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2020年12月11日 (金)

誠実な企業における「パワハラ事件」はなくならない-予防よりも解決に注視せよ

不謹慎なエントリーにならないように、まじめに取り上げたいと思います。ご承知の方も多いかとは存じますが、私が社外役員を務めております2社で(ほぼ同時に)大手メディアで取り上げられるパワハラ事件が発覚しました。以下は「言い訳」に聞こえるかもしれませんが、「パワハラ」をコンプライアンスの視点から考えているところの意見です。

役員(社外取締役、社外監査役)としての守秘義務がありますので、個別の案件に関するコメントは控えます。ただ、私が本業としております「内部通報に基づく通報案件の調査支援業務」を通じて、「国内外の同業他社と競争している以上、パワハラは一種の病理現象であり、予防は困難。むしろ早期発見のうえでいかに対処するか、その職場環境への配慮が不可欠」と思います。

よく企業不祥事発生の要因として「社内の常識と社外の常識との乖離」と言われますが、社内にも「世代間における常識の乖離」があることに留意すべきです。パワハラ加害者と通報者(被害者の場合もあれば、同じ職場の第三者の場合もある)双方の話をとことんまで聴いておりますと、20代・30代の常識と40代以上の常識は明らかに違う。

「自分がミスをしているのになぜ謝らないのか」「自分のミスであることをわからせるために、彼のためを思って叱責しているのに」と課長クラスの方々は悩みます。しかし20代社員の方々は「自分のミス」であることはわかっている。今後気を付ける気持ちもある。ただ、それを「謝る」行動につなげる習慣がない。「謝らない、ということは自分が悪いとは思っていない」という40代・50代の常識と、「自分に悪いことを認めるのに謝ることが必要とは思わない」という若い世代の常識とは相当に隔絶したものがあります(もちろん、若い方々にも「悪いときはとりあえず上手に謝る」という世渡りを、きちんと認識している人も結構いらっしゃいますが)。

最近「多様性」という言葉を企業社会でも耳にしますが、「世代間ギャップ」を理解できない企業が「多様性」を受け入れることは(自分への反省もこめて)なかなかむずかしいのではないか、と考えてしまいますね。私も還暦なので、どちらかというと40代以上の常識に親和性を持ちますが、通報の約8割に及ぶパワハラ案件に関わっておりますと、どんなに元気で誠実な組織でも、日本的な雇用慣行を維持するかぎりにおいてはパワハラはかならず起きる。頭ではわかっていても、自分の「常識」は変えられない。したがって、なくすよりも職場において解決することを通じて「多様性」を受容できる組織環境を形成する必要がありそうです。

 

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コメント

山口先生の本エントリー…これまで以上に、文節〜文節がとても「腑に落ちる」心境で拝読しました。
(前エントリーに追記コメント投稿でも記しましたが、世代間ギャップ…、「糸電話」「赤い糸」など、私の息子/娘世代の2〜30代の人達にはピンと来ないかも知れません。→糸電話って確か、糸がピンと張っていないと音声が通じ届かないし…)

叱る側は「叱咤激励」のつもりで発しても、受け手はついつい「ハラスメントだ!」と身構えてしまう傾向になりやすい…かと。
本件の奥の深さを多少は感じつつ…ですが、軽はずみなコメントを記するつもりでもございません。ただ、ふと浮かんだイメージで恐縮ですが、「雨降って、地かたまる」的な、解決に近づく手段方法もあるのでは…と思いました。

故手塚治虫氏の名作「ブラックジャック」を週刊少年チャンピオン連載時に読んだ世代ですが、一見手厳しい医師が、実は愛情あふれる治療とリハビリ応援者だったりします。ただ、今の世の中、その様な「名医」的上司を、リストラの材料ぐらいにしか思っていない経営/取締役層の方々の「行動変容」を待つしか、完全解決の道筋は見つからないのかも知れません・・・。

投稿: にこらうす | 2020年12月11日 (金) 13時33分

私は多様性(ダイバーシティ)という点で、世代間格差ではなく「個人格差」を感じています。

コンプラインアンス部門が不正通報、パワハラ通報を受け調査し、経営陣に報告し、経営陣が「公表OK」を出せば、不正やパワハラは公表されます。
しかしながら経営陣から「隠蔽」指示が出れば不正は隠蔽され、通報者に「口封じ」の威嚇・恫喝・脅迫が行われます。
大企業であればあるほど経営陣の権力には抗しがたいので、「公益通報者の不利益」が、さらに拡大します。

これは経営陣の「善管注意義務」の個人差によるものであり世代間格差ではないと思っています。

私も山口先生と年齢が離れているわけではないので正直に申しますが、
「自分より年齢が下のもの、部下からのパワハラ」も発生しているのが日本の現実であると思います。

投稿: 試行錯誤者 | 2020年12月12日 (土) 12時37分

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