ガバナンス改革の進展-ますます理想と現実のギャップが問われる「独立社外取締役の役割」
12月6日(日)の日経朝刊1面に「社外取締役3分の1以上に-企業統治改革「新1部」基準厳しく」と題する「コーポレートガバナンス・コード改訂2021」に関する記事が掲載されています。12月8日にも「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第22回)が開催されるそうですが、上記記事によりますと、金融庁及び東証は「22年4月の東証市場再編における「プライム市場」に上場する企業には、取締役の3分の1以上を独立した社外取締役から選ぶことを要請する」そうです。
なお、会議の様子は12月8日午前9時30分からこちらのyoutubeチャンネルでリアル傍聴ができるそうです。
私が世話人を務めるCGN(コーポレートガバナンス・ネットワーク)の関西勉強会(12月5日にリモート会議によって開催)でも、このような議論がなされました。具体的な個々の会社の状況はお話しできませんが、現役の独立社外取締役のメンバーが多くを占める我々の勉強会(参加者25名ほど)では、「社外取締役の数をいくら増やしても、また多様性に配慮したとしても『社長のお友達』では意味がない」との意見が強く、参加されている役員人材紹介会社の社長さんですら「現実は社長の知っている方が優先的に候補者になる」とのことでした。また、「社長の好き嫌い」によって(社外役員の)情報共有の範囲も異なる、といった発表もなされました。まさに「理想と現実とのギャップ」は大きいのです。
機関投資家の要望に配慮したガバナンス改革を推進するのであれば、この「理想と現実のギャップ」を埋める努力が必要です。一昨日の関西研究会では、次期社外取締役候補者の選定権を誰が持っているのか(社長?指名委員会?社外取締役?)、さらに選定の基礎となる「候補者リスト」は誰が作成しているのか、という点を開示したほうが良いという意見が多く出されていました。今後は、このような開示がなされない場合には、議決権行使助言会社による独立社外取締役への審査にも影響が及ぶようにすべき、との意見もありました。
指名・報酬諮問委員会の委員としての職務や社外役員間の連絡会の協議等、独立社外取締役の職務内容は増えています。さらに独立社外取締役にとっては資産効率向上のための事業再編(子会社売却や事業の分離、MBO等を含めたM&A)、情報管理(営業秘密漏えいや個人情報漏えい事件の頻発)、不祥事対応、アクティビストファンドからの重要提案への対処等、上場会社が有事対応をとらねばならない場面が急激に増えていることは心得ておかねばなりません。社外取締役にとって、約1か月から2カ月ほどは、他の仕事を切り捨てて専心しなければ善管注意義務を尽くせない場面が増えています。忙しいからといって「片手間」に有事に臨むのであれば、当然のことながら社内執行部の有事対応を「なぞるだけ」の仕事になります。
ここに「理想と現実のギャップ」を埋めて取締役会の実効性を向上させる意義があるものと考えております。旬刊商事法務の最新号(2248号)のスクランブル「新たな時代に入る社外取締役の選任のあり方」でも述べられていますが、経営トップの覚悟とともに、選任される側の独立社外取締役自身も「ガバナンス改革の転機に立つこと」の覚悟が求められるところだと思います。
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コメント
詳しいことは分かりませんが。長年身につけてきた、属人的な企業風土という、生活習慣病を、根気強く治さなければ、独立社外取締役をどのように選任しても、望む成果は得られないように思います。
そのための「栄養指導」が、社外取締役の責務であると感じるのは私だけでしょうか。
投稿: コンプライ堂 | 2020年12月 8日 (火) 08時54分
社外取締役の多様性というのは結局意見の多様化のためのものなはずだから「『社長のお友達』では意味がない」というのはそれはそうだろうな、と思いつつ、異なった視点からの意見を言うことは大変なんだろうなと思うところです。
社外取締役の属性の多様化についてはその属性によって起用することでどういう視点の意見が得られることを期待しているのかというのが問われると思うところ、たとえばジャパンディスプレイの今年4月の第三者委員会報告書で再発防止策の提言で女性の登用の検討に言及されていたのが腑に落ちなかったりします。女性取締役は増えたほうがいいと思ってはいますが、不適切会計に対する監視・監督という流れで女性取締役が女性であることにどういう意義があるのかしら、と……(女性従業員からの内部通報が軽視されるのではないかという恐れの緩和にはつながるのかしら)
投稿: 紡 | 2020年12月 8日 (火) 12時38分
皆様、ありがとうございます。
続編を書くつもりですが、その前にひとことだけ。
ここまで社外取締役の役割論が盛り上がってきたのですから、会社のほうも「当社はこれだけ多くの社外取締役を選任して何をしたいのか。何をしてもらいたいのか」というところを明確に開示する必要があります。よく「役に立つ」「役に立たない」論争を見かけますが、何に対して有用なのか、無用なのか、そこを議論する時期に来ています。
投稿: toshi | 2020年12月 8日 (火) 14時10分
「独立社外取締役には本業がある」「本業で忙しい」ということを盾に、社外取締役への通報を妨害されたことがあります。
今から7年前の12月のことです。
「本業が忙しい」ことは7年経っても変化しようが無いので、山口先生のおっしゃる「覚悟」が必要かもしれません。
不正の通報をしていますと、不正を否定しているうちは余裕しゃくしゃくだった被通報側が、だんだん旗色悪くなると上記のような妨害を始めます。
「公益通報に基づいて早期に不正を発見する」ために”有用な”社外取締役(社外監査役も)になっていただきたいのですが、覚悟するのは人間として怖いのかもしれません。
投稿: 試行錯誤者 | 2020年12月 8日 (火) 20時55分