« 誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ | トップページ | 株主総会の改革と「機関投資家の費用対効果」 »

2020年12月14日 (月)

「社外取締役に期待される役割」が果たされたかどうか-事業報告による開示(令和2年法務省令52号)

令和元年会社法改正の内容を盛り込んだ六法や基本書がすでに出版されています。このたびの法改正は会社のガバナンスやM&Aに重要な影響を及ぼす内容がたくさん含まれていますので、できるだけ早く改正内容を(企業実務に)浸透させる必要がある、という点では、法改正の内容を伝える関係者のご尽力に頭の下がる思いです。

ただ、会社法法改正に基づく政省令の改正作業はまだ続いているところ、11月27日に示された「会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)」を読みますと、法改正の中身はこちらの省令を理解しなければ実務への影響がわからない、というのが本当のところではないでしょうか。もちろん法改正の審議段階から、おおよそ省令への委任事項の内容は予想されていましたが、実際に細かなところまで見ていきますと「本当に来年3月1日施行で大丈夫だろうか、準備が間に合うのだろうか」と思うところもあります。

たとえば私自身の関心というところで例を挙げますと「社外取締役に期待される役割の開示」です。公開会社も非公開会社も、社外取締役を選任するにあたっては、株主総会参考書類に「社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要」が記載されますが、さらに公開会社の場合には、事業報告において「当該社外役員が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要」が記載されることになります。

これは法務省の考え方によると(パブコメ結果参照)、(上場企業における社外取締役への期待からすれば)公開会社においては、株主が社外取締役の職務の遂行について事後的に検証を行うことが可能となるように「期待される役割の概要」のみならず、事業報告においても「行った職務の概要」の記載を求めることが適切、とされています。つまり機関投資家が検証可能な程度の記載が求められる、ということになります。そして社外取締役は、この記載に対して個人的な意見がある場合には、その意見を事業報告に記載することになっていますので、何も記載がない場合には「(社外取締役としては)会社の記載に異存なし」との意見であることが示されたことになるのでしょうね。

本当に、この改正省令に実効性があるならば、今後は(これまでは役員会に何回出席していたか・・・という点だけが注目されていましたが)社外取締役の日ごろからの職務の姿勢が垣間見えることになり、取締役会の監督機能の発揮に一定程度の影響を及ぼすことになるのかもしれません(ときどき条文が骨抜きにされてしまうような実務に落ち着いてしまうこともあるので心配はしておりますが)。会社側にとって嫌われるような意見を述べることで「期待される職務を果たしてもらえなかった」と批判される社外取締役さんも出てくるかもしれませんが、ぜひ具体的な記載事例がたくさん出てきて、不都合があれば修正するような実務運用がなされることを期待しております。

|

« 誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ | トップページ | 株主総会の改革と「機関投資家の費用対効果」 »

コメント

ご周知の様に、今年は、新型コロナウィルスという未知の病原菌との争いの中で、法治国家の下、様々な法規条例類を視野に入れて、
日常生活/ビジネス展開をする羽目に陥っています。
残念ながら、東洋の経済大国と称賛されて来た国も、「タイタニック号」の如く、運航(運営)が危機状況かと思います。
人間の欲望を正常に機能管理する為に、星の数ほどの法律/条例類が生まれては、適宜改正を繰り返していますが、
(星の数ほど)高等教育&一流大学を卒業した人間の集合/組織ですら、微少のウィルス相手の「戦争」に、手を焼いています。

(回りくどい表現記述で大変恐縮ですが)
そもそも法律とは、過去の教訓から現在及び将来の正常機能を維持する為に生まれてくる物の一つだと思っていますが、
(今年に関しては)従来の概念を超越した認識と運用を求められていると、この数ヶ月間、思って来ました。
先日の報道で、感染者〜重症者〜死者の増加に、効果的な対策が十分出来ておらず、医療現場を悲痛に追いやっている事の一つに、
(青色と思われる)医療用使い捨て手袋の不足を補うバックアップがギクシャクしている事を知りました。
何かにつけて、現行法律を楯に…かつて揶揄された「あー言えば上祐(オウム心理教事件当時)」的な言動を繰り返す行政の一部の人に、太平洋戦争時代の「ABCD包囲網」に起因する状況と酷似する、国及び国民そして企業組織の凋落に流れかねない現状を危惧しています。

(法律を軸にしての、上層部と称する方々の判断行動に、「どこか空回りしている所が出ているのではないか?」と。)
前述の医療用手袋不足…原材料=ゴムの生産/手袋製造地のマレーシアからの輸入に安易に過剰依存して来たツケが、
同盟国アメリカ等との医療用ゴム手袋争奪戦に負けている状況とのことです。
それらを追求される度に、「今の法律の下で、我々は精一杯やっている」という言葉を聞かされているのが、今の悲痛なコロナウィルス対策で野戦場と化する中の医療関係者であり、通り一辺倒の返答に憔悴する日々だそうです。
そのシワ寄せが、一般市民やビジネスの世界に過剰な負荷を与え続け疲弊させ、ヒトと共に悲劇も越年しようとしている…(?)。

(プロ意識の高い専門家が、その道の専門分野に精通する事それ自体、社会全般にとって有意義である事は理解しつつ…)
企業における、たたき上げの(創業時代からの永年勤続等の)上層部等と、在籍期間の比較的短い社外取締役との位置関係からのギクシャクに、やむを得ない点もあるかも知れませんが、
(コロナ騒動下では無意味な意地の張り合いに、一時的にピリオドを打って)現状の諸問題をクリアし、次世代に汚点を残さない観点からも、
より一層の鳥瞰的な展望/法解釈と実務運用を、JAPANという国が保有する複数の巨艦の艦長と操舵担当の方々に、乗組員(含むその家族)&乗客(含む投資家)の観点からも、お願いしたい心境です。
くれぐれも、タイタニック号の様に、動力源の石炭が艦の内部で火災が発生していたのに運航を強行し、その火災が原因で動力源が暴走し、氷石を目前に(減速が効かず)避けきれず衝突/沈没=多数の犠牲者という悲劇の繰り返しにならない事を・・・。(NHK-BS:世界のドキュメンタリーを視ての想いと併せて…です)

投稿: にこらうす | 2020年12月14日 (月) 05時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ | トップページ | 株主総会の改革と「機関投資家の費用対効果」 »