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2021年1月 6日 (水)

コロナ禍における不祥事リスクとの向きあい方-東電元エースの告白から考える

本日(1月5日)の朝日新聞WEBでは、企業不正に関与した中堅幹部の、トップに逆らえない悲哀を報じた記事が重なりました。ひとつは日産ゴーン氏・金商法違反被告事件でケリー被告の証人に立ったO氏(検察庁との間で司法取引を行った方)の証言内容を報じた記事であり、もうひとつは東京電力を数年前に退職された50代の企画部出身の方(出世街道を走っていた元エース、ここではA氏としておきます)の告白記事です。とりわけ後者の記事は、匿名であるものの、詳細な経歴と年齢、所属部、退職時期が記されており、覚悟のうえでの告白であることがわかります(有料版記事ですが、「原発事故、起こるべくして起きた」東電元エースの告白)。

東電自身による事故調査委員会が立ち上げられたとき、A氏は報告書のとりまとめを命じられたそうです。A氏が肝心の事故原因の分析結果をまとめようとしたところ、東電の当時の会長ら経営陣から厳しく「なんでお前が事後原因を決めるんだ。事実以外は書くな」と命じられたそうです。要は「想定外の事故だった」というシナリオに落とし込むことが求められていた、ということ。もちろんA氏は東電社員であるがゆえにこれに従うわけですが、これを後悔して「2002年に発覚した原発のトラブル隠しが(東電原発事故の)すべての始まりだった」と告白しています。

このトラブル隠しを契機として、東電は原子力部門の内部統制を強化することになりますが、その強化の手法は「細かな事故・不具合があれば全部報告せよ」ということで、現場には詳細な内部統制ルールの整合性が求められていた、とのこと。しかしながら、A氏が現場責任者に「もしチェルノブイリやスリーマイル島のような事故が発生した場合、放射能を外部に放射するようなリスクシナリオはないのですか」と質問したところ「そういったリスクは全部排除されているのであり得ません。安全はすでに確立しています」との回答が返ってきたそうです。

事故は起きない、起こしてはいけない、という発想でリスクマネジメントを実践することは理解できるのですが、事故は起こる、起きた時にどうするのか、という発想でリスクマネジメントを実践することも当然必要です。そのような発想が欠落しているのであれば、経営陣に法的な責任が及ぶこともありうるように思います。

もちろん電力会社が「事故は起きる、ということを想定した対策」をとれば、発電所の地域住民から「ほらみろ、運転している電力会社自身が安全でないことを認めているではないか」と厳しく指摘されます。しかし、そこを逃げずに説明を尽くすこともリスクマネジメントの実践です。「面倒なことには蓋をしろ」という姿勢は、もはや現在ではコンプライアンス違反(コンダクト・リスクの顕在化)になりそうです。

昨年4月以来の緊急事態宣言が明日にも発令され、海外とのビジネス交流も途絶えそうな状況の中で、日本企業の今後の経営環境は全く見通しが立ちません。今年から来年にかけて、「不正リスク」をはじめとする多くの事業リスクが日本企業に顕在化することは間違いないでしょう。ただ、福島原発事故から10年が経過した今日、なにか重大なリスクが顕在化したとき、企業の経営陣からは「想定外」という言葉がよく聞こえてくるようになりました(そのような言葉が出ないようにBCPも整備してきたはずだとは思うのですが・・・)。情報漏えい事件を起こした企業などは、「情報セキュリティの脆弱性については想定外だった」と言い訳するのが常套手段となりました。

もちろん、本当に想定外の事態も考えられるのですが、そもそも「事故や事件は起きる。不祥事もかならず起きる。起きたときに、御社はどう対応するのか?守るべきステークホルダーの優先順位はきちんと共有されているのか?」といったことを考えてこなかった(いや、考えてこなかった、というよりも社内での適切なコミュニケーションができていなかった、といったほうが適切でしょうか。たとえば「根拠なき安全神話」への妄信、会計不正事件の発覚を前提としたコーポレートガバナンス・コード補充原則3-2②ⅳの無視等)のであれば、もはや現状では(社外役員も含めて)取締役や監査役の善管注意義務違反と評価されてもしかたがないのではないか。

コロナ禍での会社経営は、それほどの有事に立ち至っているように思います。金融緩和政策と並び、近時の株高の根拠とされている308兆円もの手元資金が活用されるべきであれば、ESGと同様、有事を想定したリスクマネジメントという「無形資産」に投資することも不可欠だと考えます。

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コメント

(某警察署長までもが、会食ルールを破って感染という報道)
都内の新型コロナウィルス感染者数がまたも(1,500人規模)最多更新という報道に紛れ、規律を守るお手本を示す立場の、それもトップ級幹部が風紀を乱す報道が後を絶たない現状は、若い者にしめしがつかない…(特措法改正に会わせ)罰則/罰金が検討されている様ですが、公務員においては、「地位剥奪」くらいの処分をしないと抑止力はないのかも知れません。

(新型コロナウィルスよりも、実は恐ろしい…(?))
現役力士/横綱も感染した昨今、角界の順列でも使われる「序の口」、国内の感染拡大数値も実はまだ序の口かもと思えるデータが見えつつあると、ウィルス感染という目に見えない病的不安よりも、人間がいかに「自粛」という行動変容に疎い生物かを痛感させられる昨今です。
企業組織における不正行動然り。幹部級の人間が、脳の中に「悪事麻痺」というやっかいな物に「感染」すると、周囲/部下にまで「濃厚接触」をまき散らし、信用失墜〜業績急落/組織破滅という構図に堕ちる?
山口先生の本エントリーにご登場のA氏に同情しつつ、同じ様な境遇に遭わない様な「特効薬」は無いのでしょうか…と。

(10年前に開発されていれば、「フクシマ悪夢」は防げた?)
架空希望で恐縮ですが、どこかの国で「リスクマネジメント・ワクチン」を開発して頂き、JAPANの中の不正予備軍重役達に強制接種を受けさせる事が、喫緊の課題…など、初夢ネタにもなりません。けれど、子供にも笑われそうなオトナの「ビジネス醜態」が、今年もメディア:報道枠に増幅しそうな2021年の出だし・・・です。

投稿: にこらうす | 2021年1月 6日 (水) 17時42分

不祥事や不正を通報する「公益通報者」の存在自体が「想定外」だとする経営陣もいると思います。
長年の組織的不正を通報する誠実な通報者、通報に向き合おうとする窓口担当者がいたとしても、「内部監査で不正が見つかっていないのでメスをいれにくい」となったり、積極的に不正を隠蔽しようとする権力者に立ち向かうと不利益を被り無力感に苛まれます。
大企業ほど経営陣の「善管注意義務違反」は権力により隠されてしまいます。
通報が正しく不正が発覚しても、今度は「通報があったことを隠蔽する」という暴挙に発展します。
経営陣の責任回避のために、通報者がさらなる不利益を被る令和の現実です。

そんなとき、「国家権力」が通報者を助けていただけるとありがたいと思い、要請は続けています。

「善管注意義務違反」の規定も、エビデンスに基づく明確化をしてほしいと考えます。
自分が経験した事実を告白するにも勇気が必要ですが、法的な後方支援があれば、新年を期して、気持ちを前向きにできそうです。
コロナ感染対策、緊急事態宣言のゴールの明確化もお願いしたいです。
東日本大震災、あれからもう10年ですか。。。

投稿: 試行錯誤者 | 2021年1月 6日 (水) 18時31分

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