会社法制見直しと「公益資本主義vs株主資本主義」(日経ビジネスより)
日経ビジネスの最新号(2021年1月18日)スペシャルリポート「世界で始まった新たな資本主義への模索 株主偏重、転換なるか-進まぬ会社法制見直し」を読みました。フリードマンの新自由主義思想に後押しされた株主資本主義の考え方が、2020年1月のダボス会議における「ステークホルダー資本主義」への移行提言や19年8月のビジネスラウンドテーブルにおける「中長期的な企業価値向上に向けた取組み宣言」あたりから見直しの必要性が指摘され、「公益資本主義」という言葉もよく耳にするようになりました。原丈二氏の著書「公益資本主義」も、かつて拝読したことがあります。
2020年9月、法務省に「危機管理会社法制会議」が設置され、第1回の会議が開催されましたが、その後、同会議は法務大臣の交代によって立ち消えになったそうです。理由は「まず自民党内でしっかり議論してからの話。省内でいきなり議論すべきことではない」とのことで、会議の設置プロセスに問題があり白紙となった模様。たしかに法務省HPで「危機管理会社法制」で検索しても何も出てきませんし、旬刊商事法務の「トピックス」(9月初旬から中旬にかけてのイベント情報)を読んでも、この会議のことは一切書かれていません(森元大臣のツイッターなどに残っている会議の写真を拝見しますと、関経連会長はじめ著名な企業実務家や学者の方が委員として入っておられるようですが)。
株主以外のステークホルダーへの利益保護について、ソフトローではなく(会社法のような)ハードローの改正で対応しよう、という流れになりますと、(昭和49年商法改正「企業の社会的責任条項を盛り込むことの是非」に関する大論争を持ち出すまでもなく)さすがに会社法の法的性格に関わる大問題であり、「守旧派」と呼ばれる人でなくても大論争になると思います。
ただ、少子高齢化が進む日本社会において、アフターコロナのビジネス社会を展望したとき、山口周さんの新刊「ビジネスの未来」(59頁)で語られているように、「『成長、成長』と叫ぶこと自体が、もはや信仰の世界だ」と指摘する声も大きくなっています。株式会社制度(正確には有限責任者の存在する共同事業制度)ができて400年が経過しましたが、アダムスミスが「国富論」において株主主権主義を強く訴えたのはオランダやイギリス政府の弾圧(覇権主義)から会社制度を守るためでした。しかし、現代は株式会社が米国や中国よりも強い実質的支配権を持つほどになりました。ここに至り、会社存続の目的が改めて議論される、という流れもおそらく今後は強くなるのではないか、と感じております。
ところで、上記写真でご紹介している本は2021年1月新刊の「アクティビスト-取締役会の野蛮な侵入者」(オーウェン・ウォーカー著 日本経済新聞出版)です。私のようなネイティブの弁護士でも(日本の証券会社さんを通じて)海外の機関投資家のご相談に乗ることが増えてきたので、仕事にも役に立つと思い、さっそく読了しました。2010年ころからのアクティビストと呼ばれる投資家が、ここまでの地位を築くに至った様子が、イベントを中心に克明に描かれています(イベント後、関係会社がどうなったのか、という顛末も末尾にまとめてあります)。
そして最終章では(ネタバレで恐縮ですが)欧州各国では複雑な規制による企業防衛システムで会社が保護されていて「うま味」がないけれども、日本はアベノミクスによって狙いやすい国になり、さらに内部留保をしこたまため込んでいる企業も多いので、アジアでは最適の的(まと)であることが紹介されています。もし、会社法が国策によって改正される方向性が既定路線になってしまったのであれば、外為法の改正といった手法のみでなく、「ステークホルダー資本主義」なる考え方で会社法制の見直しが検討される、ということも可能性としてはありそうな気がしております。