していましたが、この訴訟提起に関する開示については問題は発生しなかったのでしょうか。社外取締役に期待される役割がいろいろと議論されていますが、抽象論ではなく、こういった現実に発生した事態において、(監査等委員ではない)独立社外取締役がどのような行動に出るべきなのか、個別企業の経営環境を念頭に議論することは、他社においても大切だと思います。

さて、(天馬社の件はまた来年続編を書かせていただくとして)今年もお世話になりました。第三者委員会委員長として多忙を極めた1月と9月、10月はほとんどブログを更新できませんでしたが、また来年もマイペースでブログを更新していきたいと思います。首都圏ではコロナ感染がますます広がっています。どうか感染にご留意いただき、年末年始を健やかにお過ごしくださいませ。来年もどうか拙ブログをよろしくお願いいたします。弁護士 山口利昭

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2020年12月29日 (火)

社外取締役だけでなく社外監査役にも光を当ててほしい(願望・・・)

本日(12月28日)の日経朝刊法務面に「都内でガバナンスサミット2020-社外取締役の役割を議論」という見出しにて、「企業統治関係者が一同に会した『ガバナンス・サミット2020』」におけるシンポジウムの様子が報じられていました。主に取締役会の在り方、機能、権限が議論されたそうで、関係者のお立場から有益な意見が多数披露されたそうです。

「攻めのガバナンス」として改革が進み、株主もこれを推奨しているわけですし、東証のプライム市場に上場する会社は取締役会構成員の3分の1以上を社外取締役が占めるようにソフトローで要請する、ということなので、社外取締役に光が当たるのは当然であります。その一方で(金融庁のコード検討会では今後議論されるのかもしれませんが)最近あまり監査役制度が話題に上らないのは少し寂しいところです。とくに上場会社の7割程度は監査役会設置会社であり、そこには2人以上の社外監査役さんがおられるわけですが、なんだか最近の話題から取り残されてしまった感があります。社外取締役が少ない時代には「独立社外役員」として、社外取締役とその機能においては同列に扱われていたと思いますが、各社に複数の社外取締役が就任する時代になった頃から、どうも社外取締役の「補完機能」的に扱われるようになったのではないでしょうか。

一般的には社外取締役よりも報酬額が低いにもかかわらず、会計不正事件等が発覚した際には、セイクレスト事件や(先日、最高裁判決が出た)エフオーアイ事件などのように社外監査役に「監査見逃し責任」が認められ、多額の損害賠償責任を負うことになります。平成20年に最高裁で確定したダスキン事件株主代表訴訟でも、社外監査役さんだけに損害賠償責任が認められています。不正に関する情報は「監査役会」で共有するのが通常ですから、「知らなかった」とは言えない立場にある以上、やむを得ないのかもしれません。ただ、今後は社外取締役さんも増えたので「不正リスク」については社外取締役さんとも共有していただき、社外役員全員で(セイクレスト事件のように)不正に関与した代表取締役の解任を求めるための取締役会の招集義務を尽くす必要があると思います。

(以前も書きましたが)ときどき海外の製薬会社の日本法人のお手伝いをするのですが、日本法人の社長である外国人経営者は(日本人の)監査役さんたちや内部監査部の方々のことをとてもリスペクトしているのです。「オオカミ少年ウェルカム」ですし「利益を生まない部署だから軽くみている」といったことは決してありません。

このままだと来年の株主総会では、さらに「監査等委員会設置会社」に移行する上場会社が増えて、監査役制度がさらにガバナンス改革の中で影が薄くなりそうで(私的には)やや不安であります。「こんな社外監査役さんがいるから不正が早期に発見できた」「二次不祥事を防止できた」といった事例はいくつか経験したのですが、私の職務上の守秘義務からお伝えできません。このあたりが「守りのガバナンス」の実効性を語るうえでむずかしいところですね。

最後にガバナンス改革との関係でひとことだけ個人的な意見を言わせてもらえば、KAM開示を含めた情報開示項目の急増やESG経営重視の傾向が強まる中で、社外監査役にはかならず(現行コードの「財務会計的知見」という甘いものではなく)「会計監査の経験を有する者」を選任するように改訂すべきです。平時において会計監査人のチェックをしたり、業績連動型の役員報酬の評価過程の合理性を判断したり、有事において会計監査人と意思疎通を図る場合には、本当にガバナンスの要として活躍するのは会計監査の実務を知っている監査役だと確信します。

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2020年12月27日 (日)

公益通報への対応体制整備義務-常用雇用者が300人を超える事業者の割合について

改正公益通報者保護法において、公益通報対応業務従事者の設置を含め、公益通報への対応体制の整備等の措置義務を負う企業は「常用雇用者が300人を超える事業者」とされています(300人以下の事業者は「努力義務」)。現在、消費者庁では検討会において「(整備義務の内容を明確にするための)指針」作りが進んでおりますが、では、日本企業の中で、この整備義務を尽くさねばならない「常用雇用者が300人を超える事業者」とはどれくらいの数なのでしょうか。

一般財団法人日本統計協会「統計でみる日本2020」176頁以下によりますと(総務省平成26年経済センサス-活動調査より集計)、2016年の事業者数(385万社)のうち、会社企業は187万社です。その会社企業のうち、常用雇用者が300人を超える企業の数は、わずか0.83%です(会社企業の73.7%は10人未満とのこと)。1000人を超える企業となると、0.23%となります。

もちろん業種も様々ですから、規模感は常用雇用者数のみでは表現できないところはあります。しかし、「そもそも中小企業において公益通報対応業務従事者を定めるなんて無理だろう」「外部に通報窓口を設置する等、中小規模の事業者には荷が重い」といった議論がありますが、上から数えて1%以内の規模の営利法人組織ですから、刑事罰や行政処分による強制力をもって公益通報への対応体制の整備を義務付けることは、このたびの法改正の趣旨からみても妥当のように思います。

なお、(常用雇用者が300人を超える事業者の)数で言えば全国で約14,000社です。この14,000社の方々に、「2022年の法施行時までに公益通報への対応業務従事者を定めてください。定めたうえで、刑罰を受けないようにしっかりトレーニングをしないと、御社が行政処分の対象になったり(改正法15条、16条)、社長さんに行政罰が科さることになりますよ(同22条)」ということを周知する必要があります。冷静に考えてみると、本当にこの周知徹底は大丈夫なのでしょうか。

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2020年12月24日 (木)

お世話になりました-『Business Law Journal』休刊へ

少し前に編集部の方からお聞きしていたのですが、本日(12月23日)、レクシスネクシス社の「Business Law Journal(ビジネスロージャーナル」誌が今月発売の2021年2月号をもって休刊となることを発表しました(リリースはこちらです)。ちなみにリリースでは触れられていませんが、「ローヤーズガイド」等の冊子の発行・各種セミナーの開催といった、Business Law Journalに関連するビジネスもすべて停止するように聞いております。

多くの企業法務のご担当者と同様、私も毎月20日過ぎに発行される中央経済社「ビジネス法務」とレクシスネクシス社「Business Law Journal」を読むのを楽しみにしており、また論稿も何度か同誌に掲載していただいておりましたので、たいへん驚くと同時に本当に残念でなりません(そういえばレクシスネクシス社からは単著「会社法改正のグレーゾーン」も出版していただき、編集者の皆様に赤坂で記念講演までセッティングしていただきましたっけ・・・( ;∀;))。

上記「休刊のお知らせ」によりますと、

本誌は、これまで「リーガルマインドでビジネスを読み解き、最適解を導く」とのコンセプトのもと、読者の皆様のご支援をいただいてまいりました。一方この 10 年という歳月を通して、企業法務をめぐる状況は、グローバル化・ESG・コンプライアンスの深化などその領域は大きく広げられつつあります。また、デジタルトランスフォーメーションなどの新たな情報化の波や COVID19 によってもたらされた新たな日常という社会変革に晒されています。こうした状況から、本誌に求められるニーズは大きく変化いたしました。読者の皆様のご期待に沿うためには、ここで一度立ち止まり、新たな視点から『Business Law Journal』を見つめなおす必要があるとの結論から、今回の判断にいたりました。

とのこと。たしかに法務をとりまく経営環境には大きな変化が生じていることは間違いありませんが、素朴な疑問として、法務担当者だけを購読層としているだけでは採算が合わなくなっている、ということなのでしょうか(他誌に比べてやや値段がお高い、ということも影響しているのかも・・・🐱)。それとも「弁護士ドットコム」に代表されるようなネット主流の情報サービスの時代に、紙ベースによる情報サービスの限界が来ている、ということなのでしょうか(※)。今回の件は企業法務に携わる者として、自身のビジネスの在り方を真摯に考えなければならない課題を含んでいるように思いました。

※・・・ただし、法律論文を執筆する立場としては、ネット上の情報よりも紙ベースの情報のほうが脚注で引用(参照)しやすいのですよね。

「廃刊」ではなく「休刊」ということなので、またいつの日か新たなメディアとして復活していただくことを期待しておりますが、本誌により、これまで様々な勉強をさせていただいたことについて厚く御礼申し上げます。編集に関わってこられた方がまた次のフィールドにおいて法務の企画担当者としてご活躍されることを祈念しております。

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2020年12月23日 (水)

エフオーアイ粉飾事件・最高裁判決-内部監査室長の積年の恨みは晴らせたか?

昨日(12月22日)、速報版でご紹介したとおりエフオーアイ事件(多額の粉飾を隠して上場した会社の上場手続関与者に対して、エフオーアイ社の株主からの損害賠償請求事件)の最高裁判決が出ました(損害額を確定するため原審に差戻し)。原審(東京高裁)の判断を覆して、最高裁はエフ社の上場時における引受証券会社(主幹事)であるみずほ証券の損害賠償責任を認めました。主幹事証券会社に金商法21条に基づく損害賠償責任が認められるのは初めてです。

主幹事証券会社の責任根拠となる金商法21条1項4号、同条2項3号の解釈の枠組みは原審とほぼ同様と思われますが(※)、有事における信頼の原則(会計監査人と主幹事証券会社との役割分担に由来する責任限定法理)が適用される前提としての調査確認の程度については、相当程度信ぴょう性の高い匿名投書(事実上は事件当時の内部監査室長による内部告発)の内容に(主幹事証券会社が)接していたことを考慮したうえで、財務計算書類に対する会計監査人による監査手続きの十分性自体を自ら精査する必要があるとしています。

※・・・法律家の判例解説であれば、本来金融商品取引法第21条1項および2項の解説からスタートすべきですが、ブログの読者の方々に向けたお話なので、ここでは割愛させていただきます。

この点、東京高裁は(匿名投書を受け取った主幹事証券会社は)会計監査人の追加監査手続きの証憑に依拠しながら「監査結果に関する信頼性についての疑義が払拭されたと合理的に判断していれば、引受証券会社に通常要求される注意義務を尽くしたと言える」としていました。しかし、最高裁は「それだけでは粉飾の可能性を否定するに足りる監査手続きが実施されているか否かを確認したとはいえない」と判断しています。

基本的には事例判決であり、最高裁判決の射程範囲はそれほど広いものではないと思いますが、内部監査室長からみずほ証券に対して2度にわたって内部告発がなされた点(しかもその告発内容が会計監査の信用性に疑義を生じさせるに十分である点)が、主幹事証券会社の責任を認めるにあたって、大きな影響を与えたことは間違いありません。2018年4月18日付けエントリー「会計監査人、内部告発者に参考となるエフオーアイ事件高裁判決」でも述べましたが、今後、従業員が不正を指摘するにあたって、弁護士や会計士のアドバイスをもらって上手に内部告発を行えば、東証や主幹事証券会社の法的責任が問題となりうる、つまり、相当程度厳格な上場審査が必要となる、ということです。

(以下の事実の記載は、東京地裁の一審判決が認定した事実からの引用であります)エフオーアイ社の元内部監査室長による投書を受け取った主幹事証券会社は、エフオーアイ社経営陣から「あいつは精神的に不安定」「会社の和を乱しているから」といった説明を真に受けて、直接ヒアリングをすることはありませんでした(結局、その後、内部監査室長は異動されています)。もちろん、それまでに何度か主幹事証券会社も当該内部監査室長と面談をしているのですが、「なんだかプライドが高くて独善的な人」ということで、上場妨害因子だとレッテルを貼っていました。常勤監査役からの信任も得られていなかったようです。

そもそも最初に投書が届いた際、エフオーアイ社から「これは内部の不満分子によるものだ」との説明を受けたことで、主幹事証券会社は「内部の不満分子が第1投書を作成したのであれば、そもそも御社の労務管理体制自体に問題があることになる。この投書の作成者が特定されなければ御社のレピュテーションリスクが内在し続けることになる。このまま上場したければ、まずは投書者を特定し、内部者であれば社内処分をすべき」と述べています(第一審判決書130頁~131頁)。今から10年以上前の話なのでやむをえないかもしれませんが、公益通報者保護法の改正法が施行される2022年以降は、これは犯罪行為になりうるので注意が必要です(改正法12条違反行為の教唆)。

一方、主幹事証券会社の立場からすると、「東証にも同じ投書が届いたので、監査法人と東証と三者で対応を協議して、調査方法については東証も納得していたではないか。また、有事対応については顧問弁護士にも相談し、さらに大手法律事務所にも意見書をもらってOKが出ていたではないか。どうして当社だけが責任を負うのか」といった気持ちもあると思います(引受審査に関する資料の正確性を前提とした意見書だったので、そもそも資料が偽装されていたことについて思いが至らなかった点はマズいと思いますが)。このあたりが高裁での判断では重視されていたのかな・・・と。

いずれにしましても、社内で「異常者」のレッテルを貼られ、事実上の不利益処分まで受けていた元内部監査室長の告発の正当性が、ようやく認められたのではないでしょうか。改正公益通報者保護法が施行される前に、内部告発への対応に光をあてた最高裁判決が出た意味はとても大きい(公益通報者保護法の改正作業に関与してこられた宇賀先生が判事として関与していた点も見逃すことができないように思います)。

 

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2020年12月22日 (火)

(速報版)エフオーアイ事件最高裁判決の全文が公開されました!

さきほど、最高裁のHPに本日(12月22日)第三小法廷で言い渡されたエフオーアイ事件の最高裁判決の全文が公表されました。損害額の確定のために高裁に差し戻されましたが、原審を覆して主幹事証券会社の損賠賠償責任が認められました。さすがに早い!じっくりと読みたいと思います。とりいそぎ速報版にて。

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2020年12月21日 (月)

そういえば12月22日は重要な最高裁判決(エフオーアイ損害賠償請求事件上告審判決)が出る日です。

年の瀬ではありますが、12月22日はエフオーアイ損害賠償請求事件に関する最高裁判決が予定されています。ご存じのとおり、同社は2009年11月の東証マザーズ上場後に粉飾決算が発覚。売上高の97%が架空で、東証は10年6月に同社を上場廃止としました(当時の同社社長らは金商法違反罪で実刑判決が確定)。

上場廃止となった同社の粉飾決算で損失を受けたとして、株主らが上場時の主幹事だったみずほ証券や日本取引所に(金融商品取引法に基づいて)損害賠償を求めた訴訟の経緯については本ブログでも過去に取り上げておりました。一審・東京地裁は、粉飾を示唆する投書がみずほ証券に届いていたことなどから「主幹事としての注意を尽くしていたとは認めがたい」として、同証券の賠償責任を認定していましたが、二審・東京高裁は、同証券がエフオーアイの販売実績等を調査していたことで注意義務を尽くした、として、みずほ証券勝訴の判断となりました。

新聞でも報じられているとおり、最高裁第3小法廷(宮崎裕子裁判長)は今年11月17日、当事者の意見を聞く弁論を開き、判決は12月22日に言い渡される予定です。最高裁は結論を変更する際には弁論を開きますので、賠償責任を否定した二審・東京高裁判決を見直す可能性がありますね(破棄自判もしくは破棄差戻し)。企業法務において、たいへん注目される判決です。

公益通報者保護法が改正され、2号通報(行政機関への通報)、3号通報(不正を抑止する事実上の権限のある第三者への通報)の要件が緩和されたため、今後は同様の内部告発は増えることが予想されますが、このような公益通報を受領した組織がどのような対応に出なければ(金商法上の)注意義務違反となるのか、考察するためのヒントについて(たとえ事例判決であったとしても)最高裁の判断の中で触れてほしいですね。年末ではありますが、早めに最高裁のHPにて判決全文が公開されることを希望しております。

今年、上場前後から不適切な会計処理を行っていた会社の第三者委員会の仕事を経験しましたが、監査法人に対して業績を良く見せることと、主幹事証券会社に業績を良く見せることとでは、粉飾の質が違うものであることを理解いたしました。そのあたりは、また来年にでも(守秘義務に反しない範囲で)ブログで解説したいと思います。

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2020年12月17日 (木)

日経「企業が選ぶ弁護士ランキング(危機管理部門)」で7位に選出いただきました(御礼)

私の事務所のすぐ近くで開催されるはずだった「中之島 光のルネサンス(饗宴)」プロジェクションマッピングが急遽中止となりました。大阪は本日も400名近くの新規感染者が確認され、また、多くの都道府県から高度医療看護師の方々にお越しいただいている状況なので、中止は当然かと思います。大阪市全域で飲食店の時短営業も始まり、事務所周辺の人通りも寂しくなりました。こんなに静かな12月中旬というのも初めてです。

さて、この時期、毎年恒例の「日経、企業が選ぶ弁護士ランキング」におきまして、「危機管理部門」で7位に選出していただきました。2年前は3位だったので順位は落ちましたが、このような情勢において選出していただいた企業の皆様に厚く御礼申し上げます。また総合ランキング(企業票+弁護士票」でも7位に選出いただき、私のような個人事務所の弁護士に同業者の方々から多数の票をいただけたことは身に余る光栄でございます。

今年は週刊東洋経済(11月7日号)でも「依頼したい弁護士25人」に選んでいただき、(ホントに依頼が増えるかどうかは別にして?)身の引き締まる思いです。今後もコンプライアンスやガバナンス支援、危機対応の領域において更なる精進を重ねてまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。

ちなみに危機管理部門の来年以降の展望ですが、部門1位に選出されているK弁護士(西村あさひの先生)と全く同じ意見です。すでに大手企業(もしくはそのグループ会社)で横領事件がいくつか発覚していますが、2021年は横領や粉飾といった会計不正事件が多数発覚する可能性は高いと思います(いや、確信しています)。

監査役や監査法人さんからの相談案件を受けた印象では、総会の時期を延期せずに6月に断行したことにより、ほとんど実質的な監査ができていない会社が多いです(リスクを承知で総会を延期しなかったのですから、やむをえないところかと)。ということで、不正のトライアングル(動機、機会、業績不振に伴う正当化根拠)が揃っている上場会社さんは要注意です。

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2020年12月15日 (火)

株主総会の改革と「機関投資家の費用対効果」

週刊東洋経済の最新号(2020年12月19日号)特集記事「議決権不正集計で露呈-投資家軽視の株主総会にNO」を興味深く読みました。今年の企業不祥事ベスト10に入る(であろう)三井住友信託、みずほ信託さんの「議決権行使書カウント不正事件」を端緒として、「日本の株主総会には投資家軽視というべき問題がある」ということで、4名の有識者の方々の意見をもとに総会実務を検証する、というもの。

いずれも著名なアクティビストファンドのマネジャー、海外機関投資家のスチュワードシップ責任者、著名企業法務弁護士、東大教授の皆様のご意見は東洋経済紙面でお読みいただくとして、なるほど・・・と、個人的には実務面で勉強になる内容でした。「株主総会の簡素化」「総会手続きの電子化」「法律による株主の権限強化」「株主総会の機能の変遷」といったところに光を当てなければ「企業統治改革の実質化」も図られない、という点については納得するところであります。

ただ、私の素朴な疑問ですが、国内外の機関投資家も「正義の味方」ではないはずです。ESGに関連する情報開示が進んでも、株主の権限行使が強化されても、エンゲージメントの機会が増えても、さらには総会決議の政策形成機能が発揮されたとしても、(機関投資家として)それらを十分に研究して議決権を行使するために要する経費よりも、議決権行使の結果から得られるメリットのほうが大きくなければ「機関投資家に期待される役割」は演じられないのではないかと。いままで、そこの議論がほとんどされてこなかったように思うのです。

議決権行使助言会社の推奨意見が重宝されることも、ESG投資の非財務情報を(他者比較したり、統計的に分析できるように)データ化したり財務情報化することも、機関投資家の「費用対効果」に見合うからではないでしょうか。アクティビストファンドが会社関係者と面談する場面をみていても、単純に議決権行使のためだけでなく、ガバナンスに関する情報を詳細に入手して、データ化したうえで「情報を商品化する」ためではないかと推察いたします。

ということで、大株主である機関投資家にとって「費用に見合う効果がある」ことが明確にならないかぎり、もしくはその「費用」が国策に基づくインフラ整備によってきわめて低廉にならないかぎり、株主総会の改革はなかなか進まないような気がします。

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2020年12月14日 (月)

「社外取締役に期待される役割」が果たされたかどうか-事業報告による開示(令和2年法務省令52号)

令和元年会社法改正の内容を盛り込んだ六法や基本書がすでに出版されています。このたびの法改正は会社のガバナンスやM&Aに重要な影響を及ぼす内容がたくさん含まれていますので、できるだけ早く改正内容を(企業実務に)浸透させる必要がある、という点では、法改正の内容を伝える関係者のご尽力に頭の下がる思いです。

ただ、会社法法改正に基づく政省令の改正作業はまだ続いているところ、11月27日に示された「会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)」を読みますと、法改正の中身はこちらの省令を理解しなければ実務への影響がわからない、というのが本当のところではないでしょうか。もちろん法改正の審議段階から、おおよそ省令への委任事項の内容は予想されていましたが、実際に細かなところまで見ていきますと「本当に来年3月1日施行で大丈夫だろうか、準備が間に合うのだろうか」と思うところもあります。

たとえば私自身の関心というところで例を挙げますと「社外取締役に期待される役割の開示」です。公開会社も非公開会社も、社外取締役を選任するにあたっては、株主総会参考書類に「社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」が記載されますが、さらに公開会社の場合には、事業報告において「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」が記載されることになります。

これは法務省の考え方によると(パブコメ結果参照)、(上場企業における社外取締役への期待からすれば)公開会社においては、株主が社外取締役の職務の遂行について事後的に検証を行うことが可能となるように「期待される役割の概要」のみならず、事業報告においても「行った職務の概要」の記載を求めることが適切、とされています。つまり機関投資家が検証可能な程度の記載が求められる、ということになります。そして社外取締役は、この記載に対して個人的な意見がある場合には、その意見を事業報告に記載することになっていますので、何も記載がない場合には「(社外取締役としては)会社の記載に異存なし」との意見であることが示されたことになるのでしょうね。

本当に、この改正省令に実効性があるならば、今後は(これまでは役員会に何回出席していたか・・・という点だけが注目されていましたが)社外取締役の日ごろからの職務の姿勢が垣間見えることになり、取締役会の監督機能の発揮に一定程度の影響を及ぼすことになるのかもしれません(ときどき条文が骨抜きにされてしまうような実務に落ち着いてしまうこともあるので心配はしておりますが)。会社側にとって嫌われるような意見を述べることで「期待される職務を果たしてもらえなかった」と批判される社外取締役さんも出てくるかもしれませんが、ぜひ具体的な記載事例がたくさん出てきて、不都合があれば修正するような実務運用がなされることを期待しております。

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2020年12月11日 (金)

誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ

不謹慎なエントリーにならないように、まじめに取り上げたいと思います。ご承知の方も多いかとは存じますが、私が社外役員を務めております2社で(ほぼ同時に)大手メディアで取り上げられるパワハラ事件が発覚しました。以下は「言い訳」に聞こえるかもしれませんが、「パワハラ」をコンプライアンスの視点から考えているところの意見です。

役員(社外取締役、社外監査役)としての守秘義務がありますので、個別の案件に関するコメントは控えます。ただ、私が本業としております「内部通報に基づく通報案件の調査支援業務」を通じて、「国内外の同業他社と競争している以上、パワハラは一種の病理現象であり、予防は困難。むしろ早期発見のうえでいかに対処するか、その職場環境への配慮が不可欠」と思います。

よく企業不祥事発生の要因として「社内の常識と社外の常識との乖離」と言われますが、社内にも「世代間における常識の乖離」があることに留意すべきです。パワハラ加害者と通報者(被害者の場合もあれば、同じ職場の第三者の場合もある)双方の話をとことんまで聴いておりますと、20代・30代の常識と40代以上の常識は明らかに違う。

「自分がミスをしているのになぜ謝らないのか」「自分のミスであることをわからせるために、彼のためを思って叱責しているのに」と課長クラスの方々は悩みます。しかし20代社員の方々は「自分のミス」であることはわかっている。今後気を付ける気持ちもある。ただ、それを「謝る」行動につなげる習慣がない。「謝らない、ということは自分が悪いとは思っていない」という40代・50代の常識と、「自分に悪いことを認めるのに謝ることが必要とは思わない」という若い世代の常識とは相当に隔絶したものがあります(もちろん、若い方々にも「悪いときはとりあえず上手に謝る」という世渡りを、きちんと認識している人も結構いらっしゃいますが)。

最近「多様性」という言葉を企業社会でも耳にしますが、「世代間ギャップ」を理解できない企業が「多様性」を受け入れることは(自分への反省もこめて)なかなかむずかしいのではないか、と考えてしまいますね。私も還暦なので、どちらかというと40代以上の常識に親和性を持ちますが、通報の約8割に及ぶパワハラ案件に関わっておりますと、どんなに元気で誠実な組織でも、日本的な雇用慣行を維持するかぎりにおいてはパワハラはかならず起きる。頭ではわかっていても、自分の「常識」は変えられない。したがって、なくすよりも職場において解決することを通じて「多様性」を受容できる組織環境を形成する必要がありそうです。

 

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2020年12月 9日 (水)

独立社外取締役が「前科一犯」となる日は到来するか?

昨日のエントリーでは「コーポレートガバナンス改革の転機にあたり、独立社外取締役は覚悟が必要だ」といった話をしました。ただ、私は「もはやそんな悠長なことを抽象的に議論している場合ではない」と考えています。本日は改正公益通報者保護法の施行後における社外役員(主に社外取締役ですが、社外監査役も同様)の役割を具体的にお話しします。もちろん意見にわたる部分は私の個人的見解です。

博報堂DYの元社員らによる架空発注事件を題材として、11月16日の日経新聞「長期にわたる不正 痛手」と題する記事で述べられているように、今年は大手企業の中で長期にわたる架空発注事件が明るみになるケースが多かったようです(たとえば博報堂DY、大和ハウス工業、NTT西日本等、ちなみに上記記事では私のコメントも掲載されております)。本日から朝日新聞では「第一生命の女帝」(89歳の営業職員が顧客から19億円をだまし取った事件)の特集記事の連載が始まり、これもやはり長年発見できなかった不正事件のひとつです。

日本を代表するような大企業において、卓越した内部統制システムを構築しているにもかかわらず、なぜ一部社員の不正が長年発見できないのでしょうか。これはとてもナゾであります。たとえ独立社外取締役がいたとしても、そもそも情報が入らなければ不正を発見することも止めることもできないわけでして、「不正予防と社外取締役の選任とは関係ない」と言われる所以です。過去に「不正見逃し」を理由として社外取締役の法的責任が認められた裁判例もほとんどないのが現状です(社外監査役の責任が認められた事例はセイクレスト、エフオーアイ事件等、いくつか散見されます)。

ただ、そうはいっても社外取締役が「不正事実を知ってしまった以上、不正を放置していたら善管注意義務違反(損害賠償責任)に問われる」のは間違いないでしょう。ということで、私は社内で不正を見つけた社員、片棒を担がされた社員は積極的に社外役員(社外取締役、社外監査役)に通報することを勧めます。とくに、このたびの改正公益通報者保護法では、(常勤従業員301名以上の)事業者は「公益通報対応業務従事者」を定めることが義務付けられますが、本日のお話しはココがポイントです。

※ セクハラ・パワハラの通報は基本的に「公益通報」にはあたらない、と言われていますが、近年、侮辱罪、名誉毀損罪、強要罪、暴行罪、強制わいせつ罪等の刑事犯で立件されるケースもあるので、窓口段階では「公益通報」として扱ったほうが良いケースも増えていることに留意してください

現在、消費者庁で審議されている「指針検討会」の議事録(12月7日に消費者庁HPにて検討会第2回の議事概要が公表されています)を読むと「臨時的に通報を受理した者も『対応業務従事者』として定めるべきか」という点が議論されていますが、「さすがにトレーニングを積んでいない役職員まで『対応業務従事者』には含めるべきではない」との意見が強そうで、おそらく社外役員は「対応業務従事者」には含まれない、という結論に至る可能性が高いと思われます。

しかし社内ルールで「社外役員」も通報窓口とする、と定めれば公益通報者保護法上の「対応業務従事者」に該当することになります。とりわけ本則市場(東証1部、2部)に上場する会社は、コーポレートガバナンス・コード補充原則2-5①を(ほとんどの会社が)コンプライしているわけですから、改正法に基づく「公益通報への対応体制の整備等の措置義務」を果たすためには、社外役員を通報窓口として設置することも検討しなければならないと考えます。

(参考 コーポレートガバナンス・コード補充原則2-5①)上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

上記補充原則をコンプライしながら、社外取締役を窓口担当者としないのであれば「改正公益通報者保護法によって『内部通報に係る体制整備』が法的に義務付けられるにもかかわらず、なぜ経営陣から独立した窓口の設置として「社外取締役と監査役による合議体の窓口」を設置しないのか、ほかにこれと同等の実効性を持つ独立した窓口として何を設置しているのか、という点は十分に説明する必要があると考えます。とりわけEU諸国では公益通報保護指令の国内法化が進み、米国では(先日述べたように)報奨金制度によって公益通報が奨励されている状況のなかで、内部通報制度の実効性は機関投資家にも関心が高まるはずです。

さらに、(ここからは上場会社に限らず、常時301名以上の従業員を抱える会社の場合)社外取締役が通報窓口ではなくても、たとえば経営陣が関与する不正疑惑が浮上した場合に、社外取締役が社内調査を担当することは十分に考えられます。そして、社内調査が通報に起因するケースでは、当該社外取締役は「公益通報対応業務従事者」に該当することになるはずです(あくまでも当職の私見です。ここは「指針検討会」の審議で明らかになります。調査後の対象役員の処分審査に立ち会うような場合にも、やはり「対応業務従事者」に該当するものと思われます)。

そして窓口担当であったとしても、社内調査担当であったとしても、通報者を特定させるような情報を漏洩した場合には改正法によって刑事罰の適用を受けます(30万円以下の罰金)。つまり、独立社外取締役は、職務を遂行するにあたって犯罪者となる可能性が生じるわけです。もちろん「故意犯」ですから、悪質な場合に限られますが、ミスで漏えいさせた場合でも、会社が「体制整備義務違反」として行政措置の対象となる可能性が高いわけで、独立社外取締役の行動によって会社が「ブラック企業」の汚名を着せられることになりえます。

一方、改正公益通報者保護法では、対応業務従事者は「正当な理由」がある場合には守秘義務が解除されることになっているので、社外取締役が守秘義務解除の正当理由があるにもかかわらず社内の関係者や監督官庁等と「通報者を特定しうる情報」(通報者を特定させるもの)を共有しない場合には真相解明を困難にしたと評価されます。つまり「不正事実を隠蔽した」「不正実行者に加担した」として、株主から善管注意義務違反の責任を追及されるリスクが生じます。では、どのような場合に「正当な理由がある」と解釈できるのか・・・この点は今後消費者庁より解釈ガイドラインが出される予定になっているので、こちらを理解しておく必要があります。

※ 「正当な理由」とともに「通報者を特定させるもの」(法12条本文)の解釈も問題になりうると思われますが、こちらも正式な消費者庁の解説(ガイドライン)でできるだけ明らかにしていただきたいところです

ということで、これから不正を通報したいと思う方は(公益通報者保護法の改正によって緊張感の高まる)社外取締役・社外監査役への通報が効果的ですし、これから社外取締役・社外監査役に就任される方は、令和4年6月までに施行される改正公益通報者保護法の研修はかならず受けておいたほうが良いと思います。「窓口」を担当することがなくても、有事において「社内調査」を担当することは誰にでも可能性はありますよ。

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2020年12月 8日 (火)

ガバナンス改革の進展-ますます理想と現実のギャップが問われる「独立社外取締役の役割」

12月6日(日)の日経朝刊1面に「社外取締役3分の1以上に-企業統治改革「新1部」基準厳しく」と題する「コーポレートガバナンス・コード改訂2021」に関する記事が掲載されています。12月8日にも「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第22回)が開催されるそうですが、上記記事によりますと、金融庁及び東証は「22年4月の東証市場再編における「プライム市場」に上場する企業には、取締役の3分の1以上を独立した社外取締役から選ぶことを要請する」そうです。

なお、会議の様子は12月8日午前9時30分からこちらのyoutubeチャンネルでリアル傍聴ができるそうです。

私が世話人を務めるCGN(コーポレートガバナンス・ネットワーク)の関西勉強会(12月5日にリモート会議によって開催)でも、このような議論がなされました。具体的な個々の会社の状況はお話しできませんが、現役の独立社外取締役のメンバーが多くを占める我々の勉強会(参加者25名ほど)では、「社外取締役の数をいくら増やしても、また多様性に配慮したとしても『社長のお友達』では意味がない」との意見が強く、参加されている役員人材紹介会社の社長さんですら「現実は社長の知っている方が優先的に候補者になる」とのことでした。また、「社長の好き嫌い」によって(社外役員の)情報共有の範囲も異なる、といった発表もなされました。まさに「理想と現実とのギャップ」は大きいのです。

機関投資家の要望に配慮したガバナンス改革を推進するのであれば、この「理想と現実のギャップ」を埋める努力が必要です。一昨日の関西研究会では、次期社外取締役候補者の選定権を誰が持っているのか(社長?指名委員会?社外取締役?)、さらに選定の基礎となる「候補者リスト」は誰が作成しているのか、という点を開示したほうが良いという意見が多く出されていました。今後は、このような開示がなされない場合には、議決権行使助言会社による独立社外取締役への審査にも影響が及ぶようにすべき、との意見もありました。

指名・報酬諮問委員会の委員としての職務や社外役員間の連絡会の協議等、独立社外取締役の職務内容は増えています。さらに独立社外取締役にとっては資産効率向上のための事業再編(子会社売却や事業の分離、MBO等を含めたM&A)、情報管理(営業秘密漏えいや個人情報漏えい事件の頻発)、不祥事対応、アクティビストファンドからの重要提案への対処等、上場会社が有事対応をとらねばならない場面が急激に増えていることは心得ておかねばなりません。社外取締役にとって、約1か月から2カ月ほどは、他の仕事を切り捨てて専心しなければ善管注意義務を尽くせない場面が増えています。忙しいからといって「片手間」に有事に臨むのであれば、当然のことながら社内執行部の有事対応を「なぞるだけ」の仕事になります。

ここに「理想と現実のギャップ」を埋めて取締役会の実効性を向上させる意義があるものと考えております。旬刊商事法務の最新号(2248号)のスクランブル「新たな時代に入る社外取締役の選任のあり方」でも述べられていますが、経営トップの覚悟とともに、選任される側の独立社外取締役自身も「ガバナンス改革の転機に立つこと」の覚悟が求められるところだと思います。

 

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2020年12月 7日 (月)

ドンキホーテ前社長によるインサイダー取引疑惑-義理人情の世界への司法関与

すでに報じられているとおり、ドンキホーテホールディングス(現パンパシフィック・インターナショナルホールディングス社)の前社長さんが、金融商品取引法167条の2、第1項(会社関係者による公表前の重要事実に関する情報伝達・取引推奨行為の禁止)違反の容疑で逮捕されました。

ご承知のとおり、金商法の平成25年改正(公募増資インサイダー取引事案等を踏まえた対応)に基づく法律に違反したものとして立件されたものです。当ブログでも過去に詳述しておりましたが、平成22年から23年頃に公募増資上の問題案件が頻発しまして(たとえば国際石油開発帝石事件、日本板硝子事件、みずほフィナンシャルグループ事件、東京電力事件、エルピーダメモリ事件等)株式売買の当事者による取引行為だけでなく、(取引の端緒となる)情報漏えい行為自体についても規制を強化する必要性が高まり、25年の法改正に至りました。

上記金商法167条の2(1項)では、重要事実を知りうる会社関係者による「特定の者」に利益を得させる等の目的を持った行為は、①重要事実の公表前の有利な取引を引き起こす点で「証券市場に対する一般投資家の信頼を損なう恐れのある行為」であると評価できること、②そうした一般投資家の信頼を損ねかねない状況を当該会社関係者自らが作り出していること等から、「自らインサイダー取引を行うことに準ずる行為」として金商法上の違法行為と評価されています。

なお、取引を推奨した相手方が実際にインサイダー取引を行わずとも、取引推奨者には違法行為が認められますが、刑事罰の条件(処罰条件)として実際に取引伝達を受けた者が推奨行為「によって」取引を行ったことが必要です。したがって金商法167条の2に基づく違法な行為を行ったとしても、刑事罰が科されないケースも生じます。

そして立件上の法的な問題は(すでにニュースでも報じられているとおり)、目的要件の該当性です。たとえば取引推奨規制の場合「他人に対し、重要事実の公表前に売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、または当該他人の損失の発生を回避させる目的があること」が犯罪成立の要件とされています。これまで新聞等で報じられているところからしますと、ドンキホーテ前社長さんはラインで何度も同社株式の購入を勧めており、とりわけ(ユニー・ファミマがTOBを公表する)10月11日までに株式を購入するように勧めていたそうです(12月5日朝日新聞朝刊記事より)。ちなみに、平成25年9月12日付金融庁「情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A」問6等を読むと、こういったケースは目的要件を満たすものとされております。

しかし、未だ報道からはよくわからないのが「ドンキホーテ前社長と取引推奨を受けた相手方」との関係です。たとえば167条の2に定められた「情報伝達行為」についても、重要事実を知っている会社関係者が自分の家族に伝えたとしても犯罪行為にはならないわけでして(平成24・25年インサイダー取引規制関係改正資料-別冊商事法務 No. 384 148頁参照)、しかるべき「特定の相手方」への情報伝達行為でなければ実行行為性が認められません。

これは「取引推奨行為」についても同様です。上記のとおり法改正の原因となった公募増資インサイダーの事例は、どれも証券会社の営業マンと顧客の関係が前提です。たとえ重要情報の漏えいがなくても「ともかく買っといて損はないですよ」と営業マンから勧められれば、顧客も「これはいい話がある」と推測できます。このような関係が、ドンキホーテ前社長と相手方との間でも認められるのかどうか、そこは新聞を読んでもわかりません。

たとえドンキホーテ前社長から「10月11日までに購入するように」と言われたとしても「ともかくうちの会社の株を買っておけ」と言われた相手方は「ひょっとして相場操縦の片棒を担ぐことが期待されているのではないか」「株価をどうしても上げる目的のために利用されているのではないか」と(相手方が)疑うような関係であれば犯罪は成立しないのではないでしょうか。重要情報の伝達がなくても「ドンキの社長さんが『買っておけ』と勧めるということは、まちがいなく得する」と相手方が理解できるような両者の関係がなければ金商法167条の2違反行為の実行行為とは評価できないのではないかと。

ところでドンキホーテ前社長の方は「私には相手を儲けさせる動機がない」と抗弁されていますが、これも「目的要件」を満たさないことの理由として述べられているものと推測されます。ただ、私は「動機なく相手に儲けさせるからこそ、この方は社長にまで上り詰めるほどの実績を残したのではないか」と思います。明確な「見返り」などなくても、まずは相手に贈与する(利益を付与する)。その贈与は何が何でも拒否させない。そのことによって「義理人情の世界」では立派な「貸し」を作ったことになります。関西電力の有力幹部と元助役との「金品受領問題」も、よく似た関係が成り立っていたのではないでしょうか。

目的要件を立証するために、客観的な証拠から「動機」を解明する必要がありますが、そもそも義理人情の世界で「貸し」を作るための贈与であれば、客観的な証拠などは存在しないように思います。むしろ先に述べたように、時間軸の中で、この前社長さんと取引を推奨された相手方との人間関係を解明していくことが最も重要な立件のポイントだと考えます。

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2020年12月 3日 (木)

会計監査に関連する近時の重要裁判2題

当ブログ開設以来、会計監査に関連する裁判例には思わず反応してしまうのですが、とりあえず備忘録として概要のみご紹介させていただきます。まずは最高裁のHPに公表された令和2年11月27日付けの最高裁判決(第二小法廷)です。いつもコメントをいただくKazuさんから教えていただきました(ありがとうございます!)

上場会社監査事務所名簿への登録を認めない旨の決定を受けた公認会計士らにつき,その実施した監査手続がリスクに対応したものか否か等を十分に検討することなく監査の基準不適合の事実はないとして当該決定の開示の差止めを認めた原審の判断に違法があるとされた事例

会計監査に従事する登録事務所(被上告人)と日本公認会計士協会(上告人)との間の紛争事例ですね。某上場会社(すでに上場廃止)の監査にあたって某会計事務所(被上告人)が(某上場会社では、もろもろ問題が発生したにもかかわらず)無限定適正意見を出していました。

協会(上告人)では、登録申請事務所の品質管理レビューによって「基準不適合事実」が認められた場合には、被上告人の品質管理委員会が上場会社監査事務所名簿等抹消リストに記載して開示することになっています。このたび、上告人(監査事務所)は上記品質管理レビューにおいて限定付き結論に至ったため、協会(上告人)としては被上告人事務所を抹消リストに記載することになりました。しかしながら、上告人側はこれに異議を唱え「基準不適合事実はない、監査は適切に行った」「このまま抹消リストが開示されてしまえば、協会による当事務所への名誉毀損、信用毀損行為であり違法である」として(抹消リストの)開示の差止めの決定を求めた裁判です。

原審(東京高裁)は「不適合事実なし」と判断して抹消リストの開示差止めを認容しましたが、最高裁は原審判断は是認できないとして破棄差戻しを命じています。法廷意見は(「品質管理基準」の解釈を通じてではありますが)監査手続きにおけるリスク・アプローチに基づいて、どこまでの監査手続きをとるべきか・・・という点にまで踏み込んで再度の審理を求めているところが興味深い。

なお、3名の裁判官から補足意見が出されており、概要「被上告人の判断は専門性・(公的機関に準じた)独立性が要求されるので、その裁量権は広い」との理由、「リスク・アプローチに基づく監査手続きにおいては、ここに注目して差戻し審理を行うべし」との理由など、こちらも会計監査への司法的アプローチを知るうえで参考になります。

そしてもうひとつは(金商法監査ではありませんが)「内部統制の有効性の評価等を引き受けた監査法人に債務不履行はないとされた事例」(東京地裁判決令和2年6月1日 金融・商事判例2020年12月1日号42頁)です。原告と監査法人である被告との間で、原告会社(非上場)の内部統制の有効性評価および原告会社株式評価を行うことを内容とする契約が締結された場合において、原告会社で横領事件が発生したことにより、適切な監査がなされていなかったことを債務不履行として「見逃し監査」の責任を被告に追及した事例です。

監査法人、公認会計士の倫理規程等から直ちに不正発見の注意義務が発生するのではなく、あくまでも個別の契約の解釈として(監査法人の)注意義務の内容を判断するというものです。結論は至極当然のように思えますが、内部統制の有効性監査の内容として、きちんと範囲に関する合意ができていたかどうか、監査終了後の結果の報告内容と実際の監査手続きとの間に齟齬が生じていないかどうか・・・といったところはかなり詳細に認定がされています。監査上の「期待ギャップ」は、こういった任意監査の作業においても契約前に解消し、契約中は説明責任を果たすことがなによりも大切だと思います。

いずれも判決全文を一読した程度なので、まだ理解していない論点もあるかもしれません。今後は他の参考判例などとも比較しながら、上記裁判例の意義について十分に検討しておきたいと思います。

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2020年12月 2日 (水)

ESGへの取り組みは「加点重視」なのか「減点重視」なのか

本日(12月1日)の日経朝刊17面に「ESG不十分なら反対票 英運用会社、開示巡り基準(株主総会)」との見出しで、英国最大級の運用会社LGIMが、自社ESG評価基準に満たない日本企業の株主総会にて反対票を投じることを報じています。他の運用会社もそうですが、環境面における取組みに関する情報開示について、日本企業への要求レベルはとくに厳しいように感じます。

ところで上記記事などを読みますと、機関投資家が企業に要求するESG評価は、企業の情報開示を前提とした「加点主義」ではなく「減点主義」のように見えます。先日のドイツ取引所によるISS買収事例などをみても、ESGへの取組みに関する情報をデータ化して徹底した分析のもとで同業他社と比較をすることに大きな価値がある。したがって、情報を出さない企業はペナルティを課す(反対票を投じる、社名を公表する、というのもこの流れかと)ということにつながるように思えます。つまり運用会社はESG経営に関するデータがほしい、というところかと。

このように考えますと、日本企業としても「減点主義」に乗り遅れないためのESGへの取組みについては必須であり、また「やらざるをえない」といった風潮から「虚偽記載」の事例も増えてくるように思います。ただしデータ収集と分析に重点が置かれる以上、個々の企業の取組みが真に「子や孫の代まで企業価値が向上すること」に寄与するものかどうかはわかりません。たしかに「倒産リスク」は把握できるかもしれませんが「ダイバーシティ」や「取締役会の実効性」では人的資源や組織風土、他社との協働(ネットワーク)までは把握できないのではないでしょうか。

消費者や株主から「次世代まで残ってほしい」と熱望される企業になるためには、私は「加点主義のESG経営」を目指す必要があると考えています。日経ビジネスの先週号(11月23日号)では「ESGが経営の真ん中に」とのタイトルで花王と味の素の社長さんの対談レポートが掲載されていましたが、「S」(公衆衛生)に熱心に取り組むことで、逆に「E」(ゴミの増加、脱炭素に反する商品製造)に反する経営をしてしまう可能性について議論されていました。これは「加点主義」を目指すうえでとても重要な視点です。

いま大阪湾では、川の水がきれいになりすぎてプランクトンが発生しなくなったため、漁獲量が減っているそうです。兵庫県では排水基準を緩和して、できるだけ漁業を保護する方向に転換しました(たとえば読売新聞ニュースはこちら)。つまり企業の技術を発揮して環境問題に取り組めば取り組むほどエコシステム(生態系)を毀損する可能性も生じるわけでして(※1)、このあたりをどう個々の企業が克服していくか(それとも他社と協働するか)・・・というところが企業に説明が求められるところであり、「加点主義」に求められるESG経営の課題だと思います。

※1・・・たとえば気候変動への企業活動による影響を考えるならば、「脱炭素化」のように変動を食い止める「緩和策」を選択する企業と、変動することを受け入れて、その変動に人間が耐えられるための「適応策」(エコシステムの保全等はこちら)を選択する企業があるはずです(「異常気象と地球温暖化-未来に何が待っているか」鬼頭昭雄著 2015年岩波新書169頁)。

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