公益通報への対応体制整備義務-常用雇用者が300人を超える事業者の割合について
改正公益通報者保護法において、公益通報対応業務従事者の設置を含め、公益通報への対応体制の整備等の措置義務を負う企業は「常用雇用者が300人を超える事業者」とされています(300人以下の事業者は「努力義務」)。現在、消費者庁では検討会において「(整備義務の内容を明確にするための)指針」作りが進んでおりますが、では、日本企業の中で、この整備義務を尽くさねばならない「常用雇用者が300人を超える事業者」とはどれくらいの数なのでしょうか。
一般財団法人日本統計協会「統計でみる日本2020」176頁以下によりますと(総務省平成26年経済センサス-活動調査より集計)、2016年の事業者数(385万社)のうち、会社企業は187万社です。その会社企業のうち、常用雇用者が300人を超える企業の数は、わずか0.83%です(会社企業の73.7%は10人未満とのこと)。1000人を超える企業となると、0.23%となります。
もちろん業種も様々ですから、規模感は常用雇用者数のみでは表現できないところはあります。しかし、「そもそも中小企業において公益通報対応業務従事者を定めるなんて無理だろう」「外部に通報窓口を設置する等、中小規模の事業者には荷が重い」といった議論がありますが、上から数えて1%以内の規模の営利法人組織ですから、刑事罰や行政処分による強制力をもって公益通報への対応体制の整備を義務付けることは、このたびの法改正の趣旨からみても妥当のように思います。
なお、(常用雇用者が300人を超える事業者の)数で言えば全国で約14,000社です。この14,000社の方々に、「2022年の法施行時までに公益通報への対応業務従事者を定めてください。定めたうえで、刑罰を受けないようにしっかりトレーニングをしないと、御社が行政処分の対象になったり(改正法15条、16条)、社長さんに行政罰が科さることになりますよ(同22条)」ということを周知する必要があります。冷静に考えてみると、本当にこの周知徹底は大丈夫なのでしょうか。
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コメント
山口先生が心配されているのは「公益通報への対応体制整備義務」および「刑罰の対象になる」ことを周知徹底する方法、手段だと思います。
どうすれば、周知徹底されるだろうか?大丈夫なのだろうか?ということだと読み取れます。
私は「周知徹底」という言葉を聞くと、以下のようなことが思い浮かびます。
「そもそも公益通報者に不利益を与えてはならないということを周知徹底、および遵守させてほしい」
「そもそも通報を受けたら誠実に調査してほしい。調査した結果、不正隠蔽のために通報者の【口封じ】の脅しをするのは、著しくコンプライアンス意識に欠ける行為であるということを周知徹底してほしい」
これらの周知徹底をするのは、政府であったり、内閣府、法務省、消費者庁であったりと思うのですが、少なくとも「公益通報者」本人が被通報者に周知徹底するのは無理です。
2018年の内閣府消費者委員会「公益通報者保護専門調査会」では、経団連の佐久間総一郎様が、
「我々は通報を受けたら、すぐ調査します」旨、語っていました。
佐久間様の言葉を信じたいです。
投稿: 試行錯誤者 | 2020年12月27日 (日) 12時52分
(不勉強で恐縮ですが)
そもそも、「公益」の定義は何でしょう。?
文字通り、おおやけの利益…とすれば、何をもって、公とするのか?
今日もまた、公人=徳島県知事の大人数会食参加報道に触れましたが、不幸にも元首相のご子息が、コロナウィルス検査直前に亡くなられた件などを重ねて知ると、血税でメシを食っていらっしゃる立場の方は、その言動が公の利益になるご活動…であれば、公益に反する:違法もしくはそれに準ずる行為を見つけた場合は、法治国家の下で生活する国民として(メディアを介さなくても)通報する義務が生じる…かと。
(上記は、中高生レベルでの、学生達が素朴に思う、言わば新聞各社が発行している「◯◯中高生新聞」の類いのQ&A的ネタです。)
連日の様に、曜日毎の感染者数が最多更新をしている昨今、若年層に向けた「やっちゃいけない事例」を、わざわざ実践しなくてもよいのに、(季節外れ的表現ですが)雨後のタケノコの如く、通報的ニュースが報道され続けています。JAPANの文化「お正月」カウントダウンの昨今、御用納めの週に、内閣支持率急落とも報道されていますが、野党が声高に政権交代を叫ばなくても、与党/現内閣は一つ又一つと墓穴を掘っている(?)。
(決して不謹慎な意味ではありませんが)
先日、北欧/スウェーデンの国王が、同政府のコロナウィルス対策を「失敗」と批判しましたが、東洋の島国の王(=陛下)にいよいよ、同等のご発言でもしていかだかないと、アリ地獄的な結末を迎えてしまうのかと不安視します。
法曹界関係者が汗水かいて、ようやくこぎ着けた改正公益通報者保護法は、勿論上記の様なケースを視野に入れていないと思われますが、エンドユーザー=国民一人一人に解り易い言葉と、広報等の説明工夫を忘れては、折角の改正した法律も、勿体ない/宝の持ち腐れと思うのは私だけでしょうか・・・。
投稿: にこらうす | 2020年12月28日 (月) 18時53分